また昨日の続きです。
ケン、信太郎に「お前みたいに伸び伸びとした男はなかなかいねえ」「ピエロの爺さん、どうする? せっかくマトモになろうとしてるのに。かわいそうだ」「ダメだ。この世界のことには口を出すな」。
母、山口を迎え「いらっしゃいました。お待ちしております」。舞台では奇術をしてるが、席はガラガラ。栗田「山口の旦那。いつもは混んでるんですが。今日は暑いからでしょう」。
山口「解散した方がいい。私も年だ」座長「山口さんの小屋でぜひ」「何を賭ける?」「私の引退を」「そんなもの、もらってもしょうがない。美佐子さんをもらう。息子の嫁にだ」「良助君に?」「ああ、確かに良助はバカだ。幼い頃に脳膜炎を患って、成長が止まってる」。
舞台では怪力ショー。
山口「美佐子さんの希望はすべて叶える。一座の人それぞれの将来も保障する」座長「お断りします。冗談じゃない。美佐子、どう思う?」「もし興行が成功したら、私は東京に行きたいわ」座長「賭けましょう」。
信太郎「そんなことに自分の将来を決めるなんて」美佐子「どうすればいい?」。泣く美佐子。「いい方法なんてない。お父さんを信用しよう」。
母「お父さんの一世一代の芸、縄抜けだよ。秒読みをしておくれ」。
「4分40秒。4分50秒」。縄抜けができず、舞台で倒れる座長。「座長、しっかりして下さい」。
座長「お父さん、ダメ、ダメだ」美佐子「だらしがない。しっかりして。私はお父さんを信じてる」。
千場組の打ち上げ。栗田「手紙を出してきた」信太郎「なぜ戻って来た?」「ケンさんに話が」「無茶だ。早く帰れ」。栗田、ケンに「頼みがある。この頼みさえ聞いてくれれば、好きなようにしてもらっていい。おれの処分を山口の公演が終わるまで待っててほしい」。
縄抜け。「美佐子、行くぞ」。1分45秒で成功。皆、舞台で座長を称える。「今度は手錠をして箱に入り、水槽の中へ」美佐子「危ないわ」。すぐに外れる手錠。笑い合う座長と妻。
信太郎「これから奥の細道とシャレこみます。こんな楽しい旅は初めてでした」千場組の者「パンティが売れることを初めて知ったよ。若松じゃ、辰巳館がいいぞ。鼻歌を歌いながら向こうへ歩いていく組の者。
「金洋さんたちはダムに行かれましたよ」。
縄抜けの実験。箱に鍵。水中に箱を沈める。「1分25秒」ケン「泡一つ出ねえ」信太郎「縄に動きは?」。ないというジェスチャー。「1分30秒」。美佐子「上げてちょうだい」母「まだ上げるんじゃないよ」「1分40秒、41、42」母「2分まで頑張って」信太郎「上げろ!」。箱からは、グッタリとした座長。
遺影を見て泣く美佐子。
「解散するより仕方ねえ」「俺は一人じゃやっていけねえ」「そりゃ、俺だってつらい。これから先々どうなることやら」母「幸せだね。お父ちゃん。芸の最中に死ねるなんて。芸人冥利ってもんだ」。泣き伏す妻。美佐子、信太郎を呼び出す。舞台で練習する恵。美佐子「私、もう一興行打ってみようと思うの。このまま解散なんてできないわ。私は東京に出られるけど。皆の気持ちを思うと、やり通さねばならないと思う。山口さんが賛成してくれたら、みんなを引っ張るわ。ただ今まで通りのやり方ではお客さんを満足させられない。新しい奇術もそんなに早くできるようなものじゃない。いい知恵があったら教えてほしいの」「ねえ、ショーにしたらどうだろ?」「ショー?」「お父さんの縄抜けだって箱詰めにして水に入れるっていうのは、完全なショーだよ。あれでいいんだよ」。栗田が現われ「山口さんは今度の興行を取りやめる気でっせ」「何ですって?」「なまじ賭けなんて言い出したんで、なおさら引き受けられないと」信太郎「ねえ、君にやる気があるんなら、自分で山口さんに頼め」。
“山口”の表札。美佐子「客は奇術に飽きてる訳じゃありません。平板で単純すぎるんです。上演の仕方に飽きてるんです」信太郎「そうなんです。別々にやるんじゃなくて、総合的なショーに」「うーん。ショーにね」「いくつもの技術を一つにまとめて、もっと明るく楽しい芝居にしようと」「しかしこれといったスターもいないし、座員も手薄。それに一座のネームバリューもない。やっぱりこの公演は取りやめに」「どんなに有名な劇団でも最初にスターもいなければネームバリューもないんです。どうか1日でも2日でも結構ですので。もちろん賭けは続けていただいて結構です」「始めから勝つことが分ってる賭けはフェアじゃない。賭けの話はキャンセルに。お母さん、一座の人の身のふり方は別の劇団に当たってみる」「今度は父ではなく、私が賭けるんです。あなたは良助を見たことがありますか?」。白痴の良助を連れてくる山口。つばを飲み込む美佐子。「これでも賭けを続けますか?」「続けます」。
(また明日へ続きます……)
ケン、信太郎に「お前みたいに伸び伸びとした男はなかなかいねえ」「ピエロの爺さん、どうする? せっかくマトモになろうとしてるのに。かわいそうだ」「ダメだ。この世界のことには口を出すな」。
母、山口を迎え「いらっしゃいました。お待ちしております」。舞台では奇術をしてるが、席はガラガラ。栗田「山口の旦那。いつもは混んでるんですが。今日は暑いからでしょう」。
山口「解散した方がいい。私も年だ」座長「山口さんの小屋でぜひ」「何を賭ける?」「私の引退を」「そんなもの、もらってもしょうがない。美佐子さんをもらう。息子の嫁にだ」「良助君に?」「ああ、確かに良助はバカだ。幼い頃に脳膜炎を患って、成長が止まってる」。
舞台では怪力ショー。
山口「美佐子さんの希望はすべて叶える。一座の人それぞれの将来も保障する」座長「お断りします。冗談じゃない。美佐子、どう思う?」「もし興行が成功したら、私は東京に行きたいわ」座長「賭けましょう」。
信太郎「そんなことに自分の将来を決めるなんて」美佐子「どうすればいい?」。泣く美佐子。「いい方法なんてない。お父さんを信用しよう」。
母「お父さんの一世一代の芸、縄抜けだよ。秒読みをしておくれ」。
「4分40秒。4分50秒」。縄抜けができず、舞台で倒れる座長。「座長、しっかりして下さい」。
座長「お父さん、ダメ、ダメだ」美佐子「だらしがない。しっかりして。私はお父さんを信じてる」。
千場組の打ち上げ。栗田「手紙を出してきた」信太郎「なぜ戻って来た?」「ケンさんに話が」「無茶だ。早く帰れ」。栗田、ケンに「頼みがある。この頼みさえ聞いてくれれば、好きなようにしてもらっていい。おれの処分を山口の公演が終わるまで待っててほしい」。
縄抜け。「美佐子、行くぞ」。1分45秒で成功。皆、舞台で座長を称える。「今度は手錠をして箱に入り、水槽の中へ」美佐子「危ないわ」。すぐに外れる手錠。笑い合う座長と妻。
信太郎「これから奥の細道とシャレこみます。こんな楽しい旅は初めてでした」千場組の者「パンティが売れることを初めて知ったよ。若松じゃ、辰巳館がいいぞ。鼻歌を歌いながら向こうへ歩いていく組の者。
「金洋さんたちはダムに行かれましたよ」。
縄抜けの実験。箱に鍵。水中に箱を沈める。「1分25秒」ケン「泡一つ出ねえ」信太郎「縄に動きは?」。ないというジェスチャー。「1分30秒」。美佐子「上げてちょうだい」母「まだ上げるんじゃないよ」「1分40秒、41、42」母「2分まで頑張って」信太郎「上げろ!」。箱からは、グッタリとした座長。
遺影を見て泣く美佐子。
「解散するより仕方ねえ」「俺は一人じゃやっていけねえ」「そりゃ、俺だってつらい。これから先々どうなることやら」母「幸せだね。お父ちゃん。芸の最中に死ねるなんて。芸人冥利ってもんだ」。泣き伏す妻。美佐子、信太郎を呼び出す。舞台で練習する恵。美佐子「私、もう一興行打ってみようと思うの。このまま解散なんてできないわ。私は東京に出られるけど。皆の気持ちを思うと、やり通さねばならないと思う。山口さんが賛成してくれたら、みんなを引っ張るわ。ただ今まで通りのやり方ではお客さんを満足させられない。新しい奇術もそんなに早くできるようなものじゃない。いい知恵があったら教えてほしいの」「ねえ、ショーにしたらどうだろ?」「ショー?」「お父さんの縄抜けだって箱詰めにして水に入れるっていうのは、完全なショーだよ。あれでいいんだよ」。栗田が現われ「山口さんは今度の興行を取りやめる気でっせ」「何ですって?」「なまじ賭けなんて言い出したんで、なおさら引き受けられないと」信太郎「ねえ、君にやる気があるんなら、自分で山口さんに頼め」。
“山口”の表札。美佐子「客は奇術に飽きてる訳じゃありません。平板で単純すぎるんです。上演の仕方に飽きてるんです」信太郎「そうなんです。別々にやるんじゃなくて、総合的なショーに」「うーん。ショーにね」「いくつもの技術を一つにまとめて、もっと明るく楽しい芝居にしようと」「しかしこれといったスターもいないし、座員も手薄。それに一座のネームバリューもない。やっぱりこの公演は取りやめに」「どんなに有名な劇団でも最初にスターもいなければネームバリューもないんです。どうか1日でも2日でも結構ですので。もちろん賭けは続けていただいて結構です」「始めから勝つことが分ってる賭けはフェアじゃない。賭けの話はキャンセルに。お母さん、一座の人の身のふり方は別の劇団に当たってみる」「今度は父ではなく、私が賭けるんです。あなたは良助を見たことがありますか?」。白痴の良助を連れてくる山口。つばを飲み込む美佐子。「これでも賭けを続けますか?」「続けます」。
(また明日へ続きます……)
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