日々雑感 ~写真と思い~

今日と言う日は、二度と来ない。 
だから今日を大切に・・そんな私のデジカメ散歩 

* 拝啓、まゆ殿・・ *

2008年10月09日 | 雑感

   早いのか遅いのか、また季節がめぐって屋上のユリオプスデージーが花を咲かせた夕暮れ。
   夜、緒形拳さんの遺作となった『風のガーデン』を見てお風呂に入った。 私がドラマを1時間見る等滅多と無い。
   拳さんの言葉じりが、役柄の演技なのか身体に添った言葉なのか・・普通なら気にしないはずなのに。
   まだ初七日さえ経っていないのに健在(そうな)彼、30日にはおられたのに・・明日さえ分からない人生。

   お風呂上りに洗面台の鏡を見る、眉の薄い自分がいる、それってちょっと”あほ”っぽい。
   (”あほ”は関西人なので抵抗無いが、これを関東なら”馬鹿っぽい”と言うのか?それには抵抗があるなあ)
   もう寝るだけなのに、これはいかんと思い鏡に向かうとき、面白い話を思い出すのである。

   何年か前、日本画家の浜田泰介氏が描かれた京都の東寺の観智院と醍醐寺の三宝院の障壁画の
   特別公開があると奥さまのメールで知り、5月の休日早朝から夫と京都に行き障壁画の素晴らしさを
   堪能したことがあった。 奥さまの浜田幹子さんが出版された『三分間の幸福』と言う詩・エッセイ本を
   注文したことから、何度かメール交換させていただいていのである。 
   その本の1/3は片面に詩が、反対側にはご主人の水彩画が描かれていて実に見事だった。
   年を重ねられたご夫婦の姿がまるで融合されているようで、ご主人様の障壁画集とともに、
   一生涯手元に置いておきたい本の一冊になっている。

   2/3ほどはエッセイ、その中の1節に阪神淡路大震災の時の事が詳細且つユーモラスに書いてある。
   (当時ならユーモラスは不謹慎なのだけど)私は読むたびに笑ってしまう、類似点に。
   たまたまパーティー出席の為30人位で、神戸のポートピアホテルにご夫婦で宿泊されていて震災に遭遇。
   とっても美人な奥さまはいつも着物で、ご主人の展示会に付き添われておられる。
   たまたまパーティーなので珍しく洋服だったそうで、朝震災でロビーへあわてて避難されるとき、
   スーツに着替えながら暗い部屋でご主人がそんなもんと言うところを、ブラジャーブラジャーと
   探し回られたことや、身の回りの物をスーツケースに詰めたご主人に対し、書籍何冊かだったこと、
   それをご主人に言ったら叱られそうだから言えなかったこと等。 
   そして記事を引用させていただくなら・・、

   ”暗いホテルのロビーにいるとき、大きなライトが近づいてきて・・テレビかしら、でも早すぎる、
   そんなはずはない、もしテレビならどうしよう、毛布を被った難民姿で撮られたくない、それよりも何よりも
   素っぴんだ。 自慢じゃないが、私は素顔と化粧した顔が別人のように違う。 
   自称「別人28号」と古いギャグでごまかしてはいるが、出来ることなら家族以外にさらしたくない。 
   愛情あるいは慣れを持って見ないと、その落差に耐えられないからだ”(三分間の幸福より転載)

   大きなライトは、TVカメラ、数ヶ月前新潟でご主人を番組を放映した時のスタッフだったそうだ。
   震源地の真っ只中に地面に座っていたが、何もすることはないけど、ここで化粧を始めるのはいかがなものか。
   明るくなっていく中でこれ以上素っぴんでいることは耐え難い、向こうのおばさんが化粧を始めたので、
   夫の許可を得て簡単に白粉と口紅と眉墨だけを使ったと言う、14ページの中のひとこま。
   想像するだけで、幹子夫人の心情が面白いくらいに分かる。

   そんな時は滅多と無いし、幹子夫人のように有名な画家の奥さんでも無いが
私も時々ふと、
   もし夜中に地震があったら、急を要し救急車ででも走るようなことがあったとしたら・・と。
   素っぴんはいいとしても、救急車を待つ間私はそこだけ冷静に眉を描く人間かも知れない。
   薄かったらちょっとあほっぽい、それって少し恥ずかしい、昼間ならなお更、世間に迷惑をかけると言うもの。
   やはり私も一応女であるし、自尊心だってあるから。 

   仕事をやめるまでは多分お風呂上りもいざまさかの為にも、眉
を描いていたと思われる。
   それに夫が帰宅する時間の前にも、少しでもこましな妻でいたいから結婚何十年かは薄化粧さえした。
   外には美しい女性がわんさといる、夫はそんな中で一日そして往復過ごすわけで、
   仕事を終え家に帰って素っぴん、しかも眉の薄い妻が迎えたらどうよ。 夫婦でも礼儀ではとさえ思っていた。
   そんな私が3年前仕事をやめてから、あれよあれよと言う間に・・私、変わった。 
   いつの間にか素っぴんが平気になり、洗顔のままで眉さえ描かないことがあるから慣れと言うのは怖い。

   50代の夫婦は忍耐、60代夫婦はあきらめ・・と言う。 その大台に来年は突入するのだ。
   昨日夫を見送った後、エプロンを裏返しに着ていたことに気が着いた。
   (わ~ひどい、夫も・・娘も・・娘婿も・・なつめは仕方ないけど、誰も気がついてくれなかった!)
   私が眉を描こうがどうしようが・・もう夫はあきらめの境地か? いや、でも私は嫌だ。
   眉を描く、描いたら、うん・・変わる。 ”あほ”もそれなりにちょっとはましなんだから!  
   鏡の中の私、これでよし。 拝啓眉殿これからも描くよ、せめて。 私が女であるために・・おやすみなさい。