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about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『機動戦士ガンダム00』(1)ー10(注・ネタバレしてます)

2025-02-08 20:57:59 | ガンダム00

そんな彼の足元を揺るがすことになるのが自分と同じ顔をしたリジェネ・レジェッタとの出会いだった。ここでティエリアは初めてイオリア計画のために作られた人造人間は自分一人ではないと知った。
かつてはヴェーダの一番深層の情報にもアクセスが可能だったと思っていたのが、自分にはガンダムマイスターであるゆえに情報規制がかけられていた─実はイオリア計画の根本など知らされていなかった、ティエリアたちが目下敵対している悪の根源たる(はずの)アロウズもイオリア計画の一部であり、むしろ今ではガンダム4機を含めたプトレマイオスクルーの行動こそがイオリア計画の邪魔者になっている、などの衝撃的な事実がたたみかけるようにリジェネの口から明かされることになる。そのうえで「共に人類を導こう。同じイノベイターとして」とリジェネが誘いかけた言葉にティエリアは大きく動揺する。
ティエリアの中の先天的部分─イノベイター(イノベイド)としての彼がリジェネの誘いに強い魅力を感じる一方で、後天的部分─プトレマイオスクルーとの触れ合いの中で培われた人間としての心が激しい反発を覚えてもいる。葛藤するティエリアの精神の拠り所となったのは、ここでもやはり今は亡きロックオンだった。
「そうやって自分を型にはめるなよ」「四の五の言わずにやりゃいいんだ」。およそ論理的とは言い難い、昔のティエリアなら歯牙にもかけなかったろう単純な言葉が、その単純さ、感情に素直であるがゆえにティエリアの気持ちを明るく照らしてくれた。
それでもイオリア計画の〈正しい〉遂行者であり、〈同類〉であるイノベイターたちに完全に背を向けるにはまだ躊躇いがあった。その躊躇いを払拭させたのがアロウズの上層部が出席するという経済界のパーティーに潜入して、アロウズの黒幕にしてイノベイターたちのリーダーであるリボンズ・アルマークと対面したことだ。
(この時ティエリアが偵察役に名乗りを挙げたのにラッセが〈正体が知られてるかも〉と難色を示したのに対し、「俺がバックアップに回る」とフォローしたのが刹那だった。ここでも〈歪み〉に積極的に突っ込んでいくのは刹那とティエリアの二人なのである)
ここでティエリアはリボンズの口から彼がヴェーダを掌握している(のみならずティエリアからヴェーダのアクセス権を奪ったのはリボンズであるらしい)こと、本来ソレスタルビーイングは4年前に滅んでいるはずだった(イオリア計画の捨て石だった)ことを突きつけられ、後者はイオリアからトランザムシステムを託されたことをもって否定したものの、「君は思った以上に人間に感化されているんだね。あの男に心を許しすぎた・・・ロックオン・ストラトスに」との言葉に完全に逆上する。
なぜリボンズがティエリアのロックオンに対する強い思い入れを知っているのか不思議なところだが、ここでわざわざロックオンの名前を出したこと、加えて「計画遂行よりも家族の仇討ちを優先させた愚かな人間」とロックオンを貶めるに至っては、ティエリアを怒らせるためにやっているとしか思えない。
リジェネは半ば本気でティエリアを仲間に引き入れる気持ちがあったようにも思えるのだが、リボンズはティエリアを仲間にするつもりは全くないようだ。ヴェーダ、ソレスタルビーイング、ロックオンというティエリアが執着する三大テーマに全て言及したあげく、最重要のロックオンを念入りにあげつらったのだから。
ともあれまんまとリボンズに煽られるまま彼に発砲し、潜んでいた第三のイノベイター、ヒリング・ケアに阻まれたティエリアは華麗に逃亡、前後して現場から脱出した刹那に「見つけたぞ、刹那。世界の歪みを」と語り、イノベイターをはっきり敵と見なすようになる。

とはいえその「歪み」の正体がヴェーダの生体端末・イノベイターであること、彼らがアロウズを影から操る真の黒幕であるといったことは刹那にも他メンバーにも何も語っていない。
真の敵が何者なのか、スメラギにすら知らせないのは計画立案に支障を生じるかもしれないとわかっていても、イノベイターについて語れば自分自身もイノベイターであることに触れざるを得なくなる。それで周囲の自分に対する目が変わるのが怖ろしかったのだ。
しかし衛星兵器メメントモリによるスイール王国首都攻撃とそれによる250万人の死に激怒したティエリアは迷いを払拭し、皆にイノベイターの存在について伝えた。
ここでようやくティエリアは完全に腹が決まったのだろう。その後地球で新型モビルスーツに乗るイノベイター(ブリング・スタビティ)から「我々とともに使命を果たせ」「討つというのか、同類を!」と〈同じイノベイター〉として呼びかけられた際には「僕は人間だぁっ!」と応えている。この時点でティエリアの心は真に人間になったのだ。

ところがセカンドシーズンのクライマックスというべきヴェーダ奪還作戦において、ヴェーダ本体に侵入したティエリアはそこで出会ったリボンズ・アルマークに「僕たちはイノベイターの出現を促すために人造的に作り出された存在―イノベイドだ!」と言い、肉体は死んだもののヴェーダと完全リンクを果たした後には刹那に「僕はイノベイター、いや、イノベイドでよかったと思う。この能力で君たちを救うことができたのだから」と語る。
自分は人間だと言ったティエリアがイノベイドである自分を自然に受け入れている。後者はヴェーダのアクセス権を取り戻したことによるトライアルシステム発動で他メンバーの戦いをサポートしたあとなので〈大事な仲間の役に立てるなら自分が人間かどうかは大した問題じゃない〉という心境に至ったものとして理解できるが(先にイノベイターの存在を仲間に明かしたさい、結局ティエリアは自分もイノベイターであることを皆に話していない。スメラギが「あなたは私たちの仲間よ」の一言で彼が辛い告白をしなくて済むよう気遣ってくれたからだが、したがって刹那はティエリアもイノベイターとは知らないはず。いきなり「イノベイドでよかったと思う」とか言われて驚いたんじゃないか。まあ真のイノベイターとして覚醒した刹那だから、そのあたりはとっくに勘づいているはず、とティエリアは考えたのかもしれない)、前者はまだヴェーダとのリンクを復活させる前の台詞である。
なぜこの時点でティエリアは、イオリアがイノベイター(イノベイド)を作った意図についてイノベイターの長であるリボンズを相手に、ああも確信をもって話しているのか?このあたりの謎はまた改めて考えてみたいと思う。


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『機動戦士ガンダム00』(1)ー9(注・ネタバレしてます)

2025-02-01 20:32:30 | ガンダム00

セカンドシーズン初期のティエリアは、二代目ロックオンことライルと沙慈に対する態度を見る限りではファーストシーズン途中までの頑なさに後退した感がある。
沙慈にきつい説教をするのはもっぱらティエリアだし、ロックオンに対してもガンダム操縦の教官役でからみが多かったこと、物を教える立場だったこともあり(ロックオンをスカウトしてきた刹那が指導係でなかったのが謎・・・と言いたいが、まあ誰がみても刹那は人に物を教える柄じゃなかったんでしょうね)、苛立ったような当たりの強い言動が目立つ。
まあ前者は誰かが言わなくてはいけない事をティエリアが代表して言っていた感もあり、アロウズによるカタロン基地襲撃を招いた責任に打ちひしがれる沙慈を厳しく叱ったのには、かつて戦闘時に放心状態になったために自分をかばったロックオンが目を負傷した―それが彼の戦死の遠因にもなった―自分を重ね合わせる部分もあったのでは(小説版では「ロックオン・ストラトスを失ったときの自分を見ているようで、小さく胸にうずくものはあったが」との一文がある)。
ロックオン=ライルについては、ティエリアの敬愛するロックオン=ニールと同じ顔同じ声で同じ通り名を名乗りながらロックオンではない彼に対する戸惑いと存在そのものへの苛立ちみたいなのがあったんでしょうね。半ば八つ当たりというか。「ロックオンならこのくらい簡単にできた」とかついついニールと比較してしまう部分もあったろうし。
とはいえティエリアは刹那がプトレマイオス2に沙慈を連れてくるのを止めていない。ティエリアの台詞にもあるようにソレスタルビーイングで保護せず自由の身にしていれば、一度カタロン構成員の疑いをかけられた沙慈はすぐさまアロウズに捕まり処刑されていたはずだが、それでも昔のティエリアなら(最初は監禁に近い扱いだったとはいえ)〈プトレマイオスに一般人を乗せるなんて〉と苦言を呈していただろう。
なのにそれどころかカタロンが襲撃される原因を作ったとショックを受けている沙慈を「君も来い。ここにいたら何をされるかわからないからな」と仲間の死に怒り嘆いているカタロンの人々から彼を引き離しプトレマイオス2に連れ帰った。イオリア計画を忠実に果たすことが全てで、使命感でがちがちだったかつてのティエリアなら考えられない対応だ。
加えて連邦軍の捕虜になっていたアレルヤを救出した後のシーンでも、死んだはずのロックオン(にそっくりな弟)の顔を見た彼の反応に「変わらないな君は」と微笑んで「おかえり、アレルヤ」と優しく声をかけたりしている。明らかにファーストシーズンでのもろもろの経験を踏まえて、ティエリアはかなり軟化していると言っていい。

それが顕著に現れているのが刹那への態度の変化だ。ファーストシーズン初期で刹那がガンダムを降りてサーシェスに姿をさらしたさいには「彼の愚かなふるまいを許せば我々にも危険が及ぶ可能性がある」と銃殺しようとするほど怒っていた、というか刹那をソレスタルビーイングにとっての危険因子と見なしていたのに(アレルヤの「ぼくたちはヴェーダによって選ばれた存在だ。刹那がガンダムマイスターに選ばれた理由はある」との言葉で銃を下ろすのが、ヴェーダを絶対視していた当時のティエリアらしい)、刹那の項でも書いたようにセカンドシーズン始めの再会時には連絡もせずエクシアごと四年間消息を絶ったままだった刹那を咎めもせず普通に挨拶している。
またアレルヤ救出作戦のさいにはマリナが同じ施設に監禁されていると知って、「残り二分でもう一人を助けたらどうだ」と刹那にマリナを助けに行くよう促した。昔のティエリアならソレスタルビーイングの任務に何ら関係のないマリナ救出を刹那に勧めたりなどまずしなかったろう。
さらにその後、マリナをアザディスタンに送っていく刹那に「何ならそのまま帰ってこなくてもいい」と口にするにいたっては。ティエリアが刹那とマリナを恋愛関係にあると思ってるのか定かでないが、アレルヤに「まさか君があんな冗談をいうなんて」とつっこまれ「別に。本気で言ったさ」と返したり、さらに「冗談だよ」と言ってみたりと、仲間との軽口の叩き合いを楽しんですらいる姿には目を見張らされる。

もっとも刹那との関係はファーストシーズンの半ばから明らかに良い方向に変わりはじめていた。最初の変化は対トリニティ戦だった。トリニティがアイリス社の軍需工場を攻撃し800人以上の民間人従業員を殺傷したニュースを聞いた刹那が、即座にトリニティを〈紛争幇助対象〉と位置づけ彼らを駆逐するべく勝手に出撃したのだが、刹那のガンダムエクシアvsトリニティのガンダムスローネ3機という数的に劣勢な状況に駆け付け参戦したのがティエリアのガンダムヴァーチェだった。
到着のタイミングの早さからすると刹那が出撃したと知って追ってきたのでなく、ティエリアも刹那同様アイリス社襲撃のニュースにブチ切れて、自分一人でもトリニティを討つ気持ちで現場に向かったら刹那の方が早く来ていたという流れだったのではないか。
民間人を巻き込むどころか正面から攻撃することも辞さないやり口、初顔合わせ時の(特に次男ミハエルと末っ子ネーナに対する)悪印象、ヴェーダのデータに載っていない彼らの存在への疑念から、プトレマイオスクルーのほぼ全員が彼らを警戒し嫌っていたが(クリスだけは美形のヨハンとツーショット写真を撮ったりとヨハン限定でそこそこ好意的だった)、中でもなまじ初対面でネーナに命を救われた刹那、ネーナがヴェーダの深層部分にアクセスする現場を目撃したティエリアは、とりわけ彼らへの反感が大きかった。
とはいえあれだけ規律や命令違反にうるさいティエリアが独断で出撃したのには驚いた。まして相手はいかにデータ上存在しない怪しげな相手とはいえ同じガンダムマイスターであり、いわば同士討ちだというのに。
ティエリアが加わっても2対1、スローネの機体性能を考えても不利な局面ではあるのだが、ティエリアに悲愴感はない。むしろ「まさか君とともにフォーメーションを使う日が来ようとは思ってもみなかったよ」と刹那に声をかけるティエリアは笑いすら滲ませている。刹那も「俺もだ」と応じているが、何だかんだこの二人は似たもの同士なのである。
無口で無愛想、基本無表情でクールな印象なのに思い切り感情で動き、精神的に動揺しやすい。かたやガンダムを、かたやヴェーダを神として信奉している。ティエリアが初期に刹那に示した強い反発は、同族嫌悪だったのではと思ってしまうほどだ。
ここでトリニティという共通の敵を相手に、それも任務としてでなく自由意志で共闘したことから、ティエリアは明確に刹那に仲間意識を示すようになり、規律一辺倒だったのが次第に角が取れてくる。
対トリニティの戦闘から帰還したのち「命令違反を犯した罪を(与えてくれ)」と自らスメラギに申し出るあたりはまだ堅物らしさを思わせるが、「そんなのいつしたっけ?」とスメラギに笑顔でごまかされ、ロックオンに「そういうことだ」と取りなされると、それ以上食い下がろうとはせず「それが人間か」と薄く微笑む。アレルヤも「何かあった?」とティエリアの変化を感じ取っているほどに、ティエリアは柔らかくなりつつある。
その後ヴェーダからのバックアップ完全停止とロックオンの負傷→死去という大きなショックを経て、ティエリアの心はどんどん人間に近づいていく。ヴェーダとのリンクができなくなった以上、彼はもはやヴェーダの生体端末とは言えず、残ったのはティエリア・アーデという一個体なのだから、彼の心持ちが人間と変わらなくなっていくのは当然のことだ。


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『機動戦士ガンダム00』(1)-8(注・ネタバレしてます)

2025-01-25 19:42:20 | ガンダム00

ティエリアが改めてヴェーダから拒否されたのは国連軍との初の戦闘の時である。国連軍は〈裏切者〉によって手に入れた疑似GNドライヴを搭載した新型モビルスーツGN-Xを投入。
先立つGN-X対トリニティの戦闘でGN-Xの性能のほどはすでに承知していたものの、物量とエース級揃いの敵パイロット達の実力を前にガンダムマイスターたちは苦戦を強いられる。それでも必死の抵抗を続ける中、いきなり機体のシステムが完全ダウンしたのだ。
ヴェーダが裏切者によってハッキング、一部改竄も行われていることはすでにマイスターを含めたプトレマイオスクルー皆がわかっていたことだ。だからこそスメラギはフェルトとクリスにヴェーダから独立したシステムを構築させていたし、ガンダム4機のシステムダウンを知ってすぐに予備システムへの切り替えを行っている。おかげで機体が動かなくなったのは一時だけですぐにエクシア・デュメナス・キュリオスは活動再開できたのだが、ティエリアのガンダムヴァーチェだけは全く反応しなかった。
これは後のフェルトの独白にあるように、ティエリアが直接ヴェーダと精神でリンクしていたためティエリアの存在自体が予備システムへの切り替えを妨げた―つまりはシステム的な障害が直接原因だったようだが、ティエリア自身の気持ちの問題も大きかったはずだ。機体を立て直そうともせず「僕は・・・ヴェーダに見捨てられたのか・・・」と呆然と呟くばかりだったのがその証だ。
ヴェーダを絶対的な指針、神として信奉するティエリアがその神を見失った絶望は想像に余りある。少年兵時代にガンダムに命を救われた経緯のある刹那も、ヴェーダでなくガンダムを一種神のごとくに崇めていてエクシアが動かなくなったことに一時絶望しかけているが、まもなく自身を奮い立たせて懸命に機体を動かそうと試みた。
両者の違いはおそらく、ヴェーダの生体端末として作られたその出生ゆえに、ヴェーダとリンクできるのは生まれ持った能力であり、それを当然のこととしてきたか、ガンダムに憧れ自らガンダムになろうとして努力を重ねてきたかにあるのではないか。あるのが当たり前、それがない状態が想像もできないティエリアと、最初から持っていたわけではない、持っていない時間の方がずっと長かった刹那では、失った時の気持ちの切り替えに差が出るのが自然である。刹那は失った物を取り戻そうと足掻いたが、ティエリアには取り戻すという考え自体思いつかなかったのかもしれない。

それにしても前回書いたようにヴェーダに背かれるのはこれが最初ではないのだ。ナドレの強制解除という異常事態をティエリアはすでに体験しているが、その時はここまで動揺してはいなかった。
国連軍との戦闘でのティエリアの絶望がとりわけ大きかったのは対トリニティ戦以上に多勢に無勢の危機的状況であり、全システムがダウンしたため全く動けない―死ぬのは必至という状況だったこと、さらにシステムダウンの少し前、「ぼくらの滅びは計画に入っているというのか」というアレルヤの疑いの声を聞いてしまったことによるのではなかろうか。
単にヴェーダが乗っ取られたというだけでもヴェーダの無謬性を冒されたという意味ではティエリアにとっては大いにショックだろうが、アレルヤの疑いが本当だとすればヴェーダは最初からティエリアを使い捨ての道具としか見ていなかったことになる。「そんなことが!」とアレルヤの言葉を否定しようとしたところへシステムダウンが起こったことがその疑惑を裏書きした。
ナドレのような生命維持に直接は関係ない一部能力が使えなくなったのと違い、敵の真っただなかで身動き一つできなくなるというのは、死ねと言われているのに等しい。「ヴェーダに見捨てられたのか」という言葉が出てくるのも無理からぬところだ。

この時我が身を盾にティエリアを救ったのがロックオンだった。自分をかばって怪我を負った、それも狙撃型ガンダムのマイスターであるロックオンが効き目である右目を失った。ヴェーダに見捨てられたショックに加え、ロックオンに戦士として致命的な(三週間ほど戦線を離脱して治療すれば治るのだが)大怪我を負わせたことがティエリアをさらに懊悩させる。
その苦しみからティエリアを救ったのは、怪我を負った本人であるロックオンだった。一人沈み込んでいたティエリアに声をかけ、「ヴェーダとの直接リンクができなければ(中略)僕はマイスターに相応しくない・・・」と弱音を吐くティエリアに「単にリンクができなくなっただけだ。俺たちと同じになったと思えばいい」「四の五の言わずに(戦争根絶を)やりゃいいんだよ」と発破をかけた。
ロックオンの負傷を自分のせいだとあれだけ苦悩していたティエリアがいざ本人を目の前にしたら、まず謝ったり怪我を気遣ったりするのでなく別の悩みを吐露してしまうのが―そして去り際のロックオンにようやく「・・・悪かった」と一言だけ告げるのが―彼の不器用さとロックオンへの甘えを示しているようで、ちょっと微笑ましい。
この時ロックオンに「失敗くらいするさ、人間なんだからな」と言われて、「人間、か・・・」とティエリアは呟く。おそらくティエリアが自分を〈人間〉として位置づけるようになったのはこれが最初だ。
ずっとヴェーダの生体端末―人ならざる者であることに誇りとアイデンティティを置いていたティエリア、過去の大失敗の傷を抱えながらも戦うことを選んだスメラギを評した「そういうことができるのもまた人間なんだよ」というロックオンの台詞に「人間か・・・」と呟き、刹那とロックオンの和解のシーンを見て「これが、人間か」と微笑んだ時は外側から人間という物を眺めて関心や好感を抱いたという感じだった。
それがヴェーダの忠実な僕としてのアイデンティティが決定的に揺らいでいる時に命の恩人たるロックオンから人間として扱われたことで、自身を人間の側に置くようになった。そしてやがてセカンドシーズンでイノベイドのブリング・スタビティと戦った際には「討つというのか、同類を!」とのブリングの言葉に「僕は人間だあっ!」と叫ぶに至るのである。

同時に、この時からヴェーダという神を見失ったティエリアは、ロックオンに崇拝にも似た思い入れを見せるようになっていく(この場面以降ファーストシーズンのラストまで、ティエリアはしばしば「私」という一人称を口にするようになる。怪我人のロックオンが出撃できないよう扉にロックをかけた際の「私は前回の戦闘で彼に救われた。だから今度は私が彼を守る」、ロックオンが亡くなった後、不利を知りつつ最終決戦に挑む意志を示した際の「これは私だけの気持ちではありません。マイスターの総意です」「私はロックオンの仇を討たなければならない」もそう。多くはロックオンがらみで「私」とたびたび発するティエリアの姿にまたまた〈ティエリア実は女説〉が浮上したんじゃ?なんて想像したりします)。
ファーストシーズンのクライマックス、戦いは終わったもののナドレが大破し、死を覚悟したティエリアが「これで、行ける、これで、あなたの元へ・・・ロックオン・・・」と口にする場面など、どれだけロックオンが好きなんだと驚いた。
この場面、すでに機体はぼろぼろだったが、最後の力を振り絞って太陽炉を取り外し宇宙に放出して(少し離れたところにいる強襲用コンテナに乗るスメラギとイアンに託した)しまったのでティエリアは意識不明のままナドレごと宇宙空間に漂っているしかない状況になっている。「あなたの元へ」の台詞からしてもここで亡くなったのだろうな・・・と思わせておいてセカンドシーズンでは初回から元気に登場している。
あの状況からどうやって助かったんだ!?おそらくコンテナに向かって射出された太陽炉に気づいたスメラギたちが太陽炉を放出した機体がそばにいるはずだと周辺を捜索してティエリアを見つけたという流れではないかと思うのだが(ファーストシーズンのラストでは、刹那もグラハムと相討ち→爆発のあと姿を現さず、マリナに宛てた「あなたがこれを読んでいるとき、俺はもう、この世には・・・」で始まる手紙が紹介されたりするので、刹那死んだ?セカンドシーズンあるのにここで主人公まで死ぬ?と視聴者を驚かせる展開になっている)。
ともあれ、他のガンダムマイスターが刹那とアレルヤは機体ごと行方不明、ロックオンは死亡と総崩れ、スメラギもソレスタルビーイングを離れた中、ティエリアがイアンやフェルトたちとともにソレスタルビーイングを守ってくれていたことに何だか頼もしさを覚えたものだった。
しかし刹那・アレルヤ・スメラギが復帰し、ロックオンの弟ライルが二代目ロックオン・ストラトスとして加入、4年ぶりにソレスタルビーイングが本格稼働しはじめた矢先、〈同胞〉であるイノベイター(イノベイド)たちの登場によって、ティエリアは新たな悩みを抱えることとなる・・・。

 


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『機動戦士ガンダム00』(1)ー7(注・ネタバレしてます)

2025-01-18 19:42:56 | ガンダム00

ティエリア・アーデ

ソレスタルビーイングのガンダムマイスターの一人。機体は大火力重武装のガンダムヴァーチェ(ファーストシーズン)→セラヴィーガンダム(セカンドシーズン)→ラファエルガンダム(劇場版)。
マイスターの内でも最も中性的の容姿のティエリアが最もゴツい機体に乗っているというミスマッチが面白い(制作サイドもそれを狙ったのだろう)。実は他のマイスターと違い、人間ではなくヴェーダの生体端末(イノベイド)である。

初期のティエリアはとにかくイオリア計画、というかヴェーダを絶対的に信望していて、計画に狂いを生じさせることや規律違反に極めて厳しかった。結果的に自ら敵(サーシェス)に姿を晒した刹那を銃殺しようとしたり、人革連にアレルヤが一時捕虜にされた時には「なんという失態だ、万死に値する!」と激怒したり、その後何とか全員無事に帰還した後に「すべては作戦の指揮者であるあなたの責任です」とスメラギを真っ向から断罪したり・・・。
スメラギを責めた時はティエリアがブリッジを出ていった直後に操舵士のリヒティが「緊張したあ~」と大きく息をつき、オペレーターのクリスも「みんなの前であんな事言わなくてもいいのにね」と咎めるような顔をしていた。
正直この時期のティエリアは堅物すぎて刹那とどっちこっちの問題児だったといっていい。イノベイド―人間より反射能力、空間認識力などに優れた存在のはずなのに、むしろ当時の彼は無意識的(意識的?)に見下していたろう他のクルーより人格的には未完成かつ不安定。
それが最もあらわになった場面の一つが、先に挙げたアレルヤが捕虜にされた件の少し後に自身もピンチに陥りとっさにガンダムナドレの姿を露わにしてしまった際の反応だ。
一人機体の中で「なんという失態だ!」とコンソールパネル?を叩きつけ、「計画を歪めてしまった・・・」「おれは・・・僕は・・・・・・私は・・・」と涙を流す。
(この一人称が激しく移り変わるシーンは動揺のあまりティエリアのアイデンティティが揺らいでいることを示しているのだと思うが、最後に少し間をおいて「私は」と口にするので、リアルタイムで視聴していた人たちの間では〈ティエリア実は女説〉が囁かれたりしたのでは?と想像したりする。「私は」の時の表情も声のトーンも何だか女の子っぽいし。まあイノベイドのティエリアはもともと性別がないそうなので時に女っぽく見えても不思議はないんですが)
人前ではない、体面を気にしなくていい状況だったとはいえ、この極めて情緒不安定な様子を晒すティエリアは、本人の自負する所とはかけ離れて何とも危なっかしく見える。
ただそれは必ずしもマイナス要素ではない。むしろ不完全であるゆえに刹那と同じくらい伸びしろがあるともいえる。実際二つのシーズンを通して最も変化・成長したのは刹那と彼だろう。

ティエリアの成長のターニングポイントはいくつかあるが、その第一はヴェーダにアクセスを拒否されたこと。
これまでは自在にアクセスし情報を引き出せていたのが、ヴェーダのミッションプランにないはずのトリニティの出現に際し、ヴェーダの情報を調べたさいに途中でアクセスを拒否されるという事態が起きたのだ。さらに刹那ともどもトリニティを討とうとした際にはトライアルシステムがなぜか強制解除されてしまう。
以前とっさにナドレを使ってしまった時には「計画を歪めてしまった」とあれだけ動揺していたティエリアが、今回は自分の意志でナドレを起動させその真髄であるトライアルシステムを発動させた。「ヴェーダとリンクする機体を全て制御下に置く。これがナドレの真の能力。ティエリア・アーデに与えられたガンダムマイスターに対するトライアルシステム!」という口上は自信に満ちてどこか得意げな響きすらある。
トライアルシステムを使えるとは、その気になればトリニティだけでなくガンダムマイスター全員を一時的にせよ支配下におけるということである。この事実をもってティエリアが自分の他マイスターに対する優越性の根拠としていてもおかしくない。
初期のティエリアが時折見せる他マイスターたちを下に見ているような態度は、自分がヴェーダに直接アクセスできるからというだけでなく、トライアムシステムの使用権をゆだねられている事も影響していたのだろう。
ゆえにそのトライアルシステムを何者かによって(視聴者にはそれがアレハンドロ・コーナーであることが示される。直接には彼の傍らに侍っているリボンズがやったのだろうが)解除されたというのは、自身の優越性を損なわれたという点で甚だしく自尊心が傷ついたに違いない。

とはいえこの時点では、ヨハン・トリニティが〈刹那がロックオンの家族の間接的な仇である〉ことをすっぱ抜いたためにそちらに話がそれてしまって、トライアルシステムを強制解除された件についてはあまり引きずっていない。むしろ刹那とロックオンが一応の和解を見たさいには「これが、人間か」とさわやかな笑顔を見せたりもしている。
ティエリアが〈ヴェーダに拒否された〉ことに身動きもままならない程のショックを受けるのはもう少し先の話になる。


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『機動戦士ガンダム00』(1)-6(注・ネタバレしてます)

2025-01-10 21:29:30 | ガンダム00

アレルヤは自分と同類の子供たちを殺すことを躊躇い、保護するすべはないかと考えたものの、人間兵器として育てられた彼らに未来などない、保護など不可能だとハレルヤに一蹴され、「この悪夢のような連鎖を、ぼくが断ち切る。今度こそ、ぼくの意志で」と気持ちを固めてスメラギに施設の攻撃プランを提出する。
だが実際に作戦を行う段になると、施設の建物を前に中の子供たちの声を脳量子波で感知、彼らを殺さず保護することはできないかとこの期に及んで悩み始める。そして再び保護など不可能、彼らに未来などないと前回と同じような台詞でハレルヤに否定される。
そしてハレルヤの言葉に煽られたかのように、施設の建物をずたずたに破壊、死にたくないと悲鳴をあげていた子供たちを建物ごと葬り去った。一度決意したはずなのに、いざ施設を目の前にし子供たちの声を聞くと決意がぐらつき、ハレルヤとまた同じような問答をしたあげく半狂乱になりながら施設を攻撃し、建物が消滅する瞬間は見届けないまま踵を返す――このあたりの言動は優柔不断と見なされても仕方ないだろう。

この件からのアレルヤの立ち直りは意外と早く、スメラギのもとに赴き、「ひどくそういう気分なんです」と酒を所望している。
部屋で鬱々としていた姿、「そういう気分」だという台詞がこの作戦で彼の負った心の傷を示しているには違いないが、態度はごく穏やかで微かに笑顔を見せてすらいる。
使命のためとはいえこれまでも多くの人を直接間接手にかけて来ているのだし、すでに殺してしまったものをいつまでも嘆いていても仕方がない、切り替えて先に行かなければならないのは確かだが、今回は〈同胞殺し〉だけに切り替え早いな!と思ってしまったりもするのだ。
ちなみにアレルヤが訪ねた時スメラギは一人で飲んでいて、「どうしたのアレルヤ、新しい作戦でも立案した?」と背を向けたまま問いかけている。
このやや棘のある態度は多くの子供、それも非人道的実験の被害者を大量虐殺する作戦を承認・指揮したことにスメラギ自身も傷ついていたことの現れだろう。人革連の非道は人道的にも政治的にも明るみに出すべきだし、ヴェーダもこの作戦を推奨した。それでも罪もない不幸な子供たちを救える方法はなかったのかと、こんな計画を持ち込んだアレルヤに恨み言の一つも言いたい気分があったのではないか。

実際子供たちを殺さず済ますやり方はなかったのだろうか。ハレルヤは〈ない〉と(施設を脱走しても今なお戦う人生しか選べていない自分たちを根拠として)決めつけていたが、施設破壊後にやったように〈超人機関の存在をマスコミにリークして全世界的な批判の的にする〉だけではいけなかったのか。
子供たちは悪事の生き証人として人革連内の警察なり国連なりに保護され、取り調べが終わった後も世界の目もある中、いくらなんでも殺されはすまい。おそらく児童福祉施設かトラウマ治療のための精神科病棟に送られる事になったのではないか。自由とは言い難いが、施設ごと殺されるよりはよほどましな未来があったと思うのだ。
アレルヤは人革連の低軌道ステーションの重力ブロックが漂流し地球に落ちかけた事故のさいに、本来の任務を放棄して重力ブロックを救っているが、この時命令違反を咎めたエージェントの王留美に「あなたにはわからないさ。宇宙を漂流する者の気持ちなんて」と(通信を切ってから)返している。
これと同様に処分=抹殺されるのが嫌で施設から脱走したアレルヤは、施設を破壊しようとした時に〈死にたくない、助けて〉と叫んでいた子供たちの気持ちが誰よりわかるはずだ。傍目にはどんなに不幸な境遇でも、施設を出た後の未来が不確定でも、それでも生きたいと願い生きるためにあがく気持ちがアレルヤには実感を持って理解できたはずなのに。
重力ブロックの事故の時にはハレルヤから主導権を取り戻して人命救助に動いたアレルヤが、この時は「撃ちたくないんだ!」と心で叫びながらもハレルヤの言葉に従ってしまった。もしマリーが未だ生きて施設内にいたとしたら、アレルヤは自分の手でマリーを殺すことになっていたというのに。

そう、ここで不思議なのはアレルヤがマリーが施設にいる可能性を全く考えていないことだ。
ハレルヤの方はわりと早い段階からピーリスがマリーだと気づいていた=マリーが施設にいないことを知っていたが、ピーリスの正体をアレルヤには伏せていた。だからマリーがいる可能性を案じてもいいはずなのだが、それがないのは何故か。
自分たちが処分されようとしたくらいだから、脳量子波は強くても五感を失ってしまい身動き一つできないマリーが処分されないはずはないと確信していたのか。それとも身体の動かないマリーを連れて逃げる手段がなく、見捨てて行かざるを得なかった時点で、マリーの事はもういないものと割り切って意識から締め出してしまっていたか。おそらくはこの両者が入り混じった感じだったのではないか。
(しかし失敗作と見做した被検体を容赦なく処分する超人機関が、全く身体が動かない、脳量子波の使えない相手(施設を運営管理している超人機関のスタッフたち自身は脳量子波を使えなかったろう)と意思の疎通を取ることができないマリーをよく生かしておいたものだと思う。
それだけマリーの脳量子波の強さが際立っていたということだろうか)

ともあれマリーは施設にはいなかったし、おかげでアレルヤは生涯の伴侶を知らないうちに殺してしまわずに済んだ。
ただマリーはどうかわからないがピーリスの方は施設の襲撃を〈兄弟たちを殺した〉と怒っていた。超兵であることに誇りを持つピーリスは超人機関を基本的には肯定していたので(敬愛するスミルノフ大佐が超人機関を非人道的な組織と見なしているのは気づいていたろうから全肯定ではなかったかも)、超兵の卵である機関の子供たちは可愛い後輩であったろう。
マリーは記憶と人格を取り戻しアレルヤと行動を共にするようになった後、超人機関襲撃の件でアレルヤを責めた様子はないが、マリーとしては同族たちの死をどう捉えていたのだろう。
おそらくはアレルヤから脱走した後の過酷な体験(わずかな食料と空気を求めて仲間と殺しあった)を聞き、昔と変わらぬアレルヤの優しい性格に触れて、超人機関が失くなった後に子供たちが味わうだろう地獄も思い合わせた上で機関ごと彼らも殺す選択をしたアレルヤの気持ちに、怒りの感情もありつつ共感もしたのではないだろうか。
そしてマリーと記憶・感情を共有するピーリスも、マリーがアレルヤを受け入れたことで、表面では反発しつつも心の底ではアレルヤを認めるようになっていったのではないか。セカンドシーズンの終盤、ヴェーダ奪還作戦に臨む際に、「ぼくやソーマ・ピーリスのような存在が、二度と現れない世界にするために」と戦う理由を表明したアレルヤにピーリスは複雑な視線を向けているが、超人機関の子供たちへのアレルヤの対応への反感と共感という相反する感情がそうさせたように思えるのである。

とはいえ、セカンドシーズン中盤以降のアレルヤだったら、施設は破壊しても子供たちは保護する作戦を考えたのではないかという気がする。
土壇場で何とか子供らの命を救えないかと迷ったアレルヤに最終的に引き鉄を引かせたのは、彼らに未来などないというハレルヤの言葉だった。未来などない、自分たちがいい証拠だと言われて納得してしまう程には、この頃のアレルヤは自分を不幸だと思っていたのだろう。
しかし彼はマリーを取り戻し、プトレマイオスの中で共に生活することも許された。非人道的な実験の犠牲者であっても、生き延びるために仲間を殺し今なお使命のためとはいえ戦い続け人を殺し続けている身であっても、幸せになれることをアレルヤ自身が証明したのだ。マリーと結ばれた後のアレルヤなら、ハレルヤの言葉に〈そんなことはない〉と言い返せたのではないか。
この件に限らず、マリーが記憶を取り戻し彼女の心を得てからのアレルヤは、かつてのような弱々しい態度は見せなくなってゆく(ファーストシーズン最後の決戦で自分から積極的に戦う意志を示した際にも兆候はあったのだが。この時は戦う意味もわからないままでは死ねないとの思いが彼の心を強くした。戦闘相手がピーリスだったというのは何とも皮肉だが)。
行方不明になったマリー=ピーリスを探しにきたスミルノフ大佐との死も辞さない堂々たるやりとりに顕著だが、マリーという生き甲斐を得たことでアレルヤは逞しく成長したのだ。

余談だが上で触れたファーストシーズンの最終決戦で、アレルヤとハレルヤ、二つの人格が同時に表出した時その戦闘能力―反射と思考の融合―において彼らは唯一超兵の成功例とされたピーリスを上回った。
その後の4年間囚人として監禁・拘束されていたにもかかわらず、刹那に救出されると間もなく自分の足で走って逃げている。そして劇場版の前半では生身でELSに追われた際に(どちらかというとハレルヤが)壁を駆け上がるなどとんでもない身体能力を見せている。
これらを見るにつけ、なぜ彼が失敗作と見なされ処分されそうになったのか不思議になってくる。アレルヤ(たち)が処分されると勘違いしただけでは?と思いたくなってしまうが、超人機関の担当官?がアレルヤの資料を調べたさいに「DISPOSAL」(処分)となっていたので処分対象だったのは間違いないのだろう。狂暴なもう一つの人格=ハレルヤの存在のせい?
超兵第一号がピーリスということは十年以上研究してて成功例が一人しかないわけで、要は基準が厳しすぎたのでは?とアレルヤ・ハレルヤの戦闘・身体能力の優秀さを見るにつけ思ってしまうのだった。

 

追記―前回・前々回更新分のタイトルが間違ってたので、修正しました(汗)。すみません。


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『機動戦士ガンダム00』(1)-5(注・ネタバレしてます)

2025-01-04 22:08:12 | ガンダム00

アレルヤ・ハプティズム

ソレスタルビーイングのガンダムマイスターの一人。機体は可変飛行型のガンダムキュリオス(ファーストシーズン)→アリオスガンダム(セカンドシーズン)→ガンダムハルート(劇場版)。人革連軍の秘密組織「超人機関」の人体実験によって生み出された「超兵」の一人。

他のプトレマイオスクルーが基本的にソレスタルビーイングで与えられたコードネームを名乗っているのに対し(刹那、ロックオン、スメラギは確定。イノベイドのティエリアはもともとソレスタルビーイング外の世界で生きたことがないはずなのでコードネーム=本名だろう。一方第二世代のガンダムマイスター同士のカップルを両親に持つフェルトは、外伝小説『機動戦士ガンダム00P』によると、やはりソレスタルビーイング外の世界を知らないにもかかわらず別に本名―もしかすると本人と死んだ両親しか知らないかもしれない―が存在しているそうだ。イアンと医師のJBモレノはソレスタルビーイングへの参加の経緯からすると本名っぽい。イアンが本名ならその妻子のリンダとミレイナも本名か?)、アレルヤという名は超人機関時代にマリー・パーファシーにもらった名前であることが作中で語られている。
それをそのままコードネームとして用いたのは、アレルヤという名前が本名ではなく超人機関内での通称ですらなく(超人機関での名前=識別番号はE-57)、マリーと二人の間だけでの呼び名だったからだろう。
もし仮にアレルヤという名前が組織外の人間に知られたとしても、そこから彼の過去に辿りつくことはできない。それがわかっていたからソレスタルビーイングもアレルヤという名の使用を認めたと考えられる(小説版では、マリーの存在とアレルヤという名の意味―神への感謝の言葉―が当時の彼にとって唯一の希望であったがゆえに、ソレスタルビーイング参加後もコードネームとして用いたと記されている)。
ハプティズムという姓(?)の由来は不明だが、一字違いの「バプティスム」(baptism)は「洗礼」(キリスト教入信の儀式の一つ)の意味なので、「アレルヤ」が神を称える言葉であることからしてバプティズムを意識して(制作陣が)命名したのだろう。アレルヤのもう一つの人格がアレルヤ(alleluia)の頭にHを加えたハレルヤ(hallelujah)なので、同じくバプティズムのbをhにずらしてハプティズムとしたのかも?
ちなみに再び小説版では上で書いたアレルヤという名前をソレスタルビーイングでも使用した理由に続けて「それは文字どおり、彼にとっての「洗礼」であった・・・・・・。」との一文がある。

穏やかかつ優しい気質の常識人で、マイスターの中ではロックオンについで話しやすそうな人(刹那とティエリアが話しかけにくすぎるともいえるが)。彼の不安定要素はもっぱら戦闘面――アレルヤ同様超兵である人革連のソーマ・ピーリスとの脳量子波共鳴現象及び戦闘時(有事)に限って現れる狂暴なもう一つの人格・ハレルヤの存在に由来する。

後者は「ハレルヤ」の項で詳述する予定なので措くとして、前者については(3)-5でも書いたように脳量子波を遮断するための措置を何かしら取れなかったのかと(笑)。戦場でピーリスとかちあうたびに実質無力化させられてたというのに。
ファーストシーズンのラストでハレルヤが〈消滅〉したあとハレルヤが復活するまでアレルヤが脳量子波を失っていたこと、劇場版で脳量子波に引かれるELSがアレルヤよりマリー(ピーリス)、マリーよりハレルヤを追いかけていたことからいっても、実際に脳量子波を操れるのはハレルヤの方らしいのに、脳量子波の干渉だけは受けてしまうというのも不便極まりない話である。
アレルヤはハレルヤの必要以上に残忍な戦闘スタイルや物言いを嘆き、そんなハレルヤ=もう一人の自分の言動は自分が心の奥で望んでいることなのではないかと悩んでいるが、実際ハレルヤという人格が現れたのはいつなのだろうか。
超人機関に〈脳や身体をいじくりまわされた〉結果、脳量子波に目覚めたのと同時期にハレルヤの人格も生まれたと考えるのが妥当だろうが(超人機関の担当官?がアレルヤの資料を調べたさいに「脳量子波処置後新たな人格が形成。狂暴性あり」と独り言を言っているのもこれを裏付ける)、ハレルヤが表に出て何がしかの行動を起こしたのは分かっている限りでは、〈処分〉を免れるべくアレルヤが仲間たちと共に輸送船を奪って施設を脱走した後、行く当てもなく漂流するうちに酸素と食料が尽きかけて、自分が生き延びる(少ない酸素と食料を独り占めにする)ために仲間を皆殺しにした時である。
マリーが「知っていたわ。あなたの中にもう一つの人格があったことは」と語っているが、この事件以前はハレルヤの人格は存在はしたもののアレルヤの中で眠っている状態で、アレルヤが本格的に生命の危機にさらされた時初めてアレルヤを、そして自分を守るために人格交替が起こったのではないだろうか。
きっかけは人体実験でも、強烈なストレスにさらされている主人格を守り、その苦しみを肩代わりするために生まれた人格と考えると、いわゆる多重人格障害の定型に沿っているといえる(もっともアレルヤがハレルヤの存在を自覚しているのみならず会話まで出来てしまうあたりは定型から外れている。脳量子波というファクターがあるゆえか)。
それだけにハレルヤが超人機関の施設の破壊をアレルヤに持ちかけた時に皮肉ったように、「自分がやりたくなかったことに蓋をして、自分は悪くなかったとでも」言いたいために辛い役割をハレルヤに押し付けている、自分が綺麗なままでいたいためにハレルヤに汚れ役をやらせているようにも見えてしまう。
ピンチになるとハレルヤが主導権を握って残酷過ぎるほどの戦法で敵を屠るのを、一番間近で見ながら止められず事後に「なぜなんだハレルヤ・・・」と涙を流すアレルヤは、優しいけれどそれゆえに弱々しく頼りない。こうした彼の〈弱さ〉が前面に出たのが上で書いた超人機関研究施設の破壊作戦である。

 


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『機動戦士ガンダム00』(1)-4(注・ネタバレしてます)

2024-12-27 22:44:35 | ガンダム00

ロックオン・ストラトス(ニール・ディランディ)

ソレスタルビーイングのガンダムマイスターの一人。機体は狙撃型のガンダムデュメナス。マイスターの中では最年長(それでも20代半ばだが)ということもあり、みんなの兄貴分的存在。
明るく寛容で冗談も通じて、自然と周囲を気遣える大人の男性。フェルトが彼にほのかな恋心を抱いたのもわかるというもの。
刹那やティエリアのような癖の強い面々もロックオンを慕っていた。とくにあのティエリアを落としたのはすごい。
別段ロックオンにはティエリアを懐柔しようなどというつもりはなく、身を挺してティエリア(ガンダムヴァーチェ)をかばったのも、ヴェーダとのリンクを失ったうえにロックオンに傷を負わせてしまったことで落ち込むティエリアを励ましたのも、ロックオンとしては当たり前の言葉をかけ行動を取っただけ。
人革連によるガンダム鹵獲作戦のさいにナドレの機体をさらしてしまい、その自責の念から大元の戦闘計画立案者であるスメラギを厳しく批判したティエリアをたしなめつつも「可愛いよな、生真面目で。他人に八つ当たりなんかしてさ」と受け入れ、スメラギが過去に犯したミス=友軍との同士討ちにティエリアが言及した時も「誰だってミスはする。(中略)が、ミス・スメラギはその過去を払拭するために戦うことを選んだ」と彼女を擁護した。
ティエリアが人間ではないことをおよそ察しながらも何も言わず上掲のティエリアを励ます場面では「失敗ぐらいするさ。人間なんだからな」とティエリアをあくまで人間として扱った。
周囲の人間の内なる思いを鋭く察し、言うべきことは言うが基本的に相手を欠点含めて受け入れる――この度量の広さが彼が皆から頼られる所以でしょう。その分「優しいんだ、誰にでも・・・」とフェルトが淡い嫉妬心を覚えてしまったりもするわけですが。

そんな彼に平静さを失わせるのがテロに対する強い憎悪。ソレスタルビーイングへの牽制として起こされたテロに一般人が巻き込まれても「そんなことで我々が武力介入を止めると思っているのか」と冷笑したティエリアの胸倉を掴む場面はふだん飄々としている彼だけにインパクトが強い。
そしてかつてテロ組織KPSAの一員だったと発覚した刹那に銃を向けた一件。ロックオンがテロを憎む理由が家族をテロで失ったことにあるのはすでに明かされている。
そのテロを行ったのがKPSAだったわけだが、刹那が直接このテロに関わったわけではない。刹那が幼いうちに偽の教義を刷り込まれ少年兵に仕立て上げられた、いわば刹那自身も被害者であることもロックオンは理解している。
それでも家族の仇への憎しみが刹那に向かうことを止められなかった。刹那との問答を通じてひとまず和解したものの、大事な戦力である刹那を、紛争根絶のための戦いも途上のこの時点で殺そうとしたというのは、私怨をソレスタルビーイングとしての使命に優先させていると見なされても仕方ないだろう。
加えて刹那への怒りはひとまず収めたものの私怨を捨てたのではなく、刹那をゲリラ兵に育てあげた、主敵というべきアリー・アル・サーシェスに憎悪の対象を移したに過ぎない。そしてティエリアやアレルヤに加勢するために目の怪我を押して出撃したはずがサーシェスと遭遇し、機体が大破してなお家族の仇討ちのためサーシェスを倒すべく体を張り命を落とした――。
ロックオンに限らずソレスタルビーイングの参加者はテロや戦争で心身に深い傷を負った者が多く、後のアロウズ参加者―ルイス・ハレヴィやビリー・カタギリを見ても、人を無謀といっていいような戦いへ向かわせる根本的動機は結局その心の傷、トラウマであって、〈紛争根絶〉〈恒久平和の実現〉といった理念は表向きに過ぎないのだろう。
ロックオン自身も「何やってんだろうな」「わかってるさ。こんなことしたって何も変わらないって」と自嘲しているが、それでも家族の仇を討つというのはロックオンにとっては譲れない一点だったのだ。

ロックオンの印象的な台詞「刹那、おまえは変わるんだ。変われなかったおれの代わりに」も、不毛と感じつつも復讐に走らずにいられなかったことへの自嘲、反省の現れのように感じられる。
ちなみにこの台詞、セカンドシーズン、映画版ともに刹那に覚醒を促すキーワードのように登場するが、刹那の回想(夢?)中に出てくるだけでロックオン本人がこの言葉を口にする場面はない(小説版では死を前にしたロックオンが心の中で刹那に問いかける台詞の一部として出てくる)のだが、単に刹那の中のロックオン像が〈変われなかった男〉だということではなく、イノベイター(予備軍)の刹那であってみればロックオンはじめ死んだ仲間たちの姿と声を見聞きするのは本当の彼らの残留思念を感知しているのではないか。つまり「変われなかったおれの代わりに」は本当に生前のロックオンが考えていたことではないだろうか。
たしかに生き物にとって変化できる、環境に適応できるというのはそのまま生命力の強さだといえる。だからといってロックオンが弱い人間だとは思わない。
むしろマリナにも通じる〈変わらないからこその安定感〉が彼にはあり、内面の変化が激しかった刹那やティエリアが彼を慕ったのはいつでもそこにいて自分を受け入れてくれるような、ほっとする感覚を与えてくれるところにもあったんじゃないかなと思ったりするのです。


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『機動戦士ガンダム00』(1)-3(注・ネタバレしてます)

2024-12-21 07:15:04 | ガンダム00

「変革」の最初の兆しが現れたのは、ダブルオーの支援機であるオーライザーが完成・搬入され、ダブルオーとのドッキングテストの際にトランザムを始動させた時だ。理論値を遥かに超える大量の粒子が生産・放出され、周囲にいた脳量子波の能力者――マリー、ティエリア、アレルヤの内なるハレルヤがその影響を受けている。
ただこの時点では現象の起点にいたはずの刹那はイアンたち同様ツインドライヴの真の性能に驚いているだけで、彼自身がマリーたちのように何かを感知している様子はない。ここではまだ後のイノベイター・刹那は目覚めを迎えていないのだ。
次はソレスタルビーイングの秘密基地がアロウズの襲撃を受けての戦闘時である。沙慈が操縦して運んできたオーライザーとドッキングし、トランザムシステムを発動させた際に初めて刹那は「ここにいる者たちの声が」直接脳に響く〈白い世界〉を体験する。
ただそれは沙慈やアロウズの一員――敵としてその場にいたルイス・ハレヴィも一緒で、その後すぐリヴァイヴ・リバイバルと戦った時に一瞬脳に響く声で直接対話したのも機体が量子化したのも、ダブルオーライザーの能力なのか刹那自身の能力なのか(乗り手が刹那以外だったとしても同じ現象が起きたのか)判然としていない。
その次はサーシェスに右肩を撃たれながら負傷を押して彼と交戦した時。トランザムを発動する前から傷のゆえにか半ばトランス状態に陥りつつ戦っていた刹那は、トランザム時に再び機体を量子化させ、サーシェスに止めを刺そうかというタイミングでマリナの声を感知する。
その後アフリカタワーでブシドーと戦った際もトランザムを発動させて瞬間移動のような動きを見せているが、これは機体を量子化させたものか単にトランザム下での高速移動なのか微妙なところだ。メメントモリ二号機の破壊ミッションでもトランザムライザーになっているが機体の量子化も声が直接脳に響く現象も起こっていない。
この破壊ミッションに続く「ブレイクピラー」から四か月後、刹那はメディカルチェックの際にサーシェスに負わされた銃創による「細胞の代謝障害」が「きわめてゆるやか」だと医療担当のアニュー・リターナーから聞かされる。これまで全てトランザムライザーの媒介のもとで特殊な能力を発揮してきた刹那が、機体と関係なく初めて自身の身体に変化を生じたのがここである。
少し後で、リボンズもとっくに細胞障害で死んでいておかしくないはずの刹那が平気で戦場に出てきていることに疑念を持ち、彼が純粋種のイノベイターとして覚醒しつつあるのを察する。この〈細胞障害の進行がゆるやか〉というのが刹那の身体的な意味でのターニングポイントだったろう。
その後はアニュー・リターナーの裏切りと死の騒動後に一瞬両目が金色に光るのを沙慈に目撃され(刹那本人は自覚してなさそうだが)、ブシドーとの戦いの中で〈白い世界〉に入った時にもやはり両目の虹彩が金色に光っている。
この戦の経緯を見て「純粋種として覚醒したか、刹那・F・セイエイ」とリジェネは呟いたが、この時点ではまだ覚醒は完全ではない。ブシドーの戦いの際にも刹那はトランザムライザーに乗っていたのに、トランザムバーストが発動してはいない。トランザムバーストの発動=刹那のイノベイターとしての完全な目覚めは少し後のヴェーダ奪還作戦を待つことになる。

ところで、もし刹那がダブルオーに乗っていなかったとしたら、それでも彼はイノベイターとして覚醒しえただろうか。
これは正直難しかったと思う。イオリアがパイロットをイノベイターとして覚醒させることを主な目的としてツインドライヴやトランザムシステムを作ったことはほぼ確実と思われ(詳細は後述)、トランザムライザーのパイロットという条件下になければ刹那の覚醒はなかったか、あったとしてももっと遅れていただろう。
ただ刹那にはイノベイターとなるべき資質は人並み以上に備わっていたかもしれない。先に書いた〈刹那がロックオンや沙慈に銃を向けられても抵抗しない〉件だが、「生への執着の薄さ」だけでなく他の要素も関係しているように思えるからだ。

ロックオンと沙慈の件の他にも、刹那は二代目ロックオン=ライル・ディランディに無抵抗で殴られる場面がある。自らの正体を知らずプトレマイオスの一員となりライルと恋仲になっていたアニューがイノベイター(イノベイド)として覚醒させられ敵に回った時、刹那がアニューの機体を撃ち抜き彼女を死に追いやったのが原因だ。
もし刹那が彼女を撃たなければ確実にライルが殺されていたという状況下であり、兄ロックオンや沙慈のケースと違い完全に逆恨みといってよい。
刹那は事前に「もしもの時は、俺が(トリガーを)引く。その時は俺を恨めばいい」と宣言していたので恨まれるのは承知のうえだったろうが、顔が腫れ血を流しながら相手が疲れるまで殴られっぱなしになる――さらに後日なお気持ちの収まらないライルに後ろから銃で撃たれそうになっても、気づいていながら避けようとしない。
また初めて〈白い世界〉を経験しルイスがアロウズにいることを知った沙慈がオーライザーを勝手に持ち出してルイスのもとへ向かおうとした際も、刹那はそれに気づきながら見逃そうとしている。
トランザムライザーはソレスタルビーイングにとって切り札とも言うべき戦力であり、それを失うことは非常な痛手となる。加えてカタロンの基地から逃げた時のように沙慈が敵方に捕獲でもされてしまえばオーライザーがアロウズの手に渡ってしまうかもしれないのだ。
ライルに無抵抗だった件はともかくも、これを見逃すというのは、ソレスタルビーイングの浮沈に関わることだけに情に流されすぎでは?と思ってしまう。

この情に、というか感情に流されやすい性質を刹那はファーストシーズンからたびたび見せている。偽りの教義で自分を戦士に仕立てあげたアリー・アル・サーシェスと戦場で再会した際にコクピットから出て相手に姿をさらしたり、マリナと初対面のさいには自分がソレスタルビーイングのガンダムマイスターであるとばらしてしまったり――とくに前者はロックオンに殴られティエリアには危うく銃殺されかける程に問題視された。
ロックオンいわくガンダムマイスターの正体は最高レベルの秘匿義務があるとのこと。刹那は仮にも秘密組織の一員としては、こうした決まり事に無頓着すぎるきらいがある。
さらに驚くのはファーストシーズンの最終決戦の後、仲間に何も言わずエクシアごと姿を消してしまったことだ。どうやら4年間自分たちの活動によって変化した世界をあちこち旅して回っていたらしいが、せめて共に戦った仲間たちには自分が生きていることだけでも伝えるべきではないか。
おまけにエクシア、というかオリジナルのGNドライヴまで持ち出してしまうとは。連邦軍やのちのアロウズが用いているGNドライヴはあくまで「疑似」であり、本物のGNドライヴはソレスタルビーイングが所有する5つしかないのである。そのうちの一つを4年間借りっぱなしで半ば私物化していたというのは・・・。
やはり最終決戦で愛機ナドレが大破したティエリアが、死を覚悟した時せめてGNドライヴだけはと最後の力をふりしぼってGNドライヴを機体から外し、生きている仲間に託そうとしたのと比較するとずいぶん自分勝手なように思えてしまう。旅に出るならセカンドシーズン最終回でマリーともども手荷物だけで旅だったアレルヤみたいにすればよかったものを。
もしエクシアのGNドライヴがソレスタルビーイングの手元にあれば、ツインドライヴシステムのマッチングテストはもっと早く成功して、武力介入再開を早めることが―それによって失われる命を減らすことが―できたかもしれないのに。
刹那の方だって左腕を失ったエクシアを彼一人ではろくに直すこともできず、機体自体の古さ(4年以上前の型)もあってアロウズ相手の戦闘ですっかり遅れを取っていた。ティエリアが助けに駆け付けなければ沙慈ともどもあの場で命を落としていたかもしれない。
素直にエクシアとともにソレスタルビーイングに一度帰還していれば、エクシアもちゃんと修理してもらえたし新しい機体(ダブルオー)にももっと早く乗れていただろうに。
ただサーシェスの件では刹那の行動にあれほど腹を立てたティエリアが、刹那が4年間連絡もよこさずエクシアを勝手に持ち歩いていたことを全くとがめず「やはりアロウズの動きを探っていたか。久しぶりだな」と穏やかに挨拶をしている。
映画版など刹那がELSを攻撃しなかった理由を問いただして「わからない」というふざけた応えをもらった時も「(わからないのにそのように行動したということは)イノベイターとしての直感がそうさせたようだな」とむしろ高評価。
イノベイターはきわめて勘が鋭い。ことイノベーターに関しては理屈をあれこれ考えるより直感を信じて動く方が正解となる可能性が高いのだろう。あまり物事を深く考えずその時々の感情で動く刹那は、その意味でイノベイター向きだったのかもしれない。
初めてダブルオーに乗った時も、ツインドライヴのマッチングテストがまだ成功していない機体にイアンが止めたにもかかわらずトランザムで強制起動をかける(先にティエリアがこの方法を提案したさい「オーバーロードして最悪自爆だ」とイアンに却下されている)という無茶をやらかしている。
刹那は成功すると確信していたようだが、その根拠は「ここには0ガンダムと、エクシアと、俺がいる!」であった。それで本当に成功してしまったわけだから、イノベイターとして目覚める前でも刹那のここぞの時の勘は当たっているわけである。
ヴェーダとリンクができなくなり悩んでいたティエリアにロックオンがかけた(結果ティエリアを救った)「四の五の言わずにやりゃいいんだよ。お手本になるやつがすぐそばにいるじゃねえか。自分の思ったことをがむしゃらにやるバカがな」という言葉も「自分の思ったことをがむしゃらにやる」――感じたままに(悪く言えば思いつきで)行動する刹那の〈我がまま〉を肯定していた。
情に流されやすい、考えるより感じることを重視する性格が、刹那が人類初のイノベイターとして覚醒するために有利に働いたのではないかなと思ったりするのである。


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『機動戦士ガンダム00』(1)-2(注・ネタバレしてます)

2024-12-13 21:16:32 | ガンダム00

もう一つ刹那の行動で諦念を感じさせるものがある。それは初代ロックオン・ストラトスや沙慈・クロスロードに銃を向けられたとき、全く抵抗せず彼らが望むなら殺されてもいいという態度を見せることだ。
ロックオンも沙慈も刹那が属する組織のメンバーの攻撃で家族や恋人を失っている。直接の攻撃者が刹那ではない(むしろ刹那は相手を止めようとしたり反目したりしていた)のも共通だ。
刹那をはじめソレスタルビーイングのメンバーの幾人かは紛争根絶が成し遂げられた暁には裁きを受ける覚悟を表明している。平和を望んでの行動ではあっても多くの命を犠牲にした、その罪はいずれ償わなければならない。おそらくそれは全員に共通する思いだろう。
しかし刹那は「紛争根絶が成し遂げられた暁」ではなく、「いずれ」でもなく、過去の恨みをぶつけてくる相手が目の前に現れればいつでも彼らに仇を撃たれてやろうとする。
積極的に殺されにいったり謝罪したりはしないが全く言い訳もしない。ここで殺されてしまえば悲願のはずの紛争根絶は果たせなくなるというのに。
実際ロックオンは「おれが撃てば(戦争の根絶は)できなくなる(がそれでいいのか?)」と刹那に尋ねている。それに対する刹那の答えは「構わない。代わりにおまえがやってくれれば」。
この言葉にはロックオンたち紛争根絶という理念を共にする仲間への強い信頼が感じられる。沙慈に銃を向けられた時も、もしここで撃たれて死んだとしてもティエリアたち残る仲間が思いを引き継いでくれるとの確信があったのだろう。
とはいえ刹那・F・セイエイとしては志半ばで倒れることになる。そのことへの抵抗、理想を実現するまでは生きたい、といった生への執着というものが刹那にはどうも薄いように思われるのである。

こうした生への執着の薄さ、自分は戦うことしかできないといった諦念の背景には最初に挙げた両親を殺害した件、自分は親殺しの大罪人だという思いが強くわだかまっているように感じる。
セカンドシーズンで、サーシェスとの戦いで傷を負い、マリナの歌に導かれるように彼女が身を寄せるカタロンの基地にたどり着いて倒れた刹那が、両親を殺そうとしている幼い自分を止めようとして止められない夢を見たのも、彼の深い後悔の現れだろう。
この夢の中でロックオン(ニール)から「刹那、おまえは変われ。変われなかったおれの代わりに」と言われたのを契機として、刹那は自らを変えようとし始める。
この少し後、アフリカタワーの近くでブシドー(グラハム)と戦った際に刹那は、ブシドーとの問答の中で「戦うだけの人生 俺もそうだった だが今は そうでない自分がいる!」と叫ぶ。セカンドシーズンの初期ではマリナに「俺にできるのは戦うことだけだ」と言っていた刹那が、すでに変わりはじめている。
この直後刹那は仲間が駆け付けたのに安堵+傷が開いたダメージのせいで気絶するが、意識を失いつつある中で夢の中のロックオンに答えるように、「わかっているロックオン。ここで、俺は変わる。俺自身を、変革させる」と、はっきり〈変わる〉ことを宣言する。そして次に(最後に)ブシドーと戦った時、決着の後に「俺は生きる。生きて明日を掴む。それが俺の戦いだ」と告げる。
生への執着が薄かった刹那がはっきり「生きる」意志を口にした。この戦いは刹那にとっては心の持ち様という意味で大きなターニングポイントであり、同時にリジェネ・レジェッタの言葉に従うなら、「純粋種=イノベイター」への変革を決定づけるものでもあった。

(つづく)


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『機動戦士ガンダム00』(1)ー1(注・ネタバレしてます)

2024-12-06 20:09:59 | ガンダム00

刹那・F・セイエイ

ソレスタルビーイングのガンダムマイスターの一人。機体は近接戦闘型のガンダムエクシア(ファーストシーズン)→ダブルオーガンダム(セカンドシーズン)→ダブルオークアンタ(映画版)。
幼い頃に祖国である中東の小国家クルジスの内戦に少年兵として参加。その際指揮官だったアリー・アル・サーシェスに〈これは神のための聖戦〉だと洗脳され、聖戦の参加資格を得るために必要な〈儀式〉と信じ込まされて己の手で両親を殺している。
この件が彼の精神に拭い去れない影を落とし、紛争根絶を望んでソレスタルビーイングに入る原因となる。

個人的に刹那をすごいと思うのは物語冒頭の段階で「この世界に神はいない」心境に至っていること。躊躇なく両親を殺すほどに深く洗脳されていたにもかかわらず、周囲の子供たちがなおも神を信じ神のため戦っている中で(ロックオンの一家が巻き込まれたテロの実行犯の少年は、刹那が止めるのに耳を貸さなかった)、すでに洗脳から脱している。
神の存在を疑うことは両親を殺した行為は間違っていたと認めることに繋がる。その苦しみに耐えられず間違いを認めまいとする、自ら洗脳状態を継続させようとするのが通常の心理であろう。そうした心理的罠に陥らず現実に目覚めた刹那は、それだけ精神的に強い人間だったのだと思う。
ところで彼を洗脳から目覚めさせたものは何だったのか。はっきり描かれてはいないが、おそらくは死体と瓦礫の山となった街の状景、いわゆる“神も仏もない”と嘆きたくなるような戦場の惨状だったのではないだろうか。

上で書いたように、刹那は〈武力介入による紛争根絶〉というソレスタルビーイングの理念に強く共鳴する。そのきっかけはファーストシーズン第一話冒頭部でのガンダム(リボンズ・アルマークが操縦する0ガンダム)との遭遇にある。
たった一機だけでその場に現れるなり敵も味方も殲滅、一瞬で戦闘を終了させてしまった。その圧倒的な強さと優美な形状、空から〈降臨〉したと形容したくなるシチュエーションと相俟って、ガンダムの姿は幼い刹那の心に強烈な印象を持って刻み込まれた。
泥沼の戦場の中で〈自分は名誉ある聖戦を戦っているのだ〉との洗脳から解かれて〈この世界に神などいない〉心境に至っていた刹那は、ガンダムを新たな神としてある種崇拝の対象としたのだ。
そしてソレスタルビーイングから勧誘された刹那はガンダムエクシアのマイスターとなる。ファーストシーズンで彼はしばしば「俺がガンダムだ」と口にする。さすがに自分が神だと言うのではなく、神の御心を代行する使徒くらいの意味だろうが、出会いの経緯からすれば刹那にとってガンダムとはその圧倒的な武力によって戦いを終わらせる存在なのである。

刹那は彼にとって故国とも敵国ともいえる(刹那の故郷クルジスを武力で併合した)アザディスタンの王女マリナ・イスマイールとたびたび接触を持ち、武力解決を否定する彼女に一目置いてさえいるが、彼女にアザディスタンの再興を手伝ってもらえないかと誘われた際には「俺にできるのは戦うことだけだ」とこれを断っている。
そして「悲しいことを言わないで」「戦いからは何も生み出せない・・・失くしていくばかりよ」というマリナの言葉に「破壊の中から生み出せるものはある。世界の歪みをガンダムで断ち切る。未来のために」と返す。
この〈自分は戦うことしかできない〉という諦念を刹那はしばしば(「俺がガンダムだ」と同じくらい)口にする。幼い頃から銃を持って戦い、その後はソレスタルビーイングに入って武力介入を行い、と彼の人生は両親と過ごしたごく幼い時期を除けばずっと戦いの連続である。
ファーストシーズン終了後からセカンドシーズンが始まるまでの4年前後は世界のあちこちを旅していて、その間は直接戦うことはなかったのではないかと思うのだが(片腕と顔の一部が破損したままのエクシアを携行してはいたが、4年間ソレスタルビーイングは表舞台から消えたと見なされていたということは、刹那もエクシアを使っての戦闘は行わなかったのだろう)、自分たちが変えた後の世界を偵察して回っていただけで、積極的に何かを作る、生み出す行為をしてはいない。
彼ができる、やったことがあるのはスクラップ&ビルドのスクラップの方だけで、「破壊の中から生み出せるものはある」と言いつつも、自分が担うのはあくまで「破壊」の部分で、自分が歪みを断ち切った後に新しいより優れた世界を構築するのはマリナのような人に任せたいと思っているのではないか。
無責任とか投げやりとかではなく、おそらく刹那には〈平和な世界で生きる自分〉というものを上手く思い描くことができないのだ。

(つづく)


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