4月3日からの再開準備で出かけていたショップから帰ってくると、妻が遠慮がちに相談したいことがあるという。
何事かと思って聞くと、友人のMさんから温泉旅行のプレゼントをされたのだけれど、それが翌日から一泊という急なものであった。
この日は元々二人でこのMさんの畑に行って、フキノトウを採集する予定であった。しかし天気予報では雨になるというので、仕方なく延期することにして私はショップに出かけてきた。
さらにMさんのご主人がコロナに感染したことも判明、今年はもう無理だねと話していた。
Mさんの畑に行く途中には見事な枝垂桜があり、ちょうどいつもフキノトウ狩りに出かける頃に見ごろになるので楽しみにしていたが、これも諦めようということになった。
Mさん夫婦も、私たちとフキノトウ狩りをした翌日から温泉旅行に出かける予定であったのが、ご主人のコロナ感染が判明し、旅館には急遽キャンセルの連絡をしたものの、間際のことなのですでに支払ってあった宿泊代金には70%の違約金が発生するとの回答であったという。
そこで、親類縁者に連絡をしたが、代役が見つからず、私たちに連絡があったという次第。
我が家ではネコを飼い始めて以来、宿泊を伴う外出をすることはほとんどなくなり、今年のショップの冬期休業期間中も同様で、旅行には出かけなかった。
冬季休業ももうすぐ終わり、来週からはショップ再開ということで、なんとなく寂しい思いをしていたところへのお誘いであったので、私としては即断、ショップの開店準備はすぐに済むので、「行ってみようよ!」ということになった。
妻はやや意外そうな顔をしたが、Mさんに受諾の電話をかけていた。
ところで、どこの温泉に行くのかと聞くと、四万温泉とのこと。少し前にアサマシジミのことを調べていた時に、数少ない産地のひとつであるこの群馬県北西地域のことが我が家では話題になっていた。それを覚えていた妻が、初夏のアサマシジミ観察会の下見にもなるので、私も多分賛成するのだろうと思っていたという。
ネコには、少しは慣れてもらわないとね、ということで一泊の温泉旅行が決定した。
当地から四万温泉に行くには北上して長野原を経由する「日本ロマンチック街道」を通るルートが最短コースである。しかし前日からこの日にかけては雪混じりの雨が降り、道路が心配されたので、行きは高速道路利用の遠回りルートを選んだ。
当日、高速道路に乗り、いつもこのルートで出掛ける時の習慣で甘楽SAで休憩した。この時、妻があの枝垂桜を見て行かないかと言い出した。そのためには吉井ICで高速道路を下りなければならない。ちょうど見ごろだとは思っていたものの、わざわざ途中で高速道路を下りて見に行くのだから、甘楽SAにもある桜の開花状況を見てからにしようということになり、駐車スペースのはずれにある桜の木を見に行ってみた。
ソメイヨシノらしいその木はまだほとんど咲いておらず、わずかに数輪の花をつけている状態であった。さあどうしよう、ということになったが、昨年・一昨年に現地で撮影した写真をスマホで探し出してみると、やはり今が見ごろであり、ダメ元で行ってみようということになった。
現地で撮影した写真は次のようで、予想通りの満開であった。

満開の吉井の枝垂れ桜(2025.3.30 撮影)
この近くにはもう1か所行ってみたいところがあった。それはカタクリの里で、やはり見ごろを迎えているはずであった。しかし、この場所をさらに見てからとなると、さすがに四万温泉に到着する時刻が気になる。それに道中もう1か所行ってみたいところがある。
残念ながらカタクリの方は諦めることにして、藤岡IC経由で関越道に乗り現地に向かった。
高速道路を渋川伊香保ICで下りて次に向かったのは高山村である。この周辺一帯が先日読んだレポートではアサマシジミが今も生息している可能性の大きい場所とされる。車で通りながら道路周辺の状況を見て、次回7月ごろに観察に訪れる場所を確かめていった。ただ、今の季節では食草のナンテンハギもまだ生えておらず、周辺の環境を見るだけで、何の具体的な手掛かりも得られなかった。
しばらく進むと右手の丘の上に立派な建物が遠望できた。地図で確認すると「道の駅 中山盆地」らしいことが判り、道の駅ファンの妻の希望で立ち寄った。

道の駅 中山盆地から眺めた子持山(左)、小野子山、十二ヶ岳(2025.3.30 スマホのパノラマモードで撮影)
ここからの眺めは素晴らしく、これもアサマシジミの産地として知られる子持山が左に望め、その近くの山頂にはなにやら光り輝く立派な建物が見られた。パンフレットで調べると、これは群馬県の人口が200万人を達成した記念として建てられた「県立ぐんま天文台」であった。
この道の駅からそう遠くないところには、津川雅彦さんと朝丘雪路さんがスコットランドから移築復元したというロックハート城もあるが、今回はいずれも立ち寄ることを諦めて、四万温泉に向かった。いずれまた来る機会もあるだろうということにして。
Mさんが予約してあった旅館は四万温泉街の一番奥の方に位置する日向見(ひなたみ)地区にあった。途中大きな「ゆずりは大橋」を渡ることになるが、この付近からはすぐ近くにダムが見え、目指す旅館はこのダムにごく近いことが知れた。
ほぼ予定通りの時刻に旅館前まで来ると、旅館の従業員がいて、駐車場所を案内してくれた。
部屋に通されて簡単な説明を受けてすぐに温泉に入ることにした。この旅館には大浴場はなく、貸切風呂が3か所用意されている。そのうちの1つは露天風呂だということを聞き、先ずはそちらに行くことにした。浴室入り口から細い通路を抜けた奥に浴槽があり、側を流れる渓流に張り出した丸い小石造りのもので、外の景色を眺めながら入浴ができた。
Mさんが予約してあったすてきなフレンチスタイルの夕食を、簡易個室風のダイニングコーナーでとり、一緒に地ビールを飲んだせいか、部屋に戻った頃には猛烈な眠気に襲われて、私はすでに敷かれていた布団にもぐり込んだ。
妻はその後もう一度温泉に入りに行ったが、この時は別の風呂に行ったと聞いた。
翌朝、早く目が覚めたので、湯に浸かろうと思い出かけたところ、すべての貸切風呂が空いているとの電子表示があったので、思い立って順に全部の温泉に浸かろうと考え、階段を下りて、先ずは昨夕の露天風呂に入り、続いて隣の風呂を見ると戸が開いて、まだ誰も来た様子がないので入ってみた。ここは温度をやや高く設定していると聞いていたが、檜の浴槽になっていて、渓流に面した側は、実際には隣の露天風呂の内側に接していて、閉じられていて外を見ることはできない落ち着いた造りになっている。
その隣の浴室もまだ空いていたので入ってみると、こちらは鉄平石貼りの浴槽で、この宿の一番大きな浴槽だとされ、渓流側はガラス窓になっていて外の景色が見える。3室それぞれに趣の異なる造作になっていて、違いを楽しむことができた。
この日は置いてきたネコのことが気になるので、早めに帰ることになっていたが、せっかくここまで来たので少しは観光をしようということで、駐車場にとめた車に持ってきた荷物を積み込んで、まず旅館周辺を歩いてみた。
宿の部屋の窓から見えていた古い建物の形が気になっていたので見に行ってみると、案の定、外湯で「御夢想の湯」と書かれた看板があり、そこには次の写真ような説明書きがあった。ここは9時から15時の間は無料で解放されているとのことで、ちょうど一人の男性が入浴を終えて出てくるところであった。

御夢想の湯(2025.3.31 撮影)

御夢想の湯の入り口の案内板(2025.3.31 撮影)
事前に分かっていれば、入ってみたかったが、今となってはもう無理ということで、諦めることにした。
すぐ前には足湯場も設けられていて、さらに、その右手には「国宝・重要文化財 日向見薬師堂」がある。

国宝・重要文化財日向見薬師堂(2025.3.31 撮影)
一通り見学を終え、今朝、一カ所だけ行ってみようと決めてあったダムサイトに向かった。昨日来るときに通ったルートを戻りかけたが、案内表示板によるとダムへの近道があるようなので、道幅が狭く急坂ではあったがそこを行くと、ダムに通じる広い道路に出ることができた。すぐそばの奥四万トンネルを抜けると駐車場が見つかった。
意外なことに、この駐車場は満車状態で、道路わきに車を停めて少し待たなければならなかったが、ようやく空きができ、車をそこに入れてダム見学に向かった。どうやらここは人気の観光スポットらしい。
駐車場脇に設置された案内板と案内図を確認してダムに向かった。

駐車場脇にある案内板(2025.3.31 撮影)

駐車場脇にある案内図(2025.3.31 撮影)
すぐ横にはダム撮影用のフレームが用意されていたので、利用させていただいた。

用意されていたフレームを使ってダムを撮影(2025.3.31 撮影)
ダムの上部に向かって歩き始めるとすぐに、青く美しいダム湖が目に入った。

四万川ダムのダム湖(2025.3.31 撮影)

ダムサイト見学の後に行った奥四万湖の最奥部からの景色(2025.3.31 スマホのパノラマモードで撮影)
ばたばたと出かけてきたので、ろくに事前の調査もしなかったが、帰宅後この四万川ダムとダム湖・奥四万湖について調べてみると、JR東日本の大人の休日倶楽部のコマーシャルでも紹介され、女優の吉永小百合さんがカヌーで湖の中ほどまで漕ぎ出す様子が紹介されていたことを知った。(https://www.jreast.co.jp/otona/tvcm/okushimako.html )
このJR東日本のサイトには次のように記されていた。
「『奥四万湖』は四万川ダムによって形成された人造湖です。湖を包むように広葉樹林が広がっており、四季折々に『四万ブルー』との美しいコントラストを楽しめます。また湖の周りは車やハイキングで一周できるようになっており様々な公園や広場が整備されています。
周遊道路※は群馬デスティネーションキャン群馬県中之条町、四万温泉の最奥に位置する『奥四万湖』。季節や天候によって色合いが変化する青い湖水が特徴で、その色は『四万ブルー』とも呼ばれています。一年の中で青さが特に際立つのは、冬から雪解け水が入る春にかけて。神秘的な青の世界を、心地よい風や新緑の芽吹きを感じながら、ゆったりと楽しむ湖畔散歩。歩いて、触れて、感じて。自然とひとつになることで初めて見えてくる絶景をあなたも。
(※周遊道路は冬期閉鎖)」
(※周遊道路は冬期閉鎖)」
われわれは知らずに来たが、平日にもかかわらず駐車場が混んでいたのは、この「四万ブルー」を見に来ていたのだと知れた。
ダム上部(天端という)を反対側まで歩いたが、奥四万湖側の手すり部(高欄という)下側には近隣の小学生によるたくさんの陶板画作品が埋め込まれていて、楽しめる。

高欄に飾られている近隣小学生の陶板画作品 1/2(2025.3.31 撮影)

高欄に飾られている近隣小学生の陶板画作品 2/2(2025.3.31 撮影)

ダム天端の高欄に取り付けられた多くの陶板画(2025.3.31 撮影)

陶板画の説明パネル(2025.3.31 撮影)
ダム天端のダム湖と反対側を見ると、ダム直下のその場所は日向見公園になっている。公園内の歩道部に何やら文字が書かれていると妻が見つけた。
少し消えている部分もあるが、「世のちり洗う 四万温泉 ♨ 群馬県」と書かれていることがわかる。

ダム天端から見下ろした四万川(左)と日向見公園(2025.3.31 撮影)
後でわかったことだが、これは「上毛かるた」の言葉であった。この文字はダムから見下ろすとこのように読むことができるが、日向見公園に下りてみると大きすぎてよく分からなくなる。
ここにくると、ダムから放流されている水が放水路を伝って流れ落ちていたことに気が付く。水はきれいな流れ紋様を描きながら静かに落下しているのであった。

日向見公園からダムを見上げる(2025.3.31 撮影)
ダムサイトを後にし、Mさんへのお土産を買って帰ろうと思い、四万温泉街の中心部に向かった。温泉街は四万川に沿って長く続いている。桐の木平駐車場に車を停めて、店を覗きながら少し歩いてみた。
温泉街のはずれには「積善館」があり、妻からこの建物は、「千と千尋の神隠し」の舞台とも噂されているところだと教えられた。
「本館」は日本最古の温泉宿建築で、値段も安い湯治宿。「山荘」は登録文化財の宿で、「佳松亭」は高級宿となっている。また、日帰り入浴や昼食にも利用できる。

四万川にかかる赤い橋を渡ると積善館に出る(2025.3.31 撮影)

積善館本館案内の石柱が橋のたもとにある(2025.3.31 撮影)

積善館本館(2025.3.31 撮影)
この積善館もまた吉永小百合さんと縁があったようである。昭和59年制作の映画「天国の駅」で吉永さんが入浴しているシーンが、この温泉の「元禄の湯」を使って撮影されたという。
それは別にしても、また改めて訪ねてみたい魅力的な旅館である。

地ビールの数々

四万ブルーの名も見える
お土産の地ビールも手に入れて、四万温泉を離れた。四万大橋をわたり、入り口の旅館案内板を過ぎたところに丸木を束ねた次の案内があった。

丸太を束ねて作られた四万温泉の案内表示(2025.3.31 撮影)
「四万ブルー」で知られた奥四万湖と四万川であるが、この地方は冒頭でも触れたように、小さなチョウ、アサマシジミが生育する地域でもある。アサマシジミの羽は灰青色をしていて、「浅間ブルー」と呼ばれている。
次回、この地に来るときにはぜひ浅間ブルーと四万ブルーの両方を見たいものだと思っている。
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