読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

第19回宮崎映画祭観覧記(その6) スリルとユーモアのバランスがあって楽しめた『アルゴ』

2013-09-01 08:33:04 | 映画のお噂
会場が宮崎市民プラザ・オルブライトホールへと移り、いよいよ大詰めを迎えた宮崎映画祭。昨日は3作品が上映されました。
このうち、午前中に上映された、3年前の口蹄疫を題材にしたNHK宮崎放送局製作のドラマ『命のあしあと』は、仕事と重なって観ることができませんでした。仕事のあと、午後から上映された2作品を鑑賞いたしました。


『アルゴ』(2012年、アメリカ)
監督=ベン・アフレック 出演=ベン・アフレック、アラン・アーキン、ジョン・グッドマン、ブライアン・クランストン

イラン革命から間もない1979年11月4日。在イラン米国大使館が過激派によって占拠され、52人が人質にとられた。イラン側の要求は、癌の治療のために米国に入国したパーレビ前国王の引き渡しであった。
辛くも6人の大使館員が脱出し、カナダ大使公邸に身を隠すが、もし見つかれば6人のみならず、大使館にいる52人の命が危機にさらされてしまう。
6人を救出すべく、国務省はCIAの人質奪還のプロ、トニー・メンデスを呼ぶ。トニーは、ハリウッドで活躍する特殊メイクアップアーティスト、ジョン・チェンバースや、大物プロデューサーのレスター・シーゲルの協力のもと、奇想天外な奪還作戦を実行に移す。それは、偽物のSF映画「アルゴ」を企画し、6人をロケハンに来た撮影スタッフに仕立て上げ、イランから出国させる、というものであった•••。
米国が18年にわたって機密にしてきた驚くべき作戦の全貌を、ベン・アフレックが監督、共同製作、主演を兼任して映画化した作品です。今年2月の第85回アカデミー賞で作品賞・脚色賞・編集賞を受賞するという高い評価を受けた反面、イラン国内では反発が起きるなど物議も醸しました。宮崎では劇場での上映がなく、宮崎映画祭で初公開となりました。
いやとにかく面白い映画でありました。複雑な背景がある国際的事件を題材にしながら、スリルやサスペンスとユーモアとのバランスが絶妙な、一級のエンタテインメントに仕上がっていました。6人がトニーとともに脱出を図る過程は、もう手に汗を握りっぱなしでありました。
また、トニーが「アルゴ」作戦を発案するきっかけが、テレビで放送されていた『猿の惑星』シリーズの完結編『最後の猿の惑星』(1973年)であったり、トニーの息子の部屋には『スター・ウォーズ』などのキャラクターのフィギュアがズラリと並んでいたり•••と、SF映画好きとしては心くすぐられるところもいくつかありました。
それにしても、『猿の惑星』でアカデミー賞を受賞した特殊メイクの第一人者、ジョン・チェンバース(映画ではジョン・グッドマンがユーモラスに好演していました)が、このような作戦に関わっていたとは。実に驚きでありました。
もっとも、米国側の視点で描かれたハリウッド映画であり、イラン側にとってはいささか不利な描かれ方だったのは否めなく、これは反発が出るだろうなあ、という感じはしました。本作に対抗してイラン側が製作するという映画も、ちょっと観てみたい気がします。
なんにせよ、映画としては大いに楽しめる快作でありました。また観直してみたいと思います。


『まほろ駅前番外地』(2013年、日本、テレビシリーズから3本を上映)
監督=大根仁 出演=瑛太、松田龍平

東京と神奈川の県境にある「まほろ市」で便利屋を営む多田啓介と、その同級生で特に何もせず役にも立たない行天春彦の2人が、依頼人から持ち込まれる風変わりな仕事を解決していく。
プロレスを引退するという「まほろプロレス」のプロレスラーは、多田と行天に引退試合の対戦相手になってくれるよう頼み込む。かくて2人は、しぶしぶながらトレーニングに励み、覆面レスラーとなって大戦することに•••(第1話)。
30年近く前のレーザーカラオケの映像に映っていたモデルの女性に一目惚れしてしまった男が、その女性に会わせてくれと多田と行天に依頼。2人はテレビ番組のスタッフを装い、女性の行方を追っていくことに•••(第2話)。
さる旧家に住む女性から依頼を受けた多田がその家に向かう。亡くなった夫の遺品の中に、処分に困るモノが一つあるので引き取って欲しいという。見てみると、なんとも破廉恥な姿をした女性のリアルな蝋人形であった•••(第3話)。
三浦しをんさんの小説『まほろ駅前番外地』と『まほろ駅前多田便利軒』(文春文庫)をもとに、数々のテレビドラマや映画『モテキ』(2011年)を手がけた大根仁監督が脚本を兼任してドラマ化した作品です(全12回)。1話30分という枠の中で展開される、独特のユーモアと空気感、そしてある種のペーソスに満ちた世界観がなかなか面白く、楽しめました。
けっこう生真面目に仕事に取り組む多田を演じる瑛太さんと、飄々とした行天を演じる松田龍平さんとのコンビもまことにいい感じでした。また、舞台になった「まほろ市」ならぬ町田市の風景にも惹かれるものがありました。
上映後、大根監督をゲストに迎えてのトークショーが開催されました。今回セレクトした3話は、大根監督が見聞した元ネタから発想された、原作にはない大根監督オリジナルのエピソードだとか。第1話の冗談みたいなプロレスラーのエピソードにも、元となったことが実際にあったそうで、小説やドラマに負けないような面白いことが現実にもあるんだなあ、と思ったことでありました。

さあ、宮崎映画祭もきょうが最終日です。上映されるのは『ネオ・ウルトラQ』と『横道世之介』。最後まで大いに楽しみたいと思います。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿