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宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

第23回宮崎映画祭観覧記 ② 歴史と人間のダイナミズムに圧倒されたドキュメンタリー『チリの闘い』、深い感動に包まれたSF映画『メッセージ』

2017-09-18 23:26:20 | 映画のお噂
宮崎映画祭2日目となった昨日、9月17日。わたしとしてはどうしても観逃すわけにはいかない2作品が上映されました。宮崎はもちろん、九州でも初の上映となる3部構成の大長編ドキュメンタリー『チリの闘い』と、評判となっていたSF大作『メッセージ』です。
しかし、この日の宮崎は朝から、台風18号の暴風域にすっぽり入っておりました。NHKのテレビは放送予定を変更して台風に関する情報を流し続け、宮崎県でも強風で屋根が吹き飛んだり、街路樹がなぎ倒されたりという被害があったことが、映像とともに全国に向けて伝えられました。家の窓から外を見ると、断続的に猛烈な風が吹き荒れているありさまです。
せめて出かける時までには弱まってくれたら・・・とのわたしの願いとは裏腹に風雨は激しさを増し、出かける予定だった時刻には迂闊には外へ出られない状況に。きょうはなにがなんでも出かけるからな!と意気込んでいたわたしも、風雨が弱まるまで待機せざるを得ませんでした。
しかし、『チリの闘い』の上映開始時間である12時30分少し前には、なんとか外に出ることができそうなくらいに風雨が弱まってきました。「よし、これなら大丈夫!」とタクシーを呼び、会場の宮崎キネマ館へ。
到着した時にはすでに『チリの闘い』の上映が始まっていて、残念ながら第1部の冒頭部分を観ることはできませんでした。が、それでも作品の大部分をしっかりどっぷりと鑑賞することができたのは嬉しいことでした。


『チリの闘い』第1部「ブルジョワジーの叛乱」第2部「クーデター」第3部「民衆の力」(1975、1976、1978年 チリ・フランス・キューバ)
監督・脚本・製作=パトリシオ・グスマン(ドキュメンタリー)

1970年代はじめ、社会主義に基づく急進的な政策を掲げるサルバドール・アジェンデ大統領のもと、まさざまな改革が進められていたチリ。1973年に行われた総選挙でも、労働者から支持されていたアジェンデの左派政権与党が43%という高い得票率を得たものの、ブルジョワ企業家らに支持された右派の反アジェンデ勢力と、それを影で支援していたアメリカ合衆国は、さまざまな手段でアジェンデ政権の弱体化を図ろうとする。そして9月11日、CIAの全面的な支援を得たピノチェト将軍が軍事クーデターを決行して政権は崩壊、アジェンデ大統領は死亡することに・・・。
『チリの闘い』は、アジェンデ政権と右派勢力との激しい攻防を経て、クーデターに至るまでのチリの数ヶ月間を(アジェンデ政権を支持した立場から)克明に記録した、全3部構成、総上映時間が263分に及ぶ伝説のドキュメンタリー映画です。

第1部から第2部にかけては、総選挙の前後からクーデターに至るまでの出来事の連鎖が、広範な階層や立場の人びとへのインタビューを織り込みつつ、ほぼ時系列どおりに綴られていきます。閣僚の弾劾からデモやストライキ、暴動を扇動するなど、政権の弱体化のためなりふり構わぬ手段をとる右派と、それを裏で支援していたアメリカの影。政権側と右派政党の一部との協調の模索とその失敗、左派内部の意見対立。それらの連鎖の末に起こったクーデター・・・。
当時のチリの状況について、決して十分な予備知識を持っていないわたしではありましたが、克明で膨大な記録の集積が立体的な構成で綴られていて、当時の状況がリアルな感触をともなって伝わってきました。

第3部では、アジェンデ政権誕生からまもない時点まで時間を遡り、労働者や農民らが協力し合いながら多くのグループを組織し、右派の仕掛けた工場経営者らのストライキに対抗しつつ社会の変革に挑もうとする姿を、ここでも労働者や農民らの声を豊富に織り込みながら描いていきます。アジェンデ政権を支持する立場からの記録ということもあり、ある種の党派性を帯びていることは否めませんが、それでも当時のチリの民衆たちもまた、歴史の主役として動いていたということが、ひしひしと伝わってきました。
中でも印象的だったのは、経営者のストライキにより動かなくなった工場の生産を守ろうと集まった労働者たちへのインタビューの場面でした。アジェンデ政権とその政策を支持する立場の労働者が多いなか、「特に政権を支持しているわけではないが、労働者として工場を守るために協力したい」という趣旨のことを語る人が何人かいたのです。そこからは、立場の違いを越えて協力し合う、労働者としての誇りのようなものを感じて、ちょっと胸熱な気持ちにもなりました。

歴史と人間がさまざまに絡み合っていくダイナミズムにひたすら圧倒された、掛け値なしのすごいドキュメンタリー映画でした。宮崎はもちろん、九州でも初めてという今回の上映を成し遂げた映画祭の実行委員に、惜しみない拍手を贈りたいと思います。

『チリの闘い』の終映は午後5時半。ちょっとばかりお腹が空いておりましたがここはガマンして、引き続き上映された『メッセージ』を鑑賞いたしました。

『メッセージ』(2016年 アメリカ)
監督=ドゥニ・ヴィルヌーヴ 原作=テッド・チャン「あなたの人生の物語」 脚本=エリック・ハイセラー 撮影=ブラッドフォード・ヤング 音楽=ヨハン・ヨハンソン
出演=エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー

世界の12ヶ所に突然、謎の巨大な宇宙船が飛来する。攻撃を仕掛けるわけではないものの、なんら意図を明確にしないまま浮遊し続ける宇宙船に動揺と不安が広がる中、各国はそれぞれ調査とコンタクトを試みる。アメリカ側の調査に加わった言語学者のルイーズと理論物理学者のイアンは、宇宙船の中にいる7本足の地球外生命体「ヘプタポッド」の文字言語の解読に挑む。少しずつ解読が進み、ヘプタポッドとのコミュニケーションは進展するかに思われたのだが・・・。

テッド・チャンのSF小説『あなたの人生の物語』(ハヤカワ文庫SF)を原作にして、宇宙からやってきた地球外生命体と人類とのファーストコンタクトと、両者のコミュニケーションをテーマに描いた、21世紀版の『未知との遭遇』ともいえそうな本作。監督を務めたのは、こちらも名作SF映画である『ブレードランナー』(1982年)の35年ぶりの続編となる『ブレードランナー2049』の公開が控えている新鋭、ドゥニ・ヴィルヌーヴです。
言葉も意図もわからない地球外生命体と人類とが、少しずつ相互理解を進めていこうとするプロセス。現実の国際情勢が反映された、国と国との思惑の違い。そして、劇中幾度も繰り返される、ルイーズとその娘とのシークエンス・・・。これらが一気に収束していくラストには、深い感動が湧き上がってきました。
われわれがふだん、当たり前のように行なっている言語によるコミュニケーションと、それによる相互理解。それがいかに大事で尊いな営為なのかをしっかりと伝えてくれる、素晴らしいSF映画でした。
・・・それにしても登場する宇宙船のカタチ、ほんとにおせんべい菓子の「ばかうけ」にソックリだったなあ(笑)。

『メッセージ』を観終わって外に出ると、お昼まで大荒れだった天気もすっかり落ち着いておりました。わたしは映画の感慨とともに空腹とノドの渇きを癒すべく、近くの繁華街へと足を向けたのでありました・・・。

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