また昨日の続きです。
(中略)
「私、すごくラッキーなんだよね」
考え込んでいた私に、梨花さんが言った。(中略)
「しゅうちゃんと結婚しただけなのに、優子ちゃんの母親にまでなれてさ」(中略)
「お母さんって楽しいの?」
{うん、楽しい。(中略)優子ちゃんもにこにこしていたら、ラッキーなことがたくさんやってくるよ}(中略)
(中略)
梨花さんと暮らし始めてから、いいことばかりだった。でも、橋花さんが家に来ると同時に、おじいちゃんやおばあちゃんに会うことはなくなっていた。(中略)
血がつながっている身内なのに、あんなに面倒を見てもらったのに、いつしか完全に離れてしまったなんて。(中略)
「(中略)それより、森宮さんは彼女できないの?」(中略)
「なんで?」
「梨花さんがいなくなって、二年も経つし、それに、森宮さんもう三十七歳だし」
「三十七って、若者じゃないか。それに俺は父親を全う中なんだ。こんな多忙なのに、恋などしてる場合じゃない」(中略)
球技大会当日は、梅雨が近づく湿気を含みながらも青い空が広がる晴れとなった。(中略)
すべてのゲームが終了し、体育館の生徒たちもグランドに集まってきた。くたくただと言いながら、みんないい顔している。(中略)
放課後、実行委員で片付けを行うことになった。(中略)
グランドでは、浜坂君がトンボを一人で引いている。(中略)グランドは暑いし、トンボを引くのは重労働だ。(中略)ドッジでたくさん人を当てるより、トンボをスムーズに引けるほうがずっといい。浜坂君のことは好きにはならなかったけど、また何か委員を一緒にやるのはいいな。そう思った。
(中略)
球技大会から一週間後、(中略)みんなで駅近くの喫茶店に行くことにした。(中略)
「萌絵さ、浜坂君のこと気になってるみたいなんだよ」
と史奈がにやっと笑った。(中略)
「でさ、優子に取り持ってもらえないかなって」(中略)
「浜坂って、優子のこと好きだったんでしょう?」
「ま、まあ、そうかな」
「だったら、その優子が勧めてくれたら、うまくいくんじゃないかって」(中略)
「頼むよ、優子。私ちょっと、本気なんだよね」
萌絵はぱちんと手を合わせた。
「うん」
「やった! 恩に着る」(中略)
「呼び出しといたよ」
翌日、私が登校するや否や、萌絵がそう言った。
「え?」
「史奈の彼氏に頼んで、浜坂、放課後に美術館前に来てもらうようにしたんだ」(中略)
萌絵とは二年生から同じクラスだ。一年生の時から仲が良かった史奈と萌絵が親しかったのもあって、そのまま三人でいることが多くなった。(中略)
「あれ、もういたんだ」
ホームルームが終了して、慌てて美術質の前に行くと、もう浜坂君がいた。(中略)
「実はね」
私が早く済まそうと口火を切ると、
「うわ、すごい嫌な予感」
と浜坂君が顔をしかめた。(中略)(私は萌絵のことを言い出せずに、浜坂君と別れた。)
私が教室に入ると、すぐさま萌絵が近づいてきた。(中略)
「なんか、その、うまく言えなかった」
と告げ、
「ごめんね……」
と小さく頭を下げた。
それで許されると思っていた。(中略)
ところが、私の言葉を聞いた萌絵の顔つきは一瞬で変わった。(中略)
「なんだか、気まずくって」
「何が気まずいわけ? 優子って、別に浜坂のこと好きじゃないんでしょう?」(中略)
「あーあ、マジがっかりだわ。優子がそんなやつだったとはね」
と萌絵は私をにらみつけると、(中略)教室を出て行った。
「なんとか話してあげればよかったんじゃない?」
黙って聞いていた史奈もそう言うと、萌絵を追いかけ
「おはよ」
翌朝、廊下で会って声をかけると、萌絵は私をちらりとも見ずに、さっさと教室に入って行った。(中略)私は大多数の女子に無視されているようだ。(中略)
「友達裏切るってないわー」
「本当、最悪だよね」
目立つことやいざこざが好きな墨田さんと矢橋さんの声だ。気の強い二人にはかなわない。私は気づかないふりをして席に着いた。(中略)
小学校四年生三学期の終業式。(中略)通知表は今までで一番よく、(中略)これを見たら、梨花さんは「すごいね」って驚くだろうし、お父さんは「友達に優しいのが一番だ」とほめてくれるだろう。(中略)
(中略)
この二ヶ月ほど、梨花さんとお父さんはなんだかあまりうまくいっていないようだった。(中略)
(また明日へ続きます……)
(中略)
「私、すごくラッキーなんだよね」
考え込んでいた私に、梨花さんが言った。(中略)
「しゅうちゃんと結婚しただけなのに、優子ちゃんの母親にまでなれてさ」(中略)
「お母さんって楽しいの?」
{うん、楽しい。(中略)優子ちゃんもにこにこしていたら、ラッキーなことがたくさんやってくるよ}(中略)
(中略)
梨花さんと暮らし始めてから、いいことばかりだった。でも、橋花さんが家に来ると同時に、おじいちゃんやおばあちゃんに会うことはなくなっていた。(中略)
血がつながっている身内なのに、あんなに面倒を見てもらったのに、いつしか完全に離れてしまったなんて。(中略)
「(中略)それより、森宮さんは彼女できないの?」(中略)
「なんで?」
「梨花さんがいなくなって、二年も経つし、それに、森宮さんもう三十七歳だし」
「三十七って、若者じゃないか。それに俺は父親を全う中なんだ。こんな多忙なのに、恋などしてる場合じゃない」(中略)
球技大会当日は、梅雨が近づく湿気を含みながらも青い空が広がる晴れとなった。(中略)
すべてのゲームが終了し、体育館の生徒たちもグランドに集まってきた。くたくただと言いながら、みんないい顔している。(中略)
放課後、実行委員で片付けを行うことになった。(中略)
グランドでは、浜坂君がトンボを一人で引いている。(中略)グランドは暑いし、トンボを引くのは重労働だ。(中略)ドッジでたくさん人を当てるより、トンボをスムーズに引けるほうがずっといい。浜坂君のことは好きにはならなかったけど、また何か委員を一緒にやるのはいいな。そう思った。
(中略)
球技大会から一週間後、(中略)みんなで駅近くの喫茶店に行くことにした。(中略)
「萌絵さ、浜坂君のこと気になってるみたいなんだよ」
と史奈がにやっと笑った。(中略)
「でさ、優子に取り持ってもらえないかなって」(中略)
「浜坂って、優子のこと好きだったんでしょう?」
「ま、まあ、そうかな」
「だったら、その優子が勧めてくれたら、うまくいくんじゃないかって」(中略)
「頼むよ、優子。私ちょっと、本気なんだよね」
萌絵はぱちんと手を合わせた。
「うん」
「やった! 恩に着る」(中略)
「呼び出しといたよ」
翌日、私が登校するや否や、萌絵がそう言った。
「え?」
「史奈の彼氏に頼んで、浜坂、放課後に美術館前に来てもらうようにしたんだ」(中略)
萌絵とは二年生から同じクラスだ。一年生の時から仲が良かった史奈と萌絵が親しかったのもあって、そのまま三人でいることが多くなった。(中略)
「あれ、もういたんだ」
ホームルームが終了して、慌てて美術質の前に行くと、もう浜坂君がいた。(中略)
「実はね」
私が早く済まそうと口火を切ると、
「うわ、すごい嫌な予感」
と浜坂君が顔をしかめた。(中略)(私は萌絵のことを言い出せずに、浜坂君と別れた。)
私が教室に入ると、すぐさま萌絵が近づいてきた。(中略)
「なんか、その、うまく言えなかった」
と告げ、
「ごめんね……」
と小さく頭を下げた。
それで許されると思っていた。(中略)
ところが、私の言葉を聞いた萌絵の顔つきは一瞬で変わった。(中略)
「なんだか、気まずくって」
「何が気まずいわけ? 優子って、別に浜坂のこと好きじゃないんでしょう?」(中略)
「あーあ、マジがっかりだわ。優子がそんなやつだったとはね」
と萌絵は私をにらみつけると、(中略)教室を出て行った。
「なんとか話してあげればよかったんじゃない?」
黙って聞いていた史奈もそう言うと、萌絵を追いかけ
「おはよ」
翌朝、廊下で会って声をかけると、萌絵は私をちらりとも見ずに、さっさと教室に入って行った。(中略)私は大多数の女子に無視されているようだ。(中略)
「友達裏切るってないわー」
「本当、最悪だよね」
目立つことやいざこざが好きな墨田さんと矢橋さんの声だ。気の強い二人にはかなわない。私は気づかないふりをして席に着いた。(中略)
小学校四年生三学期の終業式。(中略)通知表は今までで一番よく、(中略)これを見たら、梨花さんは「すごいね」って驚くだろうし、お父さんは「友達に優しいのが一番だ」とほめてくれるだろう。(中略)
(中略)
この二ヶ月ほど、梨花さんとお父さんはなんだかあまりうまくいっていないようだった。(中略)
(また明日へ続きます……)
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