「寒いから鍋にしようか」 「いやぁ、父さん今日は麻雀やわ、鍋はあかん」 「そんならミートスパゲティしよう」
火曜日は麻雀のことが多い。 ミートソースはコンソメを入れて煮込む前までやって、後は娘に交代。
「母さん歩いてくるわ」5時半。 「うん」 「あれ? 父さん? あらお帰りなさい。麻雀じゃなかったん?」
「メンバー足りてん」 「なんや、そんなら鍋出来たのに~。 私ちょっと歩いてくるわ」
「おう、行って来い、行って来い」
「行って来いじゃなしに、お父さんも歩かへん?」 「なんでわしが歩かんならんねん」
「なんでって、メタボやん、歩かな体脂肪減らへんし」 「わしは卓球してるっちゅうねん」
「卓球してて、その体脂肪やんか。 減らさな検査する意味ないやん、歩きなさいって言われてるねんよ」
「あんたと歩いてもペースが違うっちゅうねん」 「ペースって、合わせてくれたらええやん」
(がんばれ~!)
「みな夫婦で歩いてるやん。 あいさんかってご主人と歩いて減ってきた言うてたもん」 「・・・・」
(もう一息や!)
「手術のあと、一緒に歩くの楽しみやったもん」 本当は強制的に誘うのではなかったんだけど。
夜ウォーキングに出て行く健気な私の姿に、のうのうと暖かい部屋におれまい、心を動かせるんではない?
それでもって、夫をウォーキングに引き込もうと言う策略だったはず。
「歩こうなぁ~、歩かへんかったら体脂肪減らへんよ」 「・・・・・・」
「行くで! 」 「え? 行くん?(ニヤリ) ほな、はよう服着替えて」 「これでええ」
「これでええってカッターシャツはあかんやろう」向こうの方へ行って着替えている風。
(ヨッシャー!) ジーパンに着替えるなり、夫はさっさと玄関へ降りていた。
「行くで! はようせい!」 「はようって急に・・」 「クリーニング屋まで行くで」玄関の洗濯物を見て。
「待って~、クリーニング屋のカード、カード」 無い!お財布の中色んなカードあるのにそれだけ無い!
「何してんねん! 」 (お~、いらついてるなあ) 部屋にも無い!娘が「はようせな、やめるって言うで」
「もうクリーニング屋は行かんとこ」 「はよう行ってき」 (わ~でも嬉しいわ、昨日の今日やもん)
「クリーニング行かへんのやったらこっちやで」 西方向だ。(はいはい後をついて行きます)
夫はすたすた歩き始めた。 (わー、嬉しいー)ニヤニヤしながら、けど(早いわ~)
「ちょと早いわ、お父さん」 でも嬉しさは隠せない、にやにやしてる~私~。
「ほやからペースが違う言うたやろ」 (はいはい) 私、着いて歩くの必死。
駅の陸橋を越え、八幡屋公園へ。 「冬桜が咲いてんねんよ、昼間で無いと分からへんけど・・」
黙って歩くのも変だし、でも夫が早いので少し膝が痛いし、私ははぁはぁ言いながら妹のことやら話した。
夫は真面目に黙って聞いてくれている。
中央体育館の上の丘陵へ登る。 「ちょっともう少しペース落としてよ~」 怒らせたらあかんけど。
「歩き方があかんわ、足上げて歩かなあかん、あんた足こすってるやん。 足あげい」本気になってますわ
「はい」 私、必死。 何歩か遅れては、一生懸命着いて行く。 でも・・でも念願の夫婦でウォーキング!
暗いから分からないと思うけれど、この時の私のにやけ顔、嬉しい気持ち気づかれていたかな。
歩いている人には1人会っただけ、季節が変わると多くのウォーキング者がいるのに、今夜は貸切だ。
頂上へ上がりきったところで、海遊館のそばの観覧車のイルミネーションがカラフルな色で点滅、6時を告げている。
「きれいやね・・ちょっとだけ休憩しよ。 急激なウォーキングはあかんよ」(勝手な理屈)
汗をかいているが、気持ちがいい。 360度のパノラマ、USJも、日本で2番目のタワーマンションも見える。
「写真撮らな、ブログ用に」 夫はジャンパーのファスナーがひっかかって開かず、胸の携帯がとれない。
また歩き出す。 「しかし、わしがこんなに歩けるん、夢見たいやなあ」ちょっと神妙に言っている。
「本当よね。 10分もまともに歩かれへんかったもんね。 すごいことよ、嘘みたいやね」
最初はテレかそれともヤケクソか、口調が少しだけきつかったが、帰りは違っていた。
「靴それではあかんで、それに膝をのばしてかかとから着けて歩くんやで」 「そっか、はい」
家の近くまで来た。 夫から少し離れて歩いていた私「良かったね、お父さん。 また歩こうな」
両手を振ってさっそうと歩く夫の後姿、本当に手術前の苦痛を思うと、涙がふわっと込み上げた。
星が出ている、小さくて少ないが。 今夜も田舎では降るように、空いっぱいに輝いていることだろう。
カレンダーに、赤と青のシールを貼った。
1ヶ月くらいのつもりで、夫を挑発しようと思ったのに、いとも簡単に(いや強制的に!)夫は落ちた。
同居人ではなかった・・と言う事かなあ。
手術後、2ヶ月あまりの7月16日に2人でこの丘陵へ登った。 丘陵へ登るなどとんでもなかったのに、
一緒に登った時は胸がいっぱいになった。 あれからもう半年、改めて感無量。
2人機嫌良く帰宅したら、娘の茄子&ほうれん草&ベーコン添えのミートスパゲティが出来上がっていた。
私の自慢料理のひとつだったのに、今日娘は私を越えた? う~ん、99%。
◆ 歩くという そんな普通が 嬉しくて ファインダーの中の君 じっと見つめる