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丸谷才一『エホバの顔を避けて』

2014-01-25 10:14:00 | ノンジャンル
 大島渚監督の'61年作品『飼育』をスカパーの日本映画専門チャンネルで見ました。大平洋戦争末期に黒人兵の捕虜を“飼育”することにやった山村での、都合の悪いことはなかったことにする醜悪な人間関係を描いた作品で、三国連太郎、小山明子、三原葉子、沢村貞子、山茶花究、浜村純、戸浦六宏、加藤嘉という豪華キャストで、ワンシーン・ワンカットが何度か見られる“ショット”の映画でした。

 さて、松浦寿輝さんが推奨していた、丸谷才一さんの'73年作品『エホバの顔を避けて』を読みました。
 夕べにちかいころ、わたしはアルバの町の仕事場でいつもの仕事に精をだしていた。だいぶ日がかげつたのに気づいたわたしは、もうすばらくしたら仕事をやめようと思ひながら、一足のぼろ靴をぱんぱんと合せて泥を落し、そしてその片方を修繕にかからうとしたとき――そのときであった。まるでその埃つぽいにぶい音が合図ででもあるかのやうに、わたしの前に1人の見知らぬ男が現れたのである。彼の服装は異様なものだった。黒い絹の衣には縫ひ目が見えないのである。彼は言った。――ここははなんといふ町なのですか? ――はあ、アルバ‥‥ ――ニネベといふ街は? その見知らぬ人は、わたしの答にかぶせるやうにして、ふたたびかう訊ねた。 ――ニネベ? なんでも、西のはうにニネベといふたいへん開けた街があるとは聞いておりますが‥‥。西の城門からお出になつて、まつすぐ進んでゆけばよいはずです。途中に大きな河が一つあるさうですよ。でも、どの位の道のりかは、わたしにはちよつと‥‥ ――そうですか、どうもいろいろ‥‥ そんなわづかの返答に対する礼の心であつたのだろうか、その人はすこし恥づかしさうな顔をしながら、わたしに金を与え、そして立去つたのだが、驚いたことにその金額があまりにも多かつたのである――銀十枚。独り者の気楽さなのだらうか、不意に思わぬ金がはいつたとすれば、それはただちに酒を意味していた。ときどき――といつてもせいぜい半月に一度か一と月に一度くらい、気がむいたときに出かける安酒場ではなくて、もう少し上等な酒場にはいってみようと、そのときのわたしは考へていた。ところが、その酒場のけばけばしい扉をあけて、片隅の卓にむかひ、給仕女のひとりに酒と肉をと言ひつけたけれども、やがて背の低い料理人が現れて、まつすぐにわたしに近より、襟くびをつかんで椅子から立たせ、わたしはまるで汚れた雑巾のように、石だたみの上に抛り出されたのである。わたしは、わたしの衣服が汚れた雑巾にすぎないこと、仕事着のままだったことに思いを致し、仕事着をぬいでよそ行きの服に着かへるため、りつぱな衣装をまとふため一軒の古着屋へとびこんだのであったが、古着屋がひろげて見せたのは、ああエホバよ、あれは果して偶然と呼ぶべきだろうか、そこにわたしは縫ひ目なしの黒い絹の衣を見たのであった。それは確かに銀十枚を与へて去つたあの男のものであった。 ――それ‥‥それに決めませう。それがいい。わたしはなかばかすれた声で主人にさう告げ、その黒い衣に手を通そうとした。だがその衣を着せてくれながら主人はかう言ったのだ。 ――特別におまけして、銀一枚で宜しうございます。‥‥はあ、何しろたつたいま仕入れたばかりで‥‥なんでもニネベへいらつしやる方とやら‥‥ ニネベ! その言葉を耳にした瞬間、さつと熱つぽい血がわたしの脳にしみ、手脚はかすかに顫ふのだつた。わたしは銀一枚を古着屋に投げ与へ、先程の酒場へと夜の道をいそいだ。今度は給仕女も料理人もわたしを追出さうとしなかつたが、こもれも見知らぬ、しかし先刻の男とはまつたく気品がちがふ下司な男が、ただし小ざっぱりした身なりでするすると近づいて来た。私は女を勧める男にギリシャ女と注文を出し、相当年配の女のところへ連れて行かれると、その女は自分の娘のミカルのところへ私を案内するのだった‥‥。

 全編300ページ強、ここまでで12ページ、私はこれ以上読むのを断念しました。とにかく細かい活字がびっしり書かれていて、内容に関しても、ざっと見る限り、ここまでの展開とさほど変わりなく、興味が持てないと思ったからです。こうした文章の面白さを教えてくれる方がいたら、是非お願いしたいと思いました。

→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/