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高野秀行『怪獣記』

2008-09-09 15:19:36 | ノンジャンル
 今朝窓を開けると、涼しい北風が入ってきました。やっと秋が来たようです。今年初めてツクツクボウシの鳴き声を聞き、なぜかジャズを聞きたくなって、今日一日中ビル・エヴァンスの晩年の演奏を聞きました。秋にビルは似合います。

 さて、高野秀行さんが'07年に出した「怪獣記」を読みました。今までの高野さんの本と違って、カラー写真が豊富にあり紙も厚く、豪華な作りになっています。
 高野さんは、知り合いでUMA(未確認神秘動物)に夢中の古代生物研究者から、トルコでUMAのビデオが撮られ、ネットで公開されて話題になったと聞き、そのビデオの真贋についての調査を始めます。いかにもインチキ臭いビデオでしたが、そのビデオを撮った男が「ワン湖のジャナワール(ジャナワールとはトルコ語で怪獣を指す)」という本を共著で書いていることを知り、知り合いのトルコ語が分かる大学生と、出版社のカメラマンとともに、共著の相手であるヌトゥク教授をトルコに訪ねます。何と教授はビデオを見たことがないと言い、ワン湖周辺の住民の大半を占めるクルド族の青年は、クルド問題から世間の目をそらすためにジャナワール問題を政府がでっちあげたのだ、と言います。そしてさらに調べていくと、ビデオは偽物だったことが以前にトルコで既に明らかにされていて、ビデオを撮った男は警察に逮捕されたということを知り、それまでトルコで「ジャワナールを探しに来た」と言うと、トルコの人々が皆笑っていたことの訳が分かるのでした。
 高野さんらは改めてジャナワールの調査を始め、ワン湖を3日で一周して村々で聞き取りを行ない、帰ろうとしたところで、湖の湖面に浮き沈みする謎の物体を目撃し、ビデオに収めます。そのビデオをトルコの生物学の先生に見てもらうと、岩か藻じゃないかと言うので、高野さんは幼児用のビニールボートで再度現地調査を行ない、そこには岩も藻もなく、目撃した時に思ったよりもずっと大きい物であったことを知ります。そして、そのボートでの調査については地元紙でも写真付きで報道され、高野さんは一躍トルコの有名人になるのでした。

 シナリオのないドラマとはまさにこのことでしょう。高野さんの他の本でもそうですが、なぜか次々にアクシデントに見舞われ、旅はドラマチックになっていくのです。これだけ運に恵まれるというのは、一種の才能と言うしかありません。そしていつものごとく、潔い文体で、無駄なく、面白く、旅で出会う特徴ある人々、現代文明から隔絶した村の様子、自然の美しさ、地方色あふれる文化の様子などが語られます。結局、ジャナワールの正体は掴めぬままですが、そんなことはどうでもよいくらい楽しませてくれる本です。文句無しにオススメです。

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