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町山智浩『最も危険なアメリカ映画 「國民の創生」から「バック・トゥ・ザ・フューチャー」まで』

2017-08-01 05:59:00 | ノンジャンル
 町山智浩さんの ‘16年作品『最も危険なアメリカ映画 「國民の創生」から「バック・トゥ・ザ・フューチャー」まで』を読みました。
 「あとがき」から引用させていただくと、
「D・W・グリフィス監督の『國民の創生』から百一年目の2016年、同じ原題を持つ新作映画『バース・オブ・ネイション』が公開された。
 南北戦争の約三十年前、1831年に起こった黒人奴隷の反乱を描いており、アフリカ系の俳優ネイト・パーカーが企画・製作・脚本、および反乱のリーダー、ナット・ターナーを演じている。
 南部バージニア州の綿花農園で黒人奴隷の息子として生まれたナットは、幼い頃から聡明で、農園主のターナー家から、聖書の勉強を許された。当時、南部の白人たちは黒人には天国に行く魂がないと考えていたので、奴隷にはキリスト教を教えなかったが、ナットは神の教えを仲間に伝え始めた。それは起爆剤だった。聖書にはこう書かれているからだ。人は皆、神の子であって、「奴隷も自由人もない」と。
 ナットは牧師として奴隷たちに洗礼を施し、神の下で結婚もした。ターナー家は寛容だった。若き当主サミュエルはナットと幼馴染みで、彼を友人として扱った。個人的には奴隷制度廃止論者だったが、南部では何もできなかった。
 ナットは理不尽な虐待の数々を体験する。黒人女性は来客への接待として夜伽(よとぎ)をさせられる。いっそ飢えて死んだほうがましだと断食を続ける奴隷の歯をノミで割って無理に流動食を流し込む。抗議したナット自身も鞭打たれて死にかける。
 そして彼は天啓を受ける。自分は奴隷を解放するために神に選ばれた者だと。
 ナットは密かに奴隷を組織化し、8月21日の晩、静かに反乱を始めた。寝室で眠っている白人たちをひとりずつ、音を立てぬよう、銃でなくナイフや斧や鈍器で殺害していった。その数は女性や子どもも含んで五十人を超えた。
 反乱は白人民兵によって二日後に鎮圧された。ターナーは森に逃げ込んだが10月30日に逮捕された。絞首刑の後、死体は皮を剥がれ、首を切られ、体を八つ裂きにされた。白人たちは怒りと恐れから、反乱に加わった者だけでなく、まったく無関係な奴隷たち百人以上を殺した。これ以降、白人たちはけっして奴隷たちに聖書を教えなくなった。
『バース・オブ・ネイション』は、もちろんD・W・グリフィスの「名作」の裏返しとして作られた。「“The Birth of a Nation”という言葉は『國民の創生』によって血塗られている」サンダンス映画祭の記者会見で、ネイト・パーカーはこのタイトルを使った理由を説明している。「だが、僕が『バース・オブ・ネイション』を作ったことで、今後、『國民の創生』はナット・ターナーと結びつけられることになったんだ」
 映画学校では今でも娯楽映画のストーリーテリングの原点として『國民の創生』が見せられる。しかし、よほどの白人至上主義者でない限り、それを観るのは苦痛だ。特にアフリカ系にとっては。技術的に優れているというだけでは我慢できないものがある。
 ネイト・パーカーは、近年のアカデミー賞の候補者が白人ばかりになっている現状の根底には『國民の創生』があると考えている。「差別的な事態が起こるたびに我々は雑草を抜くようにそれに対処する。腕をまくって土を掘って根っこから抜こうとする。だが問題はそのはるか奥深くにある。ハリウッドの娯楽映画はグリフィスの『國民の創生』の上に築かれた。『國民の創生』は史上初めてホワイトハウスで上映され、初めて国民的なヒット作になった映画だ。だが、そのテーマは白人の優位性だ」
 『國民の創生』の大ヒットは全米に四百万人ものKKK会員を生み出し、黒人へのリンチが、その後、何十年も続いた。
 「それが、この国で起こったんだよ。奴隷制度は終わったのに」
 それが『國民の創生』の公開から百一年目の今も続いている。数年前から全米で警察官が無抵抗の黒人を殺害する現場がスマートフォンで次々と撮影され、警官は誰も裁かれず、抗議のデモが続いている。デモだけでなく、黒人も銃を取って警官に報復し始めた。ニューヨークで、テキサスで、ニューオリンズで。その抗争が続く最中に、アメリカで最初に白人に逆襲したナット・ターナーの映画が公開されたのは意義深い。
 まだ三十六歳で、映画史に挑戦するこの意欲作を実現させたネイト・パーカーは、「ハリウッドに新たな天才登場!」と世界に注目された。ところが、全米公開前、彼が大学生の頃、女学生を友人ふたりとレイプしたと訴えられた事実が発覚した。裁判でパーカーは同意の上とされて無罪になったが、原告の女性は2012年に麻薬中毒治療施設で睡眠薬自殺した。彼女は白人だった。ともに訴えた友人は『バース・オブ・ネイション』の共同脚本にクレジットされているが、映画には、ナット・ターナーの妻が白人たちにレイプされる描写がある。この件をどう捉えるべきなのか、アメリカ人は困惑している。アメリカの闇はいったいどこまで深いのか。(後略)」
 面白くて、あっという間に読める本です。映画好きではない方にもオススメです。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/