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村上龍『村上龍映画小説集』その2

2014-01-06 09:57:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 『地獄に堕ちた勇者ども』では、私は東京へ向かう寝台列車の中で横浜の私立女子大に受かった明美と知り合う。彼女は盛大な見送りを受けていたが、私には母と妹の見送りしかなかった。私が通うことになっている予備校は一風変わった美術の学校で、先着順に生徒を募り、講師陣は唐十郎や寺山修司、澁澤龍彦や種村季弘といったユニークな陣容だった。明美は「生きていくってことはただお金があればいいってものじゃないでしょう。何かが必要なのよ。それでわたしは結局父がその何かをまったく持ってないんだってことに気付いたの」と言った。私は一緒に上京した仲間とプロのブルースバンドを目指してもいたが、やがて彼らと別れ、美術学校にも行かなくなり、ガリガリに痩せた5歳年上のOLと知り合い、週末は彼女と延々とセックスして過ごした。ある日、明美から転居の知らせが来て、私は彼女のアパートにでかけた。質素なアパートで、彼女は寝台列車で話したようなことを他の人とはなかなか話せないでいたと言い、私は大人は嘘をつくので人の話を注意深く聞く癖がついていると言った。私と彼女はセックスし、その夜は私の部屋に泊まると言い出し、酔っ払いヤクをやった後、オールナイトでビスコンティの『地獄に堕ちた勇者ども』を観た。明美は私のアパートの前まで来て、映画を観た直後だったので、その建物が象徴だということがよくわかり、彼女は部屋に入らず帰っていった。明美はその後、結婚して佐世保に戻り、父親のガソリンスタンドを継いだそうだ。
 『大脱走』では、私は上京し、美術学校に通い始めたが、他の生徒が鼻についてすぐに行かなくなった。唯一親しくなったのがヤマナカだった。また上京直後は高校時代の仲間達と住んでいたが、やがて1人でアパートに移った。ヤマナカは仲間を紹介してくれ、彼らの溜まり場のスナック『ドールハウス』も紹介してくれた。そこのママはレイコという16歳の少女だった。その頃、私は画材屋でヨウコというOLの痩せた女性と知り合い、週末は彼女と延々とセックスをして過ごした。ヨウコの要望で私はヤマナカを彼女に紹介した後、祖父が倒れたということで佐世保に帰った。東京に帰り、いきなりヨウコの家を訪ねると、ヤマナカとその仲間がヨウコといた。私はすぐに家を出て、男3人に対して脚を開く痩せた女のイメージが頭から離れなかったが、オールナイトで『大脱走』を観ているうちに、そのイメージは消えた。この映画を初めて観た時、客の半分は海兵隊のGIで、マックイーンがオートバイで鉄条網をジャンプして越えるところで一斉に立ち上がり、大歓声を上げた。ここでは誰も立ち上がったりしないだろうな、と思いながら、私はそのシーンを待ち続けた。
 『狼は天使の匂い』では、私は上京してすぐに『ラバーソウル』というロック喫茶に通うようになった。その店では皆ニックネームで呼ばれていて、私はケンと呼ばれ、シェップという名の同じ歳の青年と知り合った。ある日、初めて見る客がヤクをやりすぎて正気を失い、灰皿をシェップの顔に投げつけ、私がシェップを押し倒して難を逃れた。それ以来、私はシェップと親しくなった。シェップには2人の恋人ルナとサチコがいた。ルナと3人で会う時はドラッグや酒で酔って『ラバーソウル』を中心に笑ったり騒いだりで終わり、サチコと一緒の時は、『ラバーソウル』で会っても、シェップの詩のノートを見て感想を言い合い、文学の話もした。やがてシェップは詩人として成功するためには生活を共にしていく理解者が必要だと思うと言って、サチコに結婚してほしいと言った。その後、私は横田基地の傍らに引越していき、年上の女とムチャクチャな暮らしを続けて、1年半後にそれが破綻し、2年留年した形で美術大学にもぐり込んだが、その頃、偶然にシェップとサチコに出会った。3日後にサチコから電話があり、彼女らの部屋に行くと、彼女は「抱いて」と言った。私が応じないと彼女は諦め、2人でワインを飲みながらテレビで『狼は天使の匂い』を観た。映画を観終わると、彼女は服を脱ぎ、私は彼女の誘いに負けた。彼女はシェップに才能があると思うか?と聞き、「将来のことを考えるような男には才能はない」と言った。それから約十年が経ち、作家になり映画も撮るようになった私は、偶然にルナにあった。彼女は田舎に戻り結婚して2児の母になっていた。シェップは大手の百貨店に勤めている。サチコはシェップと別れて、フランスに行き、一度だけ、ジャン・ルイ・トランティニアンの写真の絵ハガキが来たが、その後は連絡がない。(また明日へ続きます‥‥)

→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/