2024年7月26日 指久保ダム 取材見学
青森県十和田市(左岸)と新郷村(右岸)に跨る二級河川奥入瀬川水系後藤川にある指久保ダムはダム湖上流に架かる県道十和田三戸線の後藤川大橋からの眺めの良さから、近年インスタ映えするスポットとして人気が上昇しています。 しかし、ダム構内は全面立入り禁止となっており、その姿は後藤川大橋から遠望するのみでダム便覧フォトアーカイブスにもその詳細を撮った写真の掲載はありません。
2022年(令和4年)10月に青森県を訪問した際に指久保ダムを管理する青森県上北地域県民局地域農林水産部に見学の申請をしたところ、ダム構内で撮った写真は一般公開しないという条件で見学許可を頂きました。
そのため、せっかくの見学内容もブログにアップしたり撮影写真のダム便覧への提供もできず終いでした。
ただこれを契機にダム管理人さんとの私的な交流が始まり、ダムの四季折々の写真やその後に増設された小水力発電所についての情報などを頂くことができました。
そして今年、2024年(令和6年)7月に再度青森を訪問することになり、ダムマイスターによる取材という形でダム見学が叶うとともに構内で撮った写真についてもブログへの掲載許可を頂きました。
ここでは指久保ダムの見学の詳細に加え、ダムの受益組織であり所有者でもある奥入瀬川南岸土地改良区への取材について紹介したいと思います。
指久保ダムの詳細については『指久保ダム』の項をご覧ください。
2024年(令和6年)7月26日午前に、まずは青森県おいらせ町にある奥入瀬川南岸土地改良区へ伺います。
土地改良区の理事長さん、主務及び工事担当所の職員さん計3人から奥入瀬川南岸地区の概要や土地改良区の来歴、日常の業務内容等についてお話を伺います。
参考資料として土地改良区の沿革史とかんがい排水事業の事業概要書を頂きました。
土地改良区で2時間近く話を伺った後、奥入瀬川にある藤坂頭首工を見学。
奥入瀬川南岸地区は奥入瀬川本流及び主要水流の後藤川を主要水源としており、こちらは奥入瀬川からの取水堰となります。
藤坂頭首工から南西に約18キロ、車で20分ほどの指久保ダムへ向かいます。
こちらはダム湖に架かる後藤川大橋。
一見斜張橋のようですが、エクストラドーズド橋という斜張橋と桁橋の中間型となる型式で橋長230メートル、湖面からの高さは51メートルとなります。 珍しい型式の橋に加え、ここからのダム湖の眺めが美しいということで最近は訪れる人が増えています。
後藤川大橋からの眺め
中央が多段式取水塔、左手の建屋が管理事務所になります。
上流側の眺め
指久保ダムはかんがい期が終わるとかんがい容量分の水が抜かれます。
こちらはかんがい期が終わった2022年10月の写真。
同じ場所から2024年7月の写真
水位が全く違うのが見て取れます。
天気が良ければもっと素晴らしい眺めになるのですが、あいにくの曇天なのが残念。
ダムに通じる管理道路入口にバリケードがあり、ダム構内は関係者以外多立入り禁止です。
ここから先はすべて立入禁止エリアでの写真となります。
左岸ダムサイトの管理事務所。
365日職員さんが常駐します。
管理事務所1階の定礎石。
ダム操作室。
ダムの管理人さんより各機器の役割やダムの運用方法について説明を頂きます。
指久保ダムの構造上の特徴としては、ダム建設地点は十和田の火山排出物が堆積しており、特に右岸側の透水性が高くなっています。
そのため上流面はアースブランケットで遮水処理が施されておるほか、右岸地山内には連続地中壁が設けられています。
指久保ダム平面図(出典 県営かんがい排水事業指久保地区 事業概要書)
運用面の特徴として、指久保ダムはダムのある後藤川のみならず山の北側にある藤島川および小林川にもかんがい用水を補給しています。ダムによる安定した水源という効果を流域面積が極めて小さく慢性的な用水不足となっていた藤島川・小林川沿岸にも付与するため全長約3.3㎞の藤島導水路により補給を行います。
藤島導水路平面図(出典 沿革史 奥入瀬乃歩み)
ひとしきり説明を受けた後はいよいよダムの見学です。
こちらは左岸の横越流式洪水吐
試験湛水以降、豪雨等による越流はないそうです。
こちらは下流側。
斜水路手前にシルがあります。
減勢工を遠望
減勢工にも大きなシルがありその直下にはバッフルブロック
さらに下流にも背の低いシルが設けられています。
左手は放流設備と小水力発電所。
左岸から見たダムの上流面
見た目にはわかりませんが、堤体の半ばから先、右岸側一帯はアースブランケットにより遮水処理が施されています。
天端はアスファルトで舗装。
減勢工左手高台の建屋は先述の藤島導水路のゲートバルブ室。
ここへはサイフォンで揚水します。
ダム下流を遠望すると火山堆積物が露頭しています。
いわゆるシラス土壌になります。
広角でダム湖を撮ってみます。
総貯水容量292万2000立米。有効貯水容量は207万立米になります。
下流面
天端や地山には草が生えていますが、リップラップは極めてきれいな状態が保たれています。
右岸から上流面
これは初回訪問時の写真でかんがい期が終わり水位が低い状態です。
次にダム下に移動。
こちらも入口にゲートがあり関係者以外は立入り禁止。
ダム下流面
残念ながら地山が邪魔になり、堤体を一望できる場所はありません。
減勢工と後藤川へのゲートバルブ室
放流設備向かって左手が旧来の放流設備、右手が2023年(令和5年)に運転開始した小水力発電所。
発電所の最大出力は191キロワットでFIT認定されています。
発電所は土地改良区が所有管理し、発電した電力はすべて東北電力に売電し土地改良区の運営資金となります。
放流設備内部
写真右奥が発電所へのライン。
発電機。
こちらは取水塔からの導水管
建設時の仮排水路を活用しています。
放流設備の上流側には藤島導水路への分水設備があります。
ここから高台にあるゲートバルブ室にサイフォンで揚水します。
高台にある藤島導水路ゲートバルブ室。
藤島導水路
総延長は約3300メートルで自然流下となります。
再びダム天端に戻り監査廊入口へ。
階段を下ります。
クラック箇所に印がつけられ、補修に備えます。
堤体内の排水設備。
地震計。
揚圧計。
監査廊は本堤から右岸アースブランケットに沿って連続地中壁まで全長406メートル。
監査廊の突き当り。
上北地域県民局のダム担当職員さん及びダム管理人さんと。
壁の向こう側に連続地中壁があります。
監査廊からダム湖左岸の取水塔へ移動。
取水塔への管理橋。
ゲートのプレート
この取水塔には主ゲートである取水放流ゲートのほか、修理用ゲート(予備ゲート)、低水位ゲートの3種類のゲートがあります。
ゲート巻き上げ機。
水位計。
主と副の二つがあります。
こちらは水位計周辺の凍結防止装置
寒冷地ならではの設備です。
修理用ゲート(予備ゲート)。
取水放流ゲート
水位が高いかんがい期の写真。
農業用水ですので表層取水を行います。
こちらは水が抜かれた非かんがい期の写真。
流入量をそのまま下流に放流します。
取水塔内部から見る後藤川大橋。
関係者以外でこの景色を眺めたのは私だけかも?
最後に指久保ダムから藤島導水路で用水を補給する2か所の注入口を見学。
こちらは小林川注入口で最大毎秒0.108立米を補給します。
こちらは藤島川に架かる導水路
藤島川注入口
最大毎秒0.159立米を補給します。
これにて、奥入瀬川南岸土地改良区の取材及び指久保ダムの取材見学は終了です。
見たいところはすべて見せて頂き大満足の見学となりました。
今回の取材見学については当ブログのほか(一財)日本ダム協会が発刊している月刊誌『ダム日本』にも掲載予定です。
今回の取材に対応していただいた青森県上北地域県民局地域農林水産部のダム担当様、指久保ダム管理人様および奥入瀬川南岸土地改良区の皆様には心より感謝を申し上げます。
指久保ダムは一般個人からの見学要請に対応しておりません。
今回はダムマイスターによる取材申し込みに対して特別のご配慮で見学が叶ったことを明記しておきます。