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今尾恵介『世界の地図を旅しよう』

2013-06-27 06:15:00 | ノンジャンル
 ルキノ・ヴィスコンティ監督の'65年作品『熊座の淡き星影』をWOWOWシネマで見ました。亡き父が反ファシズムの英雄で、弟と近親相姦的な関係を持つ、イギリス人の男性と結婚したばかりの若いブルジョワ女性をクラウディオ・カルディナーレが演ずる白黒映画で、無骨な感じの映像の質感はそれなりに楽しめましたが、内容にはあまり惹かれませんでした。

 さて、今尾恵介さんの'07年作品『世界の地図を旅しよう』を読みました。
 著者は“まえがき”にあたる部分で、「地図はその作製目的によって省略や取捨選択の作法を異にするわけだが、(中略)場合によっては正確なはずの地図が結果的にウソをつくこともあり得るのだ。(中略)読者の皆さんには、地図というものがいかに多様であり、それをよく見ることで実にさまざまなものが浮かびあがってくること、この地球上のいろいろな価値観が無数の地図の上でさまざまなトーンで主張されていることの面白さを知っていただきたい」と書いています。
 その後、世界共通でない地図記号、地図で見る道路・鉄道・川の名前の種類と変遷、国境や県境の話、地図に見る自然の造形、わざとウソをついている地図、といった順で、地図のあれこれが語られていきます。
 この中で面白いと思ったことは、アメリカ合衆国の官製地形図は植生に限らず記号が少なくてシンプルな図式が特徴ですが、農地は果樹園(orchard)とブドウ畑(vineyard)の2種類しかないこと(したがって、広大なグレートプレーンズ(ロッキー山脈東側の大平原)の小麦畑などは、碁盤目に区画された大平原に記号のない空白が延々と続いています)、日本とドイツの地形記号は全般によく似ていて、なぜかといえば、明治20年代に日本がドイツの地形図記号を直輸入に近いかたちで採用したものが多いからであること(特に鉄道の記号や針葉樹林・広葉樹林などはほとんど同じです)、外国の2万5千分の1や5万分の1などの地形図を見る限り、郵便局の記号はない国の方が多いこと、これに対し市街地図にはまず確実に郵便局の記号があり、欧米の市街地図での多数派の代表格が「ポストホルン」であること(「ポストホルン」とは、かつて郵便馬車の馭者が鳴らして走った楽器のこと)、日本では戦後になって鉄道の国鉄・私鉄の区別が行われるようになり、「官尊民卑」の意識の表れなのか、一日数本のローカル線であっても国鉄の線は太く全駅が掲載されるのに対し、私鉄だと特急が10分間隔で走る幹線であっても細い線で駅も省略されるといったことが横行していたこと、'97年の数字で日米の鉄道輸送の実態を比較すると、旅客輸送では、日本が3953億人キロ、米国225億キロと日本が圧倒しているのに対し、貨物輸送では、米国2兆3202億トンキロ、日本229億トンキロと米国が日本の100倍の数字を示していること、日本の旧国境は尾根線や大河などによるものが多く、たいていは現在も合理的な文化圏・生活圏などの境界として機能していますが、トンネルや橋梁などの開通などで交通事情が大きく変わり、旧来の地域分けが不便をもたらす場面も出てきていること、地図の製作には多くの労力がかかっていて、他社にそれを複製されては困るので、例えばアメリカでは、びっしり掲載された地名の中に1つか2つのダミーの地名を混ぜておき、複製されるのを防いでいること、都道府県別に色分けしていろいろなデータを一目瞭然に表示するいわゆるコロプレス・マップは、数値の区切り方によっては作製者の意図に合わせた表現が可能になること、また図表を見せる原則を意図的に外し、本来はドット(点)で表現するのが適当なものをベタ塗りで表現して印象を歪めることも可能であること、また、以前は国家の体制を色分けで示した図がよく地図帳に載っていましたが、社会主義国を示す赤の色が、メルカトル図法をあえて使うことにより、広大な旧ソ連がますます拡大されて「共産主義の脅威」が強調されていたと考えることもできること、江戸時代の地図には被差別部落が「非人小屋」とか「穢多村」などとあからさまに表現してあるものがあり、復刻版ではそれを掲載する出版社は少ないこと、などなどでした。

 地図が意図的なものであることを楽しく明らかにしてくれる良書だと思います。お勧めです。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

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