
暦を変えた渋川春海(二代目安井算哲)の生涯を、爽やかな筆致で軽やかに描き出す。
御城碁を打つ安井家の長男として産まれた春海だが、家督は父初代算哲の弟子、算知が養子として継いでいて、武家の次男坊にも似た何とも宙ぶらりんな立場にある。血筋柄、碁の才能があり実力は高いものの、碁には面白味を見出せず算術に夢中になっている。そんな春海が二刀を下賜されて間もなく、神社境内の遺題を通じて「一瞥百解」の天才、関孝和の存在を知る。大老酒井雅楽頭から北極出地の任を命ぜられて日本全国を回る中で、隊長建部昌明からは渾天儀、副隊長の伊藤重孝からは日本の分野作りの夢を聞く。
北極出地を終えた春海は、保科正之に呼び出されて直々に宣明暦を変えるべく密命を受ける。中国、元で創始された授時暦こそ最も精緻であり宣明暦に代わるものとして、暦註の検証などを重ねたうえで「改暦請願表」を上奏し、暦勝負を大々的に仕掛けるが。。
まず登場人物の造詣が皆魅力的です。主人公の渋川春海は言うに及ばず、算術まわりには関孝和や礒村塾の先生である村瀬義益、碁界では本因坊道策、会津藩には藩主保科正之に春海の良き理解者安藤有益、幕閣には大老酒井雅楽頭に水戸光圀、北極出地隊の建部昌明に伊藤重孝、春海の子供のころからの師匠山崎闇斎に、常に春海を温かく見守っていたえん、皆が真っ直ぐな心を持ち、気負うことなくただただ自分の信ずるもののために一心に向かっていく、純粋で清冽な姿が心地よい。
春海が活躍した時代背景も、幕閣の勢力争いやら碁の発展、幕府と朝廷のつばぜり合いなど興味深いものでした。和算はさっぱりわかりませんでしたが、中学高校くらいの数学で解けるのかしら、と思うと先人たちの積み重ねてきた功績の大きさにたじろぐ思いです。
冲方丁は、マルドゥックスクランブルなどSFのイメージしかなかったから、こういう時代小説を書いたことに驚きだけど、読みやすさはジュヴナイル系の影響があるのかも。




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