「殻ちゃん ⑮」
★ 海原は空まで続いているような彼方のことは計り知れない 松井多絵子
4か月ぶりに三陸に来たアキ、もっともっと此処にいたいが、3日いて明日は東京へ帰る。台所で夏ばっぱが昼食の後片づけをしている。殻ちゃんは夏ばっぱが洗った食器を拭いている。何か話しながら、ときどき笑いながら、ままごと遊びをしているような二人。アキは海が見たくなり外へ出る。冬の海は色が濃い。昼過ぎでよく晴れているのに藍色の海。ウニたちは元気だろうか。アキはまた桜の木の下に来ていた。今頃あの二人はどうしているか。3・11の後の年末、センパイが東京からやってきた。三陸復興支援のために。あの頃のユイのアキへの視線は鋭かった。
ユイ◆「そわそわしてるね、アキ。今夜は海辺のデートか、センパイと」
アキ✿「デートなんかしないよ。センパイはユイが好きなんだ。彼と海辺のデートをしなよ」
ユイ◆「無理しなくっていいよ、アキ。今夜は星がきれいだよ」
カンがいいな、ユイは。でもアキはなぜかセンパイにさほど会いたいと思わなかった。ユイが好きだとアキにはっきり言いながら、東京でアキがタレントとして少し人気がでてきたら、アキを好きになったと言い出して。気まぐれなんだ。彼は「アキ」と呼び捨てだが水口は「アキちゃん」だ。
「アキちゃん」と呼ばれると水口がアキを大切にしてくれる感じがする。彼は本をよく読んでいる。音楽もよく聞いている。いつものんびり話す。彼の言葉はときどき詩のようだ。しかし、仕事をはじめるとマラソンのランナーみたい、ゴールをめざしてひたすら走りつづける、水口は。
❤ アキが好きな林真理子の語録 ~やる気とパワーがあれば、それで十分さ~
わたしもこの語録、大好きです。 1月20日 松井多絵子