トンデモ本という評価がある一方で、50万部以上と大ベストセラーになったのも事実。で、実際に読んでみました。
私も経済学は中小企業診断士の一次試験用に付け焼刃で勉強しただけなので、基本的な知識のベースがないのですが、著者も経済学をほんの少しかじった程度の知識なのでしょう(ファイナンスのMBAは持っているようです)。正しい経済学からの指摘はこちらのリンク先のような、よくまとまっている専門家にお任せするとして、素人ながら気になった点を挙げてみる。
まずタイトルが「デフレの正体」と非常に刺激的なものとなっているけれど、本書の中では、デフレとは何か明確な定義がない、というのが致命的な弱点だと思います。著者は耐久消費財の価格下落や内需の縮小をデフレと捉えているようですが、政府の定義では「物価の持続的な下落」です。
今の日本経済にとって非常にセンシティブな話題のひとつである“デフレ”という言葉を、意図的にタイトルに使用したとすれば、マーケティング的にはツボですが、経済論壇から激しい反発があるのもやむを得ません。
著者の語る「内需の縮小」や「地域間格差の誤解」については、実データから見てもそうなのでしょう。また生産年齢人口の波という動きもデータどおりです。
ただ、少し経済学的な話に入ると、粗がぼろぼろと目につきます。名目と実質、マクロとミクロを意図的にか無自覚にか分かりませんが、混同しているので、ツッコミどころ満載です。内需の縮小や生産年齢人口の減少に対する処方箋にしても、女性の就労促進はまさにそのとおり、といった感じですが、外国人観光客の増加は著者自ら効果が小さいと釈明していますし、高齢富裕層についてはその存在すら明確にされていません。
経済学を学問として学んだことのない地域振興の専門家が、マクロ経済について語ってしまったことが、ボタンの掛け違いの始まりではないでしょうか。編集者の責任も非常に大きいと思いますが、著者は地域振興の分野では素晴らしい実績を上げているようなので、残念ですね。
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