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黒沢清監督『ダゲレオタイプの女』その3

2018-07-15 05:25:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 「マリー、僕だよ。うまくいきそうだ。聞いてる?」「ええ、お帰り」「ボロ屋だろ? でももうすぐ変わる。大金が手に入るんだ。いくらか当てて」「分からないわ」「50万ユーロ」「すごいじゃない」「君なら何に使う?」「考えたこともないわ。あなたなら? 私はあなたといるだけでいいの。将来はその時に考える。今は今のことを」。キス。「絶対うまくいく」。(中略)
 作業場をうろつくジャン。ファイルの山を調べるジャン。明滅する灯り。
 鑑定士「面白いものが多い」ジャン「でしょ?」「買値は別ですが」「捨てるよりは」「そうですね。全部見たので後日評価額を。そういえば階段で若い娘さんを見かけて驚きました。失礼を詫びたけど無言で」「そんな人いません」「そうですか?」。
 帰宅したジャン。「いたんだ」「ええ、なぜ?」「外出したかなと思って」「ずっといたわ」。キス。「家で何をしていたの?」「昔を思い出してた。花が一杯咲いてて楽しかった。でも今が一番。天井も何もかもすべてが目新しいから。パパは元気?」「元気だよ。マリー、君とここにいることが信じられない。うまく言えないけど、すべてが現実でない気がする」「悪くない生活でしょ?」「ああ」「これが現実ならどこが境目?」。マリーが窓を開けると風が吹き込む。「マリー、君は本当は……」「何?」「いや、何でもない」。
 ファイルの山に挑むジャン。ステファン「まだ登記簿を? その粘りを活かせれば成功する」「どこなんです?」。「パパ」の声。ステファン「聞こえたか?」「何も」。開くドア。「マリーが見えないのか?」「どこ?」「ほら、あそこ」「誰もいませんよ。こんな家にいたら誰でもおかしくなる。車を貸してください」。
 ステファン、居間の椅子に座り、うなだれる。ドアの開く音。杖をついた老婦人が歩いて来る。「こんにちは。初めまして。門が開いていたので。評判はいろいろ聞いたわ。どこに座れば? 案外せっかちだけど、後数時間は生きられます。早くやりましょう」「何を?」「写真を撮るんでしょ?」「そうでした」。
 固定器具を震える手で操作していると老婦人「怖いのね」「ええ」「死は幻ですよ。若い人には恐ろしい現実でしょうが、私のように死の寸前にいる者には幻なのです」「分かります」。
 ジャン、車で川辺へ。浮かび上がる潜水士。警官たち。老人「毎日探してるんだ。釣りに来た子が底に何かが沈んでいると言いふらしたせいで、面倒なものが見つからなけりゃいいが」。
 トマ「時間との勝負だ。君の野心とやる気を信じた」「気難しい人なんです。しかし、これでも少しずつ進めてます。説得するには時間がかかります。変人だから」「口説けると言ってたね」「数日待ってください」。
 妻の写真を見て、ステファン「こんなに小さくなって。復讐は順調かな?」。
 ステファン「等身大のマリーだぞ。マリー、ママだよ。うれしくないのか? “永遠”を得たのに! もういい。ずっとそうやってろ」。妻の写真を近くに置いて去ろうとすると、その写真が落ちて砕ける。「悪かった」。ビンを持って去るステファン。
 温室の灯りが揺れる。ステファンが止め、奥へ歩いていくと、また灯りが揺れている。また止めると、背後にマリーが現れる。おびえるステファン。近づくマリー。「こうなることは分かっていた」。温室の外は雨が降り出す。
 ジャン、「エグレー家・売買書類」を見つける。「ステファン!」。温室からステファン現れる。「見つけたのか?」「これでいいのかな?」「分からん」「きっとこれだな。あとは同意書へのサインだ。(去ろうとするステファンに)待って。それは?」「これか?」「現像用じゃない」「筋弛緩剤だ。妻の姿勢を保つために使った」「毒薬だぞ」「固定器だけでは不十分だった。少量なら害はない」「まさかマリーにも?」「時にはな」「人として最低だ」「ああ、軽蔑に価する。私も君も」。
 同意書を作り、マリーに読んで聞かせ、偽造サインをするジャン。「この手があったんだ。2~3日でこの面倒な状況も終わる」。ベッドで抱き合う二人。「ジャン、もう家に帰らないと」「すべてが解決したらね、いいだろ?」。
 ジャン「同じことじゃないですか。僕がサインを真似ようが。彼はもう正気じゃないんです。目的は彼の土地を買うことでしょ? じゃ筆跡なんか関係ない」トマ「その努力は買うが、後はプロに任せる」「ダメだ。3ヶ月も苦労したんだ。手数料が惜しい?」「違う。ジャン。友人として…」「友人? 友人だと? ごまかすな。分かりました。彼にここでサインさせます」。
 街角を歩くジャン。「久しぶり! 病気でもしたか? ひどい顔だ。仕事続いてんのか? すごいな」「すごく疲れるんだ」「土曜の試合見に来る?」「どうかな」「何度も電話したんだぜ」「バッテリーが故障してて」。(また明日へ続きます……)

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

P.S 昔、東京都江東区にあった進学塾「早友」の東陽町教室で私と同僚だった伊藤さんと黒山さん、連絡をください。首を長くして福長さんと待っています。また、この2人について何らかの情報を知っている方も、以下のメールで情報をお送りください。(m-goto@ceres.dti.ne.jp)

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