俳優や有名料理店店主、学生による性加害 〜逮捕や「謹慎」がどこか「運次第」「空気次第」という現実にモヤる
Imidasオピニオン2022/10/04
一部性表現が含まれています。ご気分を悪くする方はご注意ください。
2022年9月、新宿駅の駅員のアナウンスが物議を醸したことを覚えているだろうか。拡声器を持った男性駅員が、電車の前で口にしたのは以下。
「防犯カメラは多く設置しておりますが、痴漢は多くいらっしゃいます。痴漢をされたくないお客様は後ろの車両をぜひご利用ください」
このアナウンスについては肯定的なものから「自分の身は自分で守れっていう自己責任論に思える」「痴漢に『いらっしゃいます』ってなに?」など批判的なものまで多くの意見が飛び交った。私が映像を見てまず思ったのは、毎日この場にいる彼の目に、「痴漢の常習犯と疑われる人(でも決定的な証拠はない)」が見えていたのかな、ということだ。だからこそ、危険人物がいますよという警告として咄嗟に言ったのかな? とふと思ったのだが、真相は本人にしかわからない。
さて、これを聞いて考えたのは、「私が駅員だったら痴漢をなくすためになんと言うだろう」ということだ。
常日頃から、「ちょっとした悪事」から大事件まで、すぐに「懲役何年」などの刑罰で考える私である。例えば友人が「あー、マジでうちの上司ムカつく、殺したい」などと愚痴ろうものなら「殺人罪は死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役。加害者が女性の場合、女子刑務所は全国に9箇所しかないから、家族が面会に行くのも大変だよ。しかも冷暖房がない刑務所もあるから夏も冬も大変だし、やめた方がいいんじゃない?」というようなアドバイスをしてしまい、順調に友達を減らしている。おそらく、彼女が言ってほしいのは「そうだよね、大変だね」といった共感なのだ。わかっているのだが、つい余計なことを言ってしまう。
そんな私が新宿駅の駅員だったら、こう言うだろう。
「痴漢行為は強制わいせつ罪となりえる立派な犯罪です。強制わいせつ罪は6カ月以上、10年以下の懲役となります。刑務所内では痴漢などの性犯罪者が一番『格下』の扱いを受けるそうなので他の受刑者たちから執拗ないじめを受ける可能性があります。また、職場や家族を失う確率も高いでしょう。それだけでなく、裁判は誰でも傍聴できます。法廷で語られるあなたのこれまでの半生の細部や、年老いた母親が証言台で泣き崩れる様子などを傍聴マニアに一字一句記録され、ネットに書かれる可能性もあり、それが書籍化することもありえることから一生後ろ指を指されて生きていくことになるでしょう」
これが毎日、駅のホームでスピーカーからアナウンスされていたら。痴漢なんて一瞬でいなくなるのではないだろうか。
それにしても謎なのは、こうしたリスクを本当はみんな知っているはずなのに、なぜ性加害はなくならないのかということだ。
すべてを失うということでは、最近、俳優・香川照之氏の問題が注目された。
ご存知の通り、銀座のクラブでの性暴力だ。PTSDを発症したという被害女性の苦しみを思うと言葉もない。また、その女性だけでなく同じ店のママの頭を鷲掴みにしていたことや、番組スタッフへの暴行疑惑も報じられている。渦中の香川氏は、TBSやNHKの出演番組の降板や打ち切り、CM放送の中止などに至っている。刑罰は受けていないものの、一連の行いは彼から仕事と信頼を奪い去った。
さて、そんな22年夏を振り返ると、多くの性加害事件が注目されている。
7月には、元陸上自衛官の五ノ井里奈さんが男性隊員からの性暴力を告白。一人の告発は大きなうねりとなり、8月には防衛省に10万5000超の署名を提出。一連の動きを受けて9月29日、防衛省は五ノ井さんに謝罪。また、セクハラ行為をした隊員は懲戒処分になり公表されるという。これに対しては「一人の訴えが防衛省を動かした!」と大きなニュースになった。
9月はじめには、ミシュランガイドで「1つ星」を獲得した人気の日本料理店の店主(46歳)が性的暴行で逮捕・起訴されていたことが大きく報じられた。店主は女性客に睡眠薬入りのお酒を飲ませて店内で性的暴行を加えた罪に問われているという。
同時期に報じられたのが、同志社大学のアメリカンフットボール部の部員4人が準強制性交罪で逮捕された事件。4人は今年5月、京都のバーで20代の女性と酒を飲んだあと、部員の家に連れ込み、泥酔して抵抗できない女性に性的暴行を加えた疑いだ。その様子は、スマホで撮影されていたというからあまりにも悪質だ。
一方、9月なかばには、公明党議員のセクハラ問題が報じられた。被害女性から告発されたのは、参議院議員の熊野正士氏(57歳)。
熊野議員は創価学会二世の被害女性に好意を持ち、頻繁に電話やLINEをするようになったというのだが、そのLINEが現在、世間の失笑を独り占めしている状態だ。一部を「週刊新潮」9月15日号から紹介しよう。
「○○さん(被害女性)に、キスをしたら、『気持ちいいわ、あなた、舌使いがとても上手になったわね』って、目がとろ~んとなるの。僕が、今度は、首すじからオッパイをゆっくり、丁寧に舐め回して、そしたら、○○さんが、大きな喘ぎ声を出しながら、『アソコも、そのいやらしい舌で気持ちよくして』って言うの」「○○さんが、僕のペニスを咥え込んだまま、舌を絡ませてくるの」
このような感じで、終始語尾が「なの」「するの」調なのが本当にキモさの限界を突破。私の中の「誤爆LINE晒され部門」でブッチぎりの優勝となったのだが、被害はLINEだけでなく卑猥な電話などもあり、女性は当然、激怒。この被害について女性は公明党にも伝えていたものの、今年7月の選挙で熊野議員は何事もなかったかのように当選。が、被害女性が警察や弁護士にも相談したことを伝えると、熊野氏は長期入院すると言って音信不通に。そうして一連の報道から約1カ月後の9月30日、熊野氏は議員辞職した。
そしてやはり9月なかばに報じられたのが、巨人・坂本勇人選手の女性とのトラブル。避妊せず性行為をして女性が妊娠すると中絶を迫り、追い詰められた女性が自殺未遂をした件だ。証拠音声もあることから大きな注目を集め、また批判の声も多く上がっているのだが、これに対するある「擁護」がすごかった。
それは元野球選手の笠原将生氏。自身のYouTubeチャンネルで、「女が悪い」「中に出されたくなかったら抵抗できると思うんすよ」などと二次加害のオンパレード。挙句の果てには「15人堕したとか10人堕したとか5人堕したとか全然野球選手、いるわけよ」などと発言。野球選手なら「あるある」とでもいうような、特権意識と選民意識を丸出しにした発言に、そしてそれを堂々と口にする姿にただただ衝撃を受けた。彼の周りでは、それが「常識」で、その発言が社会からどう受け止められるか想像もしていないのだろう。
やはり、この国の政界やスポーツ界などには、昭和で時が止まっている人々がいまだ存在するのである。無知とは、本当に恐ろしいものである。もはや加害行為となっている彼の動画を見ながら、本当に痛ましい気持ちになった。
さて、香川氏は仕事を失い、ミシュラン店の店主は顔も名前も店名もすべて晒され、「みんなが憧れる1つ星の天才料理人」から「ゲスすぎるレイプ魔」となった。準強制性交罪の法定刑は「5年以上の有期懲役」。罰金刑はない。裁判はこれからだが、少なくとも5年は刑務所暮らしとなるわけだ。
同志社大学の学生たちも準強制性交罪。せっかくアメフト部で活躍していたのに、自ら起こした加害行為によって人生は大きく変わった。しかも顔も名前もネットに出回っている。出所した後はどうするのだろう。
公明党の熊野議員は参議院議員を辞職。自らの妄想LINEによって6年分の議員歳費が吹っ飛んだわけである。参議院議員の歳費はボーナス込みで年2180万円だから6年で1億3080万円。それがパーである。というか、彼が辞職しなければ、この「妄想LINE男」に、6年間でそれだけの税金が支払われていたのだ。
そして坂本選手だが、報道後も普通に試合に出続けているという。問題をスルーする巨人軍には批判の声が寄せられているというが、この件、どうなるのだろう。
さて、ここまで書いてきたように、坂本選手以外は多くのものを失っている(彼も報道によって失ったものは多くあるだろうが)。このように、性加害は、加害者にとってもリスクが高いものである。すべてを失い、家族も失い、これまでのキャリアも何もかもパーになる可能性があるということ。そのことをもっと世間に知らしめるべきではないのだろうか。
なぜなら、「モラル」とか「女性をモノ扱いせず対等に接する」とかのアドバイスがまったくもってひとつも通じない人たちがこの世には大勢いるからである。そのような人に何をどこから言えばいいのか、まずそこからわからない。それは彼らが「そんなことを理解してもなんのメリットもない」と思っているからで、であれば、そういうタイプには「こういうことをしたらこうなる」というリスクを見せつけることしか抑止力にならないのでは、と思うのだ。
そしてここまで書いてきたことでもうひとつ、非常にモヤモヤすることがあるので書いておきたい。それは、性加害やハラスメント、暴力などの加害者の扱いについて、刑事事件になった場合を除いて「明確な基準」がないことだ。
例えば野球選手が中絶を迫った女性が自殺未遂を起こしても変わらず試合に出続けられるのに、芸能人の不倫や女性トラブルは時にワイドショー挙げての大騒ぎとなり、謹慎が続くケースは多い。
同じ芸能人でも、立場によって随分違う。例えば16年、『新婚さんいらっしゃい!』(朝日放送テレビ)でおなじみの桂文枝(桂三枝)氏の不倫騒動がメディアで騒がれたが、テレビ局は「引き続き、出て頂く」と明言。また、19年にはその不倫相手が自宅で睡眠導入剤など多くの薬を服用して亡くなったことが報じられたが、それでも22年3月まで、桂文枝氏は「新婚さん」の司会をつとめた。
また、宮崎県知事戦への出馬を表明したタレントの東国原英夫氏についても思うところがある。
1998年に東国原氏がサービスを受けた風俗店の女性が16歳だったことが発覚し、「淫行騒動」と騒がれ謹慎となったことは多くの人が知るところだ。が、これは現在だったら、確実に「復帰などありえずアウト」案件だと私は思う。なぜなら、「満18歳に満たない者」が性的サービスに従事していることは「人身取引」にあたる可能性が高いからだ。ヒューマントラフィッキングといわれる人身取引は重大な人権侵害であり、麻薬に次ぐ世界第2の犯罪産業である。「人身取引」と言うと海外の話、もしくは外国人の話でしょ、と思うかもしれないが、日本で人身取引に取り組む団体に来る相談のうち4割が日本人からのものだ。
が、まだまだ人身取引という言葉も知られず、「男の性欲」周りに今よりずっと世間が寛大だった90年代、東国原氏は「謹慎」期間を経て復活。今に至るまでテレビに出続け、宮崎県知事にまで登りつめた。
そんな、「何かをやらかした人の扱いの基準がまったくもって適当」というのが、私がもっともモヤモヤするところなのだ。
ある人は笑って許され、ある人は厳しく断罪されてすべてを失う。ある人は謹慎で済み、ある人は永久追放となる。それを決めるのが「世間の空気」っぽいところにもさらにモヤモヤする。単なる「運次第」となっている限り、再発防止のルールなど決して作れないからだ。
逮捕者が出ている性暴力事件だってそうだ。同じことをしても逮捕されていない加害者が山ほどいることを私たちは知っている。加害者の中には「みんなやってるのに自分は運が悪かった」と思っている者もいるだろう。現に伊藤詩織さんへ性加害をしたと報道されている山口敬之氏は、逮捕状まで出ているにも関わらず捕まっていない。これが殺人だったら「こっちは見過ごされてあっちは逮捕」なんてありえないのに、性暴力の場合、そんなことがまかり通っている。
この夏、注目された数々の事件。このモヤモヤについて、あなたはどう思うだろうか。
イジメ事件でも加害者はほとんど罰せられず、出席停止処分も受けていない。
園のようす。
急激に寒くなりました。
昼食も今日から薪ストーブのある土間で。10時のおやつは栗を煮てたべました。「やめられない止まらない」
きょうの収穫物です。