ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

サンルダム

2023-12-22 16:46:43 | 北海道
2023年10月23日 サンルダム

サンルダムは北海道上川郡下川町珊瑠の一級河川天塩川水系サンル川にある北海道開発局が管理する多目的ダムで、形式は台形CSGです。
天塩川は流路延長256.2キロと日本第4位の大河川ですが、流域全般で河川整備が遅れる一方、農地開拓や流域の人口増加を受け抜本的な治水・利水対策が求められていました。
こうした中、1970年(昭和45年)に天塩川本流に岩尾内ダムが竣工、1988年(昭和63年)にサンルダム建設が事業が採択されます。
しかし民主党政権による事業検証など紆余曲折により2013年(平成25年)にようやく本体工事に漕ぎ着け事業着手から30年目の2018年(平成30年)に竣工しました。 
サンルダムは国土交通省北海道開発局が直轄管理する特定多目的ダムで、サンル川の洪水調節(最大毎秒610立米/秒の洪水カット)、安定した河川流量と河川環境の維持、下川町及び名寄市への上水道用水の供給、北海道電力傘下で中小水力発電を手掛けるほくでんエコエナジー(株)サンル発電所(最大出力1100キロワット)でのダム式水力発電を目的としています。
特定多目的ダム及び国交省直轄ダムとしては日本最北に位置します。

ダム建設に際しては当初の重力式コンクリートから、周辺環境への負荷が少なく経費削減が期待できる台形CSGに変更されました。
またサンル川は北海道有数のサクラマス遡上河川となっており、魚類の遡上に配慮し従来のダム下から貯水池に至る魚道ではなく、ダムやダム湖を迂回する延長7キロに及ぶバイパス魚道が整備されているのも特徴です。

ダム本体を見学する前に左岸高台にある『象の鼻森林公園展望台』へ
こんなアングルで俯瞰できるダムはほかにはなかなかありません。
しかも見下ろす先は現在全国に4基しかない台形CSGダム。


対岸にはサンルダムの売りである魚道。
台形CSGダムは重力式コンクリートダムよりも比重が小さいため堤体は台形の名が示すように上下ともに傾斜がついています。
取水設備も傾斜式。

ダム湖は『下川珊瑠湖』で、総貯水容量は5720万立米。
湖面の立ち枯れが美しいのですが、実はこれ経費節減のため伐採しなかっただけで景観を意識したものではないとのこと。
見た目には美しいのですが、巡視艇の運行には大きな障害になるようです。


展望台にはダム建設に伴い移転を余儀なくされた珊瑠地区望郷の碑が設置されています。


次にダム本体へと向かいます。
下川町中心部から道道60号を約3.5キロ、車で10分足らずでダムに到着。


堤高46メートル、堤頂長350メートルの横長堤体。
対岸高台に上記『象の鼻森林展望台』があります。
洪水吐は非常用クレスト自由越流長5門と常用自然調節式オリフィス1門
訪問時はオリフィスから越流中。
なお、クレストからは試験湛水以降一度も越流はないそうです。


今回は事前にダムの説明をお願いし管理支所長様直々にガイドしていただきました。
右岸管理支所1階が資料室を兼ねたラウンジなっており、ここで支所長様と待ち合わせ。


今回は監査廊など内部見学はなく、バイパス魚道の運用に的を絞った説明となります。
天端からバイパス魚道を見下ろします。
魚が遡上できる傾斜を維持するため階段式となっており、より自然に近い環境を維持するため魚道には石が敷かれているほか、遡上した魚が休憩できるプールが各所に設けられています。
左手手前の建屋は利水放流設備、奥はほくでんエナジー(株)サンル発電所。


上流側のバイパス魚道
一般の魚道はダム下と貯水池を結んで設置されていますが、当ダムではダム湖をバイパスしてインレットまで7キロの魚道が設けられているのが特徴です。
前者の場合、上流で孵化した稚魚が海まで流下せずダム湖内で回遊して一生を終えるケースが発生し生態系に大きな影響を与えます。
また下流河川と貯水池では水質や水温等環境が大きく変わるため俎上した魚へのストレスが大きくなります。
バイパス魚道はサクラマスがより自然に近い生態を維持できるよう配慮された結果です。


ダム直上のバイパス魚道余水吐
バイパス水路の水量1.5立米/秒に対し階段式魚道の水量は0.2立米/秒にとどまるため、余水吐を設け1.3立米/秒をダム湖に越流させます。
この際魚類がダム湖に迷入しないよう越流側に傾斜を設けるとともに照明を照射するなど配慮されています。




天端から減勢工を見下ろす
右手はオリフィス、左手はクレストの減勢工で導流壁により隔離されています。
訪問時は直前にかなりまとまった雨が降ったこともあり、オリフィスから越流するほか利水放流設備・発電所からも放流されていました。


アングルを変えて
手前はクレストの減勢工となります。
上記のようにサンルダムでは試験湛水時以降一度もクレストからの放流はありません。


天端
余計な装飾が許されないご時世、高欄はいたってシンプル。
対岸のコンクリート法面は建設時のクレーン台座跡。


右岸から上流面。


ダム湖最上流部に道道60号線珊瑠大橋が跨いでいます。
ここで、右岸湖岸に続くバイパス魚道を見下ろせます。
水路は開水路で勾配に緩急をつけるなど、より自然河川に近い環境を維持しています。


珊瑠大橋からダム湖最上流部を望む
この上流にバイパス水路と本線の接続施設がありますが、残念ながら見学することはできません。

公共事業における自然環境への配慮が重視される昨今、ただ魚道を設けるだけではなく生態系への影響を付加を最小限に抑える工夫が各所に見られるのがサンルダムの特徴です。今回は事前に説明付き見学を要請し、管理支所長様直々に特にバイパス魚道の仕組みについて詳細な解説をしていただきました。
ダム管理支所及び管理支所長様には厚く御礼申し上げます。

(追記)
サンルダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2995 サンルダム(2026)
北海道上川郡下川町珊瑠
天塩川水系サンル川
FNWP
CSG
46メートル
350メートル
57200千㎥/50200千㎥
国交省北海道開発局
2018年
◎治水協定が締結されたダム