軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ウスタビガ 2021年ー2/2

2021-09-10 00:00:00 | 
 前回紹介した繭上に産みつけられていた卵から孵化したウスタビガの幼虫を室内で飼育することにし、成長の様子を追った。撮影用に室内に取り込んだ繭はこのほかにもあり、4月24日までに合わせて33匹の幼虫が孵化していたので、これらを、プラスチック容器に挿した庭木のヨシノザクラやオオヤマザクラの葉を餌として与えた。


プラスチック容器に挿したサクラの枝で飼育中のウスタビガの1齢/2齢幼虫(2021.4.28 撮影)

 室内に取り込んだ幼虫は、ヨシノザクラやオオヤマザクラの葉を食べ、順調に成長していった。その成長の様子は次のようで、孵化後に体長5㎜程の大きさであった幼虫は脱皮を繰り返して、最後の1匹が孵化してから2週間目にはすべて体長が40㎜程の4齢幼虫に成長し、その2日後には終齢幼虫も現れた。


室内で飼育したウスタビガ幼虫の成長の様子(〇の中の数字は幼虫の数を示す)

 屋外に置いたケージのネットなどに産みつけられていた卵からも、大量の幼虫が孵化していて、これらは鉢植えのヨシノザクラに順次移して飼育していた。5個ある鉢植えのヨシノザクラにはネットをかけて幼虫を保護していた。

 室内で飼育し撮影対象にしていた幼虫がすべて4齢に達した5月8日時点で、庭の鉢植えの幼虫を確認したところ、すべてまだ1齢のままであり、屋外と室内での幼虫の成長スピードの余りの違いに驚いた。

 これまで、4年にわたりこのウスタビガやヤママユの幼虫を飼育してきたが、これらの幼虫の飼育環境はだいたい同じで、普段は屋外に置き、必要に応じて数匹を室内に取り込んで撮影していた。

 今回は、30数匹を室内で孵化させ、そのまま室内で飼育し、それ以外の幼虫は、飼育ケージ内で孵化すると屋外に置いた鉢植えのヨシノザクラに移動させていた。

 室内で飼育していた幼虫がすべて4齢に達したにもかかわらず、屋外の幼虫がすべて1齢であるということは、飼育環境の温度の差に違いないと思えた。

 そこで、室内の4齢幼虫を一部屋外に移し、逆に屋外の1齢幼虫を一部室内に移動させて様子を見ていたところ、屋外から室内に移した幼虫は早速脱皮して2齢になっていった。こうしてしばらくすると、3齢の幼虫も得られたので、同時に1齢から5(終)齢までを見ることができるという興味深いことが起きた。次の写真のようである。

 
1齢から終齢まで全員集合状態が実現(2021.5.19 撮影)

 屋外と室内の温度の違いをみると、室内は昼夜ともほぼ22℃に保たれているが、4月下旬から5月上旬までの屋外の気温は、次の気温データのようであり、夜は4℃あたりまで低下し、昼間の最高温度は18℃くらいになる。
 平均気温はおよそ10℃である。従って、室内外の平均の温度差は12℃ほどと考えられる。

軽井沢の年間気温変化(軽井沢町のHPから引用)

 昆虫の成長には累積温度が重要であるとは聞いていたが、今回観察したウスタビガの成長スピードの温度による違いは、化学反応でよく言われているアレニウスの法則、10℃・2倍則以上の差があるようにみえる。

 そこで、産業として行われている養蚕のデータがあるのではと思い調べてみると、蚕について、成長の速さと温度の関係についての研究報告(須藤ほか、日蚕雑 68(6)、461、1999)が見つかった。

 それによると、蚕が発育する温度の範囲は7~40℃位で、正常な発育ができる温度は、大体20~28℃位の範囲であり、一般に温度が高くなるにつれて、発育・成長が早くなるとされる。

 蚕の成長スピードもアレニウスの式に従っているようであるが、単純な化学反応とは異なり発育零点というものが存在しているという。

 これは、その温度より低い環境では、発育が全く止まってしまうことを意味する。蚕ではこの温度が10℃前後にあるという研究結果である。

 軽井沢の4月下旬から5月上旬の気温変化を見ると平均気温が10℃で夜間は4度まで低下し、日中は18度程度まで上昇している。蚕とウスタビガとでは異なっている可能性はもちろんあるが、上記の発育零点を考慮すると、10℃以下に曝されている間は、成長が止まっていることが考えられ、成長が可能な時間は約1/2に、その間の平均温度は14℃程度ということになる。

 積算温度の比の荒っぽい計算をすると、室内飼育の場合は22℃で一定であるのに対して、屋外では成長可能な時間が半分になり、その間の平均温度を考えると、その比はおよそ3-4倍になる。このように考えてみると、今回見られた室内飼育と屋外飼育での大きな差が理解されてくるのである。

 さて、このように、室内で飼育していた一部の幼虫が終齢に達したので、観察・撮影は終了し、幼虫はすべて庭木のオオヤマザクラに移すことにした。鉢植えのヨシノザクラの葉もそろそろ限界に達し、これ以上幼虫を飼育すると木が枯れてしまう。

 ウスタビガの幼虫を庭で自然に任せるのは初めてのことであり、オオヤマザクラがどうなっていくのか気にはなったが、とりあえず200匹ほどはいる幼虫達を養ってもらうことにした。

 しかし、野鳥の多い軽井沢のこと、粗いネットをオオヤマザクラの周囲に巡らせておいたものの、上部は開放状態なので気休めでしかなく、気がつくとシジュウカラが中に入り込んでいるといった状況であった。

 飼育ケージで飼育していた昨年までは、100%近い割合で繭を作るまでに成長させることができたのであったが、自然に任せるとどのような結果になるか。これも見守っていく事にした。

 
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