読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

別府・オトナの遠足 ~路地裏、温泉、ふやけ旅 最終回・鬼笑い、ワニ咆哮の、地獄めぐり

2013-09-08 19:47:40 | 旅のお噂
別府の北部にある鉄輪温泉の散策で、古き良き湯治場情緒を堪能したわたくし。ここまで来たらせっかくなので、別府観光の目玉「地獄めぐり」をやってみようじゃないか!ということにいたしました。
「地獄」というのは、地上に口を開けた温泉の噴出口のことでありまして、古いものは奈良時代の文献にも記されているとか。赤や青などに彩られ、蒸気やお湯が噴出するという、この世のものとは思えない光景ゆえ「地獄」に喩えられるようになったそうですね。
別府には8つの名所地獄があり、そのうちの6つが、ここ鉄輪に集中しております。残り2つの「血の池地獄」と「龍巻地獄」は、歩いて行くには少々きつい場所にありますので、残念ながら割愛することにし、徒歩で回れる6ヶ所を全部踏破しよう、という、まあなんといいますか中途半端で自慢にもなんにもなりゃしない回りかたなのでありますが、とにかくひょこひょこと、6つの地獄を回り始めたのでございます。

まず最初に訪れたのが「白池地獄」。「白池」といいましても少し青みがかった感じの色で、なんだかカクテルを思わせるような涼しげな色をしておりますねえ。なんだか口をつけて飲んでみたくなるのでありますが•••温度は90度を超えるそうでございまして、飲んだら一大事なのでありますよ。

ここには、温泉の熱を活用した熱帯魚館なるものが併設されておりまして、普段なかなか見ないようなお魚たちが、水槽で悠々と泳いでいらっしゃいました。アロワナやピラルクといった面々もいましたが、中でも目玉なのがピラニアさんたちでありました。

•••それにしても「人食魚ピラニア」っていったって、実際にこのコたちが人食ったというわけでもないでしょうに。なんだかちょっぴり、カワイソウな気もしましたですよ。
白池地獄をあとにして次の地獄へ行こうとしたその時、行く手の方向から「ドン!ガリガリ」という異様な音が響いてまいりました。ビックリして前を見ると、さきほどわたくしの脇をすり抜けていったタクシーが、道に沿って立っている石垣にぶつかったあと、ヨロヨロと蛇行しながら走っていくのが見えたのであります。脇から出てきたカップルがア然としながら見ているのでありまして•••おいおい、大丈夫だったのかねえ、あのタクシーの運転手。まさか、昼間から焼酎かなんか飲んで運転してたんじゃねえだろうなあ。

お次に訪ねた地獄は「鬼石坊主地獄」。泥の池のようなところから、ポコッポコッと湧き出してくる熱泥のようすが坊主頭のように見えることから名付けられたとか。

写真に撮ろうとしたのでありましたが、なかなかタイミングを掴むのが難しく、はっきりしない坊主しか撮ることができませんでした。いやあ、残念でございました。
それにしても、地獄めぐりに来ている観光客の多いこと。この日が連休が終わったあとの平日とは思えないくらい賑わっておりましたよ。それも、けっこう外国から来ていた人たちも目立っていて、観光都市としての別府の底力を、あらためて思い知らされた気がしたのであります。

お次は「海地獄」。まるでどこかのリゾートビーチのような、コバルトブルーの美しい色に惹きつけられる地獄でございます。

なんだか、思わずザブーンと飛び込みたくなってくるような気もしてくるのですが、温度は98℃という、それこそゆで卵ができるような熱さですので、飛び込んだらこれまた一大事なのであります。美しいコバルトブルーは、硫化鉄によるものだとか。敷地内では温泉熱を利用して、大きなものでは子どもが乗ることもできるという、アマゾン原産のオオオニバスが栽培されておりました。
ここでちょっとおやつを頂こうと買い求めたのが「地獄蒸し焼きプリン」という、なんだかスゴそうな名前のプリンであります。

少し硬めに蒸し上げられた生地は甘さも控えめで、なかなか美味しゅうございましたよ。カラメルがちょっぴり苦めだったのが「地獄風」とでも申しましょうか。

お次は「山地獄」。地獄自体は、ゴロゴロと積み重なった石の間からもうもうと蒸気が上がっているという、わりと地味めなものでしたが(それでも温度は90℃はあるとか)、ここの呼び物はなんといっても、やはり温泉熱を利用して飼育されているさまざまな動物さんたちでありました。


カバさんやゾウさん、フラミンゴさん、ダチョウさん、ラマさん、マントヒヒさん、そしてニホンザルさん•••といった動物さんたちを、けっこう真近に眺めることができるミニ動物園といった趣でありました。ゾウさんは少々窮屈そうな場所に閉じ込められている感じでカワイソウな気もしたのですが•••。一方で、カバさんはあくまでも呑気そうでしたし、おサルさんたちは互いに毛づくろいなんぞしたりして、押し寄せる観光客などどこ吹く風といった風情でございました。

そうこうしているうちに時刻もお昼。近くにある食堂に立ち寄り、大分の名物家庭料理、だんご汁を頂きました。平べったい麺にたっぷりの野菜を味噌で煮込んだ実に素朴な料理。いろいろ飲み食いしたあとのお腹に優しく収まっていきました。美味しかったです。
昼食のあと立ち寄ったのは「かまど地獄」。一丁目から六丁目まで、さまざまにバラエティに富んだ地獄が詰まっていて、まさに別府の地獄を凝縮したかのような感がございました。


「二丁目」で蒸気を吹き上げる岩の上に鎮座まします鬼さんは、コワいというよりもなんだか愛嬌があっていい感じでしたねえ。また、「血の池地獄」に行けなかったぶん、ここで真っ赤な地獄を見ることができたのも良かったですね。
ここでは「温泉ピータン」なるゆで卵を頂きました。白身の部分が土色に染まっていて、白身に塩を、黄身にはしょう油を少し垂らして食べてみたら、いやあ、これがなかなか旨かったですねえ。いま思えば、いくつかおみやげに買って帰ればよかったなあ。また食べてみたいですね、これは。

最後に訪れたのは「鬼山地獄」。やはり98℃はあるという熱池地獄を過ぎた奥にはワニ園があり、大小さまざまなワニさんたちが飼育されております。


全長が7メートル近くはあるという巨大なアリゲーターやら、大小のワニさんたちが小山のように積み重なっているさまなどは、なかなかの迫力がありましたねえ。
とはいえ、その多くはあまり動くこともなく、口をポカンと開けたりしたままの状態でじーっとしておりました。が、一匹だけ「グガーーッ!」と、まるで怪獣かなにかのような声を上げて咆哮したのがおりまして、ビックリしましたねえ。あれは仲間のワニを威嚇していたのか、はたまたうるさい観光客に向けてドスをきかせていたのか。いやあ、凄味がございました。
それにしても、いろんなワニさんたちを見ているのは飽きないもので、ここではけっこう長い時間を過ごしたのでありました。

そうこうしているうちに、いよいよ別府とのお別れのときが近づいてまいりました。わたくしは鉄輪を離れ、再び別府駅へと戻りました。
構内でおみやげと、別府の古い絵葉書についての本を購入し、さあ帰るぞと特急切符を取り出そうとしたら•••
な、ない!切符がない!
バッグのあちこちをひっくり返してみましたが、結局は見つかりませんでした。どうやら、どこかで落っことしたようでありまして、仕方なくまた帰りの特急切符を購入するハメになりました。•••いやはや、最後の最後でやっちまったのでございまして•••とほほだよ。
何はともあれ、宮崎へと帰る特急列車に乗り込むことができました。車窓から外を見ると、別府観光の立役者であり、「子どもたちをあいしたピカピカのおじさん」でもあった、油屋熊八の後ろ姿が見えました。

熊八さん、アナタが育て上げた別府は本当に楽しくていいところでしたぞ。またぜひ、お邪魔しに来ますから、その時にはまたよろしく•••。
熊八さんの後ろ姿にそうつぶやきながら、わたくしは別府をあとにしたのでありました。

ずいぶんと長くかかってしまいましたが、別府へのオトナの遠足ばなし、これにて幕でございます。お付き合いいただき、どうもありがとうございました。
ではまた、次回の旅のこころまでーッ。•••て、最後も小沢昭一さんのマネかよ。

9月刊行予定新書新刊、個人的注目本10冊

2013-09-07 21:04:52 | 本のお噂
いつのまにか毎月恒例のコーナーになってきたようですが•••今月9月に刊行予定の新書新刊から、わたくしが個人的に気になる書目を10冊ピックアップしてみました。
例によって、あくまでも個人的な興味関心から選んだものですので、皆さまにとって参考にしていただけるものなのかどうかはわかりませんが、もし何か引っかかる書目があれば幸いであります。
なお、刊行データや内容紹介のソースは、書店向けに取次会社が発行している情報誌『日販速報』の8月26日号、9月2号とその付録である9月刊行の新書新刊ラインナップ一覧です。発売日は首都圏基準なので、地方では1~2日程度のタイムラグがあります。

『シルクロードの古代都市 アムダリア遺跡の旅』 (加藤九祚著、岩波新書、20日発売)
多くの文明と文化が交差する場所となった、中央アジアの大河アムダリア。そこで繰り広げられた古代の人々の営みを、国際調査の最先端から紐解いていくというもの。古代シルクロードに惹かれる身としては、ぜひ読んでみたい一冊です。

『スポーツ・インテリジェンス オリンピックの勝敗は情報戦で決まる』 (和久貴洋著、NHK出版新書、10日発売)
「スポーツ界の知られざる実態を明らかにし、『競争』が熾烈化する現代社会における情報との向き合い方を記す」と。スポーツも身体のみならず、情報の面での勝負も要求されるということなんでしょうか。気になる一冊であります。

『日本創薬物語』 (塚崎朝子著、講談社ブルーバックス、19日発売)
今月のブルーバックスで気になるのはこちら。研究者たちは、何をヒントにして効果に気づき、画期的な新薬を開発したのか、その開発秘話に迫る、と。新薬開発の過程に、他の分野にも通じるヒントがあるかもしれない、という意味でも興味が湧きます。

『司馬遼太郎が描かなかった幕末 松陰、龍馬、晋作の実像』 (一坂太郎著、集英社新書、13日発売)
史実をもとにしながらも、小説としての虚構を織り交ぜながら書かれた司馬遼太郎作品。その虚実をたどりながら、幕末・維新史を解き明かしていくという本。司馬作品で親しんだ歴史をさらに深めたい向きにはいいかもしれませんね。

『キレイゴトぬきの農業論』 (久松達央著、新潮新書、14日発売)
「キレイゴトもタブーも一切なし。畑で徹底的に考え抜いたからこそ書くことができた、目からウロコの農業論」とのこと。えてして農業は過剰に貶められたり、逆に理想化され過ぎたりして語られるところがあったりしますので、それらから距離を置いて農業に向き合う上では注目の本かも。

『秘境駅の歩き方』 (牛山隆信・西本裕隆著、ソフトバンク新書、13日発売)
なぜこんな場所に駅が?と言いたくなるような、人里離れた場所に鎮座している「秘境駅」に、週末を使って出かける方法を指南。著者の一人である牛山隆信さんは、『秘境駅へ行こう!』『もっと秘境駅へ行こう!』(ともに小学館文庫)という、大変面白い本を出しておられる秘境駅のエキスパート。ということで、なかなか楽しみな一冊であります。

『枝雀らくごの舞台裏』 (小佐田定雄著、ちくま新書、4日発売)
桂枝雀師匠の座付作者をつとめたという著者が、秘話や芸談、エピソードを音源ガイドとともに書き記した本。枝雀師匠は好きな噺家の一人ですので、これはぜひ買っておきたいと思います。

『あの人と、「酒都」放浪 日本一ぜいたくな酒場めぐり』 (小坂剛著、中公新書ラクレ、10日発売)
吉田類さんやなぎら健壱さんほかの「酒場の達人」に、馴染みの店や大人の飲み方、酒場で学んだ人生観などを訊いていくという一冊。カラー写真や店舗情報も満載とのことで、飲み助としてはまずは押さえておきたいところであります。

『戦後芸能史傑物列伝』 (鴨下信一著、文春新書、20日発売)
演出家にして文筆家でもある著者が、美空ひばりや長谷川一夫、渥美清、森繁久彌、森光子といった戦後を彩ったスターたちの光と影を回想した芸能史。挙げられている人たちはいずれも劣らぬ大スター。それらの方々の歩みを辿る上でも注目したい一冊です。

『世界の美しさをひとつでも多くみつけたい』 (石井光太著、ポプラ新書、18日発売)
ポプラ社から刊行が始まる「ポプラ新書」からはこちらに注目。いまノンフィクション界では一番目が離せない存在である著者が「生きるということ」の本質に迫った初の自叙伝。

そのほかには、『仏像の顔 形と表情をよむ』(清水眞澄著、岩波新書、20日発売)、『僕がメディアで伝えたいこと』(堀潤著、講談社現代新書、17日発売)、『看護師という生き方』(宮子あずさ著、ちくまプリマー新書、4日発売)、『児童精神医学 歴史と特徴』(ギィ・ブノワほか著、阿部惠一郎訳、白水社文庫クセジュ、中旬)、『介護が危ない』(中村淳彦著、ベスト新書、6日発売)といったあたりが気になります。

最後に、読みたいかどうかは別として(笑)、ちょっとインパクトのあった書名の本を1冊挙げておきます(書名は変更の可能性あり)。

『死にたくないんですけど』 (八代嘉美・海猫沢めろん著、ソフトバンク新書、13日発売)

これはまたストレートすぎる書名だなあ(笑)。大方の人が持つであろう気持ちを代弁するかのような、ウムを言わせぬようなパワーを感じます。

第19回宮崎映画祭観覧記(最終回) 『ネオ・ウルトラQ』と『横道世之介』で迎えた至福のクロージング

2013-09-02 23:03:13 | 映画のお噂
昨日、ついに最終日を迎えた第19回宮崎映画祭。
最終日に上映されたのは、テレビシリーズ『ネオ・ウルトラQ』からセレクトされた入江悠監督の作品3本と、高良健吾さんと吉高由里子さんが主演の『横道世之介』でした。いずれも最終日に観ることができて良かった、と心から思えた至福のプログラムでありました。


『ネオ・ウルトラQ』(2013年、日本、テレビシリーズより3本をセレクト)
監督=入江悠 出演=田辺誠一、高梨臨、尾上寛之、島田雅彦

心理カウンセラーの南風原仁とライターの渡良瀬恵美子、そしてバーのマスター白山正平の3人が、科学者の助けを得ながらさまざまな怪事件に立ち向かっていく。
第3話「宇宙(そら)から来たビジネスマン」。負の感情に美を感じる宇宙人・ヴァルカヌス星人は、容姿にコンプレックスを持つ女性たちと契約しては自分の星へと連れ帰る「ビジネス」をやっていた。星人に連れて行かれようとするファッションモデルを取り戻すべく、南風原たちは星人に別の「ビジネス」を持ちかける•••。
第7話「鉄の貝」。身長が1~2メートルもある巨大な貝「ガストロポッド」が日本各地で大量発生した。ガストロポッドは地震を引き起こす地殻変動の元凶である、と強硬に主張する研究者の意を受けた内閣府は、ガストロポッドの殲滅作戦を実行に移す•••。
第11話「アルゴス・デモクラシー」。怪獣との共存を主張する過激武装集団が、恵美子らを人質に取って立てこもる。そこへ、巨大な球体が空に出現する。「アルゴス」と名乗るその球体は、恵美子らがいるビルを隔離空間にした上で、途方もない「選択」を人類に突きつける•••。
1966年、特撮の神様・円谷英二監修のもと世に送り出された『ウルトラQ』。その後連綿と続くウルトラシリーズの原点であり、日本のSF・特撮ものに多大な影響を与えた伝説的テレビシリーズです。
その「47年ぶりのセカンドシーズン」とのコンセプトで製作されたのが、『ネオ・ウルトラQ』です。今年の1~3月にかけてWOWOWで放映された全12話から、『SR サイタマノラッパー』シリーズで知られる俊英・入江悠監督が手がけた3本が上映されました。わたくしはWOWOWを視聴できないので(泣)、このたびの映画祭での上映は嬉しい限りでした。
宇宙人ものにモンスターもの、さらにはパニック風と、それぞれに異なったテイストの作風で大いに楽しめました(個人的には第11話に引き込まれました)。現代風の感覚を取り入れつつも、オリジナルの『ウルトラQ』が持つ不条理感もしっかりと継承しているのが嬉しいところでした。
主人公3人をサポートする科学者の役として、作家の島田雅彦さんが出ておられたのにはビックリいたしました。他にも岩松了さん(第7話)、室井滋さん(第11話)とゲスト出演者もなかなか豪華でありました。
上映終了後、入江監督を迎えてのトークショーが開催されました。監督いわく、「今はなかなか不条理なものはテレビでも映画でもやりにくいが、それがやれるのが『ウルトラQ』の魅力」「常識だと思っていることを、本当にそうなのか?と揺さぶってくれるところが(『Q』には)ある」とのこと。
入江監督以外の3人の監督(石井岳龍監督、中井庸友監督、田口清隆監督)も、それぞれ違ったテイストが楽しめるとのことなので、リリース中のDVDで通して観てみたいなあと思いました。


『横道世之介』(2013年、日本)
監督=沖田修一 出演=高良健吾、吉高由里子、綾野剛、池松壮亮、伊藤歩、きたろう、余貴美子

1987年春。大学進学のために長崎から上京してきた主人公・横道世之介。おせっかい焼きでのほほんとしていて、ちょっとばかり隙がある性格ながら、誰からも愛されるような憎めなさで出会う人々を引きつけていく。
入学式の日に知り合い仲良くなった同級生の倉持。ふとしたキッカケで世之介から好意を持たれる年上の女性・千春。世之介から人違いで声をかけられたことから友人となった加藤。そして加藤から誘われて参加したダブルデートで知り合い、世之介のガールフレンドとなったお嬢様育ちの祥子。16年後、それぞれの人生を生きる4人の心に、世之介と過ごした楽しくも優しい日々の記憶が浮かんでくるのであった•••。
吉田修一さんの同名小説(毎日新聞社、文春文庫)を、『南極料理人』(2009年)や『キツツキと雨』(2012年)の沖田修一監督が映画化した青春コメディです。
最初、上映時間が160分と知ったときには、正直「長すぎじゃない?」と思っていました。しかし、観始めるとあまりの楽しさに時を忘れてしまい、もうちょっと長くてもいいとすら思えたほどでした。世之介の独特なキャラクターから醸し出される笑いと、人間愛に溢れた作風に心が満たされ、観終わったときにはすっかり、この映画が大好きになっていました。
なんといっても、世之介を演じる高良健吾さんがあまりにもハマり過ぎていて、もう世之介は高良さん以外には考えられないほどでした。また、ガールフレンドの祥子を演じる吉高由里子さんもすごく魅力的でしたし、いま絶好調の綾野剛さんも、なかなか面白い役どころで楽しませてくれました。
加えて、作品の要所に出てくる長回しのシーンがどれも良く、特に世之介と祥子がクリスマスを過ごすシーンは、カメラワークの見事さとあいまって気持ちを高揚させてくれました。
観れば間違いなく、幸せな気持ちになれる宝物のような佳作でした。まだ未見の方にはぜひ観ていただきたいと思います。
上映後、沖田監督を迎えてのトークショーが開催されました。監督は「顔は整っているけれど純朴でおおらかな高良くんだからこそ映画が成立できた」といった趣旨のお話をされていましたが、そういう沖田監督ご自身、とても穏やかで人柄の良さが滲み出るような方でした。高良さんが持つキャラと、監督の人柄の双方が活きた映画だったんだなあ、と感じました。
帰りに買ったパンフレットに、沖田監督のサインを頂きました。本当にありがとうございました!


こうして、9日間にわたって開催された第19回宮崎映画祭は、無事に幕を閉じました。
今回の映画祭は、デジタル映画やテレビ作品を特集するなどの新しい試みも盛り込まれた、なかなかアグレッシブなものとなったように思います。それらの試みから得られたものが、次回で20回目という節目を迎える宮崎映画祭に、どのような形で実を結んでいくのか。宮崎映画祭ファンの一人として、その行方を楽しみに見守っていきたいと思っております。

毎年、手弁当で懸命に運営にあたっておられる映画祭の実行委員とスタッフの皆さま、本当にお疲れ様でした!そして、今年も素敵な時間を与えていただき、ありがとうございました!

第19回宮崎映画祭観覧記(その6) スリルとユーモアのバランスがあって楽しめた『アルゴ』

2013-09-01 08:33:04 | 映画のお噂
会場が宮崎市民プラザ・オルブライトホールへと移り、いよいよ大詰めを迎えた宮崎映画祭。昨日は3作品が上映されました。
このうち、午前中に上映された、3年前の口蹄疫を題材にしたNHK宮崎放送局製作のドラマ『命のあしあと』は、仕事と重なって観ることができませんでした。仕事のあと、午後から上映された2作品を鑑賞いたしました。


『アルゴ』(2012年、アメリカ)
監督=ベン・アフレック 出演=ベン・アフレック、アラン・アーキン、ジョン・グッドマン、ブライアン・クランストン

イラン革命から間もない1979年11月4日。在イラン米国大使館が過激派によって占拠され、52人が人質にとられた。イラン側の要求は、癌の治療のために米国に入国したパーレビ前国王の引き渡しであった。
辛くも6人の大使館員が脱出し、カナダ大使公邸に身を隠すが、もし見つかれば6人のみならず、大使館にいる52人の命が危機にさらされてしまう。
6人を救出すべく、国務省はCIAの人質奪還のプロ、トニー・メンデスを呼ぶ。トニーは、ハリウッドで活躍する特殊メイクアップアーティスト、ジョン・チェンバースや、大物プロデューサーのレスター・シーゲルの協力のもと、奇想天外な奪還作戦を実行に移す。それは、偽物のSF映画「アルゴ」を企画し、6人をロケハンに来た撮影スタッフに仕立て上げ、イランから出国させる、というものであった•••。
米国が18年にわたって機密にしてきた驚くべき作戦の全貌を、ベン・アフレックが監督、共同製作、主演を兼任して映画化した作品です。今年2月の第85回アカデミー賞で作品賞・脚色賞・編集賞を受賞するという高い評価を受けた反面、イラン国内では反発が起きるなど物議も醸しました。宮崎では劇場での上映がなく、宮崎映画祭で初公開となりました。
いやとにかく面白い映画でありました。複雑な背景がある国際的事件を題材にしながら、スリルやサスペンスとユーモアとのバランスが絶妙な、一級のエンタテインメントに仕上がっていました。6人がトニーとともに脱出を図る過程は、もう手に汗を握りっぱなしでありました。
また、トニーが「アルゴ」作戦を発案するきっかけが、テレビで放送されていた『猿の惑星』シリーズの完結編『最後の猿の惑星』(1973年)であったり、トニーの息子の部屋には『スター・ウォーズ』などのキャラクターのフィギュアがズラリと並んでいたり•••と、SF映画好きとしては心くすぐられるところもいくつかありました。
それにしても、『猿の惑星』でアカデミー賞を受賞した特殊メイクの第一人者、ジョン・チェンバース(映画ではジョン・グッドマンがユーモラスに好演していました)が、このような作戦に関わっていたとは。実に驚きでありました。
もっとも、米国側の視点で描かれたハリウッド映画であり、イラン側にとってはいささか不利な描かれ方だったのは否めなく、これは反発が出るだろうなあ、という感じはしました。本作に対抗してイラン側が製作するという映画も、ちょっと観てみたい気がします。
なんにせよ、映画としては大いに楽しめる快作でありました。また観直してみたいと思います。


『まほろ駅前番外地』(2013年、日本、テレビシリーズから3本を上映)
監督=大根仁 出演=瑛太、松田龍平

東京と神奈川の県境にある「まほろ市」で便利屋を営む多田啓介と、その同級生で特に何もせず役にも立たない行天春彦の2人が、依頼人から持ち込まれる風変わりな仕事を解決していく。
プロレスを引退するという「まほろプロレス」のプロレスラーは、多田と行天に引退試合の対戦相手になってくれるよう頼み込む。かくて2人は、しぶしぶながらトレーニングに励み、覆面レスラーとなって大戦することに•••(第1話)。
30年近く前のレーザーカラオケの映像に映っていたモデルの女性に一目惚れしてしまった男が、その女性に会わせてくれと多田と行天に依頼。2人はテレビ番組のスタッフを装い、女性の行方を追っていくことに•••(第2話)。
さる旧家に住む女性から依頼を受けた多田がその家に向かう。亡くなった夫の遺品の中に、処分に困るモノが一つあるので引き取って欲しいという。見てみると、なんとも破廉恥な姿をした女性のリアルな蝋人形であった•••(第3話)。
三浦しをんさんの小説『まほろ駅前番外地』と『まほろ駅前多田便利軒』(文春文庫)をもとに、数々のテレビドラマや映画『モテキ』(2011年)を手がけた大根仁監督が脚本を兼任してドラマ化した作品です(全12回)。1話30分という枠の中で展開される、独特のユーモアと空気感、そしてある種のペーソスに満ちた世界観がなかなか面白く、楽しめました。
けっこう生真面目に仕事に取り組む多田を演じる瑛太さんと、飄々とした行天を演じる松田龍平さんとのコンビもまことにいい感じでした。また、舞台になった「まほろ市」ならぬ町田市の風景にも惹かれるものがありました。
上映後、大根監督をゲストに迎えてのトークショーが開催されました。今回セレクトした3話は、大根監督が見聞した元ネタから発想された、原作にはない大根監督オリジナルのエピソードだとか。第1話の冗談みたいなプロレスラーのエピソードにも、元となったことが実際にあったそうで、小説やドラマに負けないような面白いことが現実にもあるんだなあ、と思ったことでありました。

さあ、宮崎映画祭もきょうが最終日です。上映されるのは『ネオ・ウルトラQ』と『横道世之介』。最後まで大いに楽しみたいと思います。