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宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【読了本】『愛しのインチキガチャガチャ大全』 80年代テイスト全開の代物ワールドに溺れる

2013-06-23 19:59:23 | 本のお噂

『愛しのインチキガチャガチャ大全 ~コスモスのすべて~』 ワッキー貝山=集、池田浩明=著、双葉社、2013年


1970年代後半から80年代にかけ、日本全国の駄菓子屋、文房具屋、スーパーなどの店先を席巻、というか侵略しまくったガチャガチャメーカー「コスモス」。
その時々の流行りモノやキャラクターグッズの粗末な模倣品や、なんでわざわざこんなもんを作ったのか、と言いたくなるようなバッタモンなどを濫造し続け、一時は年商180億円を稼ぎ出すなどしたものの、経営が行き詰まり1988年に倒産。わずか11年のあいだに、ありとあらゆるモノをカプセルや箱に封じ込め、子どもたちに売りつけて荒稼ぎをし、そして終焉したのです。
東北地方で活躍しているローカルタレント、ワッキー貝山さんは、このコスモスが生み出した膨大な商品を、なんと10万点もコレクションしているといいます。そのコレクションのごくごく一部、約1000点を公開したのが、本書であります。

まず目を奪われるのが、アニメや特撮番組などのキャラクターを、版権元の許可もへったくれもなく商品化しちゃったもの。しかも、それは版権元からの抗議をかわそうとしたからなのか、名前を変えて出されたりしています。「ガンダム」ではなく「ダンガム」だったり、「キン肉マン消しゴム」ではなく「ジャンボ人形」といった調子で(笑)。
しかもそれらは材質が粗悪な上、造形も稚拙でワケのわからない代物だったりします。銀河鉄道999号の消しゴムは、どう見ても実際の999号とはかけ離れた単なる汽車ポッポですし、ウルトラマンに登場した怪獣を形どっているハズの「怪獣消しゴム」は、仏像やただの恐竜のようだったりします。
極めつきは、ロッテのビックリマンシリーズが大ヒットしていたのにあやかってでっち上げた「ロッチ」(苦笑)のビックリマンシール。初期の頃は本物をそのままコピーして作ったという有り様でしたが、後にキラキラの特殊印刷ができるようになったりして、パクリにしては完成度が上がっていく様子が可笑しかったりします。コスモスは、この「ロッチ」のかどにより著作権法違反で摘発され、社長らが逮捕されるに至ります。

わざわざコレを商品化するか、と言いたくなるような、ハッタリと脱力感溢れる代物の数々にも大いに笑わされました。
ヘビのイラストをあしらった「ガラガラ蛇のタマゴ?」なる商品は、針金とワッシャーとゴムを組み合わせた物体。「めんこ」と称して売られていたのは、牛乳瓶のふたをそのままコピーしただけのもの。•••などなど、よくここまでやったもんだよなあ、と呆れ笑うばかりの物件には事欠きません。
水と化学反応を起こして袋が爆発する、というおもちゃに付けられたネーミングが「水素爆弾」というのも凄すぎであります。それもご丁寧にキノコ雲のイラストつきで。さすがにコレには、不謹慎との抗議を受けたようですが。

無茶苦茶なばかりの商品のコレクションもさることながら、巻末に収められた元コスモス社員2人のインタビューも、実に興味深く面白いものでした。
「宇宙に行くことを真剣に考えて」いたという、当時のコスモス社長のぶっ飛んだワンマンっぷり。ガチャガチャの台紙で誇らしげに謳われていた「国内シェア80%」の実態•••。それらのエピソードの数々からも、コスモスという会社のモノスゴサが伝わってきます。
それと同時に、売る側のコスモスと、買う側の子どもたちとの間には、騙し騙されの駆け引きを通じての、ある種のコミュニケーションのようなものがあったことにも気づかされるのです。2人のインタビューからは、そんなコミュニケーションが成立していた時代への郷愁とともに、今のガチャガチャのあり方に対する失望も伝わってきました。思えば確かに、あの頃はまだまだ牧歌的でいい時代だったのかもしれません。

1970年代後半から80年代にかけて現役の子どもであったわたくしも、コスモスのガチャガチャから妙なモノをつかまされた一人であります。それだけに、本書に集められた80年代テイスト全開のコスモス代物ワールドに溺れました。
ガンダムやウルトラマン消しゴム、キン肉マン消しゴム、ビックリマンにとどまらず、コスモスは70年代から80年代の流行りモノをことごとく取り入れていたことが、本書によってあらためてわかりました。
なめ猫やエリマキトカゲ、スライム、チョロQ、ピンクレディー、ドリフ、ゲームウォッチ、ルービックキューブ等々•••。
そこからは、当時の世相や空気感のようなものが色濃く感じられてきます。
ワッキー貝山さんが、コスモス商品を10万点もコレクションしている、ということを知ったときには、正直「えらくケッタイで物好きなことをしているものだなあ」と思いました。
ですが、その多くはもう捨てられて残っていないことを考えれば、70年代から80年代の子ども文化史のミッシングリンクを埋める貴重なことを、ワッキーさんはやっておられるのではないか、と思えてきたのでありました。

当時を知る人にとっては懐かしさを、知らない人には驚愕と笑いをもたらしてくれる一冊であります。

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