ソーマ・ピーリス(マリー・パーファシー)
人革連の超兵第一号の少女。人間離れした反射能力に裏打ちされた高い戦闘力を誇り、登場当初は戦闘マシンのような無機質な厳しい表情と態度が印象的だった。一方で外見的には華奢で顔立ちも幼く、14、5歳としか見えない。スミルノフ大佐が「乙女」と評するのも無理からぬところ。
14、5歳で正規に軍隊に所属できるのかという疑問は超兵だから例外と解釈するとしても、セカンドシーズンの回想シーンを見るかぎり、彼女はアレルヤと同年配に見える。アレルヤがファーストシーズン時点で19~20歳(超人機関破壊ミッションの直後に20歳を迎えた)なのは確定なので、実はピーリスもああ見えて20歳前後なのか?
彼女はアレルヤと出会った頃、脳をいじられた関係で全くの寝たきりになっていたから、その分骨格の成長が遅れたとかあるのかも。
そんな彼女も4年を経たセカンドシーズンでは大分大人っぽくなった。第一話の私服のシーンなどは雰囲気も柔らかく、マリーと差を感じないほどだ。これは4年間ガンダムが現れなかったこともあり軍人ながらも比較的平穏な時間が続いていたこと、セルゲイ・スミルノフ大佐が一緒にいたというのも大きいのだろうが。
実際マリー・パーファシーとしての記憶も失い超兵として戦うことだけが全てだったピーリスが人間らしく変わっていったのは上司として父親代わりとして親身に世話をしてくれたスミルノフ大佐(ファーストシーズンでは中佐)によるところ大である。
ピーリスは超兵である自分が人間らしい幸せを求めていいのかという葛藤を抱えつつも、大佐の養女になるという話を受けようとしていた。それだけスミルノフ大佐に対する愛着が強く、彼との関わりの中で生まれた人間らしい感情を大事にしたいという気持ちもあったのだと思う。
ピーリスはアレルヤにフルネーム(マリー・パーファシー)を呼ばれたのをきっかけにマリーとしての記憶と人格を思いだすが、それも大佐との交流を通して人間らしい情緒がピーリスの中に育っていた、本来のマリーの人格に近づきつつあったからかもしれない。
マリーはピーリスとしての記憶も愛情もそのまま継承していたし、大佐の死のショックで再びピーリスが表に出てきた時、ピーリスは(主にアレルヤに対して)厳しい態度を取りながらもプトレマイオス2から脱走しようとはせず(これは彼らと共に行動した方が大佐の仇であるアンドレイ・スミルノフ少尉と戦える確率が上がるからというのもあるだろうが)、最終的にはかつての敵だったガンダムマイスターたちと共闘することもマリーと呼ばれることも受け入れた。
マリーがピーリスの感情を共有しているように、ピーリスの側もマリーの記憶と感情を共有しているがゆえに、マリーがアレルヤに抱く愛情や他クルーへの友愛も我が事のように理解しているのだろう。人格は異なっていても体だけでなく記憶も共有する彼女たちは、アレルヤとハレルヤの関係に近いものがある。
アレルヤハレルヤのように会話したり同時に表に出たりという場面はないが、劇場版だとハルートで戦っているときの彼女の言動は、マリーのようでもピーリスのようでもある。
マリーからピーリスに人格が切り替わるシーンがないのでマリーのままなのだろうが、アレルヤも戦闘時は彼女を「ピーリス」と呼んでいたりする。超兵としての名前を呼ぶ、呼ばれることで気持ちを戦士モードに切り替えているのかと思うが、ファーストシーズン最終戦及びセカンドシーズンのヴェーダ奪還作戦からの最終決戦時のアレルヤたちのように、マリーとピーリス二つの人格が同時に表に出ているもしくは融合しているのかもしれない。
かつてハレルヤはピーリスに〈脳量子波で得た超反射能力の速度域に思考が追いついていない、反射と思考の融合こそが超兵のあるべき姿〉と言い放ったが、劇場版の彼女は「反射」のピーリスと「思考」のマリーが一体となったことで、「超兵のあるべき姿」にたどり着いたのではないか。
脳をいじくりまわされた結果もう一つの人格が期せずして生まれてしまったアレルヤと、実験のせいで切れてしまった脳と身体の連係を繋ぎ直すため別の人格を植え付けたマリー。意図的が否かの違いはあれど、反射と思考を二つの人格で分担することが超兵が真の力を発揮するためのベストな形なのかもしれない。
とはいえ何で別人格を植え付けると脳と身体の接続が復活するのかはよくわからないんだが。
フェルト・グレイス
プトレマイオスの戦況オペレーター。ファーストシーズンでは外見も立ち居振る舞いもごく幼く(片言のようなぽつぽつとした喋り方、口数の少なさ、表情の乏しさなどは幼いというより、感情の出力に難があるようにも思える)、こんな子供が秘密組織の一員(しかも後方担当ではない)なのかと驚いたものだった。
彼女自身がロックオンに〈両親は第二世代のガンダムマイスターだった〉と語るシーンでその理由がわかったが。両親ともソレスタルビーイングの人間でいわば職場結婚、ソレスタルビーイングの中で生まれたフェルトはそのまま自然に組織の一員となった、ということだろう。
ただこれってどんなものか。仮にフェルトがソレスタルビーイングに入らず一般人の少女として生きたいと願ったとしても、それを選択できる手段がほとんどない。
ソレスタルビーイングに参加した人間はその時点で社会的には死んだか行方不明かという扱いになっていると思われる。その子供が一般社会で生きようとしても戸籍(にあたるもの)がないし、戸籍がない理由を説明することもできない。
ヴェーダなら偽の身元を作ることは容易いだろうが、そもそも構成員に重い守秘義務を課すソレスタルビーイングがメンバーの一般社会復帰を認めるはずもない。
仮に両親がフェルトには普通の子供として生きてほしいと願ったとしても、物心つく前に(ソレスタルビーイングについての記憶が一切ない状態のうちに)児童保護施設の前にこっそり捨ててくるくらいしか方法はなかったろう。その場合フェルトは孤児となってしまうし、彼女の意志でソレスタルビーイングに所属するか否かを選べなかったことに違いはない。
セカンドシーズンで刹那はカタロンの基地に保護されている孤児たちを見たとき、「まさかカタロンの構成員として育てているのか?」と誤解し怒りを露わにしたが(これについてはシーリンがすぐに〈一時保護しているだけで戦闘員として教育・利用する意図はない〉と釈明している)、フェルトやミレイナの置かれた状況も似たようなものだ。
彼女たちは秘密組織に所属する両親から生まれ、善悪の区別もつかぬ年頃から秘密組織の一員としてその理念を刷り込まれ、ほぼ前線と言っていいプトレマイオスのオペレーターとしてごく若い少女のうちから命の危険もある任務についているのだから。
ただおそらくだが、こうした〈望んでソレスタルビーイングに参加したわけではない人間〉は基本的に危険の少ない後方勤務に回すようになっているのではないか。
ソレスタルビーイングの構成員は何かしらの才能をヴェーダやスカウト担当に認められて所属を決めた人間がほとんどと思われる。組織の役に立つ能力を確実に備えている彼らと違って、望んで参加したわけでない人間は何か秀でた能力を持っているとは限らない(構成員の子供の場合、その気があれば幼い頃から組織の業務に触れることで一種の英才教育効果はあるかもしれない。父を手伝う中で機体のメンテナンスも立派に行えるようになったミレイナのように)。
組織のことを知った以上一般社会に戻すわけにはいかないので、なるべく危険のない場所であたりさわりのない業務に当てるというのがありそうな話だろう。つまり前線といってもいい実働部隊の母艦に搭乗しているフェルトは、自分から志願してオペレーターの道を選んだ可能性があるということだ。
ヴェーダがハッキングされていることが判明しスメラギの指示でクリスとともにヴェーダから独立した予備システムを構築した際は、彼女たちの作業の速さがぎりぎりマイスターたちの命を救うことになったわけで、このエピソードからすればフェルトはオペレーターとして相当優秀といっていいだろう。
またガンダム鹵獲作戦の時、一時パニック状態に陥ったクリスに「生き残る!全員、生き残るの」と喝を入れた場面など見ると、度胸の座り方も大したものだ。この時も、その少し前にロックオンに「生き残れよ」と声をかけられた時も、意志の強さを感じさせる凛々しい表情を見せていて、感情が乏しい、精神的に未成熟と思えたフェルトの意外な芯の強さをうかがわせる。
同時に「生き残る!」という台詞がロックオンに言われた言葉を反復したものであることに、ロックオンの彼女に対する影響力もまた見て取れる。
フェルトがファーストシーズン中盤からセカンドシーズン中盤にかけてロックオン=ニール・ディランディに好意を抱いていたことは誰の目にも明らかだが、彼女がロックオンに惹かれたのは「生き残れよ」という台詞のちょっと前、泣いているところを見られたのを機に両親のことを打ち明け「君は強い女の子だ」と励まされたのがきっかけだと思われる。
そんなフェルトはセカンドシーズンの後半では刹那に心惹かれるようになるが、こちらのきっかけは何だったのだろう。
ロックオンに生き写しの双子の弟ライルが二代目ロックオンとして仲間に加わったとき、フェルトの目はずっと彼を追っていた。しばらく後にアレルヤがマリー(ソーマ・ピーリス)をプトレマイオス2に連れてきた時フェルトは彼女に〈仲間の仇〉として(ピーリスとマリーは別の人格とわかっていても)怒りをぶつけてしまうが、その際も失った仲間の名前の中で一番力を込めたのは「ロックオン・ストラトス」だった。
この頃までは亡くなって4年を経てなおフェルトの〈一番〉はロックオンだったのだ。それがいつから刹那に恋愛感情を抱くようになったのか。
セカンドシーズンのわりと早い時期に、捕虜になっていたアレルヤともども救出したマリナがしばらくプトレマイオス2に身を寄せていた時も、特にマリナに嫉妬している風はなかった。
一方でロックオン=ライル・ディランディがヴェーダ奪還のためのイノベイター(イノベイド)捕獲作戦のため出撃する際に、通信で堂々と操舵士のアニュー・リターナーに「愛してるよ」と発言し二人が恋仲とは知らなかったブリッジの面々をざわつかせた時には、「おめでとうございます」とアニューに対し何のこだわりもない笑顔を向けている。
ニールではないとわかっていてもライルを目で追ってしまっていた彼女が、ライルの〈荒療治〉が効いたのか、この時点では完全に彼への想いをふっきっているように見える。ただそれはニールへの想いを過去のものにできたのか単にニールとライルを切り離して見られるようになった結果なのかは判然としないのだが。
フェルトの刹那に対する想いが初めてはっきりと描かれるのはリンダから白い花をもらい、それが中東で咲く花と聞いて中東出身の刹那をふと思い浮かべる場面だ。中東の花から中東出身の仲間を連想すること自体は全く自然なことだが、刹那を連想した事実になぜかフェルトは動揺してしまう。
フェルトはこの時初めて刹那を意識している自分に気がついた。ただいつから何をきっかけに意識するようになったのかはわからないままだ。
ただ刹那はこの頃純粋種のイノベイターとして目覚めつつあり、心身とも変革期を迎えていた。いつまでも出会った頃の少年然とした刹那のままではない、そんな彼の変化を見るなかで刹那に対する認識も変わっていったのかもしれない。
誰にも優しく頼もしく愛想も良かったロックオンと違い、刹那は自分の感情を表すのが下手で言葉も足りない。ロックオンとは全くタイプが違う。むしろあまり感情を出さず無口という点ではファーストシーズンの頃のフェルトに似ていると言えるかもしれない。
そんな刹那に対するフェルトのスタンスは、ロックオンに対していたときのような少し甘えた感じではなく、常に彼を案じ、彼を支えたい役に立ちたいと思っているように見える。
フェルトの想いはロックオンの時も刹那の時も実ることがなかったが(二人ともフェルトに仲間としての好意は持っていても恋愛感情はなかったろう)、二つの恋を通じてフェルトは人として女性として大きく成長した。その意味で彼女の恋は報われたといってもいいように思うのである。
スメラギ・李・ノリエガ
ソレスタルビーイングの戦術予報士で、実質的にプトレマイオスの艦長も兼ねる。ガンダムマイスター4人も含めたプトレマイオスクルーのリーダー的存在。
カティ・マネキン曰く「大胆さと繊細さを合わせ持つ」戦術を得意とする才媛だが、マネキンのような如何にも司令官といったタイプではなく(もう軍人ではないから当たり前かもしれないが)、気さくで色っぽい(といっても服の露出度を別にすれば意図的に色気を振りまいてる感はない)お姉さんで、過去の過ちへの自責の念から来る精神的な脆さを露呈することも多々あり、リーダーとしては大分不安定でちょっと心配になるところはある。
その分かりやすい例が彼女の酒癖で、職務中に飲んでいることも珍しくない。
ロックオン(ニール)は「ミス・スメラギはその過去を払拭するために戦うことを選んだ。折れそうになる心を酒で薄めながらな」と彼女の酒癖に理解を示していたが、戦いを憎むがゆえに武力による戦争根絶を行うという矛盾にメンバーはみんな心の痛みといずれ裁きを受ける覚悟を抱え耐えている中、絶大なストレスをかろうじて酒で紛らわしている、酒に逃げることで使命から逃げずにいるスメラギが最も危うさを感じさせるのは間違いないだろう。
ファーストシーズンの最終回から4年後を描いたセカンドシーズンの冒頭部では、スメラギはソレスタルビーイングを離れ旧友のビリー・カタギリの元に居候しつつ自堕落に飲んだくれる日々を送っている。
スメラギがついに使命を放棄して酒に逃げっぱなしになってしまった理由は多くの仲間を失った4年前の戦いにあるのだろうと最初は思った。ロックオン、クリス、リヒティ、モレノは死亡、刹那とアレルヤは行方不明(生死も不明)――生き残ったメンバーの誰もが大きな喪失感と敗北感を味わったことだろうが、戦術予報士として戦いの指揮を取る立場にあった彼女の失意と自責の念は他の仲間とはまた質の違うものだったことは想像に難くない。
しかし考えてみれば、スメラギがビリーの家に転がりこんだのは2年前なのである。それにファーストシーズンの最後、強襲コンテナに搭乗していたスメラギはイアン、フェルトと一緒だった。いかに失意が大きかったとしてもその場から一人失踪したわけではないだろう。
大破したプトレマイオスに戻ることはできなかったろうから、ソレスタルビーイングのラボのどれかに(途中でかろうじて生き延びていたラッセとティエリアも収容したうえで)ひとまず皆で身を寄せたのではないか。
そこでセカンドシーズン導入部に出てきたような新しい機体の開発やツインドライブのマッチングテストなどに勤しんでいたというのが一番ありそうな線だと思う。
ではスメラギがソレスタルビーイングを離れたのは何故なのか。2年前に何があったのか――と考えると浮かび上がってくるのがアロウズの登場である。
ソレスタルビーイング、とりわけプトレマイオスクルーは壊滅的な打撃を受けたものの、ガンダム討伐作戦をきっかけに地球連邦が樹立し三国家群の冷戦時代は終わりを告げる。世界が一つにまとまり、これで戦争のない世界が実現する―イオリアが、ソレスタルビーイングが掲げた戦争根絶が達成されたと思えば、仲間を失った心の痛みもいくらか和らいだろうし、自分たちの戦いには意味があったと誇らしさを覚えもしただろう。
しかしやがて各国間の格差が再び争いを呼び、テロや地域紛争が相次いだその結果としてアロウズによる徹底的弾圧が行われるようになる。しかもその非人道的なやり口を隠蔽するための情報統制に使われているのが、本来ソレスタルビーイングの頭脳であったはずのヴェーダなのだ。
自分たちは何のために戦ってきたのか。仲間は何のために命を落としたのか。自分たちのしたことは結局アロウズによる恐怖政治を招来しただけではなかったのか。スメラギの心を折ってしまったのはこの徒労感であったのではないだろうか。
そんなスメラギを立ち直らせたのは刹那の荒療治だった。いきなりビリーの元に現れると彼にスメラギの正体をばらして(4年を経ても守秘義務をまるで気にかけてないのは相変わらずである)その退路を絶ち、かなり強引にプトレマイオス2に連れ帰った。
最初のうちこそスメラギは本式に戻る決断がつかず、また仲間を死なせてしまうのではないかと案じて作戦を立てることにも消極的だったが、アレルヤ救出作戦の時に「俺たちに戦術予報をくれ」「たとえミッションに失敗しようとも、あんたのせいなんかにしない」と言い切った刹那の言葉に応えて大胆な戦術を立案したのを契機として、スメラギは制服を着てプトレマイオス2の一員として復帰する。
ビリーの優しさに甘えて酒に溺れるばかりだった2年間は全く立ち直れなかったスメラギは、自分の能力が必要とされていること、命がけでその能力を信じてくれる仲間の存在を思い知らされたことで、自分の生きる意味を再発見したのだ。
以後彼女が酒を飲むシーンは一切出てこなくなる(出てこないだけで、完全に酒を絶ったとは限らないのだが)。酒に頼ることなく、仲間の技量と精神力を信じて物量の不利をはね返すハードだが有効な戦術を次々と繰り出すスメラギは、ファーストシーズンの頃よりも強く格好いい。スメラギを最も彼女にふさわしい場所へと引き戻した刹那のお手柄である。
・・・ところで刹那はどうやってスメラギの所在を知ったのだろう?ライルの場合は、カタロンの一員として活動する彼をたまたま見かけたことがあったのではと考えたのだが、スメラギは家に引きこもりがちだったようだし、主に紛争地域を転々としてたらしい刹那が偶然彼女を見かける可能性は少なそうだ。王留美からソレスタルビーイングにもたらされた情報というのが一番ありそうな線か。
そういえば〈どうやって知ったか〉繋がりでいえば、上で引いたロックオン(ニール)の台詞はティエリアとの「あなたは知らないようですね。スメラギ・李・ノリエガが過去に犯した罪を」「知ってるさ」というやりとりに続くものである。
このシーンの少し前まではヴェーダを通じてクルーの個人情報にアクセスすることができたティエリアがスメラギの過去を知っているのは不思議ではないが、ロックオンはどうして知っていたのだろう?
これはスメラギ本人がロックオンに話した可能性が一番高いのではないか。フェルトも両親の話をロックオンに打ち明けていたが、大人で包容力のあるロックオンにスメラギも何かの折に打ち明け話をすることがあったのかもしれない。
余談ながら、ロックオンはスメラギを「ミス・スメラギ」と呼ぶ。刹那とティエリアは「スメラギ・李・ノリエガ」とフルネーム呼び、アレルヤは「スメラギさん」である。
ライルが二代目ロックオンとしてプトレマイオス2の一員となった時、彼は自然と「ミス・スメラギ」と彼女を呼んでいた。ニールがスメラギをどう呼んでたか誰かに確認したわけじゃないだろうに。少年期から離れて暮らしていてもやはり双子だなあとちょっとほっこりしたのでした。
ハレルヤ
アレルヤ・ハプティズムの中のもう一つの人格。穏やかなアレルヤとは対照的に粗野で暴力的な言動が目立つ。脳量子波を操れるのはアレルヤではなく彼の方である。
ハレルヤはアレルヤが超兵機関で受けた(脳量子波を使えるようにするための)人体改造実験の結果として生まれた―つまりは脳への物理的干渉によって生み出された人格という位置づけのようだが、彼の言動など見るといわゆる解離性同一症(多重人格)に近いものを感じる。
多重人格は主に幼少期に受けた身体的精神的虐待から自身の精神を守るために、被虐待児童が自分の代わりに苦痛を受け止めてくれる別人格を生み出してしまうものと言われている。直接脳をいじくられたために別人格が誕生したというより、実験による心身の苦痛が耐え難かったアレルヤが無意識に自己防衛のためハレルヤの存在を生み出したという方がより実態に即しているように思えるのだ。
というのもハレルヤが現れるのはもっぱら戦闘時で、アレルヤの弱腰を罵りながらも彼に代わって気の優しいアレルヤでは厳しい局面や辛い役回りを引き受けてくれているように見えるからだ。
それは最初に本格的にハレルヤが行動を起こした事件とおぼしき、被験者数名で超兵機関を脱走したものの船が故障し酸素も食料も不足する中で起きた仲間うちでの殺し合いの際にも見て取れる。アレルヤ(の身体)が生き残るには他の子供たちの犠牲が必須と言えたが、優しいアレルヤに仲間を殺すことなどできない。だからハレルヤが代わってそれを行った。
以来生き伸びるための辛い選択・行動はもっぱらハレルヤが表に出て担ってきた。それはアレルヤの本意ではないが(むしろ彼はハレルヤの冷酷な決断、生き残るためとはいえ必要以上に残酷な戦い方を選ぶ傾向を嘆いていた)、ハレルヤがいなければアレルヤはとっくに死んでいただろう。ハレルヤが戦闘時以外はほとんど現れることがない、平時にアレルヤの身体で遊び歩いたりしてる様子がないのも、彼が〈アレルヤを守るために生まれた人格〉である証左のように思える。
ただ一般的な多重人格のイメージと違って、ハレルヤが身体を動かしている時でもアレルヤも意識を保っているし、ハレルヤのやったことを記憶している(ただハレルヤが勘づいていたソーマ・ピーリスの正体―彼女がマリー・パーファシーであることをアレルヤは知らなかった。少なくともハレルヤの方はアレルヤに隠し事をしようとすれば可能だということだ)。
辛い役回りをハレルヤが代わりに担ってはいるが、彼が行った殺戮・暴力行為の一切をアレルヤはつぶさに見ているわけで、その意味ではハレルヤがいるからといって精神的苦痛を免れているわけではない。むしろハレルヤの残虐行為のためにより心を傷つけられることが多く、長らくアレルヤはハレルヤの存在を持て余し気味だった。
変化が訪れたのはファーストシーズンの終盤、ロックオンの弔い合戦ともいうべき最終決戦の時だ。身体の主導権を握っていたハレルヤにアレルヤが「ぼくも、生きる」と戦う意志を告げた。そしてハレルヤは前髪を掻きあげ、アレルヤの時は髪で隠れている金色の右目、ハレルヤの時は隠れているグレーの左目の双方を露わにする。
事実上二人が共闘した最初の場面であり、両者の意識が共に前面に出ていながら動きがかみ合わなくなる場面がなく、ハレルヤ言うところの「反射と思考の融合」が完璧に成されていた。全くタイプが異なるようでも、彼らが二人で一人、同じ人間なのだと感じさせる場面である。
この戦いで頭の右側面に傷を負ったアレルヤはハレルヤの人格をしばらく喪失してしまうが、その間はガンダムに乗っても動きが今一つ精細を欠いているのをアレルヤも自覚せざるを得なかった。
その後ダブルオーライザーのトランザムテストで撒き散らされた加速粒子をきっかけにハレルヤが4年ぶりに目覚めることとなるが、ハレルヤ不在の時間は彼がまぎれもなく自分の半身であったことをアレルヤに思い知らせることとなった。
そして刹那が純粋種のイノベイターとして完全覚醒したことによって作動したダブルオーライザーのトランザムバーストによりハレルヤが本格復活してからは、アレルヤ・ハレルヤはファーストシーズン最終戦を思わせる、いやそれ以上のコンビネーションを見せつけることとなる。
ところでふと思いついたのだが、アレルヤの色違いの目は生まれつきなのだろうか。普通は途中で目の色が変わることはないだろうが、アレルヤの場合、彼の人格が表に出ている時はグレーの左目、ハレルヤが出ている時は金色の右目が露出していて、人格と目の色が結びついてるかのようである。ならば超兵機関での人体実験をきっかけとしてハレルヤの人格が生まれた時に、彼が司る(?)右目の色が変わったということはないだろうか。
純粋種のイノベイターもイノベイドも脳量子波を使う時に目の虹彩が金色に輝いている。ハレルヤの場合は虹彩が輝くのではなく、いわゆる黒目部分の色が金色なのであって、脳量子波をことさら使う場合でなくても、ハレルヤが表に出ていない時でさえ髪の毛に隠れてるだけで常時、右目は金色のはずという点は違っている。
この違いはGNドライヴによって覚醒を促されたイノベイター、ヴェーダが生み出したイノベイドという〈イオリア計画の産物〉であるか、別系統の研究(たぶん)によって脳量子波を引き出された超兵であるかの差なのかもしれない。
ともあれ、〈金色の目〉が脳量子波を使えることの証と見なすなら、脳量子波に目覚めた―脳量子波を使えるハレルヤという人格が生まれた時点をもってアレルヤの右目が金色に変わったという可能性もあるのかも?と思ったりするのである。
ロックオン・ストラトス(ライル・ディランディ)
初代ロックオン・ストラトスことニール・ディランディの双子の弟。機体は狙撃型のケルディムガンダム(セカンドシーズン)→ガンダムサバーニャ(劇場版)。
セカンドシーズンで彼が登場した時、前振りもなくいきなり後付けで出てきたように誤解してしまったのだが、見返すとファーストシーズンの第9話の冒頭で〈ロックオンが白い花束を持って墓参りに行くとすでに同じような白い花束が置かれている。「もしかしてあの人が?」と呟くロックオンを木陰からもう一人のロックオンが見ている〉という場面があり、しっかり存在が示されていた。「あいつ」でなく「あの人」なので、発言者=後から現れたロックオンの方が目下―弟のライルだったのがわかる。
よく聞くと、ニールは死の間際にも「ライルの生きる未来を」と呟いているし。当時ファンの間ではロックオンの(双子の)兄弟か?→家族の事を語るシーンで両親と妹の話しか出てこない、兄弟じゃなくてクローンかなんか?→「ライルの生きる未来」って言った?ライルとニールって似てるしそれが兄弟の名前かな?みたいな感じで話題になったのではと憶測。
勝手な想像はさておき、セカンドシーズンが始まってライルの正体はニールの双子の弟、早くに寄宿学校に入学して家族と別行動していたために両親と妹の命を奪ったテロに巻き込まれずに済んだものと判明したわけだが、ニールの回想の家族団欒シーンにライルが出て来なかったこと(・・・ひょっとすると回想シーンのニールに見えた少年はライルの方だった可能性もあるのかも?ニール視点の回想だから彼自身の姿は(視界に入らないため)出てこなかったということで)、家族をテロで失った場面のニールの外見(10~12歳くらい?)からすると、ライルは10歳そこらで一人家族と離れて寮暮らしをしていたことになる。
本人の希望かつ幼年向けの寄宿学校は別段特殊な存在ではないとはいえ、双子の兄弟のうち片方だけに幼いうちから寮生活をさせるとは両親もなかなか思い切ったものだ。ライルが何かと兄と比較されることを嫌っているのを感じとっていたのかもしれない。
ニールの回想中の家族がいかにも幸せそうな様子だっただけに、幼くしてあの団欒の輪から自発的に外れることを望んだライルの鬱屈は相当深かったものか。はたしてニールは弟の自分に対する複雑な心境をどの程度察していたものだろうか。
しかし兄と比較されるのをそこまで嫌うということは、ライルは自分が兄に劣っていると感じていたわけだろう。
確かに「兄さんほど狙いが正確じゃない」なんて台詞も出てくるし、ニールは人革連の低軌道ステーションの重力ブロックが流された事件の際には、アレルヤに協力して地球上からの超精密射撃でブロックの連結部を狙撃しパージするなどという超絶技能を(それもライルの乗るケルディムよりも一世代前のガンダムデュメナスで)発揮している。両親亡き後ライルに経済的援助を行っていた(10代前半のうちから!?)あたりも含め、まあできすぎた兄であるには違いない。
とはいえライルだってカタロンの旧式モビルスーツに多少乗ったことがある程度の戦歴にもかかわらずケルディムに乗って間もない頃から相応の戦果を挙げていたし、第一次メメントモリ攻略戦で電磁場光共振部を正確に射貫いたり、ヴェーダ奪還作戦でも戦闘不能ぎりぎりの状況で一秒限りのトランザムを最大限有効に使い、右手に損傷を負ったケルディムの残った薬指と小指でGNピストルのトリガーを引くという冷静な踏ん張りで逆境を跳ね返し勝利を掴んだりしている。ライルは決して兄に劣らぬ技量と度量を持っているのだ。
子供の頃だってきっと本人が感じるほどニールとの間に優劣はなかったのではないか。それをずいぶん拗らせてしまったのは同じ年同じ顔の兄弟という環境ゆえか。
まあ拗らせたというには彼の兄や他の家族に対する対応はわりあい淡泊な感じはあるんですが。むしろ拗らせる前に距離を置いたという方が正しいのかもしれない。
何かと兄と比べられることの居心地の悪さが兄をはじめ家族に対する本格的な憎しみに育ってしまう前に、身の振り方を自ら考え選択した―子供ながらに自分と周囲を客観的に見つめてベストと思える対応をしたと見た方がライルの性格的にありそうな気がします。
ライルは〈弟には普通の幸せな人生を生きてほしい〉と望んでいたであろうニールの意志に反して、大手商社のサラリーマンとしてのまずまず安泰と想像される生活を捨て反政府組織カタロンに所属していた。このあたり私設武装組織ソレスタルビーイングに参加した兄と共通する〈見て見ぬふりはできない〉性格を感じてしまう。
とはいえ、ニールはもし自分の家族がテロの犠牲になっていなかったら、ソレスタルビーイングにもカタロンにも入ることなく、家族と平穏な日常を送っていた気はする。まして自分は兄と違って「家族が死んだのは十年以上前のことだ。俺にはそれほど思いつめることはできねえ」と自嘲するように語った、血を分けた家族に対しても淡泊なところのあるライルはニール以上に反政府組織に走る理由がないようにも思えたりもするのだが。
それはさておき、カタロン関連でやや引っかかるのがライルの「ジーン1」というコードネーム。ジーンとはgene=遺伝子のことかと思うが、カタロンという組織を構成する因子の一つという意味だとすれば、ずいぶん非人間的な呼び名のように思えてしまう。カタロンの構成員でもクラウスやシーリンは普通に名前で呼ばれているのに。
ライルの場合カタロンに入った当初は会社員をやりながらの二足のわらじだった可能性もあり、正体を隠すために本人がコードネームを希望したのかもしれないのだが、ソレスタルビーイングメンバーのいかにも名前らしく聞こえるコードネーム(刹那など沙慈の隣に住んでいた時そのまま刹那・F・セイエイを名乗っていた。コードネームの意味がないんじゃあ。マリナ・イスマイールに初めて会ったときには偽名を使ったというのに)に比べると無味乾燥すぎるきらいがある。
二代目ロックオン・ストラトスとしてソレスタルビーイングに所属しつつもカタロンに内通していたり(むしろ内通するためにソレスタルビーイングに入った)、劇場版ではマリナたちが視察に使った船にいつのまにか副操縦士?としてもぐりこんでいたりするところからして、もともと潜入捜査を中心に活動していてクラウスたちのような本流のメンバーからはちょっと外れた存在なのかもしれないが――何となくカタロンであんまり大切にされてないような感じがしてしまう。
ライルが最終的にカタロンを離れソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして生きる道を選んだのは、プトレマイオス2の方に自分の居場所を見出したからでは?なんて思ったりするのである。
まあカタロンを離れたというか、アロウズ解体・連邦の新体制移行の際に、カタロンも解散しちゃってるわけでカタロンに残るという選択肢自体ないとも言えるのだけど。
カタロン関連でもう一つ不思議なのは、なぜ刹那がライルがカタロン構成員なのを知っていたのかということ。ヴェーダを使えば〈ニールの弟〉の現況を把握することは難しくなかったろうが、ファーストシーズンの中盤以降ソレスタルビーイングはヴェーダのアクセス権を失っている。
そもそもニールは生前〈アイルランドのテロで家族を失った〉話は皆に明かしていたが、双子の弟が生きていることについては口にしていない(少なくとも話すシーンはない)。
ニールの家族の件に最初に言及したのはヨハン・トリニティだが、彼もライルの存在には触れていない。どんなきっかけで刹那はニールに双子の弟がいることを知ったのだろうか?
ライルの存在だけならファーストシーズン初期のティエリアがヴェーダのレベル7の情報にアクセスしてロックオン・ストラトスの個人データを閲覧して知っていたとも考えられるが(アレルヤが超兵機関攻撃のミッションプランをスメラギに持ち込んださいにアレルヤのデータを調べて「アレルヤ・ハプティズム、そうか、彼は・・・」などと言っていたところからすると、ティエリアはマイスターの来歴を調査すべき特段の理由がない限りわざわざ他人の個人情報を見ようとはしなさそうではある)、当時はまだライルはカタロンに所属してないどころか対アロウズ勢力として台頭してきたカタロンそのものもまだ発足していないだろう。
ヴェーダ以外で〈ニールにライルという弟がいてカタロンの構成員である〉情報をもたらす可能性があるとしたらエージェントの王留美だろうが、彼女経由なら刹那だけでなくプトレマイオスクルー全員が情報を共有しているはずだ。
カタロンとの会談のために中東第三支部に向かう途上での、〈なぜカタロンの基地が連邦に見つからないか〉についてライルが説明した際、ティエリアが「詳しいな」と言いライルが「常識の範疇だよ」ととぼける場面からすれば少なくともティエリアはこの時点でライルがカタロンの人間だと知ってはいない。知ったうえでカマをかけている可能性はゼロではないが、冗談を言っただけでも驚かれるティエリアがそんな腹芸をやるようにも思えない。
ヴェーダ奪還作戦の頃になると、ライルがカタロンに情報を流すことを前提としてスメラギが作戦を立てたりしているくらいでライルがカタロン構成員なのは暗黙の了解となっているが、正面からライルを通じてカタロンと連携を図らないあたりあくまで〈暗黙〉、公然の秘密という感じだ。はっきり〈ライル・ディランディはカタロン〉という情報が最初から皆に伝えられていたならこんな扱いにはならないだろう。
となると他メンバーは知らず刹那だけがニールの弟の生存及び彼がカタロン構成員だと知ることになる何かがあったはずだ。
セカンドシーズンの第1話で、刹那はカタロンと間違われ強制労働させられたうえにアロウズのオートマトンに殺されそうになった沙慈・クロスロードを危うく救っている。
刹那がこの場に現れたのはアロウズの蛮行に怒りその動静を探っていたためだが、この時カタロンメンバーによる仲間の救出作戦も同時に行われていた。というよりカタロンが囚人救出作戦を行う情報を掴んでアロウズがカタロン殲滅に動いたように、アロウズの動きを見張っていた刹那もカタロン殲滅作戦を掴んでそれを止めるべく動いたのだろう。
この件に限らず、同じアロウズを敵と見なすもの同士、刹那は行く先々でカタロンメンバーとたびたびかち合っていたとしてもおかしくない。そうしてたまたまカタロンの一員として働いているライルを見かけ、ロックオンそっくりの容姿に驚いて彼の素性を調べた――こういう流れなら刹那だけがライルの存在及び彼がカタロンだと知っていたことも、かつてのテロ現場跡地の公園でライルと対面したさいに彼の外見に驚いた様子がない(プトレマイオスクルーは皆初めてライルを見たとき驚きを隠せなかった)のも頷ける。
それにしても刹那がなぜ他メンバーにライルがカタロンだと明かさなかったのか(ライルの方も刹那に対し自分がカタロンなのをあっさり認めているのに、なぜか他メンバーには自分の正体が伝わってない前提でふるまっている。あの堂々とした態度を見る限り、自分の正体を内緒にしておいてくれと刹那に頭を下げたようには思えないし?)、そもそもロックオンの弟とはいえすでによその組織の構成員である相手をソレスタルビーイングに引き入れようとしたのかについては謎のままではあるのだが。
そんな彼の足元を揺るがすことになるのが自分と同じ顔をしたリジェネ・レジェッタとの出会いだった。ここでティエリアは初めてイオリア計画のために作られた人造人間は自分一人ではないと知った。
かつてはヴェーダの一番深層の情報にもアクセスが可能だったと思っていたのが、自分にはガンダムマイスターであるゆえに情報規制がかけられていた─実はイオリア計画の根本など知らされていなかった、ティエリアたちが目下敵対している悪の根源たる(はずの)アロウズもイオリア計画の一部であり、むしろ今ではガンダム4機を含めたプトレマイオスクルーの行動こそがイオリア計画の邪魔者になっている、などの衝撃的な事実がたたみかけるようにリジェネの口から明かされることになる。そのうえで「共に人類を導こう。同じイノベイターとして」とリジェネが誘いかけた言葉にティエリアは大きく動揺する。
ティエリアの中の先天的部分─イノベイター(イノベイド)としての彼がリジェネの誘いに強い魅力を感じる一方で、後天的部分─プトレマイオスクルーとの触れ合いの中で培われた人間としての心が激しい反発を覚えてもいる。葛藤するティエリアの精神の拠り所となったのは、ここでもやはり今は亡きロックオンだった。
「そうやって自分を型にはめるなよ」「四の五の言わずにやりゃいいんだ」。およそ論理的とは言い難い、昔のティエリアなら歯牙にもかけなかったろう単純な言葉が、その単純さ、感情に素直であるがゆえにティエリアの気持ちを明るく照らしてくれた。
それでもイオリア計画の〈正しい〉遂行者であり、〈同類〉であるイノベイターたちに完全に背を向けるにはまだ躊躇いがあった。その躊躇いを払拭させたのがアロウズの上層部が出席するという経済界のパーティーに潜入して、アロウズの黒幕にしてイノベイターたちのリーダーであるリボンズ・アルマークと対面したことだ。
(この時ティエリアが偵察役に名乗りを挙げたのにラッセが〈正体が知られてるかも〉と難色を示したのに対し、「俺がバックアップに回る」とフォローしたのが刹那だった。ここでも〈歪み〉に積極的に突っ込んでいくのは刹那とティエリアの二人なのである)
ここでティエリアはリボンズの口から彼がヴェーダを掌握している(のみならずティエリアからヴェーダのアクセス権を奪ったのはリボンズであるらしい)こと、本来ソレスタルビーイングは4年前に滅んでいるはずだった(イオリア計画の捨て石だった)ことを突きつけられ、後者はイオリアからトランザムシステムを託されたことをもって否定したものの、「君は思った以上に人間に感化されているんだね。あの男に心を許しすぎた・・・ロックオン・ストラトスに」との言葉に完全に逆上する。
なぜリボンズがティエリアのロックオンに対する強い思い入れを知っているのか不思議なところだが、ここでわざわざロックオンの名前を出したこと、加えて「計画遂行よりも家族の仇討ちを優先させた愚かな人間」とロックオンを貶めるに至っては、ティエリアを怒らせるためにやっているとしか思えない。
リジェネは半ば本気でティエリアを仲間に引き入れる気持ちがあったようにも思えるのだが、リボンズはティエリアを仲間にするつもりは全くないようだ。ヴェーダ、ソレスタルビーイング、ロックオンというティエリアが執着する三大テーマに全て言及したあげく、最重要のロックオンを念入りにあげつらったのだから。
ともあれまんまとリボンズに煽られるまま彼に発砲し、潜んでいた第三のイノベイター、ヒリング・ケアに阻まれたティエリアは華麗に逃亡、前後して現場から脱出した刹那に「見つけたぞ、刹那。世界の歪みを」と語り、イノベイターをはっきり敵と見なすようになる。
とはいえその「歪み」の正体がヴェーダの生体端末・イノベイターであること、彼らがアロウズを影から操る真の黒幕であるといったことは刹那にも他メンバーにも何も語っていない。
真の敵が何者なのか、スメラギにすら知らせないのは計画立案に支障を生じるかもしれないとわかっていても、イノベイターについて語れば自分自身もイノベイターであることに触れざるを得なくなる。それで周囲の自分に対する目が変わるのが怖ろしかったのだ。
しかし衛星兵器メメントモリによるスイール王国首都攻撃とそれによる250万人の死に激怒したティエリアは迷いを払拭し、皆にイノベイターの存在について伝えた。
ここでようやくティエリアは完全に腹が決まったのだろう。その後地球で新型モビルスーツに乗るイノベイター(ブリング・スタビティ)から「我々とともに使命を果たせ」「討つというのか、同類を!」と〈同じイノベイター〉として呼びかけられた際には「僕は人間だぁっ!」と応えている。この時点でティエリアの心は真に人間になったのだ。
ところがセカンドシーズンのクライマックスというべきヴェーダ奪還作戦において、ヴェーダ本体に侵入したティエリアはそこで出会ったリボンズ・アルマークに「僕たちはイノベイターの出現を促すために人造的に作り出された存在―イノベイドだ!」と言い、肉体は死んだもののヴェーダと完全リンクを果たした後には刹那に「僕はイノベイター、いや、イノベイドでよかったと思う。この能力で君たちを救うことができたのだから」と語る。
自分は人間だと言ったティエリアがイノベイドである自分を自然に受け入れている。後者はヴェーダのアクセス権を取り戻したことによるトライアルシステム発動で他メンバーの戦いをサポートしたあとなので〈大事な仲間の役に立てるなら自分が人間かどうかは大した問題じゃない〉という心境に至ったものとして理解できるが(先にイノベイターの存在を仲間に明かしたさい、結局ティエリアは自分もイノベイターであることを皆に話していない。スメラギが「あなたは私たちの仲間よ」の一言で彼が辛い告白をしなくて済むよう気遣ってくれたからだが、したがって刹那はティエリアもイノベイターとは知らないはず。いきなり「イノベイドでよかったと思う」とか言われて驚いたんじゃないか。まあ真のイノベイターとして覚醒した刹那だから、そのあたりはとっくに勘づいているはず、とティエリアは考えたのかもしれない)、前者はまだヴェーダとのリンクを復活させる前の台詞である。
なぜこの時点でティエリアは、イオリアがイノベイター(イノベイド)を作った意図についてイノベイターの長であるリボンズを相手に、ああも確信をもって話しているのか?このあたりの謎はまた改めて考えてみたいと思う。
セカンドシーズン初期のティエリアは、二代目ロックオンことライルと沙慈に対する態度を見る限りではファーストシーズン途中までの頑なさに後退した感がある。
沙慈にきつい説教をするのはもっぱらティエリアだし、ロックオンに対してもガンダム操縦の教官役でからみが多かったこと、物を教える立場だったこともあり(ロックオンをスカウトしてきた刹那が指導係でなかったのが謎・・・と言いたいが、まあ誰がみても刹那は人に物を教える柄じゃなかったんでしょうね)、苛立ったような当たりの強い言動が目立つ。
まあ前者は誰かが言わなくてはいけない事をティエリアが代表して言っていた感もあり、アロウズによるカタロン基地襲撃を招いた責任に打ちひしがれる沙慈を厳しく叱ったのには、かつて戦闘時に放心状態になったために自分をかばったロックオンが目を負傷した―それが彼の戦死の遠因にもなった―自分を重ね合わせる部分もあったのでは(小説版では「ロックオン・ストラトスを失ったときの自分を見ているようで、小さく胸にうずくものはあったが」との一文がある)。
ロックオン=ライルについては、ティエリアの敬愛するロックオン=ニールと同じ顔同じ声で同じ通り名を名乗りながらロックオンではない彼に対する戸惑いと存在そのものへの苛立ちみたいなのがあったんでしょうね。半ば八つ当たりというか。「ロックオンならこのくらい簡単にできた」とかついついニールと比較してしまう部分もあったろうし。
とはいえティエリアは刹那がプトレマイオス2に沙慈を連れてくるのを止めていない。ティエリアの台詞にもあるようにソレスタルビーイングで保護せず自由の身にしていれば、一度カタロン構成員の疑いをかけられた沙慈はすぐさまアロウズに捕まり処刑されていたはずだが、それでも昔のティエリアなら(最初は監禁に近い扱いだったとはいえ)〈プトレマイオスに一般人を乗せるなんて〉と苦言を呈していただろう。
なのにそれどころかカタロンが襲撃される原因を作ったとショックを受けている沙慈を「君も来い。ここにいたら何をされるかわからないからな」と仲間の死に怒り嘆いているカタロンの人々から彼を引き離しプトレマイオス2に連れ帰った。イオリア計画を忠実に果たすことが全てで、使命感でがちがちだったかつてのティエリアなら考えられない対応だ。
加えて連邦軍の捕虜になっていたアレルヤを救出した後のシーンでも、死んだはずのロックオン(にそっくりな弟)の顔を見た彼の反応に「変わらないな君は」と微笑んで「おかえり、アレルヤ」と優しく声をかけたりしている。明らかにファーストシーズンでのもろもろの経験を踏まえて、ティエリアはかなり軟化していると言っていい。
それが顕著に現れているのが刹那への態度の変化だ。ファーストシーズン初期で刹那がガンダムを降りてサーシェスに姿をさらしたさいには「彼の愚かなふるまいを許せば我々にも危険が及ぶ可能性がある」と銃殺しようとするほど怒っていた、というか刹那をソレスタルビーイングにとっての危険因子と見なしていたのに(アレルヤの「ぼくたちはヴェーダによって選ばれた存在だ。刹那がガンダムマイスターに選ばれた理由はある」との言葉で銃を下ろすのが、ヴェーダを絶対視していた当時のティエリアらしい)、刹那の項でも書いたようにセカンドシーズン始めの再会時には連絡もせずエクシアごと四年間消息を絶ったままだった刹那を咎めもせず普通に挨拶している。
またアレルヤ救出作戦のさいにはマリナが同じ施設に監禁されていると知って、「残り二分でもう一人を助けたらどうだ」と刹那にマリナを助けに行くよう促した。昔のティエリアならソレスタルビーイングの任務に何ら関係のないマリナ救出を刹那に勧めたりなどまずしなかったろう。
さらにその後、マリナをアザディスタンに送っていく刹那に「何ならそのまま帰ってこなくてもいい」と口にするにいたっては。ティエリアが刹那とマリナを恋愛関係にあると思ってるのか定かでないが、アレルヤに「まさか君があんな冗談をいうなんて」とつっこまれ「別に。本気で言ったさ」と返したり、さらに「冗談だよ」と言ってみたりと、仲間との軽口の叩き合いを楽しんですらいる姿には目を見張らされる。
もっとも刹那との関係はファーストシーズンの半ばから明らかに良い方向に変わりはじめていた。最初の変化は対トリニティ戦だった。トリニティがアイリス社の軍需工場を攻撃し800人以上の民間人従業員を殺傷したニュースを聞いた刹那が、即座にトリニティを〈紛争幇助対象〉と位置づけ彼らを駆逐するべく勝手に出撃したのだが、刹那のガンダムエクシアvsトリニティのガンダムスローネ3機という数的に劣勢な状況に駆け付け参戦したのがティエリアのガンダムヴァーチェだった。
到着のタイミングの早さからすると刹那が出撃したと知って追ってきたのでなく、ティエリアも刹那同様アイリス社襲撃のニュースにブチ切れて、自分一人でもトリニティを討つ気持ちで現場に向かったら刹那の方が早く来ていたという流れだったのではないか。
民間人を巻き込むどころか正面から攻撃することも辞さないやり口、初顔合わせ時の(特に次男ミハエルと末っ子ネーナに対する)悪印象、ヴェーダのデータに載っていない彼らの存在への疑念から、プトレマイオスクルーのほぼ全員が彼らを警戒し嫌っていたが(クリスだけは美形のヨハンとツーショット写真を撮ったりとヨハン限定でそこそこ好意的だった)、中でもなまじ初対面でネーナに命を救われた刹那、ネーナがヴェーダの深層部分にアクセスする現場を目撃したティエリアは、とりわけ彼らへの反感が大きかった。
とはいえあれだけ規律や命令違反にうるさいティエリアが独断で出撃したのには驚いた。まして相手はいかにデータ上存在しない怪しげな相手とはいえ同じガンダムマイスターであり、いわば同士討ちだというのに。
ティエリアが加わっても2対1、スローネの機体性能を考えても不利な局面ではあるのだが、ティエリアに悲愴感はない。むしろ「まさか君とともにフォーメーションを使う日が来ようとは思ってもみなかったよ」と刹那に声をかけるティエリアは笑いすら滲ませている。刹那も「俺もだ」と応じているが、何だかんだこの二人は似たもの同士なのである。
無口で無愛想、基本無表情でクールな印象なのに思い切り感情で動き、精神的に動揺しやすい。かたやガンダムを、かたやヴェーダを神として信奉している。ティエリアが初期に刹那に示した強い反発は、同族嫌悪だったのではと思ってしまうほどだ。
ここでトリニティという共通の敵を相手に、それも任務としてでなく自由意志で共闘したことから、ティエリアは明確に刹那に仲間意識を示すようになり、規律一辺倒だったのが次第に角が取れてくる。
対トリニティの戦闘から帰還したのち「命令違反を犯した罪を(与えてくれ)」と自らスメラギに申し出るあたりはまだ堅物らしさを思わせるが、「そんなのいつしたっけ?」とスメラギに笑顔でごまかされ、ロックオンに「そういうことだ」と取りなされると、それ以上食い下がろうとはせず「それが人間か」と薄く微笑む。アレルヤも「何かあった?」とティエリアの変化を感じ取っているほどに、ティエリアは柔らかくなりつつある。
その後ヴェーダからのバックアップ完全停止とロックオンの負傷→死去という大きなショックを経て、ティエリアの心はどんどん人間に近づいていく。ヴェーダとのリンクができなくなった以上、彼はもはやヴェーダの生体端末とは言えず、残ったのはティエリア・アーデという一個体なのだから、彼の心持ちが人間と変わらなくなっていくのは当然のことだ。
ティエリアが改めてヴェーダから拒否されたのは国連軍との初の戦闘の時である。国連軍は〈裏切者〉によって手に入れた疑似GNドライヴを搭載した新型モビルスーツGN-Xを投入。
先立つGN-X対トリニティの戦闘でGN-Xの性能のほどはすでに承知していたものの、物量とエース級揃いの敵パイロット達の実力を前にガンダムマイスターたちは苦戦を強いられる。それでも必死の抵抗を続ける中、いきなり機体のシステムが完全ダウンしたのだ。
ヴェーダが裏切者によってハッキング、一部改竄も行われていることはすでにマイスターを含めたプトレマイオスクルー皆がわかっていたことだ。だからこそスメラギはフェルトとクリスにヴェーダから独立したシステムを構築させていたし、ガンダム4機のシステムダウンを知ってすぐに予備システムへの切り替えを行っている。おかげで機体が動かなくなったのは一時だけですぐにエクシア・デュメナス・キュリオスは活動再開できたのだが、ティエリアのガンダムヴァーチェだけは全く反応しなかった。
これは後のフェルトの独白にあるように、ティエリアが直接ヴェーダと精神でリンクしていたためティエリアの存在自体が予備システムへの切り替えを妨げた―つまりはシステム的な障害が直接原因だったようだが、ティエリア自身の気持ちの問題も大きかったはずだ。機体を立て直そうともせず「僕は・・・ヴェーダに見捨てられたのか・・・」と呆然と呟くばかりだったのがその証だ。
ヴェーダを絶対的な指針、神として信奉するティエリアがその神を見失った絶望は想像に余りある。少年兵時代にガンダムに命を救われた経緯のある刹那も、ヴェーダでなくガンダムを一種神のごとくに崇めていてエクシアが動かなくなったことに一時絶望しかけているが、まもなく自身を奮い立たせて懸命に機体を動かそうと試みた。
両者の違いはおそらく、ヴェーダの生体端末として作られたその出生ゆえに、ヴェーダとリンクできるのは生まれ持った能力であり、それを当然のこととしてきたか、ガンダムに憧れ自らガンダムになろうとして努力を重ねてきたかにあるのではないか。あるのが当たり前、それがない状態が想像もできないティエリアと、最初から持っていたわけではない、持っていない時間の方がずっと長かった刹那では、失った時の気持ちの切り替えに差が出るのが自然である。刹那は失った物を取り戻そうと足掻いたが、ティエリアには取り戻すという考え自体思いつかなかったのかもしれない。
それにしても前回書いたようにヴェーダに背かれるのはこれが最初ではないのだ。ナドレの強制解除という異常事態をティエリアはすでに体験しているが、その時はここまで動揺してはいなかった。
国連軍との戦闘でのティエリアの絶望がとりわけ大きかったのは対トリニティ戦以上に多勢に無勢の危機的状況であり、全システムがダウンしたため全く動けない―死ぬのは必至という状況だったこと、さらにシステムダウンの少し前、「ぼくらの滅びは計画に入っているというのか」というアレルヤの疑いの声を聞いてしまったことによるのではなかろうか。
単にヴェーダが乗っ取られたというだけでもヴェーダの無謬性を冒されたという意味ではティエリアにとっては大いにショックだろうが、アレルヤの疑いが本当だとすればヴェーダは最初からティエリアを使い捨ての道具としか見ていなかったことになる。「そんなことが!」とアレルヤの言葉を否定しようとしたところへシステムダウンが起こったことがその疑惑を裏書きした。
ナドレのような生命維持に直接は関係ない一部能力が使えなくなったのと違い、敵の真っただなかで身動き一つできなくなるというのは、死ねと言われているのに等しい。「ヴェーダに見捨てられたのか」という言葉が出てくるのも無理からぬところだ。
この時我が身を盾にティエリアを救ったのがロックオンだった。自分をかばって怪我を負った、それも狙撃型ガンダムのマイスターであるロックオンが効き目である右目を失った。ヴェーダに見捨てられたショックに加え、ロックオンに戦士として致命的な(三週間ほど戦線を離脱して治療すれば治るのだが)大怪我を負わせたことがティエリアをさらに懊悩させる。
その苦しみからティエリアを救ったのは、怪我を負った本人であるロックオンだった。一人沈み込んでいたティエリアに声をかけ、「ヴェーダとの直接リンクができなければ(中略)僕はマイスターに相応しくない・・・」と弱音を吐くティエリアに「単にリンクができなくなっただけだ。俺たちと同じになったと思えばいい」「四の五の言わずに(戦争根絶を)やりゃいいんだよ」と発破をかけた。
ロックオンの負傷を自分のせいだとあれだけ苦悩していたティエリアがいざ本人を目の前にしたら、まず謝ったり怪我を気遣ったりするのでなく別の悩みを吐露してしまうのが―そして去り際のロックオンにようやく「・・・悪かった」と一言だけ告げるのが―彼の不器用さとロックオンへの甘えを示しているようで、ちょっと微笑ましい。
この時ロックオンに「失敗くらいするさ、人間なんだからな」と言われて、「人間、か・・・」とティエリアは呟く。おそらくティエリアが自分を〈人間〉として位置づけるようになったのはこれが最初だ。
ずっとヴェーダの生体端末―人ならざる者であることに誇りとアイデンティティを置いていたティエリア、過去の大失敗の傷を抱えながらも戦うことを選んだスメラギを評した「そういうことができるのもまた人間なんだよ」というロックオンの台詞に「人間か・・・」と呟き、刹那とロックオンの和解のシーンを見て「これが、人間か」と微笑んだ時は外側から人間という物を眺めて関心や好感を抱いたという感じだった。
それがヴェーダの忠実な僕としてのアイデンティティが決定的に揺らいでいる時に命の恩人たるロックオンから人間として扱われたことで、自身を人間の側に置くようになった。そしてやがてセカンドシーズンでイノベイドのブリング・スタビティと戦った際には「討つというのか、同類を!」とのブリングの言葉に「僕は人間だあっ!」と叫ぶに至るのである。
同時に、この時からヴェーダという神を見失ったティエリアは、ロックオンに崇拝にも似た思い入れを見せるようになっていく(この場面以降ファーストシーズンのラストまで、ティエリアはしばしば「私」という一人称を口にするようになる。怪我人のロックオンが出撃できないよう扉にロックをかけた際の「私は前回の戦闘で彼に救われた。だから今度は私が彼を守る」、ロックオンが亡くなった後、不利を知りつつ最終決戦に挑む意志を示した際の「これは私だけの気持ちではありません。マイスターの総意です」「私はロックオンの仇を討たなければならない」もそう。多くはロックオンがらみで「私」とたびたび発するティエリアの姿にまたまた〈ティエリア実は女説〉が浮上したんじゃ?なんて想像したりします)。
ファーストシーズンのクライマックス、戦いは終わったもののナドレが大破し、死を覚悟したティエリアが「これで、行ける、これで、あなたの元へ・・・ロックオン・・・」と口にする場面など、どれだけロックオンが好きなんだと驚いた。
この場面、すでに機体はぼろぼろだったが、最後の力を振り絞って太陽炉を取り外し宇宙に放出して(少し離れたところにいる強襲用コンテナに乗るスメラギとイアンに託した)しまったのでティエリアは意識不明のままナドレごと宇宙空間に漂っているしかない状況になっている。「あなたの元へ」の台詞からしてもここで亡くなったのだろうな・・・と思わせておいてセカンドシーズンでは初回から元気に登場している。
あの状況からどうやって助かったんだ!?おそらくコンテナに向かって射出された太陽炉に気づいたスメラギたちが太陽炉を放出した機体がそばにいるはずだと周辺を捜索してティエリアを見つけたという流れではないかと思うのだが(ファーストシーズンのラストでは、刹那もグラハムと相討ち→爆発のあと姿を現さず、マリナに宛てた「あなたがこれを読んでいるとき、俺はもう、この世には・・・」で始まる手紙が紹介されたりするので、刹那死んだ?セカンドシーズンあるのにここで主人公まで死ぬ?と視聴者を驚かせる展開になっている)。
ともあれ、他のガンダムマイスターが刹那とアレルヤは機体ごと行方不明、ロックオンは死亡と総崩れ、スメラギもソレスタルビーイングを離れた中、ティエリアがイアンやフェルトたちとともにソレスタルビーイングを守ってくれていたことに何だか頼もしさを覚えたものだった。
しかし刹那・アレルヤ・スメラギが復帰し、ロックオンの弟ライルが二代目ロックオン・ストラトスとして加入、4年ぶりにソレスタルビーイングが本格稼働しはじめた矢先、〈同胞〉であるイノベイター(イノベイド)たちの登場によって、ティエリアは新たな悩みを抱えることとなる・・・。
ティエリア・アーデ
ソレスタルビーイングのガンダムマイスターの一人。機体は大火力重武装のガンダムヴァーチェ(ファーストシーズン)→セラヴィーガンダム(セカンドシーズン)→ラファエルガンダム(劇場版)。
マイスターの内でも最も中性的の容姿のティエリアが最もゴツい機体に乗っているというミスマッチが面白い(制作サイドもそれを狙ったのだろう)。実は他のマイスターと違い、人間ではなくヴェーダの生体端末(イノベイド)である。
初期のティエリアはとにかくイオリア計画、というかヴェーダを絶対的に信望していて、計画に狂いを生じさせることや規律違反に極めて厳しかった。結果的に自ら敵(サーシェス)に姿を晒した刹那を銃殺しようとしたり、人革連にアレルヤが一時捕虜にされた時には「なんという失態だ、万死に値する!」と激怒したり、その後何とか全員無事に帰還した後に「すべては作戦の指揮者であるあなたの責任です」とスメラギを真っ向から断罪したり・・・。
スメラギを責めた時はティエリアがブリッジを出ていった直後に操舵士のリヒティが「緊張したあ~」と大きく息をつき、オペレーターのクリスも「みんなの前であんな事言わなくてもいいのにね」と咎めるような顔をしていた。
正直この時期のティエリアは堅物すぎて刹那とどっちこっちの問題児だったといっていい。イノベイド―人間より反射能力、空間認識力などに優れた存在のはずなのに、むしろ当時の彼は無意識的(意識的?)に見下していたろう他のクルーより人格的には未完成かつ不安定。
それが最もあらわになった場面の一つが、先に挙げたアレルヤが捕虜にされた件の少し後に自身もピンチに陥りとっさにガンダムナドレの姿を露わにしてしまった際の反応だ。
一人機体の中で「なんという失態だ!」とコンソールパネル?を叩きつけ、「計画を歪めてしまった・・・」「おれは・・・僕は・・・・・・私は・・・」と涙を流す。
(この一人称が激しく移り変わるシーンは動揺のあまりティエリアのアイデンティティが揺らいでいることを示しているのだと思うが、最後に少し間をおいて「私は」と口にするので、リアルタイムで視聴していた人たちの間では〈ティエリア実は女説〉が囁かれたりしたのでは?と想像したりする。「私は」の時の表情も声のトーンも何だか女の子っぽいし。まあイノベイドのティエリアはもともと性別がないそうなので時に女っぽく見えても不思議はないんですが)
人前ではない、体面を気にしなくていい状況だったとはいえ、この極めて情緒不安定な様子を晒すティエリアは、本人の自負する所とはかけ離れて何とも危なっかしく見える。
ただそれは必ずしもマイナス要素ではない。むしろ不完全であるゆえに刹那と同じくらい伸びしろがあるともいえる。実際二つのシーズンを通して最も変化・成長したのは刹那と彼だろう。
ティエリアの成長のターニングポイントはいくつかあるが、その第一はヴェーダにアクセスを拒否されたこと。
これまでは自在にアクセスし情報を引き出せていたのが、ヴェーダのミッションプランにないはずのトリニティの出現に際し、ヴェーダの情報を調べたさいに途中でアクセスを拒否されるという事態が起きたのだ。さらに刹那ともどもトリニティを討とうとした際にはトライアルシステムがなぜか強制解除されてしまう。
以前とっさにナドレを使ってしまった時には「計画を歪めてしまった」とあれだけ動揺していたティエリアが、今回は自分の意志でナドレを起動させその真髄であるトライアルシステムを発動させた。「ヴェーダとリンクする機体を全て制御下に置く。これがナドレの真の能力。ティエリア・アーデに与えられたガンダムマイスターに対するトライアルシステム!」という口上は自信に満ちてどこか得意げな響きすらある。
トライアルシステムを使えるとは、その気になればトリニティだけでなくガンダムマイスター全員を一時的にせよ支配下におけるということである。この事実をもってティエリアが自分の他マイスターに対する優越性の根拠としていてもおかしくない。
初期のティエリアが時折見せる他マイスターたちを下に見ているような態度は、自分がヴェーダに直接アクセスできるからというだけでなく、トライアムシステムの使用権をゆだねられている事も影響していたのだろう。
ゆえにそのトライアルシステムを何者かによって(視聴者にはそれがアレハンドロ・コーナーであることが示される。直接には彼の傍らに侍っているリボンズがやったのだろうが)解除されたというのは、自身の優越性を損なわれたという点で甚だしく自尊心が傷ついたに違いない。
とはいえこの時点では、ヨハン・トリニティが〈刹那がロックオンの家族の間接的な仇である〉ことをすっぱ抜いたためにそちらに話がそれてしまって、トライアルシステムを強制解除された件についてはあまり引きずっていない。むしろ刹那とロックオンが一応の和解を見たさいには「これが、人間か」とさわやかな笑顔を見せたりもしている。
ティエリアが〈ヴェーダに拒否された〉ことに身動きもままならない程のショックを受けるのはもう少し先の話になる。
アレルヤは自分と同類の子供たちを殺すことを躊躇い、保護するすべはないかと考えたものの、人間兵器として育てられた彼らに未来などない、保護など不可能だとハレルヤに一蹴され、「この悪夢のような連鎖を、ぼくが断ち切る。今度こそ、ぼくの意志で」と気持ちを固めてスメラギに施設の攻撃プランを提出する。
だが実際に作戦を行う段になると、施設の建物を前に中の子供たちの声を脳量子波で感知、彼らを殺さず保護することはできないかとこの期に及んで悩み始める。そして再び保護など不可能、彼らに未来などないと前回と同じような台詞でハレルヤに否定される。
そしてハレルヤの言葉に煽られたかのように、施設の建物をずたずたに破壊、死にたくないと悲鳴をあげていた子供たちを建物ごと葬り去った。一度決意したはずなのに、いざ施設を目の前にし子供たちの声を聞くと決意がぐらつき、ハレルヤとまた同じような問答をしたあげく半狂乱になりながら施設を攻撃し、建物が消滅する瞬間は見届けないまま踵を返す――このあたりの言動は優柔不断と見なされても仕方ないだろう。
この件からのアレルヤの立ち直りは意外と早く、スメラギのもとに赴き、「ひどくそういう気分なんです」と酒を所望している。
部屋で鬱々としていた姿、「そういう気分」だという台詞がこの作戦で彼の負った心の傷を示しているには違いないが、態度はごく穏やかで微かに笑顔を見せてすらいる。
使命のためとはいえこれまでも多くの人を直接間接手にかけて来ているのだし、すでに殺してしまったものをいつまでも嘆いていても仕方がない、切り替えて先に行かなければならないのは確かだが、今回は〈同胞殺し〉だけに切り替え早いな!と思ってしまったりもするのだ。
ちなみにアレルヤが訪ねた時スメラギは一人で飲んでいて、「どうしたのアレルヤ、新しい作戦でも立案した?」と背を向けたまま問いかけている。
このやや棘のある態度は多くの子供、それも非人道的実験の被害者を大量虐殺する作戦を承認・指揮したことにスメラギ自身も傷ついていたことの現れだろう。人革連の非道は人道的にも政治的にも明るみに出すべきだし、ヴェーダもこの作戦を推奨した。それでも罪もない不幸な子供たちを救える方法はなかったのかと、こんな計画を持ち込んだアレルヤに恨み言の一つも言いたい気分があったのではないか。
実際子供たちを殺さず済ますやり方はなかったのだろうか。ハレルヤは〈ない〉と(施設を脱走しても今なお戦う人生しか選べていない自分たちを根拠として)決めつけていたが、施設破壊後にやったように〈超人機関の存在をマスコミにリークして全世界的な批判の的にする〉だけではいけなかったのか。
子供たちは悪事の生き証人として人革連内の警察なり国連なりに保護され、取り調べが終わった後も世界の目もある中、いくらなんでも殺されはすまい。おそらく児童福祉施設かトラウマ治療のための精神科病棟に送られる事になったのではないか。自由とは言い難いが、施設ごと殺されるよりはよほどましな未来があったと思うのだ。
アレルヤは人革連の低軌道ステーションの重力ブロックが漂流し地球に落ちかけた事故のさいに、本来の任務を放棄して重力ブロックを救っているが、この時命令違反を咎めたエージェントの王留美に「あなたにはわからないさ。宇宙を漂流する者の気持ちなんて」と(通信を切ってから)返している。
これと同様に処分=抹殺されるのが嫌で施設から脱走したアレルヤは、施設を破壊しようとした時に〈死にたくない、助けて〉と叫んでいた子供たちの気持ちが誰よりわかるはずだ。傍目にはどんなに不幸な境遇でも、施設を出た後の未来が不確定でも、それでも生きたいと願い生きるためにあがく気持ちがアレルヤには実感を持って理解できたはずなのに。
重力ブロックの事故の時にはハレルヤから主導権を取り戻して人命救助に動いたアレルヤが、この時は「撃ちたくないんだ!」と心で叫びながらもハレルヤの言葉に従ってしまった。もしマリーが未だ生きて施設内にいたとしたら、アレルヤは自分の手でマリーを殺すことになっていたというのに。
そう、ここで不思議なのはアレルヤがマリーが施設にいる可能性を全く考えていないことだ。
ハレルヤの方はわりと早い段階からピーリスがマリーだと気づいていた=マリーが施設にいないことを知っていたが、ピーリスの正体をアレルヤには伏せていた。だからマリーがいる可能性を案じてもいいはずなのだが、それがないのは何故か。
自分たちが処分されようとしたくらいだから、脳量子波は強くても五感を失ってしまい身動き一つできないマリーが処分されないはずはないと確信していたのか。それとも身体の動かないマリーを連れて逃げる手段がなく、見捨てて行かざるを得なかった時点で、マリーの事はもういないものと割り切って意識から締め出してしまっていたか。おそらくはこの両者が入り混じった感じだったのではないか。
(しかし失敗作と見做した被検体を容赦なく処分する超人機関が、全く身体が動かない、脳量子波の使えない相手(施設を運営管理している超人機関のスタッフたち自身は脳量子波を使えなかったろう)と意思の疎通を取ることができないマリーをよく生かしておいたものだと思う。
それだけマリーの脳量子波の強さが際立っていたということだろうか)
ともあれマリーは施設にはいなかったし、おかげでアレルヤは生涯の伴侶を知らないうちに殺してしまわずに済んだ。
ただマリーはどうかわからないがピーリスの方は施設の襲撃を〈兄弟たちを殺した〉と怒っていた。超兵であることに誇りを持つピーリスは超人機関を基本的には肯定していたので(敬愛するスミルノフ大佐が超人機関を非人道的な組織と見なしているのは気づいていたろうから全肯定ではなかったかも)、超兵の卵である機関の子供たちは可愛い後輩であったろう。
マリーは記憶と人格を取り戻しアレルヤと行動を共にするようになった後、超人機関襲撃の件でアレルヤを責めた様子はないが、マリーとしては同族たちの死をどう捉えていたのだろう。
おそらくはアレルヤから脱走した後の過酷な体験(わずかな食料と空気を求めて仲間と殺しあった)を聞き、昔と変わらぬアレルヤの優しい性格に触れて、超人機関が失くなった後に子供たちが味わうだろう地獄も思い合わせた上で機関ごと彼らも殺す選択をしたアレルヤの気持ちに、怒りの感情もありつつ共感もしたのではないだろうか。
そしてマリーと記憶・感情を共有するピーリスも、マリーがアレルヤを受け入れたことで、表面では反発しつつも心の底ではアレルヤを認めるようになっていったのではないか。セカンドシーズンの終盤、ヴェーダ奪還作戦に臨む際に、「ぼくやソーマ・ピーリスのような存在が、二度と現れない世界にするために」と戦う理由を表明したアレルヤにピーリスは複雑な視線を向けているが、超人機関の子供たちへのアレルヤの対応への反感と共感という相反する感情がそうさせたように思えるのである。
とはいえ、セカンドシーズン中盤以降のアレルヤだったら、施設は破壊しても子供たちは保護する作戦を考えたのではないかという気がする。
土壇場で何とか子供らの命を救えないかと迷ったアレルヤに最終的に引き鉄を引かせたのは、彼らに未来などないというハレルヤの言葉だった。未来などない、自分たちがいい証拠だと言われて納得してしまう程には、この頃のアレルヤは自分を不幸だと思っていたのだろう。
しかし彼はマリーを取り戻し、プトレマイオスの中で共に生活することも許された。非人道的な実験の犠牲者であっても、生き延びるために仲間を殺し今なお使命のためとはいえ戦い続け人を殺し続けている身であっても、幸せになれることをアレルヤ自身が証明したのだ。マリーと結ばれた後のアレルヤなら、ハレルヤの言葉に〈そんなことはない〉と言い返せたのではないか。
この件に限らず、マリーが記憶を取り戻し彼女の心を得てからのアレルヤは、かつてのような弱々しい態度は見せなくなってゆく(ファーストシーズン最後の決戦で自分から積極的に戦う意志を示した際にも兆候はあったのだが。この時は戦う意味もわからないままでは死ねないとの思いが彼の心を強くした。戦闘相手がピーリスだったというのは何とも皮肉だが)。
行方不明になったマリー=ピーリスを探しにきたスミルノフ大佐との死も辞さない堂々たるやりとりに顕著だが、マリーという生き甲斐を得たことでアレルヤは逞しく成長したのだ。
余談だが上で触れたファーストシーズンの最終決戦で、アレルヤとハレルヤ、二つの人格が同時に表出した時その戦闘能力―反射と思考の融合―において彼らは唯一超兵の成功例とされたピーリスを上回った。
その後の4年間囚人として監禁・拘束されていたにもかかわらず、刹那に救出されると間もなく自分の足で走って逃げている。そして劇場版の前半では生身でELSに追われた際に(どちらかというとハレルヤが)壁を駆け上がるなどとんでもない身体能力を見せている。
これらを見るにつけ、なぜ彼が失敗作と見なされ処分されそうになったのか不思議になってくる。アレルヤ(たち)が処分されると勘違いしただけでは?と思いたくなってしまうが、超人機関の担当官?がアレルヤの資料を調べたさいに「DISPOSAL」(処分)となっていたので処分対象だったのは間違いないのだろう。狂暴なもう一つの人格=ハレルヤの存在のせい?
超兵第一号がピーリスということは十年以上研究してて成功例が一人しかないわけで、要は基準が厳しすぎたのでは?とアレルヤ・ハレルヤの戦闘・身体能力の優秀さを見るにつけ思ってしまうのだった。
追記―前回・前々回更新分のタイトルが間違ってたので、修正しました(汗)。すみません。