軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ウスタビガ(1)孵化~1齢幼虫の脱皮

2018-11-23 00:00:00 | 
 今回紹介するのはウスタビガ。漢字では、「薄手火蛾」あるいは「薄足袋蛾」と書くとされる。チョウ目ヤママユガ科に分類されるガの仲間で、これらの中ではやや小型である。

 ヤママユガ科の蛾の仲間は日本に9種類(*)生息していて、いずれも繭を作りその中で蛹になる。そのうち、以前紹介したように、ヤママユは天蚕として飼育され、繭からは美しく高級な糸が採られて利用されている。ウスタビガの繭もヤママユと類似の色と形状をしているが、糸として利用されたという話は聞かない。

 また、繭の形状は、ヤママユや蚕のように繭全体を閉じてしまうのではなく、以前のこのブログの「ヤマカマス(2016.10.21 公開)」で紹介した通り、羽化後の成虫の出口をあらかじめ持つユニークな構造になっている。

 このウスタビガの成長過程を追い、孵化、幼虫の脱皮、繭作り、そして羽化までの様子を撮影したので、これらを数回に分けて紹介させていただく。(*:ヨナグニサン、シンジュサン、オオミズアオ、オナガミズアオ、ヤママユ、ヒメヤママユ、クスサン、ウスタビガ、エゾヨツメの9種)。


ウスタビガの繭と羽化直後の成虫♀(2016.10.4 撮影)

 ウスタビガに最初に出会ったのは、まだ鎌倉在住の2014年のことで、春にギフチョウの観察に津久井湖方面に出かけた時、林の中で「ヤマカマス」すなわちウスタビガの繭を見つけたことに始まる。

 この繭は、その前年の秋に成虫が羽化していった、もぬけの殻であるが、その表面には数個の卵が産みつけられていた。ウスタビガの♀が羽化すると、まもなくこの♀の出すフェロモンに誘われて♂が飛んできて、繭にぶら下がったまま交尾する。その後♀は、繭の表面に数個の卵を産んで、さらに周辺の木の枝などにも産卵するのであろう、そして初めのうちは卵のいっぱい詰まったおなかが重く、自由に飛べないようであるが、産卵して少し軽くなってからは、繭のある場所から飛び立っていき、別な場所にも産卵するようである。

 これは、今年経験したことであるが、10月下旬に南軽井沢の山荘で誘蛾灯を点けて、蛾を集めたことがあった。目的は、ヒメヤママユを採集することであったが、その時ヒメヤママユに混じって、ウスタビガの♀が数頭集まってきた。この♀のウスタビガを捕えて、網かごに入れておいたところ、網目に30-40個ほどの卵を産みつけていた。1頭のウスタビガがどれくらいの数の卵を産むのか、詳しくは知らないが、上記のように繭の表面に数個の卵を産んでからも、あちらこちらに移動しながら産卵していることがうかがえた。

 さて、津久井湖畔で採集したウスタビガの繭である。持ち帰り、庭の桜の木にぶら下げたまま、すっかり忘れてしまっていたが、夏のある日、桜の枝に見慣れない緑色の大型幼虫がいることに気がついた。

 これがあのヤマカマスの表面についていた卵から孵化、成長したものであることが判るまでに少し時間がかかったが、まちがいなくウスタビガの終齢に近い幼虫であった。この幼虫は、残念なことに繭を作ることなく、途中で枝から落下して、サクラの木の根元で死んでいるのをしばらくして見つけた。他の昆虫に襲われたのか、あるいは病気になったのかもしれなかった。

 2回目の出会いは、その翌年のこと。2015年春に軽井沢に移住したが、その夏、散歩中にウスタビガの終齢幼虫を偶然妻が見つけ、これを持ち帰ったところ、すぐに繭を作り、秋には無事成虫(♀)になり、20個ほどの卵を得ることができた。この時のことは、前記のとおり本ブログの「ヤマカマス」で紹介したとおりである。

 今回紹介するのは、2016年春に、この20個ほどの卵から孵(かえ)った幼虫を育てた時の記録である。羽化の様子は、一部「ヤマカマス」で写真を用いて紹介しているが、今回はその時撮影した動画を中心に見ていただく。

 ウスタビガの卵は、成虫と共にネットに入れてあった小枝の葉に産みつけられていた。冬の間、自然状態に近い方がいいと思い、ネットに入れたまま庭先にぶら下げてあった。翌年の春、そろそろ孵化が始まる頃と思い、時々覗いていたが、5月1日の朝、孵化が始まっていた。急ぎ室内に取り込んで撮影したが、準備不足でこのときはまともな撮影ができなかった。


木の葉に産み付けられていたウスタビガの卵塊(2016.5.1 撮影)
 

卵の殻を齧って穴を明けて顔をのぞかせるウスタビガの幼虫2016.5.1 撮影)


卵の殻を齧って明けた穴から出てくるウスタビガの幼虫2016.5.1 撮影)

 卵の大きさは、長径で2mm程度。幼虫は中から卵の殻を齧って穴を明け、そこから這い出して来るが、枯葉上を移動するようになると幼虫の大きさは3-4mmほどの長さになっていて、よくこれが卵に入っていたものと思わせる大きさである。孵化直後には、体に薄黄色の斑点が見られたが、時間と共に消えていき、移動し始めるころになると、体全体が黒く見えるようになっていた。

 卵殻が枯葉から剥がれてしまうと、幼虫はしばらくは殻を後ろにぶら下げたままのユーモラスな姿での散歩になる。これもやがて抜け落ちてしまうが。


孵化直後、枯葉の上を移動するウスタビガの1齢幼虫(2016.5.1 撮影)

 孵化した1齢幼虫は、用意した鉢植えのヨシノザクラに移した。これは、運よく1m程度の高さの、花の終わった鉢植えを2鉢入手できたことと、以前鎌倉で庭の枝垂れ桜でこのウスタビガが育っていた経験によった。幼虫はサクラの葉を元気に食べ始めた。上から見ているとまっ黒に見える1齢幼虫だが、横から見ると体の脚側は黄色い色をしているのがわかる。

 このヨシノザクラという種の桜は、佐久方面の園芸店で買い求めたものだが、聞いてみるとソメイヨシノと同じだとの説明であった。この時点では、桜の種類については、深く考えていなかったが、後日痛い目に合うことになるとはまだ予想もできなかった。


食樹の桜の葉上を移動するウスタビガの1齢幼虫(2016.5.4 撮影)


サクラの葉を食べる1齢幼虫(2016.5.7 撮影)

 ヨシノザクラの葉を食べて幼虫はどんどん大きくなっていった。そして体長が10㎜ほどになった、5月9日には最初の1匹が脱皮して2齢になった。


2齢への脱皮 1/2・タイムラプス(2016.5.9 11:59~12:59、30倍タイムラプスで撮影)

 次に、実時間撮影の様子をご覧いただく。脱皮に要する時間は約10分である。タイムラプス撮影では脱皮に先立ち波うつようなリズミカルな胴体の動きが見られるのだが、実時間で見ているとこれは感じられない。
 脱皮開始から完了までの約10分間を、編集して3分ほどになるよう、部分的にカットした。


2齢への脱皮 2/2・リアルタイム(2016.5.11 11:40~11:50、 撮影後編集)

 1齢幼虫は上から見るとまっ黒であったが、2齢幼虫はツートンカラーになり、脱皮前後の違いは明瞭である。また、脱皮直後には淡い黄緑色をしている頭部や体の一部は、時間と共にまっ黒に変化し、よりコントラストの高いツートンカラーになっていく。2齢幼虫の姿は、一見、イラガの幼虫に似ていて恐ろし気で、毒針を持っているのではないかと思えるのだが、実際は無毒で、手で触れてもまったく問題はない。


脱皮直後のウスタビガ2齢幼虫(2016.5.9 12:20 撮影動画からのキャプチャー画像)


脱皮約10時間後のウスタビガ2齢幼虫(2016.5.9 22:45 撮影動画からのキャプチャー画像)

 次の写真は、孵化した時期がやや異なる1齢と2齢幼虫である。1齢は10㎜ほど、2齢は20㎜ほどに成長している。
 

ウスタビガの1齢幼虫【右】と2齢幼虫【左】(2016.5.11 撮影動画からのキャプチャー画像)

(追記:2019.5.24)
 2齢幼虫が、脱皮後抜け殻を食べるかどうかわからないと書いていた(2018.11.30公開の記事)が、2019年にまた幼虫を育てる機会ができ、観察撮影をしていたところ次のように、抜け殻を食べる様子が撮影できたので、その映像を追加しておく。詳細は後日改めてまとめて書こうと思っている。


ウスタビガ1齢幼虫→2齢への脱皮と2齢幼虫が抜け殻を食べる様子(2019.5.10 30倍タイムラプスで撮影)



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