里の家ファーム

無農薬・無化学肥料・不耕起の甘いミニトマトがメインです。
園地を開放しております。
自然の中に身を置いてみませんか?

今年もよろしくお願いいたします。「農」を始めよう。

2021年01月01日 | 自然・農業・環境問題

「半農半X」が日本の農業強化の“切り札”に コロナ下の地方志向も追い風

  澤田晃宏2020.12.29 08:02AERA

 高齢化で細る農業の生産現場を強化しようと、政府が政策を転換した。新たな担い手に、別の仕事を持ちつつ農業もやる若い世代を期待する。コロナ下の地方志向も追い風になっている。AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号の記事を紹介する。

**********

 島根県西部の中山間地域に位置する人口約1万人の邑南(おおなん)町。面積は約420平方キロメートルと県内で最も広く、86%を山林が占める。そんな自然豊かな村でとれた酒米と天然の湧き水で醸造した地酒を造る池月酒造(邑南町阿須那)で、2013年から沼田高志さん(31)は働いている。

 ただ、酒蔵で働くのは毎年11月頃から3月まで。その他の期間は、農家として働く。昨年は売り上げから経費を差し引いた農業所得が約230万円、酒蔵で蔵人(酒造りに携わる職人)として働く収入が約120万円あった。

 沼田さんは兵庫県出身。農家になりたいと、支援制度の整った島根県に移住したIターン者だ。今では邑南町で知り合った妻との間に子どもを授かり、農業の規模を拡大しながら、邑南町で自立就農する予定と話す。

「冬場は雪が多く、露地野菜の栽培は困難です。逆に冬場に繁忙期を迎える酒蔵で働くことで、安定した収入を確保することができ、家庭を支えるだけの収入を得ることができます」

■専業重視の農政を転換 多様な人材農業に呼び込む

 今、農業は大きな転換期を迎えようとしている。政府は3月、農政の中長期ビジョン「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定し、30年までに食料自給率をカロリーベースで37%(18年)から45%に、生産額ベースで66%(18年)から75%に高め、農林水産物・食品の輸出額を5兆円まで伸ばすなどの数値目標を掲げた。

 ただ、生産現場の状況は脆弱極まりない。農林水産省の「農林業センサス」(20年)によれば、主な仕事が農業である農業従事者は5年間で約40万人減少し、約7割が65歳以上。耕作放棄地は滋賀県の面積とほぼ同じ約40万ヘクタールに拡大するなど、農業者の減少と高齢化に歯止めがかからない。

国内農業の生産基盤の強化が不可欠な中、新たな農業の担い手として期待されるのが、沼田さんのように農業を営みながら他の仕事にも携わり、合わせて生活に必要な所得を確保する「半農半X」などの多様な人材だ。

 農水省は今年4月、「新しい農村政策の在り方に関する検討会」を設置し、半農半Xの本格調査を開始。同検討会座長で、『農山村は消滅しない』などの著書がある明治大学の小田切徳美教授(農政学・農村政策論)は言う。

日本の農政は戦後一貫して専業農家の育成が中心で、兼業農家を減らす方針でした。それが、農水省が自ら指揮をとり、半農半Xの本格調査を始めるなど、大きな転換点と言えます

 折しも、新型コロナ感染拡大の影響で「低密」な地方に注目が高まり、農業への関心も高い。在宅勤務の普及で働き方も変わるなか、農業大国・北海道も動き出した。JAグループ北海道は「農業をするから、農業もする時代へ」をキャッチコピーに、別の仕事をしながら農業をする人を「パラレルノーカー」と位置づけ、7月には公式サイトを開設するなど、その普及に努めている。JA北海道中央会JA総合支援部の林亮年(あきとし)課長はこう話す。

「コロナの影響で外国人技能実習生の入国にも制限がかかり、人手不足が深刻化しています。観光産業や飲食業が大打撃を受ける中、副業の一つとして農業に関心を持ってほしい」

■最大のハードルは所得確保 資金と就職の両面で支援

 半農半Xの広がりが国内農業の生産基盤の強化につながるのか。その答えを探るべく、全国に先駆け半農半Xを農家の担い手として位置づけ、手厚い支援を準備する島根県に向かった。

 島根県では10年から、半農半X支援事業を開始。県外からのU・Iターン者で、就農時の年齢が65歳未満、販売金額50万円以上の営農を目指す人などを対象に、就農前、就農後のそれぞれ最長1年間、月額12万円を助成し、営農に必要な設備費用も上限100万円を助成している。島根県農業経営課の田中千之課長はこう話す。

「U・Iターンでの移住者が新規で農業を始めるにあたり、栽培技術の習得や、農地、販路、住宅の確保等の様々なハードルがありますが、最も大変なのが所得の確保です」

 島根県は今年3月末時点で、74人を「半農半X実践者」に認定、うち68人が現在も県内各地で半農半Xに取り組む。実践者の家族を含めると、これまでに119人が島根県に移住、定住している。田中課長は言う。

「これまでは農業の担い手を育成する産業振興的視点と、半農半Xなどの移住定住に重きを置く地域振興的視点の両輪を支援してきたが、その両輪の間にある、すぐには担い手になれないが、将来的に担い手になるような定年帰農者などの育成支援もしていきたい」

 ただ、課題もある。県による実践者へのアンケートによれば、移住前に比べ生活の幸福感は格段に上がっている半面、所得面の満足度は低い。半農半X実践者68人のうち、X部分の最多は新聞配達やホームセンターなどで働く「半農半サービス」で、農業法人などに勤務する「半農半農雇用」が続く。

「X部分は本人のやりたいことが中心になりますが、地域の実情に合わせた支援も行っています」(田中課長)

 その一つが「半農半蔵人」だ。酒造りを支える蔵人は、冬場に仕事の少ない農業者にとっては最適で、酒蔵も繁忙期の季節雇用者が確保できる。島根県では、県内の酒造会社に声をかけ、季節労働者の求人を集約。半農半蔵人を募集している。冒頭の沼田さんも、それに応募した一人だ。

「例えばお米を作るために必要な農機具を揃えようとすれば、2千万円近くの設備投資が必要になります。栽培技術もなく、農業収入が見込めないなかでの新規就農は難しい。所得を補填する仕組みがあれば、農家として独立を目指すこともできます」

 沼田さんは半農半Xの実践者として2年間、助成金をもらいながら生計を立て、その後は農家としての独立を目指し、国の「農業次世代人材投資資金」(以下、人材資金)を受給している。

 次世代を担う農業者となることを志向する49歳以下の人を対象とした交付金で、就農前の「準備型」と、就農後の「経営開始型」の2種類がある。準備型は最長2年、経営開始型は最長5年間、年間150万円の給付が受けられる。すでに半農半蔵人として農業経験を積んだ沼田さんは経営開始型を受給した。受給には、5年目までに農業で生計が成り立つ実現可能な計画を立て、市町村から認定を受けるなどの交付条件がいくつかある。

「半農半蔵人として月額12万円助成を受け、家賃7200円の町営住宅に住み、就農に向けた経験を積み重ねることができたことで、人材資金の対象となり、今では自営就農で独立できるまでになりました」(沼田さん)

■「地方で起業」志した夫妻 農地継承+民宿などで自立

 農業の担い手確保に対する支援には都道府県差はあるが、人材資金は国の制度だ。農業未経験から人材資金を活用しながら、半農半Xでの自立にたどり着いた夫婦を訪ねた。

 徳島県勝浦町のみかん農家、石川翔さん(32)、美緒さん(33)夫妻は、東京からの移住者だ。ともに会社員として働いていたが、いつかは独立して、夫婦一緒に働きたいと考えていた。翔さんはこう振り返る。

「東京での起業は家賃などの固定費も高く、常に流行り廃りに左右されてしまいます。視野を広げ、地方での起業を考えました」

 移住先は寒さが苦手だったことから、温暖な地域を候補とした。とはいえ移住先でどう生計をたてるのか、具体的なイメージはない。半年程度、働かずとも暮らしていけるだけの蓄えはあったが、起業のための十分な資金はない。

 そんななか、15年8月に四国の移住相談イベントに参加し、勝浦町の移住相談員と出会った。そこで提案されたのが、高齢で事業が継続できないみかん農家の後継者探しだった。

「正直、農業はまったく考えていませんでしたが、すでに収穫できる畑を引き継ぎ、販路もある。最初から夫婦で収入を得ていけることに魅力を感じました」(翔さん)

 翌月には実際に後継者を探す農家を訪問。年間400万~500万円の売り上げが見込め、経費は100万円程度と聞いた。住む場所も準備され、家賃は農地の賃借料を含め年間数万円。これならやっていけそうだと、夫妻はそれぞれ会社に辞職届を出し、16年4月に勝浦町に引っ越した。役場のサポートも受けながら経営計画を立て、人材資金(経営開始型)の交付も決まった。夫婦の場合は年間225万円だ。

「畑をそのまま引き継げると言っても、車を買ったり、借りた古民家の改修をしたりで貯金はほぼなくなりました。人材資金がなければ、早くに生活に困っていたかもしれません」(翔さん)

 夫妻が栽培するのは収穫時期の遅い晩生みかん。収穫は11~12月ごろで、初めて現金収入を得たのは17年に入ってからだ。当初は出費ばかりだが、人材資金が夫婦の生活を支えた。

 ただ、人材資金の受給は20年で最後。19年は青果販売で420万円を売り上げたが、半分以上は経費で消える。夫妻は人材資金に頼らず生計を立てる準備を進めており、自宅1階を農業民宿に改装し、古本屋も始めた。そのほか、お祭りのときに屋台を出したり、自ら習得した床張りのワークショップを開いたり、昨年は「X」部分で約100万円を売り上げた。翔さんは話す。

「いろんな仕事もしながら、耕作面積を増やして所得を上げ、家計を安定させていきたい。地方なら手取りで400万円も稼げば、贅沢な暮らしができます」

 全国農業会議所による「新規就農者の就農実態に関する調査」によれば、就農1年目に要した費用の平均は569万円。一方、新規就農からおおむね10年以内の平均農業所得は年109万円で、「おおむね農業所得で生計が成り立っている」新規就農者は全体の24.5%に過ぎない。農水省の庄司裕宇(ひろたか)・農村計画課長は言う。

「コロナの影響で田園回帰の流れが加速している。400万円程度の所得が確保できるような支援策やモデルを提示できれば、新たな担い手としての半農半Xが増えていくのではないか」

 コロナ禍も追い風に、半農半Xが農業強化の切り札になろうとしている。(フリーランス記者・澤田晃宏)

※AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号


 わたしが就農したときも多様性を認めない「専業農家」一辺倒の時代だった。「X」をはじめれば、やめよと圧力がかかった。ようやく、の感がある。今、コロナ禍の時代「業」としての「農」ではなく、「家庭菜園」、「自給自足」、「安全性」、「地球を守る」等、多様性のある「農」の確立が必要だと思う。「農」に年齢はあまり重要ではありません。何歳からでも始められるのが「農」です。