軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ヤママユ(4)羽化

2018-10-12 00:00:00 | 
 繭を作り、その中で蛹になってから約1ヶ月ほどすると、ヤママユの羽化が始まる。このヤママユの羽化の様子も、一連の記録作業として撮影しようとしたが、はじめのうちはいつ、どのように羽化が始まるのかが判らなかった。

 朝、気がついたら繭に羽化後のヤママユがぶら下がっていて、撮影できなかったり、繭からヤママユが出始めているのに気が付いて、慌てて撮影を開始するということを繰り返した。しかしやがて、羽化の前兆というものがあることに妻が気がついてくれ、たくさんある繭の中で次にどの繭が羽化するのか判るようになった。おかげで撮影の準備をして、その瞬間を待つことができるようになった。

 羽化は繭の上部が濡れてくることから始まる。これは、繭内部で殻を破って蛹から抜け出しはじめたヤママユが、次に口から繭の糸を分解する液体(酵素)を吐き、繭を溶かして出口を作るための行動である。孵化の際には、幼虫は卵の殻を食い破って出てくるのであったが、蛹の期間中、その外側でヤママユをしっかりと守ってきた繭から羽化した成虫が出る方法とはどのようなものか、興味があった。成虫になったヤママユは、繭の糸であるたんぱく質の分解酵素を吐き出すという別な戦略をもっていた。

 繭の上部を湿らせ、しばらくして、繭壁がじゅうぶん軟らかくなったところで、内側からその部分を押し開いて、出口を作る。そして、そこから慎重に顔を覗かせて出てくるのであった。


ヤママユの羽化1/3(2016.8.20 7:45 撮影動画のキャプチャー画像)

 軟らかくなった繭の上部を、ヤママユは内部から押し上げるため、繭の上部は膨らんでくる。


ヤママユの羽化2/3(2016.8.20 8:15 撮影動画のキャプチャー画像) 

 内部から繭の上部を更に押し広げて出口を作る。そして、開いた出口から、外の様子をうかがいながら慎重に這い出して来る。


ヤママユの羽化3/3(2016.8.20 9:40 撮影動画のキャプチャー画像)

 その様子を見ていただく。頭を出しはじめてから、体が完全に出るまで約3分間である。


ヤママユ♂の羽化(2016.8.20 9:39~9:42)

 出てきたのは♂のヤママユであった。自然界では、まず♂が羽化し、しばらくしてから♀が羽化してくるのを待つという一般的なパターンがある。

 ヤママユをはじめとしたこの種の仲間の蛾の雌雄の判別は、触角の形状により容易に行うことができる。映像からわかるように、このヤママユの触角は幅広い形をしている。これは、♂の蛾に見られる特徴で、別な場所で羽化した♀の出すフェロモン・誘引物質を敏感に嗅ぎとり、♀のいる場所にたどり着くための構造とされている。♀の場合、この触角は細いものでしかない。

 繭から出てきたヤママユの翅はまだ軟らかく、湿っているように見える。このあと、ヤママユは繭にぶら下がったまま翅が完全に伸びて、しっかりと固まるまでじっとしている。その様子を30倍のタイムラプス撮影を交えながら追った。


羽化後、ヤママユの翅が伸びる様子(2016.8.20 9:46~11:40 30倍タイムラプス撮影を交え編集)

 ♂の羽化が続いた後、今度は♀の羽化が始まった。この年のヤママユ飼育は、2つのグループに分かれていた。先のブログで紹介したが、自然に孵化してきたグループと、卵を冷蔵庫で保管して、孵化の時期を13日程度遅らせたグループである。この孵化のタイミングの差があったため、羽化はまず8月19日に、♂から始まったが、続いて♂/♀両方の羽化があり、その後♀の羽化が多く続くという結果になった。意外にも最後の羽化は♂で、9月13日であった。

 次に紹介する映像は、一連の羽化の後半、9月7日に羽化した♀のものである。


ヤママユ♀の羽化(2016.9.7 19:24~19:26)

 ♂の場合と同様の経過をたどったが、今回は約1時間半ほどかけて、翅が十分に伸び、しっかりと固まってくると、ゆっくり開翅し、美しい姿を見せた。
 

ヤママユ♀の開翅(2016.9.7 20:50~20:52)

 前回紹介した、繭をうまく作ることのできなかったヤママユの羽化の様子を紹介しておこう。別途購入してあったお土産用の繭の一部をカットして、その中に入れた前蛹は、無事蛹になっていたのだが、他の繭から羽化が始まると、この借り物の繭の中の蛹も、動きを見せ、やがて蛹の上部を破って、頭部が見え始めた。♀であった。

 ヤママユが、繭の中でとる動きについては、繭を切って中を覗いて見るなどしなければ、正常な繭では見ることができないものであるが、偶然、この個体のおかげで繭内部の様子を垣間見ることができた。

 繭の一部を切り取って蛹を入れ、透明なプラスチック片を張り付てて蓋をしていたのであるが、この個体は、他の正常に成長した個体がとるような、口から酵素液を吐いて、繭の上部を軟らかくさせるというステップを踏むことはなかった。蛹の殻を抜け出した成虫は、繭とプラスチックの蓋の隙間から抜け出そうとし始めたので、この蓋は途中で取り除いてやり、羽化後のまだ翅の伸びる前の成虫は、他の羽化前の繭に止まらせてやった。

 こうして、翅が完全に伸びるのを待ったが、この個体は翅の伸び方がやや不完全で、やはり何かしら異常なものを持っていることをうかがわせた。しかし、最終的にはこの個体も次世代の卵を残すことができた。


繭作りに失敗したヤママユの羽化♀(2016.9.8 20:50~22:09 30倍タイムラプス撮影を交えて編集)


繭から抜け出した「繭作りに失敗したヤママユ」1/3(2016.9.8 22:12 撮影動画からのキャプチャー画像)


繭から抜け出した「繭作りに失敗したヤママユ」2/3(2016.9.8 22:40 撮影動画からのキャプチャー画像)


繭から抜け出した「繭作りに失敗したヤママユ」3/3(2016.9.8 22:45 撮影動画からのキャプチャー画像)
 
 今回観察したヤママユのふる里は、クヌギの葉を餌として、ヤママユの養蚕を産業としてきた安曇野市地方の、天蚕センターであることは、このシリーズの最初の、ヤママユ(1)孵化~1齢幼虫の脱皮(2108.9.7 公開)のところで紹介したとおりであるが、そのヤママユ養蚕の歴史に関連する話題として、次のような記述(西口親雄著「森と樹と蝶と」2001年 八坂書房発行)を紹介して4回にわたったヤママユの孵化から羽化までの映像による紹介を終わることとする。

 「クヌギは、武蔵野の雑木林の、いたるところに自生しているので、日本在来の樹種のようにみえるが、本当の自然林には出現しない。クヌギという木は、かなりむかしに、中国から日本に入ってきたものらしい。しかし、クヌギを導入した理由がはっきりしない。

 私は、『森の命の物語』という本の中で、日本人はクヌギの葉でヤママユを飼育し、ヤママユの繭から絹糸をとりたかったのではないかと推理した。しかしヤママユという蛾は日本にしかいない、日本特産種である。その蛾を、中国原産のクヌギで飼育する、という発想が、どこから来たのか、という疑問が残った。・・・

 そこで、『中国高等植物図鑑』をひもといてみた。『クヌギの若葉で柞蚕(サクサン)を飼育し、絹糸をとる』という記載が目に飛び込んできた。中国でも、クヌギで蛾を飼っている! サクサンって、どんな蛾?

 そこで『原色昆虫大図鑑Ⅰ』をしらべてみると、ヤママユガ科にぞくし、学名をAntheraea pernyiといい、日本のヤママユ(A. yamamai)にごく近い種、とあった。

 日本にはヤママユガ科の仲間が九種存在するが、ヤママユ以外は、すべて同じ種が中国大陸にも分布している。つまり、中国大陸から日本列島にかけて、広く生息する、広域分布種なのである。しかしヤママユだけが日本特産で、中国に同じ種がいない。これには、何か、納得できないものを感じていたのだが、今、中国にヤママユにごく近い種(サクサン)の存在することを知った。つまり、ヤママユとサクサンは同じ種みたいなもの、と考えれば、やはり、広域分布種となり、納得できる。

 中国には昔から、クヌギの葉でサクサンを飼育し、繭糸を採る技術があった。そして、いつの時代かよくわからないが、クヌギの木は、サクサンと共に日本にやって来た、と考えたい。日本には、サクサンにそっくりのヤママユが存在する。だから、クヌギの葉でヤママユを飼育することは、ごく自然の成り行きだろう。日本で、クヌギの葉でヤママユを飼育する理由がわかったような気がした。」














 
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