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俳優・勝地涼くんのこと。

『機動戦士ガンダム00』(1)-5(注・ネタバレしてます)

2025-01-04 22:08:12 | ガンダム00

アレルヤ・ハプティズム

ソレスタルビーイングのガンダムマイスターの一人。機体は可変飛行型のガンダムキュリオス(ファーストシーズン)→アリオスガンダム(セカンドシーズン)→ガンダムハルート(劇場版)。人革連軍の秘密組織「超人機関」の人体実験によって生み出された「超兵」の一人。

他のプトレマイオスクルーが基本的にソレスタルビーイングで与えられたコードネームを名乗っているのに対し(刹那、ロックオン、スメラギは確定。イノベイドのティエリアはもともとソレスタルビーイング外の世界で生きたことがないはずなのでコードネーム=本名だろう。一方第二世代のガンダムマイスター同士のカップルを両親に持つフェルトは、外伝小説『機動戦士ガンダム00P』によると、やはりソレスタルビーイング外の世界を知らないにもかかわらず別に本名―もしかすると本人と死んだ両親しか知らないかもしれない―が存在しているそうだ。イアンと医師のJBモレノはソレスタルビーイングへの参加の経緯からすると本名っぽい。イアンが本名ならその妻子のリンダとミレイナも本名か?)、アレルヤという名は超人機関時代にマリー・パーファシーにもらった名前であることが作中で語られている。
それをそのままコードネームとして用いたのは、アレルヤという名前が本名ではなく超人機関内での通称ですらなく(超人機関での名前=識別番号はE-57)、マリーと二人の間だけでの呼び名だったからだろう。
もし仮にアレルヤという名前が組織外の人間に知られたとしても、そこから彼の過去に辿りつくことはできない。それがわかっていたからソレスタルビーイングもアレルヤという名の使用を認めたと考えられる(小説版では、マリーの存在とアレルヤという名の意味―神への感謝の言葉―が当時の彼にとって唯一の希望であったがゆえに、ソレスタルビーイング参加後もコードネームとして用いたと記されている)。
ハプティズムという姓(?)の由来は不明だが、一字違いの「バプティスム」(baptism)は「洗礼」(キリスト教入信の儀式の一つ)の意味なので、「アレルヤ」が神を称える言葉であることからしてバプティズムを意識して(制作陣が)命名したのだろう。アレルヤのもう一つの人格がアレルヤ(alleluia)の頭にHを加えたハレルヤ(hallelujah)なので、同じくバプティズムのbをhにずらしてハプティズムとしたのかも?
ちなみに再び小説版では上で書いたアレルヤという名前をソレスタルビーイングでも使用した理由に続けて「それは文字どおり、彼にとっての「洗礼」であった・・・・・・。」との一文がある。

穏やかかつ優しい気質の常識人で、マイスターの中ではロックオンについで話しやすそうな人(刹那とティエリアが話しかけにくすぎるともいえるが)。彼の不安定要素はもっぱら戦闘面――アレルヤ同様超兵である人革連のソーマ・ピーリスとの脳量子波共鳴現象及び戦闘時(有事)に限って現れる狂暴なもう一つの人格・ハレルヤの存在に由来する。

後者は「ハレルヤ」の項で詳述する予定なので措くとして、前者については(3)-5でも書いたように脳量子波を遮断するための措置を何かしら取れなかったのかと(笑)。戦場でピーリスとかちあうたびに実質無力化させられてたというのに。
ファーストシーズンのラストでハレルヤが〈消滅〉したあとハレルヤが復活するまでアレルヤが脳量子波を失っていたこと、劇場版で脳量子波に引かれるELSがアレルヤよりマリー(ピーリス)、マリーよりハレルヤを追いかけていたことからいっても、実際に脳量子波を操れるのはハレルヤの方らしいのに、脳量子波の干渉だけは受けてしまうというのも不便極まりない話である。
アレルヤはハレルヤの必要以上に残忍な戦闘スタイルや物言いを嘆き、そんなハレルヤ=もう一人の自分の言動は自分が心の奥で望んでいることなのではないかと悩んでいるが、実際ハレルヤという人格が現れたのはいつなのだろうか。
超人機関に〈脳や身体をいじくりまわされた〉結果、脳量子波に目覚めたのと同時期にハレルヤの人格も生まれたと考えるのが妥当だろうが(超人機関の担当官?がアレルヤの資料を調べたさいに「脳量子波処置後新たな人格が形成。狂暴性あり」と独り言を言っているのもこれを裏付ける)、ハレルヤが表に出て何がしかの行動を起こしたのは分かっている限りでは、〈処分〉を免れるべくアレルヤが仲間たちと共に輸送船を奪って施設を脱走した後、行く当てもなく漂流するうちに酸素と食料が尽きかけて、自分が生き延びる(少ない酸素と食料を独り占めにする)ために仲間を皆殺しにした時である。
マリーが「知っていたわ。あなたの中にもう一つの人格があったことは」と語っているが、この事件以前はハレルヤの人格は存在はしたもののアレルヤの中で眠っている状態で、アレルヤが本格的に生命の危機にさらされた時初めてアレルヤを、そして自分を守るために人格交替が起こったのではないだろうか。
きっかけは人体実験でも、強烈なストレスにさらされている主人格を守り、その苦しみを肩代わりするために生まれた人格と考えると、いわゆる多重人格障害の定型に沿っているといえる(もっともアレルヤがハレルヤの存在を自覚しているのみならず会話まで出来てしまうあたりは定型から外れている。脳量子波というファクターがあるゆえか)。
それだけにハレルヤが超人機関の施設の破壊をアレルヤに持ちかけた時に皮肉ったように、「自分がやりたくなかったことに蓋をして、自分は悪くなかったとでも」言いたいために辛い役割をハレルヤに押し付けている、自分が綺麗なままでいたいためにハレルヤに汚れ役をやらせているようにも見えてしまう。
ピンチになるとハレルヤが主導権を握って残酷過ぎるほどの戦法で敵を屠るのを、一番間近で見ながら止められず事後に「なぜなんだハレルヤ・・・」と涙を流すアレルヤは、優しいけれどそれゆえに弱々しく頼りない。こうした彼の〈弱さ〉が前面に出たのが上で書いた超人機関研究施設の破壊作戦である。

 


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『機動戦士ガンダム00』(1)-4(注・ネタバレしてます)

2024-12-27 22:44:35 | ガンダム00

ロックオン・ストラトス(ニール・ディランディ)

ソレスタルビーイングのガンダムマイスターの一人。機体は狙撃型のガンダムデュメナス。マイスターの中では最年長(それでも20代半ばだが)ということもあり、みんなの兄貴分的存在。
明るく寛容で冗談も通じて、自然と周囲を気遣える大人の男性。フェルトが彼にほのかな恋心を抱いたのもわかるというもの。
刹那やティエリアのような癖の強い面々もロックオンを慕っていた。とくにあのティエリアを落としたのはすごい。
別段ロックオンにはティエリアを懐柔しようなどというつもりはなく、身を挺してティエリア(ガンダムヴァーチェ)をかばったのも、ヴェーダとのリンクを失ったうえにロックオンに傷を負わせてしまったことで落ち込むティエリアを励ましたのも、ロックオンとしては当たり前の言葉をかけ行動を取っただけ。
人革連によるガンダム鹵獲作戦のさいにナドレの機体をさらしてしまい、その自責の念から大元の戦闘計画立案者であるスメラギを厳しく批判したティエリアをたしなめつつも「可愛いよな、生真面目で。他人に八つ当たりなんかしてさ」と受け入れ、スメラギが過去に犯したミス=友軍との同士討ちにティエリアが言及した時も「誰だってミスはする。(中略)が、ミス・スメラギはその過去を払拭するために戦うことを選んだ」と彼女を擁護した。
ティエリアが人間ではないことをおよそ察しながらも何も言わず上掲のティエリアを励ます場面では「失敗ぐらいするさ。人間なんだからな」とティエリアをあくまで人間として扱った。
周囲の人間の内なる思いを鋭く察し、言うべきことは言うが基本的に相手を欠点含めて受け入れる――この度量の広さが彼が皆から頼られる所以でしょう。その分「優しいんだ、誰にでも・・・」とフェルトが淡い嫉妬心を覚えてしまったりもするわけですが。

そんな彼に平静さを失わせるのがテロに対する強い憎悪。ソレスタルビーイングへの牽制として起こされたテロに一般人が巻き込まれても「そんなことで我々が武力介入を止めると思っているのか」と冷笑したティエリアの胸倉を掴む場面はふだん飄々としている彼だけにインパクトが強い。
そしてかつてテロ組織KPSAの一員だったと発覚した刹那に銃を向けた一件。ロックオンがテロを憎む理由が家族をテロで失ったことにあるのはすでに明かされている。
そのテロを行ったのがKPSAだったわけだが、刹那が直接このテロに関わったわけではない。刹那が幼いうちに偽の教義を刷り込まれ少年兵に仕立て上げられた、いわば刹那自身も被害者であることもロックオンは理解している。
それでも家族の仇への憎しみが刹那に向かうことを止められなかった。刹那との問答を通じてひとまず和解したものの、大事な戦力である刹那を、紛争根絶のための戦いも途上のこの時点で殺そうとしたというのは、私怨をソレスタルビーイングとしての使命に優先させていると見なされても仕方ないだろう。
加えて刹那への怒りはひとまず収めたものの私怨を捨てたのではなく、刹那をゲリラ兵に育てあげた、主敵というべきアリー・アル・サーシェスに憎悪の対象を移したに過ぎない。そしてティエリアやアレルヤに加勢するために目の怪我を押して出撃したはずがサーシェスと遭遇し、機体が大破してなお家族の仇討ちのためサーシェスを倒すべく体を張り命を落とした――。
ロックオンに限らずソレスタルビーイングの参加者はテロや戦争で心身に深い傷を負った者が多く、後のアロウズ参加者―ルイス・ハレヴィやビリー・カタギリを見ても、人を無謀といっていいような戦いへ向かわせる根本的動機は結局その心の傷、トラウマであって、〈紛争根絶〉〈恒久平和の実現〉といった理念は表向きに過ぎないのだろう。
ロックオン自身も「何やってんだろうな」「わかってるさ。こんなことしたって何も変わらないって」と自嘲しているが、それでも家族の仇を討つというのはロックオンにとっては譲れない一点だったのだ。

ロックオンの印象的な台詞「刹那、おまえは変わるんだ。変われなかったおれの代わりに」も、不毛と感じつつも復讐に走らずにいられなかったことへの自嘲、反省の現れのように感じられる。
ちなみにこの台詞、セカンドシーズン、映画版ともに刹那に覚醒を促すキーワードのように登場するが、刹那の回想(夢?)中に出てくるだけでロックオン本人がこの言葉を口にする場面はない(小説版では死を前にしたロックオンが心の中で刹那に問いかける台詞の一部として出てくる)のだが、単に刹那の中のロックオン像が〈変われなかった男〉だということではなく、イノベイター(予備軍)の刹那であってみればロックオンはじめ死んだ仲間たちの姿と声を見聞きするのは本当の彼らの残留思念を感知しているのではないか。つまり「変われなかったおれの代わりに」は本当に生前のロックオンが考えていたことではないだろうか。
たしかに生き物にとって変化できる、環境に適応できるというのはそのまま生命力の強さだといえる。だからといってロックオンが弱い人間だとは思わない。
むしろマリナにも通じる〈変わらないからこその安定感〉が彼にはあり、内面の変化が激しかった刹那やティエリアが彼を慕ったのはいつでもそこにいて自分を受け入れてくれるような、ほっとする感覚を与えてくれるところにもあったんじゃないかなと思ったりするのです。


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『機動戦士ガンダム00』(1)-3(注・ネタバレしてます)

2024-12-21 07:15:04 | ガンダム00

「変革」の最初の兆しが現れたのは、ダブルオーの支援機であるオーライザーが完成・搬入され、ダブルオーとのドッキングテストの際にトランザムを始動させた時だ。理論値を遥かに超える大量の粒子が生産・放出され、周囲にいた脳量子波の能力者――マリー、ティエリア、アレルヤの内なるハレルヤがその影響を受けている。
ただこの時点では現象の起点にいたはずの刹那はイアンたち同様ツインドライヴの真の性能に驚いているだけで、彼自身がマリーたちのように何かを感知している様子はない。ここではまだ後のイノベイター・刹那は目覚めを迎えていないのだ。
次はソレスタルビーイングの秘密基地がアロウズの襲撃を受けての戦闘時である。沙慈が操縦して運んできたオーライザーとドッキングし、トランザムシステムを発動させた際に初めて刹那は「ここにいる者たちの声が」直接脳に響く〈白い世界〉を体験する。
ただそれは沙慈やアロウズの一員――敵としてその場にいたルイス・ハレヴィも一緒で、その後すぐリヴァイヴ・リバイバルと戦った時に一瞬脳に響く声で直接対話したのも機体が量子化したのも、ダブルオーライザーの能力なのか刹那自身の能力なのか(乗り手が刹那以外だったとしても同じ現象が起きたのか)判然としていない。
その次はサーシェスに右肩を撃たれながら負傷を押して彼と交戦した時。トランザムを発動する前から傷のゆえにか半ばトランス状態に陥りつつ戦っていた刹那は、トランザム時に再び機体を量子化させ、サーシェスに止めを刺そうかというタイミングでマリナの声を感知する。
その後アフリカタワーでブシドーと戦った際もトランザムを発動させて瞬間移動のような動きを見せているが、これは機体を量子化させたものか単にトランザム下での高速移動なのか微妙なところだ。メメントモリ二号機の破壊ミッションでもトランザムライザーになっているが機体の量子化も声が直接脳に響く現象も起こっていない。
この破壊ミッションに続く「ブレイクピラー」から四か月後、刹那はメディカルチェックの際にサーシェスに負わされた銃創による「細胞の代謝障害」が「きわめてゆるやか」だと医療担当のアニュー・リターナーから聞かされる。これまで全てトランザムライザーの媒介のもとで特殊な能力を発揮してきた刹那が、機体と関係なく初めて自身の身体に変化を生じたのがここである。
少し後で、リボンズもとっくに細胞障害で死んでいておかしくないはずの刹那が平気で戦場に出てきていることに疑念を持ち、彼が純粋種のイノベイターとして覚醒しつつあるのを察する。この〈細胞障害の進行がゆるやか〉というのが刹那の身体的な意味でのターニングポイントだったろう。
その後はアニュー・リターナーの裏切りと死の騒動後に一瞬両目が金色に光るのを沙慈に目撃され(刹那本人は自覚してなさそうだが)、ブシドーとの戦いの中で〈白い世界〉に入った時にもやはり両目の虹彩が金色に光っている。
この戦の経緯を見て「純粋種として覚醒したか、刹那・F・セイエイ」とリジェネは呟いたが、この時点ではまだ覚醒は完全ではない。ブシドーの戦いの際にも刹那はトランザムライザーに乗っていたのに、トランザムバーストが発動してはいない。トランザムバーストの発動=刹那のイノベイターとしての完全な目覚めは少し後のヴェーダ奪還作戦を待つことになる。

ところで、もし刹那がダブルオーに乗っていなかったとしたら、それでも彼はイノベイターとして覚醒しえただろうか。
これは正直難しかったと思う。イオリアがパイロットをイノベイターとして覚醒させることを主な目的としてツインドライヴやトランザムシステムを作ったことはほぼ確実と思われ(詳細は後述)、トランザムライザーのパイロットという条件下になければ刹那の覚醒はなかったか、あったとしてももっと遅れていただろう。
ただ刹那にはイノベイターとなるべき資質は人並み以上に備わっていたかもしれない。先に書いた〈刹那がロックオンや沙慈に銃を向けられても抵抗しない〉件だが、「生への執着の薄さ」だけでなく他の要素も関係しているように思えるからだ。

ロックオンと沙慈の件の他にも、刹那は二代目ロックオン=ライル・ディランディに無抵抗で殴られる場面がある。自らの正体を知らずプトレマイオスの一員となりライルと恋仲になっていたアニューがイノベイター(イノベイド)として覚醒させられ敵に回った時、刹那がアニューの機体を撃ち抜き彼女を死に追いやったのが原因だ。
もし刹那が彼女を撃たなければ確実にライルが殺されていたという状況下であり、兄ロックオンや沙慈のケースと違い完全に逆恨みといってよい。
刹那は事前に「もしもの時は、俺が(トリガーを)引く。その時は俺を恨めばいい」と宣言していたので恨まれるのは承知のうえだったろうが、顔が腫れ血を流しながら相手が疲れるまで殴られっぱなしになる――さらに後日なお気持ちの収まらないライルに後ろから銃で撃たれそうになっても、気づいていながら避けようとしない。
また初めて〈白い世界〉を経験しルイスがアロウズにいることを知った沙慈がオーライザーを勝手に持ち出してルイスのもとへ向かおうとした際も、刹那はそれに気づきながら見逃そうとしている。
トランザムライザーはソレスタルビーイングにとって切り札とも言うべき戦力であり、それを失うことは非常な痛手となる。加えてカタロンの基地から逃げた時のように沙慈が敵方に捕獲でもされてしまえばオーライザーがアロウズの手に渡ってしまうかもしれないのだ。
ライルに無抵抗だった件はともかくも、これを見逃すというのは、ソレスタルビーイングの浮沈に関わることだけに情に流されすぎでは?と思ってしまう。

この情に、というか感情に流されやすい性質を刹那はファーストシーズンからたびたび見せている。偽りの教義で自分を戦士に仕立てあげたアリー・アル・サーシェスと戦場で再会した際にコクピットから出て相手に姿をさらしたり、マリナと初対面のさいには自分がソレスタルビーイングのガンダムマイスターであるとばらしてしまったり――とくに前者はロックオンに殴られティエリアには危うく銃殺されかける程に問題視された。
ロックオンいわくガンダムマイスターの正体は最高レベルの秘匿義務があるとのこと。刹那は仮にも秘密組織の一員としては、こうした決まり事に無頓着すぎるきらいがある。
さらに驚くのはファーストシーズンの最終決戦の後、仲間に何も言わずエクシアごと姿を消してしまったことだ。どうやら4年間自分たちの活動によって変化した世界をあちこち旅して回っていたらしいが、せめて共に戦った仲間たちには自分が生きていることだけでも伝えるべきではないか。
おまけにエクシア、というかオリジナルのGNドライヴまで持ち出してしまうとは。連邦軍やのちのアロウズが用いているGNドライヴはあくまで「疑似」であり、本物のGNドライヴはソレスタルビーイングが所有する5つしかないのである。そのうちの一つを4年間借りっぱなしで半ば私物化していたというのは・・・。
やはり最終決戦で愛機ナドレが大破したティエリアが、死を覚悟した時せめてGNドライヴだけはと最後の力をふりしぼってGNドライヴを機体から外し、生きている仲間に託そうとしたのと比較するとずいぶん自分勝手なように思えてしまう。旅に出るならセカンドシーズン最終回でマリーともども手荷物だけで旅だったアレルヤみたいにすればよかったものを。
もしエクシアのGNドライヴがソレスタルビーイングの手元にあれば、ツインドライヴシステムのマッチングテストはもっと早く成功して、武力介入再開を早めることが―それによって失われる命を減らすことが―できたかもしれないのに。
刹那の方だって左腕を失ったエクシアを彼一人ではろくに直すこともできず、機体自体の古さ(4年以上前の型)もあってアロウズ相手の戦闘ですっかり遅れを取っていた。ティエリアが助けに駆け付けなければ沙慈ともどもあの場で命を落としていたかもしれない。
素直にエクシアとともにソレスタルビーイングに一度帰還していれば、エクシアもちゃんと修理してもらえたし新しい機体(ダブルオー)にももっと早く乗れていただろうに。
ただサーシェスの件では刹那の行動にあれほど腹を立てたティエリアが、刹那が4年間連絡もよこさずエクシアを勝手に持ち歩いていたことを全くとがめず「やはりアロウズの動きを探っていたか。久しぶりだな」と穏やかに挨拶をしている。
映画版など刹那がELSを攻撃しなかった理由を問いただして「わからない」というふざけた応えをもらった時も「(わからないのにそのように行動したということは)イノベイターとしての直感がそうさせたようだな」とむしろ高評価。
イノベイターはきわめて勘が鋭い。ことイノベーターに関しては理屈をあれこれ考えるより直感を信じて動く方が正解となる可能性が高いのだろう。あまり物事を深く考えずその時々の感情で動く刹那は、その意味でイノベイター向きだったのかもしれない。
初めてダブルオーに乗った時も、ツインドライヴのマッチングテストがまだ成功していない機体にイアンが止めたにもかかわらずトランザムで強制起動をかける(先にティエリアがこの方法を提案したさい「オーバーロードして最悪自爆だ」とイアンに却下されている)という無茶をやらかしている。
刹那は成功すると確信していたようだが、その根拠は「ここには0ガンダムと、エクシアと、俺がいる!」であった。それで本当に成功してしまったわけだから、イノベイターとして目覚める前でも刹那のここぞの時の勘は当たっているわけである。
ヴェーダとリンクができなくなり悩んでいたティエリアにロックオンがかけた(結果ティエリアを救った)「四の五の言わずにやりゃいいんだよ。お手本になるやつがすぐそばにいるじゃねえか。自分の思ったことをがむしゃらにやるバカがな」という言葉も「自分の思ったことをがむしゃらにやる」――感じたままに(悪く言えば思いつきで)行動する刹那の〈我がまま〉を肯定していた。
情に流されやすい、考えるより感じることを重視する性格が、刹那が人類初のイノベイターとして覚醒するために有利に働いたのではないかなと思ったりするのである。


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『機動戦士ガンダム00』(1)-2(注・ネタバレしてます)

2024-12-13 21:16:32 | ガンダム00

もう一つ刹那の行動で諦念を感じさせるものがある。それは初代ロックオン・ストラトスや沙慈・クロスロードに銃を向けられたとき、全く抵抗せず彼らが望むなら殺されてもいいという態度を見せることだ。
ロックオンも沙慈も刹那が属する組織のメンバーの攻撃で家族や恋人を失っている。直接の攻撃者が刹那ではない(むしろ刹那は相手を止めようとしたり反目したりしていた)のも共通だ。
刹那をはじめソレスタルビーイングのメンバーの幾人かは紛争根絶が成し遂げられた暁には裁きを受ける覚悟を表明している。平和を望んでの行動ではあっても多くの命を犠牲にした、その罪はいずれ償わなければならない。おそらくそれは全員に共通する思いだろう。
しかし刹那は「紛争根絶が成し遂げられた暁」ではなく、「いずれ」でもなく、過去の恨みをぶつけてくる相手が目の前に現れればいつでも彼らに仇を撃たれてやろうとする。
積極的に殺されにいったり謝罪したりはしないが全く言い訳もしない。ここで殺されてしまえば悲願のはずの紛争根絶は果たせなくなるというのに。
実際ロックオンは「おれが撃てば(戦争の根絶は)できなくなる(がそれでいいのか?)」と刹那に尋ねている。それに対する刹那の答えは「構わない。代わりにおまえがやってくれれば」。
この言葉にはロックオンたち紛争根絶という理念を共にする仲間への強い信頼が感じられる。沙慈に銃を向けられた時も、もしここで撃たれて死んだとしてもティエリアたち残る仲間が思いを引き継いでくれるとの確信があったのだろう。
とはいえ刹那・F・セイエイとしては志半ばで倒れることになる。そのことへの抵抗、理想を実現するまでは生きたい、といった生への執着というものが刹那にはどうも薄いように思われるのである。

こうした生への執着の薄さ、自分は戦うことしかできないといった諦念の背景には最初に挙げた両親を殺害した件、自分は親殺しの大罪人だという思いが強くわだかまっているように感じる。
セカンドシーズンで、サーシェスとの戦いで傷を負い、マリナの歌に導かれるように彼女が身を寄せるカタロンの基地にたどり着いて倒れた刹那が、両親を殺そうとしている幼い自分を止めようとして止められない夢を見たのも、彼の深い後悔の現れだろう。
この夢の中でロックオン(ニール)から「刹那、おまえは変われ。変われなかったおれの代わりに」と言われたのを契機として、刹那は自らを変えようとし始める。
この少し後、アフリカタワーの近くでブシドー(グラハム)と戦った際に刹那は、ブシドーとの問答の中で「戦うだけの人生 俺もそうだった だが今は そうでない自分がいる!」と叫ぶ。セカンドシーズンの初期ではマリナに「俺にできるのは戦うことだけだ」と言っていた刹那が、すでに変わりはじめている。
この直後刹那は仲間が駆け付けたのに安堵+傷が開いたダメージのせいで気絶するが、意識を失いつつある中で夢の中のロックオンに答えるように、「わかっているロックオン。ここで、俺は変わる。俺自身を、変革させる」と、はっきり〈変わる〉ことを宣言する。そして次に(最後に)ブシドーと戦った時、決着の後に「俺は生きる。生きて明日を掴む。それが俺の戦いだ」と告げる。
生への執着が薄かった刹那がはっきり「生きる」意志を口にした。この戦いは刹那にとっては心の持ち様という意味で大きなターニングポイントであり、同時にリジェネ・レジェッタの言葉に従うなら、「純粋種=イノベイター」への変革を決定づけるものでもあった。

(つづく)


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『機動戦士ガンダム00』(1)ー1(注・ネタバレしてます)

2024-12-06 20:09:59 | ガンダム00

刹那・F・セイエイ

ソレスタルビーイングのガンダムマイスターの一人。機体は近接戦闘型のガンダムエクシア(ファーストシーズン)→ダブルオーガンダム(セカンドシーズン)→ダブルオークアンタ(映画版)。
幼い頃に祖国である中東の小国家クルジスの内戦に少年兵として参加。その際指揮官だったアリー・アル・サーシェスに〈これは神のための聖戦〉だと洗脳され、聖戦の参加資格を得るために必要な〈儀式〉と信じ込まされて己の手で両親を殺している。
この件が彼の精神に拭い去れない影を落とし、紛争根絶を望んでソレスタルビーイングに入る原因となる。

個人的に刹那をすごいと思うのは物語冒頭の段階で「この世界に神はいない」心境に至っていること。躊躇なく両親を殺すほどに深く洗脳されていたにもかかわらず、周囲の子供たちがなおも神を信じ神のため戦っている中で(ロックオンの一家が巻き込まれたテロの実行犯の少年は、刹那が止めるのに耳を貸さなかった)、すでに洗脳から脱している。
神の存在を疑うことは両親を殺した行為は間違っていたと認めることに繋がる。その苦しみに耐えられず間違いを認めまいとする、自ら洗脳状態を継続させようとするのが通常の心理であろう。そうした心理的罠に陥らず現実に目覚めた刹那は、それだけ精神的に強い人間だったのだと思う。
ところで彼を洗脳から目覚めさせたものは何だったのか。はっきり描かれてはいないが、おそらくは死体と瓦礫の山となった街の状景、いわゆる“神も仏もない”と嘆きたくなるような戦場の惨状だったのではないだろうか。

上で書いたように、刹那は〈武力介入による紛争根絶〉というソレスタルビーイングの理念に強く共鳴する。そのきっかけはファーストシーズン第一話冒頭部でのガンダム(リボンズ・アルマークが操縦する0ガンダム)との遭遇にある。
たった一機だけでその場に現れるなり敵も味方も殲滅、一瞬で戦闘を終了させてしまった。その圧倒的な強さと優美な形状、空から〈降臨〉したと形容したくなるシチュエーションと相俟って、ガンダムの姿は幼い刹那の心に強烈な印象を持って刻み込まれた。
泥沼の戦場の中で〈自分は名誉ある聖戦を戦っているのだ〉との洗脳から解かれて〈この世界に神などいない〉心境に至っていた刹那は、ガンダムを新たな神としてある種崇拝の対象としたのだ。
そしてソレスタルビーイングから勧誘された刹那はガンダムエクシアのマイスターとなる。ファーストシーズンで彼はしばしば「俺がガンダムだ」と口にする。さすがに自分が神だと言うのではなく、神の御心を代行する使徒くらいの意味だろうが、出会いの経緯からすれば刹那にとってガンダムとはその圧倒的な武力によって戦いを終わらせる存在なのである。

刹那は彼にとって故国とも敵国ともいえる(刹那の故郷クルジスを武力で併合した)アザディスタンの王女マリナ・イスマイールとたびたび接触を持ち、武力解決を否定する彼女に一目置いてさえいるが、彼女にアザディスタンの再興を手伝ってもらえないかと誘われた際には「俺にできるのは戦うことだけだ」とこれを断っている。
そして「悲しいことを言わないで」「戦いからは何も生み出せない・・・失くしていくばかりよ」というマリナの言葉に「破壊の中から生み出せるものはある。世界の歪みをガンダムで断ち切る。未来のために」と返す。
この〈自分は戦うことしかできない〉という諦念を刹那はしばしば(「俺がガンダムだ」と同じくらい)口にする。幼い頃から銃を持って戦い、その後はソレスタルビーイングに入って武力介入を行い、と彼の人生は両親と過ごしたごく幼い時期を除けばずっと戦いの連続である。
ファーストシーズン終了後からセカンドシーズンが始まるまでの4年前後は世界のあちこちを旅していて、その間は直接戦うことはなかったのではないかと思うのだが(片腕と顔の一部が破損したままのエクシアを携行してはいたが、4年間ソレスタルビーイングは表舞台から消えたと見なされていたということは、刹那もエクシアを使っての戦闘は行わなかったのだろう)、自分たちが変えた後の世界を偵察して回っていただけで、積極的に何かを作る、生み出す行為をしてはいない。
彼ができる、やったことがあるのはスクラップ&ビルドのスクラップの方だけで、「破壊の中から生み出せるものはある」と言いつつも、自分が担うのはあくまで「破壊」の部分で、自分が歪みを断ち切った後に新しいより優れた世界を構築するのはマリナのような人に任せたいと思っているのではないか。
無責任とか投げやりとかではなく、おそらく刹那には〈平和な世界で生きる自分〉というものを上手く思い描くことができないのだ。

(つづく)


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『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazar-』(4)ー0

2024-11-29 22:15:20 | ガンダム00

 前回で映画版のレビューは一応終了なのですが、『ガンダム00』という物語自体をもう少し深掘りしてみたくなったので、来週以降でまたつらつら感想を書き綴ってみようと思います。勝地くんもデカルトも登場頻度少なめになりそうですが(汗)。

 というわけで、お付き合い頂ければ幸いです。


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『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazar-』(3)-11(注・ネタバレしてます)

2024-11-22 08:56:16 | ガンダム00

・エンディングテーマの後に再び物語が。西暦2091年のどこかの島らしい海沿いの風光明媚な場所。そこに立つ家の一室で主と客人とが会話している。
いくつものコンピューターのモニターが並ぶ間に金管楽器が立てかけてあったりして、この部屋の主がひたすら研究人間というだけではないのだと思わせる。客人の後ろにもコントラバスっぽいケースが立てかけてあるし、そばには描きかけの絵もあって、むしろ非常な趣味人といってよい。というかイオリアさんどれだけ多才なのか。
この客人、声といい顔といい(顔は大分大人びてはいるけど)明らかなリボンズ・アルマークと同じ遺伝子の持ち主。エンディングの声のキャストで彼の名前が「E・A・レイ」であることが確認できます。これは声優さんつながりで初代ガンダムの主人公アムロ・レイを意識した名前ですね。

・客人は部屋の主=イオリア・シュヘンベルグのさまざまな発明を「我々人類を豊かにする大変な技術だ」と褒める。リボンズの顔と声で「我々人類」と言われるとちょっと変な感じ(笑)。

・しかし褒めたあとに続けて「でも、君は人間嫌いで、こんな孤島にひとりで過ごしている」とツッコむ。人類に役立つ研究をさまざま発明し、後世にイオリアの名前が一応残っていたところを見るとせっかくの理論を人嫌いがたたって表に公表していなかったわけではなくちゃんと形にして役立ててはいた模様(そのわりに少なくとも顔が有名じゃないのはまさに人嫌いで孤島に引きこもっていたゆえだろう)。
だからこれは人類に役立つものをさまざま発明するほど人類のためを考えてるわりに人間嫌いとは矛盾していないか?という意味でしょうね。

・友人の言葉にイオリアは「私が嫌悪しているのは、知性を間違って使い、思い込みや先入観にとらわれ、真実を見失う者たちだ。それらが誤解を呼び、不和を呼び、争いを生む・・・わかりあわせたいのだよ、私は」。
このイオリアの言葉は巨大ELSの中で刹那とティエリアが言っていたこととほとんど一緒。刹那たちが正しくイオリアの意思を継いでいることがわかります。

・一気に西暦2364年に。地球・月・ELSの花を緑色の点線のようなものがうっすら繋いでいる(脳量子波?)。そしてその花びらの一つの上に稲光のような線が二本走り、花びらとその下には何らかの機械というか施設が取付けられている。
少し後でわかるように、人類は外宇宙へ乗り出すへあたっての橋頭堡としてELSの花を利用しているそうなのだが、これってELSの体の上にじかに設置しているってことじゃ?人間だってときどき小鳥が頭や肩が止まりに来る程度なら微笑ましいと思えても、頭の上に巣を作られて複数の鳥がしょっちゅう出入りするとなればいかに鳥好きの人でも我慢できないのでは。
それを許しているELSはものすごく寛大なのか、鈍いのか、そのどちらでもない(そういった人間的尺度を超越している)のか。

・その施設のそばを飛行するピンク色の機体。そこに「ごらんください。地球連邦が誇る最新鋭外宇宙航行艦「スメラギ」の雄姿を!」という実況中継の声とおぼしき音声が流れる。
「スメラギ」という名称は明らかにソレスタルビーイングの指揮官だったスメラギ・李・ノリエガにちなんだ名称ですね。50年前にソレスタルビーイングの映画が作られるくらいで当時ソレスタルビーイングは一種ヒーロー扱いになってたようなので(加えてELSとの対話を実現させることで人類を滅亡の危機から救ったのがソレスタルビーイングのガンダムマイスターの一人なのも知られているのかも)、その指揮官の名前が外宇宙航行艦につけられたとしてもそう不思議ではない。
あとビリーがこの艦の建造に関わっていて、過去の女の名前をこっそり付けたのではという意見を見たことがありますが、これもありえるかも。

・「数時間後、この船は外宇宙に向けて、長い長い航海へと旅立つのです!」 これが初航行ということか。アポロ11号月面着陸くらいの人類史上に偉大な一歩ということですね。

・「乗組員は長旅に耐えられるよう、すべてイノベイターで構成されています」。身体能力や寿命の関係で仕方ないとはいえ、イノベイター以外の人間はどれだけ望んでも能力があってもこのプロジェクトからははじかれてしまったということで、普通人とイノベイターの間に軋轢を生みそうではある。
逆にイノベイター側から見れば、辛い苦しい仕事はイノベイターに回ってくる、差別だ、とも取れるかもしれない。変に衝突が生まれてないといいのだけど。

・「全人類の4割がイノベイターとなった今、さまざまな問題をクリアし、我々はついにこの時を迎えたのです!」。何かしら周囲に指示を与えてるぽい女性の顔はかつてELSに融合された少女のもの。水島監督のインタビューによると、彼女がスメラギの艦長なんだそう(※1)。当時は右半身が結晶化していた彼女だが、今は顔の右側面と右側の髪の毛がうっすら銀色がかってる程度。体もそんな感じだろうか。
しかし彼女、50年経つのに見た目が当時と全く変わらない。イノベイターは人間の半分くらいのペースで年を取るらしいのに、さすがに若すぎるのでは?もっとも彼女の場合ELSと融合しているのでまた少し条件が違うのかもしれない。ラストで登場する刹那も全然年取ってなかったし。
ところでELSと融合して生きている人間て彼女のほかにもいるんでしょうか。研究所に彼女が収容されていた時の感じだと、ELSに融合されてともかくも生き延びたまれな事例という感じでしたが。またELSと融合した人間は人格的にはどの程度ELSの影響を受けるのか。彼女の家族は彼女を変わらず受け入れられたのか。いろいろ気になるところです。

・「私も専従特派員として、この船とともに出発いたします!」この言い方だとスメラギに乗るのではなく、別の船で同行するのだろうか。外宇宙航行に耐える船がこの時点でそうそうあるとも思えないので、言い方のニュアンスだけでこの艦に乗り込むと見た方がよいか。
そして笑顔で話すレポーターの後ろをティエリアが飛んで行く。一瞬驚くが、これはティエリア本人ではなく、ティエリアタイプのイノベイドでしょうね。イノベイドも今なお現役で人間の発展を支えているわけだ。
ちなみに映画の中では出てきませんが、小説版によるとこのレポーターの名はイケダ三世。ファーストシーズンからずっと登場している(映画にも出てる)フリージャーナリストでカタロン構成員だったイケダの孫だそうだ。確かにもじゃもじゃ頭が似ている。このイケダ三世もこの艦に乗るもしくは別艦で同行する以上は当然イノベーターなんでしょうね。

・「それではここで1200人の乗組員を統括する最高責任者、クラウス・グラード氏のコメントをお聞きください」。ここで「Live」と書かれた別画面が現れ髪も髭も白いが矍鑠とした老人が映る。
80才を超えているだろうにそうは思えない若々しさ(60代くらいに見える)と全員イノベイターのはずのこの計画の責任者というところからすると彼もイノベイターになったのか。ただ最高責任者であって艦長ではないから、この艦に乗船するわけではないのかも。このコメント映像も別画面なのは艦の中にはいないという意味合いなのかもしれないし(もちろん艦内の司令官室的な場所という可能性もある)。
ただ彼がイノベイターになったとするとシーリンは?一緒にイノベイターに覚醒できていればいいが、そうでないと寿命や見た目の年齢が離れてしまう。人類の4割がイノベイターという状況のもとで夫婦・恋人同士の片方だけがイノベイターになってしまったというような事例は多発しているのだろうな。

・ここでスメラギ艦内の映像が引いていってテレビに映っている画面となり、そのテレビのある家の様子に切り替わっていく。画面の右上に「JNN」の文字。これはかつて沙慈の姉、絹江・クロスロードが勤めていたテレビ局の名前。地球連邦成立、アロウズによる徹底的な情報統制などの激動を経て、50年以上経っても健在なんですね。

・テレビをつけっぱなしにしたまま、オルガンを弾く老女の姿。質素だが綺麗に片付いた室内。オルガンの上には古い集合写真と花瓶にさした一輪の花(もちろん例の花)がある。オルガンが面している窓の向こうには山脈と草原が見え、一見してアザディスタンだとわかる。
これが年老いたマリナだというのは明白ですね。しかし世紀の大事業の生中継、旧友といっていいクラウスもテレビに映ってるのに関心ないのかな。逆にいよいよ人類が外宇宙に乗り出していくということでこの時代の礎を築いた刹那を改めて思い出し、彼や人類への思いを込めて一曲弾きたくなったのかしら。

・花の咲き乱れる小道を歩いてくるパイロットスーツ姿の人物の足が映る。歩く時にガシャンと金属質の音がする。パイロットスーツが青いことからいってもこの人物が誰なのかすぐわかる。
しかしマリナ大分人里離れた所に住んでるのね(近所に建物が何もない)。そんな行き来しづらい場所ではなさそうだけども。

・ここで初めてオルガンを弾く老女の顔がはっきりと映る。目を閉じ穏やかな微笑みを浮かべる顔は年はとってもマリナ・イスマイールのもの。
オルガン上の集合写真は中年のマリナを囲んで正装した20代くらいの男女6人が映っている。おそらくカタロンの施設でマリナが面倒を見ていた子たちの成人した姿ですね。マリナの誕生祝いとかそういった席に集まってくれた時の写真でしょうか。

・何か気配を感じてオルガンを弾くのを止めたマリナは真顔で少し考えてから「どなた、かしら?」と立ち上がる。この時も目を閉じたままなことから目が悪いのだろうとわかる。動きもよろよろと大儀そうで、彼女の年齢を感じさせる。
しかし「どなた、かしら?」の声が老女としか聞こえない。これマリナの声優さん?演じ分けが凄すぎる。

・「ごめんなさい、私、目が不自由で」。この年の取り方、弱り方からして彼女がイノベイターになってないのは明らか。この映画の一番優れたところの一つはあれだけ他人とわかりあいたいと望んでいたマリナをイノベイターに覚醒させなかったこと。
デカルトの例でもわかるように、イノベイターとしての能力があったら他人とわかりあえる、受け入れられるわけじゃない。肝心なのはイノベイターであるかどうかより、わかりあおうとする心の方だというのがマリナの存在をもって示されています。

・「マリナ・イスマイール」といつものフルネーム呼びで声をかける刹那。しかし何もいわずいきなり家に入ってくるのか。マリナのことだから家にチャイムとか鍵とかなくて誰でもいつでも入ってOKな状態にしてても不思議ないですし、ファーストシーズンで突然夜中にマリナの寝室を訪れた刹那らしいっちゃらしいですが。
それにしても入口で声くらいかけてもなあ。まあマリナとの50年ぶりの再会の第一声が「ごめんください」ってのもアレなんですけど。

・「そ、その声は、まさか」。驚きながら正面に向き直るマリナ。彼女の前に立ついつもの青いパイロットスーツの刹那。しかしそのスーツは微妙に銀色味を帯びている。
カメラが上にパンしていって刹那の顔の鼻くらいまでを映し、肌もうっすら銀色がかってること、髪は完全に銀色なのを示す。近づいてくる足音がまたガシャンガシャンいってるし。彼もまたELSと融合したのがわかる場面。あの女の子も歩く時こんな音するのかな。

・「こんなにも長く時間がかかってしまった」「すれちがってばかりいたから・・・」。うっすら微笑むマリナ。「だが、求めていたものは同じだ」とマリナの手を取る刹那。
「君が正しかった」今まで聞いたこともないほど穏やかで優しい声音。マリナを「君」と呼ぶのもこれが初めて。今までは「あんた」「おまえ」、ファーストシーズン最後の手紙の中では「あなた」だったのが、対等ないしは目下の者に対する一定の敬意と親しみを込めた二人称である「君」になった。
マリナは涙を流しながら刹那の手を両手で包み「あなたも、間違っていなかった」という。「俺たちは」「私たちは」二人で「分かり合うことができた」。最後の一言を同時に言いながら微妙に声がそろわないのがかえって自然。
どちらからともなく抱き合う二人。これは恋愛感情的な意味合いではないでしょう。むしろそうした誤解を生まないために最後マリナを老女設定にしたのかも。二人の間の、そして二人が他者に向ける感情はもっと人類愛的な、というより神の愛に近いもの。一人の人間に対して向けられるものではなく、フェルトが刹那を指して「あの人の愛は大きすぎるから」と言ったのがまさにそれ。
マリナも同様に個人に向けるには大きすぎる愛を持っている。飾ってる写真が家族写真じゃないことからいっても(刹那を待ってたからとかではなく)独身だったんじゃないかなーと思ったらやはり小説版で「彼女は結婚もせず、子ももうけなかった。ひとりの子の母になるより、アザディスタン王国に住む全民衆の母になることを選んだのだ」とありました。
二人は同じように人と人とがわかりあえる世界を切望し、人を愛した。そうした同士愛というべきものがずっと二人の間にはあったのだと思います。最後の抱擁は目指すものは同じでも方法論が違うゆえに共に歩むことはできなかった二人が最後に「わかりあうことができた」ことを示すもの。
お互いに恋愛的な関心ではないからか刹那はマリナが年老いたことへの動揺は(恋愛感情があるなら、50年経ってるのだから年を取っていることはわかっていても実際目の前にすると変わりぶりにそれなりにショックを受けたりするだろう)全くなく、マリナも刹那が半分金属化してることへの動揺はない。マリナの目が見えてたら、彼の銀色の姿に一瞬だけ驚いたあと平然と受け入れる、彼の外観など気にしてないのがより浮彫りになったと思うのでちょっと残念。

・外に止まっているクアンタの全身が小さな花で覆われてゆく。もはや役目を終え、花という平和のシンボルの一部になったということでしょうか。
小説版によると、刹那が去った後も世界各地で争いはなくならず、大戦に発展しかけた時はクラウスとシーリンの息子が世界の歪みを正すために戦火に身を投じ、彼に共鳴してビリーとミーナの間に生まれた子供も参戦し、ソレスタルビーイングの誰かしらも彼らとともに戦ったとのこと。
戦いを止めるための機体であるダブルオークアンタが刹那ごといなくならなければ戦いを止められていたのか。そうした戦いもイノベイターの数が増えるなかで相互理解が可能になってなくなっていったのだろうか?正直人間同士がわかりあうより、基本的には非好戦的で意思の統一が取れているELSとわかりあう方がまだしも楽なような気もします・・・。

・クアンタが花で覆われるラストシーンの端にセカンドシーズンの最終回と同じく英語でメッセージが書かれている。「Peace cannnot be kept by force. It can only be achieved by understanding」。平和は武力によっては維持できない。それは理解しあうことによってのみ達成される。アインシュタインの言葉だそうです。

 

(※1)―『機動戦士ガンダム00と、二つの「対話」(前編)』(https://ascii.jp/elem/000/000/574/574526/3/)


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『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazar-』(3)-10(注・ネタバレしてます)

2024-11-15 17:36:33 | ガンダム00

・情報の奔流に苦しみ叫ぶ刹那にティエリアはこの情報の奔流は自分とヴェーダで受け止める、彼らの本質を、思いを、受け止めろと言う。
苦しみに耐えて目を開いた刹那に数々のヴィジョンが映る。宇宙空間を遥かに進んでゆき、少し木星に似ているある惑星がクローズアップされ、さらにその中深くへ視界が潜っていく。
赤っぽい海の中で生まれた無数の結晶状の生物。その結晶同士が緑色に輝く光でうっすら繋がっているのは脳量子波なのか。やがて小さな太陽の下の厚い雲を抜けた遥か下方(海で生まれた生物が陸地に上がった?)、小さな結晶がたくさん融合してある程度大きな結晶体を形成する。そうした結晶がいくつも存在している世界に稲光が走る。
惑星が何度も自転し(何年何十年も時が過ぎたという表現でしょう)惑星の表面に大きな目のような物が現れ縦方向にリング様のものも現れる。長い年月の間にELSはさらに融合を繰り返し、ついに惑星全体がELSになったということなのでしょう。彼らの最繁栄した時期でしょうね。

・さらに年月が流れるうち、彼らにとっての太陽が巨大化して彼らの星を飲みこむほどになりさらに爆発する(恒星が寿命を迎える時、小~中くらいの星なら巨大化してから小さく萎み、大きな星なら巨大化した後大爆発=超新星爆発を起こした後に萎むかブラックホールになるかする)。小型のELSが次々焼き尽くされる中、巨大な球形のELSは命からがら炎から脱出。
最初これは燃え尽きようとする惑星から脱出したELSの群れだと思ってたんですが、少し後でティエリアが「彼らの母星は死を迎えようとしていて」と言っている。ここで燃え尽きてしまっていたなら「死を迎えた」になるはず。つまりあの炎から脱出した球体はELSと一体化した彼らの母星そのものだったっぽい。瑪瑙のような縞模様がなくなってるのは太陽の炎熱のために水分が蒸発した他の変動があったためだろう。
惑星そのものもそこに一体化したELSも何とか無事で、太陽もすでに爆発してしまったのならこれ以上膨張した太陽に焼かれることもない。なぜなお母星は死を迎えようとしているのか。おそらくは太陽がなくなってしまったゆえでは。太陽が近くに存在する惑星上で誕生した生命体だけに、人類同様太陽なしでは長く生息できないのでしょう。
母星ELSから球形ELS(いわゆる巨大ELS)が分離するシーンの少し前に白い小さな星が縦に光を放っていますが、おそらくあれが超新星爆発後に萎み白色矮星となった元太陽で、あの弱弱しい光ではとてもELSの生命の糧には足りない。というわけで新たな太陽を探して惑星ごと移住するために探査隊として巨大ELSを送り出した、という流れなのでは。

・旅だった巨大ELSはさらに小さい光(より小さい球形ELS?)を4つ分離させる。少しでも早く移住先を見つけるために手分けして探そう、ということなんでしょうね。
そうしたうちの一つが木星に辿り着いてエウロパを見つけ地球に飛来し、ここは良さそうだと巨大ELSを呼び寄せたものと思われます。

・ELS誕生から旅立ちまでの歴史を離れて見ている刹那とティエリア。「そうか、彼らの母星は死を迎えようとしていて、生き延びる道を探していたのか」とティエリア。「繋がることで、一つになることで、相互理解をしようとしていた・・・」と刹那。
彼らが語りながら見ている前で、ELSがつぎつぎ小惑星にとりついている。地球みたいな星に取りつき、あっと言う間に星全体が銀色に埋め尽くされてしまう(中に生命体がいたならどうなってしまっただろう?)。クアンタが対話に成功していなければ遠からず地球もこうなっていたのかな。
あの銀色の星にそのまま住みつかず、地球方面にやってきたということは、ELSが住みやすくするための侵食が仇になってかえって彼らにとっても住める環境じゃなくなってしまったのか。それともあの星だけではELS皆が暮らすには足りず他にも惑星が必要だとなったのか。
小説版によると「エルスたちは惑星に取りつき、自分たちの住環境を整えるために侵食を開始するが、その惑星は彼らの荷重を支えきれず、金属の皮膜に全体を覆われ、死へと向かった」とのこと。

・「行こう、彼らの母星へ。俺たちは分かり合う必要がある」という刹那に「いいのか?」とティエリアが尋ねる。
長い旅になるのは必定、しかも誰も行ったことのない宇宙の果て。ティエリアが一緒だとはいえ不安で孤独な旅になる。そしてフェルトにもマリナにも、ソレスタルビーイングのクルーにも二度と会えなくなるかもしれない。
イノベイターの刹那は年の取り方がゆっくりのはずだから何十年単位の旅にも耐えられるだろうが、普通の人間は寿命が尽きてしまうかもしれないので。それでもいいのか?という意味の質問でしょう。

・「いいも悪いもない。ただ俺には生きている意味があった」。
前半と後半が繋がってないような回答ですが、「いいも悪いもない」とは、行きたい行きたくないという感情はさておいて自分には行くという選択肢しかありえない、迷う余地はないということ。これは自分にしかできない、自分がやるべき仕事であり、それが自分の存在価値、「生きてる意味」である、というのがこの言葉の指すところでしょう。
すでにアレハンドロ・コーナーの野心を挫き、その背後にあったリボンズ・アルマークの野望を実質彼の傀儡であったアロウズごと葬り去った。刹那の人類に対する貢献度はとてつもなく大きいはずですが、刹那にとってはなお幼い頃に両親を殺した、その後も誤った信仰のために、ソレスタルビーイングに入ってからも自分たちの信念のために、やむなく人を殺してきた自分を赦すには足りなかったのだろう。
ようやく相手を殺すのでなく和解する、わかりあうという形で戦いに幕を引くことができた。ずっと“わかりあいたい”と望み戦争根絶を目指してきた刹那は初めてそれを果たせたことに今までにない充足感を覚えたのはないか。
だからこの相互理解をより深く確かなものにするために、ELSの本当の真髄部分と対話しなくてはならない(今回対話した巨大ELSはあくまでも出先の部隊の指揮官クラスなので。脳量子波を通じて地球圏で起こったことは筒抜けでしょうが、やはり親善大使が出向いて直接話をすることに意義がある、という意味合いと解釈してます)。
刹那にとっては辛くともやり甲斐のある、自己肯定感を与えてくれるミッションだということですね。「生きている意味があった」と口にする時の刹那の声に万感の思いが滲んでいます。

・「みんな同じだ。生きている」「生きようとしている」。刹那とティエリアの声に重ねてその頃のプトレマイオス。ELSに激しく侵食されたサブブリッジで今にも自分たちも飲み込まれそうな状況の中寄り添って立つイアンとリンダ。モニター越しに両親の危機を見つめ泣きじゃくるミレイナ。娘を少しでも安心させようとするのかリンダが穏やかに微笑んでいるのが切ないです。
それでもかすかに涙ぐんで何か話しているのは別れの挨拶と強く生きろといった励ましを口にしてるのでしょうか。

・巨大ELSの外へ出ようとするクアンタ。ソードを使って脱出口を開けようと構えると、自動的に脱出口が開く。ELSが開けてくれたのは明白ですが、和解したにもかかわらず穴開けて出るつもりだったのか(苦笑)。

・「だが、なぜこうもすれちがう」と刹那の独白。機体の半ばが侵食されたハルートからマリーが、ついでアレルヤが宇宙服で脱出。その最中に機体が爆発。吹き飛ばされる二人。アレルヤ脱出直後だけど大丈夫だったかな。

・「なまじ、知性があるから、些細なことを誤解する」「それが嘘となり、相手を区別し、」「わかりあえなくなる」。
ELSの外に出た刹那がソードを投げ捨てると少し離れた前面に丸い輪のような空間が浮かぶ。続いて刹那は何らかのシステムを起動させる。
その頃サバーニャは片足を失いながらもなお交戦中。「アニューとだってわかりあえたんだ。おまえらとだって!」戦いながらもロックオン的には和解の意思があるようだ。
イノベイド、つまりは姿は人間と変わらず、しかも自分自身でも人間だと思いこまされていた―メンタリティが人間と変わらなかったアニューと金属異性体を同列に相互理解可能と考えるロックオンもすごい。それだけアニューとわかりあうのが困難だったというか、彼女がイノベイドとして覚醒させられてしまい、話が通じなくなった時の絶望感が大きかった(彼女の正体をうすうす察していたとはいえ)裏返しなのかもしれませんが。

・高軌道ステーションで文字通り額に汗して懸命に働く沙慈。沙慈が作業してる数十メートル後ろでモビルアーマー?が宇宙空間に向かってくりかえし射撃している。たぶん向こうに見える星屑みたいなのがELSなんだろうな。結構危険なのねここ。そのころ脳量子波遮断施設で祈るように手を組むルイス。生きるために、周りの人を生かすために、皆がそれぞれの場所で自分にできることを一生懸命やっている姿が心に沁みます。

・目の前の丸い空間―ゲートに入ってゆきそのまま姿が消えるクアンタ。最初ELSが用意した異空間への入口(木星に突如出現し大勢のELSが現れた穴=ワームホールのような)なのかと思ったのですが、ゲートの周囲にクアンタの部品が固定されているのと、さっき刹那が何かシステムを立ち上げていたあたりからすると、これもクアンタの機能の一部なんでしょうね。
小説版によると「GNソードビットを機体前方に集めて、円形のフィールドを完成させる。そのフィールドは、ビームを防ぐためのものではなく、量子ジャンプを行うためのゲートだ。」とのこと。

・クアンタが消え、ゲートも消えた後にGN粒子が青白く輝く二つの輪になり波紋のように広がってゆく。この二つの輪は∞(無限大)のようにも英字のO(オー)を二つ並べたようにも見える。このシーンで気づきましたが、おそらく作品名であり刹那の機体名でもある00(ダブルオー)はGNドライブを二つ積んでいる=ツインドライブであることからの命名ではなく(というかそちらは後付け)、無限大の能力を秘めていることを示唆した名前だったのでしょうね。

・波紋の広がりを契機としてか、ELSがいっせいに戦闘も侵食もやめて一か所に集まってゆくのをパイロットスーツ姿のコーラサワーがぽかんと見ている。無事でよかったわ。不死身伝説は無事継続中だった。

・目の前の機械類がELSに呑まれつつあったイアンとリンダ、結晶化したELSがすぐ頭上に迫っていたマネキン、その後方奥の離れた場所に立って寄り添いあっているビリーとミーナ、みな侵食が突然止まったことに驚く。
ミーナが「ビリー、見て!」と驚きの声をあげ遠くを指さす。ビリーは「なんという現象だ」と息を呑み、マネキンもプトレマイオスのクルーもみな呆然。「これって・・・」「嘘だろ?」「これは・・・」。
すぐ後のシーンで彼らを驚かせた「現象」とはELSが花の姿になったことだとわかりますが、最後のフェルトだけは少し驚きのニュアンスが違う気がする。フェルトもこの後のマリナと同様その花が何の花なのか、なぜ和平の意思の象徴としてこの花が選ばれたかを察したからでしょうね。スメラギがフェルトの方を見てるから彼女もこの花の由来をわかっているのかも。

・大統領たちもアザディスタンの王宮に避難していた人たちも皆驚きに目を見張る中、バルコニーに立つマリナは穏やかな中に強さを感じさせる笑顔で「見えるわ刹那、あなたの思いが。そう、たったそれだけのことで、世界は一つになるのね」。
ここで青空にうっすら浮かぶ月に少し離れて黄金色の大きな花が咲いている姿が初めて映る。ずっと宇宙空間のシーンが続いていたので、久しぶりの青空が本当に晴れ晴れとしたハッピーエンドの空気を盛り上げます。
パンフレットの水島監督と脚本の黒田氏の対談によると「一輪の花はTVシリーズの時から、平和の象徴としてOPやEDを含め、平和や命を象徴するものとして繰り返し描いてきましたから」(監督)、「刹那の根源的な部分にエルスが触れた結果があの花なんです。戦場で花を踏みつけにするようなところからスタートした少年が、“花”の大切さを示す、というのがポイントかな、と。」(黒田氏)とのこと。

・宇宙空間から見たELSが集まった花の姿。少し向こうに月、さらにその先に地球。結局ELSはこの場所に定住したということでいいんでしょうか。太陽さえあれば惑星に依る必要はないのかな。
滅びに瀕した故郷を脱出してボートで流れ着いた難民に「上陸は認められません。でも我が国の領海内でボートのまま生活することは許します」と言ってるようなもんじゃないのかこれ。この場合難民の方がよほど強いのに、よく不利な条件で納得してくれたよなあ。
まあ生身(彼らにとっては)のまま宇宙空間を移動できるくらいだから、別に苦にならないのか。ここに定住と決まれば母星呼び寄せてもいいんだし(惑星なんて大きなものが丸ごと移動できるのかという疑問はありますが)。

・そしてELSが戦闘も侵食もやめ花の形に集まったのは刹那が巨大ELSの中に入り対話に成功した時点ではなく、刹那が量子ジャンプで彼らの母星へと旅だったあとだった。
つまりジャンプする距離は長くとも一瞬で刹那は母星ELSにたどり着き、ここでも対話を成功させ、その時点をもって地球人とELSの和平が結ばれたということなのか。巨大ELSと対話した段階で停戦くらいしてもいいと思うのだが。その数分?の間に死んだ人もいるだろうに。
そういえばクアンタムバーストが発動したにもかかわらず、セカンドシーズン終盤のトランザムバーストの時のように、この宙域の人間たちの心が繋がりあったような気配はない。巨大ELSの中が閉ざされた空間だったということか、クアンタムバーストはトランザムバーストに比べ(より威力は強力になってるんだろうが)指向性が強くてELSに対してのみ対話のチャネルが開かれたということなんだろうか。

・サバーニャのコクピットから出てきたロックオン(とハロたち)が驚いた顔で、アレルヤとマリーは抱き合いながら笑顔で、中央のおしべ?から脳量子波を放っている金色の花を見つめる。
スメラギやフェルトも笑顔、大統領やマネキンは厳しい表情から泣き出しそうな笑顔に変わる。この時点でまだマネキンはコーラサワーの生存を知らないんじゃないかな。
そして変わらず穏やかな笑顔のマリナの姿を最後にエンディングが流れる。ここで映画が終わったと勘違いした人も多かったのでは。一応物語に決着はついてるし。


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『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazar-』(3)-9(注・ネタバレしてます)

2024-11-08 07:20:37 | ガンダム00

・苦戦の続く連邦軍。それでも冷静かつ迅速に指揮をとり続けるマネキンが、通信の着信音に「パトリック!」と声音が変わる。珍しく動揺が明らかで彼女がなんだかんだ言ってコーラサワーを愛しているのを感じます。
「いやあ、ドジりました。幸せすぎて不死身じゃなくなっちゃったみたいです」と困ったような笑顔で頭をかくポーズのコーラサワー。「死んでも帰るんだよ。大佐の元に!」と言ってた彼が死を覚悟するんだからいよいよやばいんだろうと思ったら案の定コクピットにはすでにELSが入り込んでるのが見える。
「今すぐ脱出しろ!」と当然マネキンは指示するが、やはり困ったような笑顔で「それが、無理なんです」といううちにもどんどん侵食度が上がってゆく。すでに脱出しようにもハッチが開かないんでしょうね・・・。

・「でも、ただでは死にませんよ」と明るく不敵な笑顔に変わる。「こいつだけでも道連れにして!」と明るい調子で叫ぶコーラサワー。ここで外からの視点に変わり、コーラサワーのMSがMS型のELSと組み合ってるのがわかる。
そしてコーラサワーの機体が赤く光る。トランザムで限界点を超えて自爆するつもりなのが明らかで、マネキンが目をつむり顔を背ける。一連の二人のやりとりは、この変則的な夫婦の深い愛情と信頼を感じてとても好きなシーンです。

・「うわあああー!」と覚悟の叫びをあげたコーラサワーだが、自爆しようとしたタイミングで遠くから粒子ビームが飛来してELSを撃ち抜き爆発、その勢いで開いたハッチからコーラサワーは投げ出され、間抜けな叫び声とともに飛ばされてゆく。不死身伝説ふたたび。やっぱりコーラサワーはこうでないと。
そのあとロックオンの戦闘シーンが映るのでコーラサワーを救ったのは彼か?と思いかけたが「来たか!」と振り向きざまに言うロックオン、続いて画面に映るハルート内でハレルヤが「遅えんだよ!」と嬉しそうに不敵な笑顔で叫んでいるので、やっぱり刹那のクアンタですね。モビルスーツモードで戦っていたグラハムも「待ちかねたぞ、少年ー!」と嬉しそうな笑顔でアップで叫んでいる。まさに真打登場の趣き。

・いつものクールな表情で飛んで行く刹那。目の前に浮かぶティエリアが「対話のために、ELSの中枢に向かう必要がある」という。会話が共有されているのか「俺に任せな!」と頼もしくロックオンの声が割り込んでくる。
クアンタの背後からあらわれたサバーニャが派手に盾を展開。両手に銃を構え、「行くぜ、ハロ!」と声をかけ二体のハロが「了解了解」と羽をぱたぱたさせて答える。
ロックオンはモニター状で複数の標的に狙いをつけ「乱れ撃つぜー!」の声とともに派手に撃ちまくる。ビームの数もELSが爆発する火球の数も多数。迫力ある戦闘。先の見えない戦いに力が尽きかけているように見えたロックオンとサバーニャの完全復活シーン。

・その後ろを飛んで行く飛行形態のハルート。「いいか、反射と思考の融合だあ!」悪い笑顔で叫ぶハレルヤは一瞬後に真顔で「わかっている」とこたえる。ハレルヤとアレルヤが激しく入れ替わっているというか共闘しているのはわかるんだが、忙しいなあと思わず笑ってしまう。
マリーも真顔で「了解!」と答える。次の瞬間モニターの「HARUTE」の文字が「MARUT」に変わり赤く発光する。「行くぜええー!」とのハレルヤの叫びとともに今度はマルート・モードに入ったハルートの無双シーン。
MSの姿に変わったハルートが、大量のミサイルを飛ばしながら戦場を駆け抜け次々ELSを屠っていく。その爆発の眩しさに巡洋艦内の人?が目を覆うほど。
「これが超兵の力だ!」「ちがう、未来を切り開く力だ!」とハレルヤとアレルヤ。ハレルヤとアレルヤ、マリーも加わった超兵三人の圧倒的な強さに魅了されます。

・ハルートの圧倒的な攻撃と、防壁を展開しつつ攻撃を加えるサバーニャ。巨大ELSの前面にELSがほぼいなくなったのを見てロックオンが「刹那!」と叫ぶ。
刹那が前に出て巨大ELSに向かっていこうとするが脳量子波の波動を受けて呻く。ティエリアが「刹那!」と声をかける。ELSからの攻撃に対し防壁を出して防ぎながら、「俺は戦うために来たわけでは・・・」と釈明しようとする刹那。あきらかに仲間とわかる連中がELSを撃ちまくってる状況で言っても、とちょっとツっこみたくなりました。

・そこへ無数のビームを撃ち刹那周囲のELSを倒しながら現れたのはグラハム。「何を躊躇している!生きるために戦えといったのは君のはずだ!」「たとえ矛盾をはらんでも存在し続ける!それが生きることだと!」
グラハムの言葉にうなる刹那。右足に被弾しながらも敵に向かっていくグラハム。この二人ががっつり共闘する日が来るとはなあ。
グラハムはトランザムモードになって巨大ELSに向かっていく。他にも数機トランザム状態でELSに向かっていく機体があるのはソル・ブレイヴス隊のみなさんだろうか。

・「行け、少年!生きて未来を切り開け!」刹那は決意したように巨大ELSに向かって突っ込んでゆく。火星周辺での戦闘の時もそうでしたが、最後に駆け付けて刹那のピンチを救うのはグラハムなんですよね。
グラハムはこの後もう一度、最後の最後でも刹那を救い、彼の背中を押す役割を果たします。

・スメラギは「頼むわね、刹那、ティエリア」と呟いたあと、ミレイナに汚染状況を確認する。「15%!」 やはりプトレマイオスも無傷ではすんでないか。
プトレマイオスは援護のためか緑に発光しながら光線ビームを撃ち続けている。「連邦艦隊の損失55%!」とフェルトの報告が入ったところでその連邦から通信が入る。
「クジョウ」と呼びかけたのはマネキン。「カティ、もう少しだけ持ちこたえて」というスメラギに「勝機があるというのか?」とマネキンは驚きの声をあげる。「いいえ、ないわ」「何だと?!」「でも、希望はある!」
この言葉にマネキンは押し黙る。彼女は何のために通信してきたんだろ。人類を救えなかった残念だ的なお別れでも言うつもりだったのだろうか。勝機はないが希望はあるというのも戦術予報士にあるまじきいいかげんな言いぐさだが、確かなことが言える状況でもないですしね。

・左腕を失ったサバーニャはそれでもあきらめずトランザムモードに。再び多数の目標に向けて花火のように乱れ撃つロックオン。アレルヤはMS型のELSに取りつかれかけていたMSを見て助けに向かう。
もう間に合わないというハレルヤにそれでも行くさと答えるアレルヤ。アレルヤがELSを攻撃したおかげでパイロットは身一つで宇宙に投げ出されひとまず命拾い。「てめえの行為は偽善だ!」「それでも善だ!ぼくはもう命を見捨てたりしない!」
ファーストシーズンでもソレスタルビーイングとして初めて武力介入でない純粋な人助けをしたのはアレルヤでしたね。彼らもまたトランザムで巨大ELSに向かっていく。

・また脳量子波をくらいたじろぐ刹那をティエリアが叱咤。トランザムでELSの中枢へ侵入するという刹那を、トランザムは対話のための切り札だとティエリアが止める。
しかし相手の攻撃をかわすのが精一杯、防戦一方の状況に焦れた刹那はついにトランザム。ティエリアが叱るが巨大なビームをクアンタは放出し、ビームを剣のようにして「このまま表面を切り裂く!」と宣言、超巨大な球体ELSの体表に斬りつける。
メメントモリ攻略戦(2回目)でもダブルオーライザーのビームを巨大剣のようにして攻撃していた。今回は映画「ソレスタルビーイング」のライザーソードを地で行くような。しかしまさに未来を切り開くための大技、という感じなのに完全には成功しないのもメメントモリの時と同じなんですよね・・・。

・クアンタのビームソードは超巨大ELSを途中まで切り裂きかけるが、剣が表面を上っ滑りし、表面に大き目の亀裂を作るに留まる。これはELSが攻撃を受け流したためだった様子。
刹那とティエリアがともに愕然としかけたところに「少年!」の声が響く。再びグラハム・エーカー。ELSにコクピットまで侵食され、さらにMS形態のELSにのしかかられながら、グラハムの機体は赤い彗星のようにその亀裂にまっすぐに向かっていく。
「未来への水先案内人は、このグラハム・エーカーが引き受けた!」。格好いいなあグラハム。

・「これは死ではない!人類が生きるための・・・!」と叫びながら疑似太陽炉を臨界突破させるグラハム。そしてまさに閉じようとしていた亀裂の隙間に飛び込み、一瞬後に超巨大ELSの内側表面近くが爆発を起こす。
「あの男・・・」とつぶやく刹那。いいシーンなのに思わず笑っちゃいました。グラハムもずっと「少年」呼びだったけど、「あの男」はひどいだろう(笑)。
まあグラハムが刹那を名前呼びしても違和感あるように、刹那がグラハムをここでいきなり名前で呼んでもそれはそれで変な感じですが。

・「刹那!」とティエリアに促されて爆炎の跡を見るとグラハムが飛び込んだ箇所に綺麗に侵入口程度の穴が開いている。「突入する!」とクアンタは穴の中へと潜入。
内部は赤っぽい空間が続く。ELSは金属異性体で飛び交うファングのような小型ELSも、MSや巡洋艦に擬態したELSもみな銀色をしていた。なのに超巨大ELSの内部は色も形も金属っぽくない。まあ人間だって表皮の色と体内の色は違いますけど。

・フェルトはクアンタが超巨大ELS内部に突入したことを報告。艦の汚染状況は44%を超える。その時振動が艦を揺るがす。GNフィールド再展開不能に。
「総員、退艦準備をして」と沈んだ声でいうスメラギにフェルトが「いやです!」と即座に反発する。「クリスの時のように、またのけものにする気ですか?」「今度こそ、全員で生き残るんです!」
これだと自分だけでなく他のメンバーも艦長であるスメラギを残して退艦するのは認めないという言い回し。フェルト自身のことはともかくまだ十代だろうミレイナまで残らせるのはいかがなものか。と思ったらミレイナ自身が「ミレイナも残るです!」と意志表明。
スメラギも含め一人残らず退艦、全員で助かるという選択肢はないのかなあ。実際ここで退艦しなかったためにサブブリッジのイアンとリンダはELSに飲み込まれる寸前までいったし。確かに艦を捨てたから生き残れるとは限らないけれど。

・若い二人の言葉にスメラギは正面を向く。ラッセも不敵に笑ってみせる。「そうだ、あきらめるのはまだ早い!」「最後の最後まで信じましょう!」男女の声がするのはイアンとリンダ。「その通り!」と答えたのはロックオン。
「俺たちは、ソレスタルビーイング!」力強く叫びつつ戦うロックオン。アレルヤ「切り開くんだ」マリー「未来を!」ハレルヤ「明日を!」。なんとハレルヤがまともな台詞を。なにやら感慨深いものがあります。
彼らの言葉を受けてスメラギは「そうね、信じるわ、刹那を」。結局退艦しようがしまいが、できることは自分たちの身を守りながら刹那がELSと対話を成功させるまで生き延びることだけなんですよね。

・ELS内部のクアンタは青や赤の光の奔流のような空間を進んでゆく。一方連邦軍は「汚染状況70%と少しです!」報告したそばから連邦軍の旗艦のモニターが結晶化したELSに破壊され、ついに司令室にELS侵食。
叫び声をあげる軍人たち。マネキンも思わず立ち上がる。もうほとんど詰んでますね。

・さらに侵入しつづける刹那は「あれだ!」というティエリアの声に目の前の巨大なピンクの球体を見つめる。「これがELSの中枢・・・」中枢から丸っこい小さめの球体(クラゲっぽい感じ)がいくつか近寄ってくるが攻撃の意思は見られない。
「我々を迎え入れるのか」と呟くティエリア。実際クアンタが巨大ELSの内部に入ってから一切攻撃がない。刹那が斬りつけ巨大ELS表面の傷が閉じたスピードを思えば、グラハムが開けた穴だってその気になればすぐ修復してそのまま刹那たちを飲み込むこともできたでしょうがそれをしていない。外での攻防の激しさ、人間側の追い詰められっぷりとの落差がすごい。
彼らが戦いのためではなく対話のために来たというのが(表面切り裂いたり穴開けたりしたにもかかわらず)伝わったということでしょうか。

・刹那はクアンタムシステムを作動。「クアンタムバースト!」の声とともに機体が緑色に発光。刹那「これがラストミッション!」ティエリア「人類の存亡をかけた、対話の始まり!」。
ELSの側も中枢部分がラッパのように膨らんで光を放つ。流れ出す大量の情報。そこに「わかりたい、わかりあいたい」というマリナの声と王宮にいる彼女の姿が重なる。
人類の命運を決するのは戦いではなく話し合い。せっかく映画仕様の新しい機体が出たのにほとんど戦闘せず意思疎通のために機体が光ったり脳量子波のやりとりだったり。大きなスクリーンで格好いい戦闘場面を見たかったという観客的には不満が多かったろうことは想像に難くない。
そうした不満が寄せられることは覚悟のうえで監督他制作陣が(その分刹那以外の戦闘シーンを充実させることでバランスを取りながら)〈相互理解による終戦〉を描ききった心意気に痺れます。


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『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazar-』(3)ー8(注・ネタバレしてます)

2024-10-31 20:54:23 | ガンダム00

・一方の戦場。「数で圧倒される!」とアレルヤ。「あきらめるかよー!」と叫ぶロックオン。これだけでも頑張っても味方が不利なのがわかります。
ELSが防衛線を次々突破してゆくなか、プトレマイオスクルーの表情も険しい。マネキンも艦隊の損失が30%と聞いて苦し気に顔をゆがめる。同じ報告が聞こえていたらしくビリーが「この短時間でそんなに」と驚きの声をあげる。
そのとき艦に衝撃が走りビリーとミーナがややバランスを崩す。よろめくミーナを支えるビリー。ちょっとカップル感があります。

・「どうした!」問いただすマネキン。「大型砲塔がELSに汚染されました!」最大の武器が無効化。いやもっと悪い状態に。
「汚染区画を破壊しろ!拡大を防げ!」と動揺の色を隠して指示を出す。部下が「虎の子の兵器が」と悔し気ながらパージを実行しようとする。いよいよピンチが加速しています。

・そしてついに「ELS、絶対防衛線を突破!」この報告にマネキンが再び顔を悔し気にゆがめる。ここでボーカル付の歌がBGMで流れる。いよいよ悲愴感が加わります。
「行かせるかあー!」と叫んでELSに向かっていくアンドレイ。大き目のELSを実体剣で十字に斬りつけるがその剣から侵食されてしまう。それでも「私は市民を守る、連邦の軍人だー!」との叫びとともにトランザムシステムを限界まで稼働させ中規模ELSを道連れに自爆。
その脳裏に寄り添って立つ両親の姿が浮かぶ。両親が守ろうとしたものを自分も守るという戦闘開始時の意思を見事に貫きましたね。

・刹那の意識は故郷の大地に立って、ファーストシーズンの頃の外見で不毛の地に一輪のみ咲いている花を見つめている。これはかつてフェルトからもらったのと同じ花。
彼は当時あの花を思いのほか大切にし、ダブルオーのコクピットにも持ち込んでいた(そのせいで機体が損傷したさいに失われてしまったのだが)。これから戦場に向かおうという彼にとっては平和の、自分が守りたいものの象徴だったのでしょうね。
こうして花の咲く場所に意識が移動していることから刹那にとってあの花が今も重要なシンボルとなっているのがわかります。

・空を見上げた刹那は次の瞬間現在の刹那の年齢になってアザディスタン王宮の避難所に立っている。避難民の間をオートマトンのような機械が行き来しているのだが、いまやオートマトンが平和利用されてるのだろうか?形が似てるだけの別物?

・シーリンが避難民に水を配り、マリナが小さな女の子から地元の花(さっき刹那が見ていたのと同じ花)をもらい笑顔で香りをかいでいる。それを不思議そうに刹那は見つめる。
ここでマリナとあの花を結びつける描写が出てくるのは、クライマックスに向けて〈ELSがあの花の形になったのは刹那がフェルトを想っている証〉という観客の誤解を防ぐ意味だったのかなと思います。“フェルトが”くれた事が重要なのではなく、人が人を大切に想う気持ちの象徴(少女がマリナに花をあげたのも少女のマリナへの好意の印だろう)だよという制作側からのメッセージかと。

・いきなり宇宙の高軌道ステーション上に意識が飛び、作業車から決然とした表情で降り立つ沙慈の姿。こんな形ですが彼は本来望んだ宇宙での仕事に戻ってきたわけですね。

・脳量子波遮断施設で一人物思わし気に座るルイスを遠くから見守る刹那。宇宙空間で苦戦中の仲間たち。何も手を出せず哀しげに見守るしかできない刹那。
回りが暗転し、「なあにしてるんすか」と声がする。振り向いてかすかに、ほっとしたように微笑む刹那。ちょっと怒った顔のリヒティが「みんなまだ必死に生きてるんすよ」といい、隣にやはり怒り顔のクリスが現れ、「世界を変えようとしてる」という。ついで眼帯のロックオン(ニール)が現れ「言ったはずだぜ刹那。おまえは変わるんだ。変われなかった俺の代わりに」と告げる。次第に遠ざかりぼやけてゆく三人の姿に手を伸ばそうとした刹那のまえに六角形のケースに入った花(かつてフェルトにもらった花そのもの)が現れる。
ここで登場した三人の仲間はファーストシーズンで命を落とした。セカンドシーズンでは仲間は誰も死ななかったが(ティエリアは肉体的には死んだが彼に取って肉体の死は死ではない)、大切にしていた花は失われた。
今度こそどんな命も取りこぼさない。「生きている、そうだ、おまえはまだ、生きているんだ」というロックオンの声に刹那が意を決した顔になるのはそうした思いを新たにしたゆえではないでしょうか。

・涙を流しながら刹那の手を握りしめていたフェルトはその手がふいに動きこぶしを握りしめたのにはっとする。目を開けた刹那を見てフェルトは「刹那!」と叫びながら彼に抱きつく。
回りに飛んでいる光る水滴が何かと思ったらフェルトの涙が無重力(軽重力?)状態であたりに浮いてたんですね。綺麗な演出。
フェルトの肩を刹那が軽く抱き寄せる。恋愛的な意味ではなくとも、彼を想い続けたフェルトがちょっと報われた感があります。

・「ダブルオークアンタで出る」という刹那に、ずっと不安気な表情だったスメラギは数瞬あってきりっとした表情に代わり「お願い」と言う。
ついさっきまで意識不明だった刹那に起きて早々戦わせることへの葛藤がありつつも彼が最後の頼みだという思い、刹那が出ていかなければ刹那自身も含めソレスタルビーイングの仲間も人類も死んでしまうとの思いから決意を固めたのが、この短い無言の表情変化から読み取れます。

・スメラギの了承を得てクアンタに向かう刹那のあとを涙を拭いながらついてゆくフェルトが画面に映りこむ。彼女の哀しげな表情はやはり目覚めて早々刹那が戦うことへの不安とそれでも彼を止められない止めるわけにいかないことの哀しさがあるのでしょう。

・ティエリアの意識データをクアンタのターミナルユニットに転送したことを告げるミレイナ。ティエリアの映像が出て「感謝する、ミレイナ」と告げる。ミレイナは唐突に意を決した様子で「アーデさん、ミレイナはアーデさんがどんな姿になろうとも、アーデさんが大好きです!」とまさかの告白。
最初に「アーデさん」と呼ばれた時点でティエリアがちょっと驚いたように瞬きしている。実体ではなくデータの状態なのに表情が豊かです。
このタイミングでミレイナが告白したのは、ミレイナ自身も生き残れるかわからないから今言わなくちゃという思いに加えて、刹那が目覚めたのはフェルトがずっとそばで付き添って祈り続けたのが通じたからだと(恋愛脳のフェルトらしく)想像したがゆえに、フェルトの愛が刹那を救ったように自分の愛で今から刹那とともに死地に向かうティエリアを守るんだという気持ちがあったんじゃないかな。

・「アーデさんが大好きです!」のあたりでは画面がクアンタがいる格納庫に移っていて、最終調整中だったイアンが「何だとお!?」と大声をあげる。これ相手がティエリア(イノベイドというのみならず今や実体さえない存在)だからではなく、誰であっても娘の想い人ならこの反応なんでしょうね。
隣のリンダは対照的に「あらあら、よかったわねえ、素敵な彼氏ができて」とにこにこ顔。こんな時だけにちょっとほっとする一幕。
イアンが「リンダ!」と叫んだあとに「笑いごっちゃないだろ」と文句をいうのは顔の向き的にクアンタに乗り込もうとしている刹那に対してですね。刹那も口元がちょっと笑ってるので。

・刹那がクアンタのシステムを立ち上げるとティエリアのミニ版が立体映像(全身図)で現れる。腕組みなんかしてるのがティエリアらしいというか。

・「すみませんでした!」と声をかけてブリッジに戻ってきたフェルトに「ここはいい、刹那のところに戻れよ」と優しい声音でいうラッセ。
刹那のところといっても刹那についてクアンタに乗れという意味ではなく(乗る場所もないだろうし)、発進する瞬間までそばで見送れという意味だろうか。「行け」でなく「戻れ」というのも、刹那のそばがフェルトの居場所と言いたげな優しさを感じます。
ラッセの中では二人は相思相愛になったのかな。そして大事な戦力のはずのフェルトがブリッジにいなくていいというのは、ここからはもう刹那次第で、プトレマイオスにできることはほとんどないという意味なのかもしれません。

・ラッセの言葉に「・・・大きいから。あの人の愛は大きすぎるから。私はあの人を想っているから。それでいいの」。半分独り言のように言ったあとで、フェルトはラッセたちの方を見て微笑む。これはフェルトが刹那への恋を諦める―彼から女として愛される可能性を諦めるという一種の失恋宣言ですね。
意識不明の刹那の手を握りつづけ、意識を取り戻した彼に抱きついたら肩を抱き寄せられたという、一般的には両想いになったとも見えるシーンのあとになぜ?と思える台詞ですが、「あの人の愛は大きすぎる」─グラハムが言っていたように「人と人とがわかりあえる道を模索しつづけ、ELSにすらそれを行おうとする」刹那の博愛的態度に、彼の愛情は一人の女に向けられるものではなく全人類、異星人にすら注がれる神の愛にも似たものだと悟ったということでしょう。
ただ「私はあの人を想っているから。それでいいの」という言葉が示すように、フェルトは嘆いてはいない。むしろそれほどに大きな愛を抱きうる素晴らしい人物に出会い愛したことを、誇りであり幸せだと感じているんじゃないでしょうか。

・この時スメラギが何か思うところがあるような表情でフェルトを見ている。フェルトの台詞が以前自分が「彼のことを、想ってあげて」と言ったのを受けてのものと気づいて、〈彼のことを想っているだけで幸せ〉だという境地にフェルトが辿り着いたと察したのでは。

・スメラギがミレイナの「ELSが再び防衛線を突破!サバーニャ、ハルート、交戦中です!」との言葉に表情を引き締める。フェルトもすっかり仕事モードの顔になってクアンタの射出準備を進める。
けれど刹那の顔がモニターに映り、「了解した」と一言告げたとき、フェルトの表情が一瞬切なげに揺れる。直後の淋し気な微笑も含め、悟ったつもりでも悟り切れない微かな躊躇いが切ない場面です。

・「ダブルオークアンタ、刹那・F・セイエイ、出る!」いつもの発進シークエンスですが、初のクアンタ発進シーンだけに、そして00シリーズ最後の出撃シーンだけに特別丁寧に描いている印象です。
赤と緑系の光をまといながらダブルオーが宇宙に飛び出してゆく。視覚的にも美しいシーン。

 


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