うたことば歳時記

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有田焼の上絵付け焼 日本史授業に役立つ小話・小技42

2024-05-21 09:04:32 | 私の授業
埼玉県の公立高校の日本史の教諭を定年退職してから既に十余年、その後は非常勤講師などをしていました。今年度で七四歳になります。長年、初任者研修・五年次研修の講師を務め、若い教員を刺激してきましたが、その様な機会はもうありません。半世紀にわたる教員生活を振り返り、若い世代に伝えておきたいこともたくさんありますので、思い付くままに書き散らしてみようと思いました。ただし大上段に振りかぶって、「○○論」を展開する気は毛頭なく、気楽な小ネタばかりを集めてみました。読者として想定しているのは、あくまでも中学校の社会科、高校の日本史を担当する若い授業者ですが、一般の方にも楽しんでいただけることもあるとは思います。通し番号を付けながら、思い付いた時に少しずつ書き足していきますので、間隔を空けて思い付いた時に覗いてみて下さい。時代順に並んでいるわけではありません。ただ私の専門とするのが古代ですので、現代史が手薄になってしまいます。ネタも無尽蔵ではありませんので、これ迄にブログや著書に書いたことの焼き直しがたくさんあることも御容赦下さい。

42,有田焼の上絵付け焼                                      寛永期の文化では、有田の酒井田柿右衛門が上絵付の技法で赤絵を完成させたことを学習します。そこまではよいとして、生徒が上絵付の有田焼をどの程度理解しているか、私の知る限りでは心許ないものでした。もちろん現代の物ですが、身近な日用品にいくらでもあるのに、それに気付いていないのです。それは生徒の責任ではなく、気付かせない授業者の責任です。「現代の物では・・・・」と言われるかもしれませんが、現代もなお継承されているところに意味があるのであり、もし授業者がそこに気付かないなら、経験の幅が悲しくなる程に狭すぎます。敢えて過激な表現をしていますが、それは奮起を期待するためであって、悪意があるわけではありません。
 そもそも陶磁器に描かれる絵には、下絵と上絵があります。まずは600~800度くらいの温度で素焼をした後、本焼をすると藍色に発色する呉須(ごす)・酸化コバルトで絵や輪郭を描き、透明の釉薬をかけて1,200~1,300度くらいの高温で本焼をします。磁土で整形した器はこの温度で磁器となるわけです。この時に描かれる絵は、釉薬の下になるので下絵と呼ばれます。そしてその後で色絵具で絵柄を描くのですが、本焼をして透明になった釉薬の上に描くので、その絵は上絵と呼ばれ、上絵を描くことを上絵付と言います。陶芸用の色絵具は高温になると変色したり、溶けて流れてしまう物が多いため、低温で焼かなければなりません。しかし低温では磁器にはなりませんから、色絵を施す前に高温で焼いておき、その後で色絵具で絵付をしてから低温でもう一度焼くわけです。その様な技法で作られますから、表面をよくよく観察すれば、藍色が透明な釉薬の下にあり、色絵がその上にあることはすぐにわかります。要するに、下絵は本焼き前に描く、上絵は本焼き後に描くと理解すればよいでしょう。
 そこで上絵付という物を理解させるために、実物を見せて上絵であることを観察させたいのです。もちろん骨董市に行けば、江戸時代の小品や傷物なら千円単位で買うことはできます。しかし高価な骨董品を見せる必要はありません。リサイクルショップに行けば、現代の物ですが、百円単位でいくらでも入手できます。否、現代の日用品の中から有田焼の色絵を探し出せることの方に、意味があるのだと思います。歴史そのものではなく、歴史の痕跡ですが、この現代というものが、歴史という大地に支えられた薄皮であることに気付くことに、意義があるのです。