諏訪敦彦（のぶひこ）監督『ライオンは今夜死ぬ』その６

　今日は節分の日。私は先日スーパーで豆まき用の豆を私と母の分の２袋を買ってきました。「鬼は～外。福は～内」と言って、窓という窓、サッシというサッシ、それに玄関からも思い切り声を張り上げて、年男の福を呼び込みたいと思っています。恵方巻も今日スーパーで半分サイズの海鮮巻きを買い、西南西に向かって一気食いします。皆さんはどんな節分を送られるのでしょうか？

　さて、また昨日の続きです。

　眠るジャン。それを見詰めているジュリエット。「ジャン」「ジャン？」。ジャン、目覚める。「お散歩をしましょ」。ジャン、上半身を起こす。「さあ」。
「あれ、覚えてる？　あそこ。何か分かる？」「星だろ？」「名前は？」「さあ」「星の名前」「知らない」「ベテルギウス」「そうか。覚えにくいな」「毎晩見えるわ、覚えてね」「あれは？」「カシオペア座」「あれは？」「オリオン座。狩人で犬を連れてる」「あれは？」「アルクトゥルス。うしかい座の二重星」「君が言う名前が本物という証拠は？　僕も言えるよ」。アスピュリュス、ノロメージュ、ヴォルロージュ…。また散歩ができるなんて思わなかった。君と二人で」。
「この物語の結末は？」「物語？」「僕らの物語さ」「終わるの？」「二人で生きてる物語」「結末を知りたい？」「どんな物語も結末は同じ」「そう？」「例外はない」「結末は？」「死だ」「つまらない」「だとしたって、死は生の一部なんだ。生が作る影だ。人生とは死と手を携えて歩むもの。間違ってる？」。
「死を演じられない」「なぜ」「シャルル、アンドレ、アレクサンドル、皆死んだ。君も死んでしまった。悲しそうだ」「あなたはいつかまた私を捨てて、かつての人生に戻るわ。私ったら年寄りみたいなしゃべり方」「もう見捨てない。この先どこへでも君と」「この先？」「“かつて”の逆」「いいわね。“この先”の方が好き」。野鳥の声。フェイドアウト。
　子供たちを俯瞰で。それを見下すジャン。「スタート。アクション」「アディオス」「止まれ」。階段を降りてきた少女、途中で座り込む。「行くぞ」「２階を調べる」「ラファエル、カット。もう一度だ」「よかったよ」「でも…」「今のでいい」。
「シーン13、テイク１」「襲いかかるんだぞ」「アクション」。ドアを開けて部屋に入って来る４人の子供たち。「明かりをつけろ」「ここにもいたぞ」「光に弱いんだ」「生き返った」「カット」「マジで何も見えない」。
　試写会。「始めていい？」「はい」「よし、何分あるの？」「今のところ７分ぐらい。編集し直すけど」「粗（あら）つなぎだな。タイトルは決めた？」「恐怖の館」「そうか。始めよう」「ここ面白い。この後すごく笑える」「これ大好き」「繰り返しか」「うん」「ジュール、おかしいね」。笑いが絶えない。「僕の脚に倒れてきた」「終わり。ジャン、この映画どうだった？」「とても素朴でいいね」「まだ続きが」「終わってなくても、とても単純で美しい映画だ。単純で美しい。何かを感じさせる。映画を撮影する喜びを感じたよ」「ＮＧ集ね」「映画と向き合って、生真面目に撮る人たちもいる。しかめ面で。でも君たちは映画を楽しんでる」「大切なことだよ」。
「美しさと単純さが喜びとなる」「皆、ふざけてる」「視線がヘンだ」「終わりかな？」「そう」「ブラボー、よくやった、まさに映画」「皆さまに感謝」。拍手。「アドリアン、万歳」「すごくいい。いいアイデアが詰まってた」「ラストシーンは場所を変えない？」「家の中ばかりだから」「ジャンが出て行ったしね」「アイデアがあるんだ。ジャンが外に出たところで、シャルリが登場。実はシャルリがジャンだってことに」「どうやって？」「特撮でジャンとシャルリを入れ替えるんだ。変身させる」ジャン「僕にもアイデアが。ここから遠くないところに、とてもとても美しい湖がある。ラストに使えるだろう」「いいね」「美しくて素晴らしい場所だ」「この辺りにあった？」「あるよ」「知ってるのか？」「父さんと行った」「きれいだった？」「水着を持ってこう」「遊びじゃない。ラストの撮影だ。湖で」。「ジャングルに♪恐ろしいジャングルに♪鳴き声が響き渡った♪ライオンが今夜死んだのだ♪」「その歌…」「ジャングルに♪恐ろしいジャングルに♪鳴き声が響き渡った♪ライオンが今夜死んだのだ♪」。
「マイクやる？　あれを」「カチンコは？」「ロマン」「シーン６、テイク１」。

（また明日へ続きます……）

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