恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラムと、同じく日曜日に掲載されている前川喜平さんのコラム。
まず5月12日に掲載された「苦めの朝ドラ」と題された斎藤さんのコラムを全文転載させていただくと、
「NHK連続テレビ小説「おちょやん」が最終週に入っている。これは異色の朝ドラだった。
古関裕而をモデルにした前作「エール」はサクセスストーリーとしての要素も持っていた。ところが「おちょやん」の主人公・竹井千代は、悲惨な少女時代を経て女優になってもいっこうにサクセスせず、苦労の淵から這(は)い上がれない。
加えて彼女を取り巻く男たちのクズっぷり。朝ドラ史上サイテーの父親と話題になった父のテルヲ。せっかく再会したと思ったら怪しげな組織の一員になっていた弟のヨシヲ。終盤に至って劇団の若い女優を妊娠させ、千代に離婚してくれと頭を下げて視聴者をあぜんとさせた夫の一平。
昨年、モデルになった浪花千栄子の自伝『水のように』を読んだときには、あまりに壮絶な半生に「大丈夫なのか」と思った。これが朝ドラになるの? というより、どうせまた甘めの人情ドラマに改変しちゃうだろうと思ったのである。
ちょっと見くびっていましたね。予想に反して「おちょやん」は朝ドラ得意の「親子の絆」を軽く見限り、最期に「夫唱婦随」も退けた。
自伝で浪花千栄子は、夫だった渋谷天外に「ありがたく御礼申し上げます」と嫌みったらしく書いている。あなたとの辛酸の二十年のおかげで今の自分がある、と。この苦さをドラマはどう回収する?」
また、5月9日に掲載された「赤木ファイル」と題された前川さんのコラム。
「森友学園事件の決裁文書の改竄(かいざん)経緯を故赤木俊夫氏が残した「赤木ファイル」。妻の雅子さんが裁判で提出を求めてから一年以上を経てやっと国は提出を約束した。時間がかかった理由として「対象の文書量が著しく膨大」「新型コロナウイルス禍で業務態勢を縮小」を挙げたがウソに決まっている。政権のために時間稼ぎをしていたのだ。その間に疑惑の安倍首相は辞めてしまった。
財務省理財局と近畿財務局の間のメールも含むこのファイルを、国は「行政文書ではなく赤木さんが個人的に作成した」と言う。バカも休み休み言え。これが行政文書でなくて何なのだ。
改竄の発端となった安倍首相の「私や妻が関与していたら首相も国会議員も辞める」という発言が2017年2月17日。俊夫さんが上司に呼び出されて改竄させられたのが26日。その間の22日、菅官房長官のもとに佐川理財局長らの官僚が集まっていた。文書改竄の方針はこの場で決まったのだろう。そうでなければ24日の会見で菅氏が「決裁文書にほとんどの部分が書かれている」と大見得(おおみえ)を切れるはずがない。
国は「訴訟とは直接の関係が認められない第三者の個人情報」はマスキングの対象だと予告している。もしファイルに安倍氏や菅氏の名前があればきっとマスキングされるのだろう。」
そして、5月16日に掲載された「伊藤由紀夫君」と題された前川さんのコラム。
「伊藤由紀夫君がなくなった。僕は彼と中学高校の六年間をともに過ごした。脳裏に浮かぶのは明るく利発で誠実な少年のころの彼の姿だ。
家庭裁判所調査官一筋だった伊藤君は退官後、非行少年の親たちの自助グループ「あめあがりの会」が立ち上げた「非行克服支援センター」の相談員を務めていた。非行少年の立ち直り支援、非行少年の親の支援などを行うNPOだ。
伊藤君はまた「日刊ペリタ」の代表も務めていた。反戦、反原発、反新自由主義などの旗幟(きし)を鮮明にした独立系インターネット情報誌だ。
長く音信が途絶えていた彼から連絡があったのは2018年12月。彼の依頼を受けて平和教育や子どもの権利について講演させてもらった。
伊藤君からは少年法改正に反対する新刊書の「帯文」も頼まれた。四月にもらったメールには、入院中でほとんど動けないと書かれていた。彼が人生の最後の力を込めたその本は「18・19歳非行少年は、厳罰化で立ち直れるか」(編集代表・片山徒有)。彼が逝ってから九日後の五月十五日に刊行された。その帯に僕はこう書いた。「犯罪は憎い。犯罪者には報復したい。それは当然の感情だ。しかし、そこに付け入る大衆迎合主義は危険だ。非行少年の成長発達への人権とその可能性を見失ってはいけない。この本はそれを教えてくれる」」。
どの文章も一読の価値のある文章だと思いました。
まず5月12日に掲載された「苦めの朝ドラ」と題された斎藤さんのコラムを全文転載させていただくと、
「NHK連続テレビ小説「おちょやん」が最終週に入っている。これは異色の朝ドラだった。
古関裕而をモデルにした前作「エール」はサクセスストーリーとしての要素も持っていた。ところが「おちょやん」の主人公・竹井千代は、悲惨な少女時代を経て女優になってもいっこうにサクセスせず、苦労の淵から這(は)い上がれない。
加えて彼女を取り巻く男たちのクズっぷり。朝ドラ史上サイテーの父親と話題になった父のテルヲ。せっかく再会したと思ったら怪しげな組織の一員になっていた弟のヨシヲ。終盤に至って劇団の若い女優を妊娠させ、千代に離婚してくれと頭を下げて視聴者をあぜんとさせた夫の一平。
昨年、モデルになった浪花千栄子の自伝『水のように』を読んだときには、あまりに壮絶な半生に「大丈夫なのか」と思った。これが朝ドラになるの? というより、どうせまた甘めの人情ドラマに改変しちゃうだろうと思ったのである。
ちょっと見くびっていましたね。予想に反して「おちょやん」は朝ドラ得意の「親子の絆」を軽く見限り、最期に「夫唱婦随」も退けた。
自伝で浪花千栄子は、夫だった渋谷天外に「ありがたく御礼申し上げます」と嫌みったらしく書いている。あなたとの辛酸の二十年のおかげで今の自分がある、と。この苦さをドラマはどう回収する?」
また、5月9日に掲載された「赤木ファイル」と題された前川さんのコラム。
「森友学園事件の決裁文書の改竄(かいざん)経緯を故赤木俊夫氏が残した「赤木ファイル」。妻の雅子さんが裁判で提出を求めてから一年以上を経てやっと国は提出を約束した。時間がかかった理由として「対象の文書量が著しく膨大」「新型コロナウイルス禍で業務態勢を縮小」を挙げたがウソに決まっている。政権のために時間稼ぎをしていたのだ。その間に疑惑の安倍首相は辞めてしまった。
財務省理財局と近畿財務局の間のメールも含むこのファイルを、国は「行政文書ではなく赤木さんが個人的に作成した」と言う。バカも休み休み言え。これが行政文書でなくて何なのだ。
改竄の発端となった安倍首相の「私や妻が関与していたら首相も国会議員も辞める」という発言が2017年2月17日。俊夫さんが上司に呼び出されて改竄させられたのが26日。その間の22日、菅官房長官のもとに佐川理財局長らの官僚が集まっていた。文書改竄の方針はこの場で決まったのだろう。そうでなければ24日の会見で菅氏が「決裁文書にほとんどの部分が書かれている」と大見得(おおみえ)を切れるはずがない。
国は「訴訟とは直接の関係が認められない第三者の個人情報」はマスキングの対象だと予告している。もしファイルに安倍氏や菅氏の名前があればきっとマスキングされるのだろう。」
そして、5月16日に掲載された「伊藤由紀夫君」と題された前川さんのコラム。
「伊藤由紀夫君がなくなった。僕は彼と中学高校の六年間をともに過ごした。脳裏に浮かぶのは明るく利発で誠実な少年のころの彼の姿だ。
家庭裁判所調査官一筋だった伊藤君は退官後、非行少年の親たちの自助グループ「あめあがりの会」が立ち上げた「非行克服支援センター」の相談員を務めていた。非行少年の立ち直り支援、非行少年の親の支援などを行うNPOだ。
伊藤君はまた「日刊ペリタ」の代表も務めていた。反戦、反原発、反新自由主義などの旗幟(きし)を鮮明にした独立系インターネット情報誌だ。
長く音信が途絶えていた彼から連絡があったのは2018年12月。彼の依頼を受けて平和教育や子どもの権利について講演させてもらった。
伊藤君からは少年法改正に反対する新刊書の「帯文」も頼まれた。四月にもらったメールには、入院中でほとんど動けないと書かれていた。彼が人生の最後の力を込めたその本は「18・19歳非行少年は、厳罰化で立ち直れるか」(編集代表・片山徒有)。彼が逝ってから九日後の五月十五日に刊行された。その帯に僕はこう書いた。「犯罪は憎い。犯罪者には報復したい。それは当然の感情だ。しかし、そこに付け入る大衆迎合主義は危険だ。非行少年の成長発達への人権とその可能性を見失ってはいけない。この本はそれを教えてくれる」」。
どの文章も一読の価値のある文章だと思いました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます