まてぃの徒然映画+雑記

中華系アジア映画が好きで、映画の感想メインです。
たまにライヴや本の感想、中小企業診断士活動もアップします。

罪の手ざわり 天注定

2014-06-20 23:00:21 | 中国映画(あ~な行)

『世界』や『長江哀歌』の賈樟柯ジャ・ジャンクー監督の最新作は、中国で実際に起こった殺人、自殺事件を描いたもの。

1つ目の事件は、山西省の炭鉱がある村で起きる。かつては村の共同所有だった炭鉱が民間に売られて、社長はプライベートジェットを持つほど羽振りがいい。村長と村の会計責任者も賄賂をもらっているはずだと炭鉱で働くターバイは疑うが、村の皆は心中はどうあれ表面上は誰も相手にしない。中央規律委員会に訴えるぞと声を上げるのは、共産党中央の反腐敗闘争の宣伝が行き届いているからなのか。結婚もせず鬱々としたやり場のない気持ちを抱えるターバイは、このままならない現状を破壊したいという欲望が強かったのかも。普通に猟銃を抱えていても何も言われないどころか、「猟に行くのか」と声をかけられるあたりは、地方の村ではまだまだ狩猟が一般的なのかもしれません。空港で社長に毒づいたターバイがシャベルで容赦なく袋叩きにされるシーンはえげつないなあと。

2つ目の事件は重慶、出稼ぎ先から重慶郊外の農村にある自宅に帰ってきた男は、シカゴブルズの毛糸帽子で映画の冒頭に峠道で強盗しようとした3人組をあっさり射殺した男だとわかる。彼は出稼ぎ先から13万元もの大金を送金していたが、妻は夫が単なる出稼ぎではないことに感づいていた。そりゃ平均月収数万円くらいなのに日本円で200万円以上もの大金を送金したら、一体何をしているのか不安になるよねえ。広州、宜昌、南寧行きと、長距離バスのチケットを3枚も買ったのは、行き先を悟られないためでしょうか。街中で、銀行から出てきた中年夫婦の後をつけてあっさりと強盗するのには、こんなにも簡単なものなのか、と驚きです。一応、服を着替えたり顔も隠したりしているけれど、パンパンと簡単に人を撃って鞄を奪うその手際のよさにぞっとします。

3つ目の事件は湖北省宜昌、広州の男と不倫をしている女が高速鉄道で帰る男を見送るとき、駅では空港並みのセキュリティチェックが。テロ対策の厳しさが鉄道にまで及んでいるのでしょう。女はサウナの受付で働いているが、不倫相手の妻がいきなり怒鳴り込んでくる。不倫相手の妻が荒っぽい男たちを従えていたのは、身近にそういうチンピラがいるってことだよなあ。女の母親は空港の建設現場で屋台を出しているが、工事が終わって労働者がいなくなれば当然ながら客はいなくなって仕事がなくなる。公共事業に経済が依存しまくっているのは日本の地方と何ら変わりありません。ちょうどテレビニュースでは高速鉄道の事故を報じていて、開発に伴う歪みがいろんな所に噴出しています。宜昌の街のチンピラがサウナに客としてやってきて、彼女に相手をしろと強要した時、札束で顔を何度も何度も張り倒し続ける様は見ていて気分が悪く、彼女が耐え切れずに逆上してチンピラを刺し殺したのも仕方ないなあと。その後、女はしっかり自首してるし。

4つ目の事件は東莞、縫製工場で働いていた若者が同僚と雑談中、相手が怪我をしてしまう。若者は工場長に呼び出され、同僚が休んでいる間は無給になると告げられる。病院代は会社が出すだけましなのかな。日本の労災保険みたいなのはなさそうだし。その工場長役が、前のエピソードの不倫相手の男と同じ俳優なのが、この2人は同一人物なのかという想像がふくらみます。無給でなんか働いていられるか、と縫製工場を辞めて知り合いを頼りに東莞に出てきた若者、近代的なマンション群に向かったと思ったら、フォックスコンかどこか、巨大EMSの社員寮みたいでした。

中華娯楽城というナイトクラブでウェイターの仕事についた若者は、同郷のホステスと仲良くなります。ナイトクラブではたくさんコスプレの衣裳があったけど、軍隊の恰好は当局のお咎めはないのでしょうか。ナイトクラブでは性的サービスもあり、若者はホステスにここを辞めて2人で暮らそうと誘いますが、ホステスは実は3歳の子供がいて養うためにお金を稼がなければいけないのでした。風俗店で働く女性にはいろいろと事情があるということでしょう。若者はナイトクラブもあっさり辞めてフォックスコンの見習い工になりますが、縫製工場の怪我した同僚が仲間を連れて脅しに来ます。きっと同僚も工場長から若者が辞めたと聞いて頭にきたのに違いありません。その分無給だっただろうし。若者が飛び降りたのは、そんな閉塞感に押しつぶされたからでしょうか。

エピローグでは、3つ目の事件の女が刑期を終えたのか、髪を短くして山西省にあらわれます。そして1つ目の事件で殺された社長の会社(今は社長夫人が継いでいます)の採用面接を受けることで、4つの話が人を介して繋がっていきます。

この物語が実際に中国で起きた事件を元にしているというところに、中国社会の抱える問題の根深さを感じますね。

公式サイトはこちら

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