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【閑古堂アーカイブス】『無人島に生きる十六人』 知恵と工夫で助け合い、前向きに生き抜いた男たち

2013-08-01 22:12:10 | 本のお噂

『無人島に生きる十六人』 須川邦彦著、新潮社(新潮文庫)、2003年(元本は1948年、講談社より刊行)


夏真っ盛りですね。こういう季節には、冒険や旅に関する本が読みたくなったりしませんか(って、それはわたくしだけのことかもしれないけど)。
冒険を題材にした本で、わたくしが一番好きな一冊が、この『無人島に生きる十六人』であります。明治時代、太平洋上で座礁し、難破してしまった船から脱出した16人の日本人たちが小さな無人島にたどり着き、さまざまな工夫を重ねながら生き抜いたという実話を綴った、痛快にして感動的な冒険記であります。

明治31年12月。漁業調査のため、船長以下16人の乗組員を乗せて太平洋へと出帆した帆船「龍睡丸」。ところが翌年の1月、大風に煽られて錨や帆柱が損傷してしまい、船はハワイのホノルルへと避難することに。ホノルル在留の日本人や外国人の助けを得て船を修繕することができ、4月に日本に向けて出帆します。
しかし、ミッドウェー島を目前にした5月、龍睡丸は大波に翻弄されたあげく暗礁に乗り上げてしまいます。乗組員たちは船長の指示のもと、無人島での暮らしに必要な最小限の物を持ち出し、波で少しずつ壊されていく船からの脱出を果たします。
伝馬船で漂流した末、16人は珊瑚礁の中にある小さな無人島を見つけて上陸します。面積は四千坪(約132アール)程度。標高は高いところでも4メートル。草が一面に茂っているほかは木が一本もありません。
かくて、この何もない小さな無人島で、16人の知恵と工夫、そして諦めない精神を発揮した共同生活が始まるのでした•••。

無人島での生活を始めるにあたって、船長は乗組員たちと「四つのきまり」を取り交わします。

一つ、島で手にはいるもので、くらして行く。
二つ、できない相談をいわないこと。
三つ、規律正しい生活をすること。
四つ、愉快な生活を心がけること。


以後、乗組員たちはこれらのきまりをしっかりと守り、互いに助け合い励まし合いながら、さまざまな工夫で無人島暮らしを乗り切っていきます。
食用にするための正覚坊(アオウミガメ)の牧場をつくって飼う。そのカメの油を燃料にして行灯を作る。流れ着いた龍睡丸の残骸を使って見張りのためのやぐらを建てる。帆布をほぐして魚をとる網を編む。島に生える草の中から辛味のある草を選んでワサビの代わりにする•••などなど、一つ一つの工夫がまことに見事なのです。
海で育ち、海で生きてきた男たちの知恵と底力にひたすら感心し、胸のすく思いがいたしました。

そして一番秀逸な知恵だと感じたのは、規律を守るようにしながらも、皆が愉快な生活を心がけていたことでした。
若い船員や漁師たちのために、船長らが先生となって船の航海術や水産の授業を行うなどして、勉学にも力を入れました。また、雨が降った日には「茶話会」と称してさまざまな興味深い話や、余興の隠し芸に興じたりも。
苦労も多かったであろう遭難の話にもかかわらず、そういった乗組員たちの暮らしぶりはなんだか充実していて楽しそうですらあります。ですが、そのように愉快な暮らしを心がけ、前向きに生きたことで、困難な状況の中でも気持ちが折れることがなかったのだろうな、と思うのです。
ゆえに、本書に散りばめられた知恵の中で特に大切な知恵が、この「愉快な生活を心がけること」なのではないかと、わたくしは感じました。
本書の中で一番気持ちに沁みたのが、このことば。

「ものごとは、まったく考えかた一つだ。はてしもない海と、高い空にとりかこまれた、けし粒のような小島の生活も、心のもちかたで、愉快にもなり、また心細くもなるものだ。」

そう。本書には痛快な面白さとともに、読むものを前向きにさせる知恵とことばがたくさん詰まっています。そして、助け合い励まし合う16人の暮らしぶりからも、いろいろなことを教えられるのではないかと思います。また、島と陸続きになった出島に住むアザラシたちと、乗組員たちとの友情エピソードにもホロリとさせられるものがあります。

龍睡丸船長の話を、教え子である著者が聞き書きするという形で書かれた本書。発表当初から少年向けに書かれたということもあり、語り口も非常にわかりやすいものとなっています。
半世紀ちょっとの時を経て復刊された新潮文庫版にも多くの漢字にルビが振られていますので、小学校高学年くらいからスイスイ読めるのでないかと思います。
夏休みにぜひ、親子ともども楽しんでいただきたい一冊であります。

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