夢にうなされて起きるエツコ。タツオはベランダで外を見ていて、振り返る。「エツコ」「何?」「世界が終わるとしたらどうする?」「え?あたし多分何もしない。いつも通りの生活を続ける」「そうだよね」「どうしたの?」「何人かだけ助かる枠があるとしたら?」「何人ぐらい?」「ほんの数人」「世界で?」「うん」「じゃあ、やだな。助かりたくないよ」「そうだよね」。
エツコの職場。同僚のヨーコ、エツコに「あら、またぼんやり」「ああ」「~のこと?」「うん。それもあるんだけど。いい? 笑わないでね。ヨーコ、世界が終わるかもしれないって考えたことある?」「え?」「私は別にそんなこと考えてる訳じゃないけど、もしそう思ったとしたら、それってどんな精神状態なんだろう?」「ふーん、きっとそれはものすごく冷静で客観的ってことなんじゃないかな? だって明日にも地下のマグマが大爆発するかもしれないし、地球上の酸素が全部宇宙空間に飛び散ってしまうかもしれないじゃない? あっ、それと一番ありそうなのが、どっかの国の偉い人が核ミサイルのスイッチを押しちゃうって奴」「ああ」「世界なんていつ終わってもおかしくないんだよ。終わらない方が変」「そうだね」「でもどうせ終わるなら、あと50年ぐらいしてからがいいな。それなら私は全然オーケー」「はあ」「さあ、やっちゃおう」「うん」。歩いて来る上司。「山際くん、ちょっと医者何て言ってた? 浅川くんのこと」「ミユキですか? 健忘症の一種かもしれないと言われました」「健忘症か。なるほどね」。右手を気にする上司。
病院。タツオ「じゃあ本当に浅川ミユキの記憶を奪ったのは君じゃないんだな」真壁「何度も言ったろ。違うって」「他にも仲間がいるのか?」「さあね。でも来たのが僕一人って考える方が変だろ? 君はガイドだ。僕はガイドに案内されるしかない」。エツコがやって来る。真壁、椅子を指さし「エツコさん、どうぞ。こないだはどうも」「いえ」「今ちょうど浅川さんの話をしていたんですよ。ひょっとしたら彼女は誰かに概念を奪われたんじゃないかって」「そんなことできるんですか?」「うーん、こういうのはどうでしょう。宇宙人が地球に来たとする。目的は侵略。でもその前に人間という生き物を理解する必要がありますよね。それで彼らが人間を動かしている根本にあるものが概念であることに気付いたんです。言葉じゃないですよ。言葉は単なる表面です。でもその底にある概念は、国によって種族によって個人によって、どれも微妙に違っている。まるで熱帯の昆虫みたいに。誰だって集めてみたくなりますよ」「集めてどうするんです?」「まあ適当なところで侵略が始まるんでしょう。宇宙人だから」タツオ「先生、冗談はもういいでしょ。うちの妻は素直だから信じちゃうじゃないですか」「まさか、ね」「エツコ、浅川さんに会いに来たんだろ? 行ってやれば?」「それじゃあ失礼します」。エツコ、去る。「何で彼女にあんなこと話した?」「え? 行こうか。僕たちも。紹介してくれるんだろ? 次の相手」。
エツコ「ミユキ、私のこと分かる?」。床に倒れこむミユキ。抱き上げる看護婦たち。担当医「あの時は私もあてずっぽうで言ったんですがね。どうも本当に家族という概念が根こそぎなくなっているようなんです」「それだけでこんな風に?」「家族は人間の育成過程そのものですから。実は似たような症状が何件も報告されてる」「この病院で?」「いや、世界中で」「一斉に皆家族が分からなくなる?」「いや、欠落する概念は人によりまちまちなんだけれども、ただ全員何の前触れもなく、ある時突然、あっ、すみません。あなたにこんな話するつもりじゃなかったんだけど」「だれがそれを集めているんでしょうか?」「集めてるって何を? 概念を?」「ええ」「誰がでしょう?」。首を振るエツコ。
真壁「君の奥さん、もう気付いているよ。最初に会った時から彼女は気づいてた。もちろん僕が誰かは分かってないようだけど。僕が普通じゃないことは彼女は一瞬で分かったみたいだ」タツオ「まさか、そんな」「ああいう人間もいるんだな」「頼むからエツコにだけは手を出さないでくれ」「ガイドは君だ。君が選んだ人しか僕は手を出さない。約束したろ?」
“2週間前”の字幕。「ここは病院?」「はい」「君は?」タツオ「臨床工学士の山際です。えーと」(中略)「僕は真壁だ。先週この病院に赴任してきた。分かってきたぞ。ここは君以外に誰もいないの? じゃあお願いがある。山際君。君は僕のガイドだ」。握手すると、真壁はタツオの手を強引に締め付けて来る。(また明日へ続きます……)
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
エツコの職場。同僚のヨーコ、エツコに「あら、またぼんやり」「ああ」「~のこと?」「うん。それもあるんだけど。いい? 笑わないでね。ヨーコ、世界が終わるかもしれないって考えたことある?」「え?」「私は別にそんなこと考えてる訳じゃないけど、もしそう思ったとしたら、それってどんな精神状態なんだろう?」「ふーん、きっとそれはものすごく冷静で客観的ってことなんじゃないかな? だって明日にも地下のマグマが大爆発するかもしれないし、地球上の酸素が全部宇宙空間に飛び散ってしまうかもしれないじゃない? あっ、それと一番ありそうなのが、どっかの国の偉い人が核ミサイルのスイッチを押しちゃうって奴」「ああ」「世界なんていつ終わってもおかしくないんだよ。終わらない方が変」「そうだね」「でもどうせ終わるなら、あと50年ぐらいしてからがいいな。それなら私は全然オーケー」「はあ」「さあ、やっちゃおう」「うん」。歩いて来る上司。「山際くん、ちょっと医者何て言ってた? 浅川くんのこと」「ミユキですか? 健忘症の一種かもしれないと言われました」「健忘症か。なるほどね」。右手を気にする上司。
病院。タツオ「じゃあ本当に浅川ミユキの記憶を奪ったのは君じゃないんだな」真壁「何度も言ったろ。違うって」「他にも仲間がいるのか?」「さあね。でも来たのが僕一人って考える方が変だろ? 君はガイドだ。僕はガイドに案内されるしかない」。エツコがやって来る。真壁、椅子を指さし「エツコさん、どうぞ。こないだはどうも」「いえ」「今ちょうど浅川さんの話をしていたんですよ。ひょっとしたら彼女は誰かに概念を奪われたんじゃないかって」「そんなことできるんですか?」「うーん、こういうのはどうでしょう。宇宙人が地球に来たとする。目的は侵略。でもその前に人間という生き物を理解する必要がありますよね。それで彼らが人間を動かしている根本にあるものが概念であることに気付いたんです。言葉じゃないですよ。言葉は単なる表面です。でもその底にある概念は、国によって種族によって個人によって、どれも微妙に違っている。まるで熱帯の昆虫みたいに。誰だって集めてみたくなりますよ」「集めてどうするんです?」「まあ適当なところで侵略が始まるんでしょう。宇宙人だから」タツオ「先生、冗談はもういいでしょ。うちの妻は素直だから信じちゃうじゃないですか」「まさか、ね」「エツコ、浅川さんに会いに来たんだろ? 行ってやれば?」「それじゃあ失礼します」。エツコ、去る。「何で彼女にあんなこと話した?」「え? 行こうか。僕たちも。紹介してくれるんだろ? 次の相手」。
エツコ「ミユキ、私のこと分かる?」。床に倒れこむミユキ。抱き上げる看護婦たち。担当医「あの時は私もあてずっぽうで言ったんですがね。どうも本当に家族という概念が根こそぎなくなっているようなんです」「それだけでこんな風に?」「家族は人間の育成過程そのものですから。実は似たような症状が何件も報告されてる」「この病院で?」「いや、世界中で」「一斉に皆家族が分からなくなる?」「いや、欠落する概念は人によりまちまちなんだけれども、ただ全員何の前触れもなく、ある時突然、あっ、すみません。あなたにこんな話するつもりじゃなかったんだけど」「だれがそれを集めているんでしょうか?」「集めてるって何を? 概念を?」「ええ」「誰がでしょう?」。首を振るエツコ。
真壁「君の奥さん、もう気付いているよ。最初に会った時から彼女は気づいてた。もちろん僕が誰かは分かってないようだけど。僕が普通じゃないことは彼女は一瞬で分かったみたいだ」タツオ「まさか、そんな」「ああいう人間もいるんだな」「頼むからエツコにだけは手を出さないでくれ」「ガイドは君だ。君が選んだ人しか僕は手を出さない。約束したろ?」
“2週間前”の字幕。「ここは病院?」「はい」「君は?」タツオ「臨床工学士の山際です。えーと」(中略)「僕は真壁だ。先週この病院に赴任してきた。分かってきたぞ。ここは君以外に誰もいないの? じゃあお願いがある。山際君。君は僕のガイドだ」。握手すると、真壁はタツオの手を強引に締め付けて来る。(また明日へ続きます……)
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