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ポール・オースター『オラクル・ナイト』

2011-01-28 06:38:00 | ノンジャンル
 ポール・オースターの'03年作品『オラクル・ナイト』を読みました。
 34才でブルックリンに住む私は死の寸前まで行く大ケガをした後、5月に退院し、毎日散歩をしながら徐々に回復を目指していました。そして1982年の9月18日、私は、ふと立ち寄った文房具店「ペーパー・パレス」で、青いポルトガル製のノートを見つけ、気に入ってしまいます。言葉は皆が使うので文房具店を開くのが夢だったという店主のM・R・チャンは、今後も欲しい物があったら取り寄せると私に約束するのでした。そしてその日から、私は書くことを再開することになったのです。
 私は以前に、友人であり尊敬する先輩作家でもあるジョン・トラウズから、若い頃にジョンが熱愛していた作家の何人かの作品を読み直していることを聞き及んでいて、中でもダシール・ハメットの『マルタの鷹』第7章のフラット・クラフトのエピソードについて面白く語っていたことを覚えていたので、そのエピソードの続きを先ず自分で書いてみようと思いました。そのエピソードとは、ある日頭上の梁が落ちてきて危うく死にそうのなった男が、それまでの人生を投げ打って忽然と姿を消してしまうという話でした。
 私は書き始めます。「主人公の編集者ニックは、敬愛する作家シルヴィア・マクスウェルの未発表作品『オラクル・ナイト(神託の夜)』の原稿を彼女の孫娘ローザ・レイトマンから持ち込まれる。彼女に一目惚れしたニックは、その晩、妻を誘ってレストランで食事をしている最中、口論となって気まずい雰囲気になった時、近くにローザがいるのに気付く。その夜、散歩に出たニックは、上方の壁面から落下してきたガーゴイルの彫刻の頭部であやうく殺されそうになり、そのことが新しい人生への直感となって、その足で飛行機に乗りカンザスシティへ向かい、今までの人生を捨て去ってしまう。」
 とそこまで書いたところで、妻のグレースの存在に気付きますが、彼女は執筆中に私が部屋にいなかったと言います。
 その夜、ジョン・バロウズとの恒例の会食をするために、いつものレストランではなく、彼の自宅を妻のグレースと訪ねますが、バロウズは、彼の死んだ二番目の妻ティーナの弟の話を始めます。弟は段ボール箱の中から3Dビュアーを見つけ、それを見たところ、ティーナが16才の時の誕生パーティを撮影したものであることが分かり、弟は一気に30年前に戻され、喪失感を味わった直後に、その機械は壊れたと言うのです。その話を聞いた私は、鼻血を出してしまいますが、その直後、ジョンの机の上に青いポルトガル製ノートがあるのを発見し、ジョンもまたそのノートを愛用しているのを知るのでした‥‥。

 全体が複文的な構造を取っており、物語の細部を語るための著者による注釈も多く、「人間の思考自体が複文的構造を取っている」という訳者の柴田元幸さんの指摘にもうなづけるものがありました。ここに収まりきらないエピソードもまだまだあるのですが、特に54ページにある、「私」が作ったグループ「青組」の定義、つまり、「ユーモアのセンス、人生の皮肉を楽しめる目、世界の不条理さを認める能力、けれどさらに、ある種の謙虚さと思慮深さ、他人に対する思いやり、寛大な心(中略)鋭敏な観察者にして、微妙な道徳的判断も下せる人間、正義を愛する者」には深く共感するものがありました。面白い小説というだけでなく、人生の深いところに響いてくる小説でもあります。文句無しにオススメです。なお、あらすじの続きは私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)の「Favorite Novels」の「ポール・オースター」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

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