ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

五ケ山ダム

2023-08-14 17:00:28 | 福岡県
2017年9月21日 五ケ山ダム
2023年5月24日
 
五ケ山ダムは福岡県那珂川市五ケ山の二級河川那珂川本流上流部にある福岡県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
人口規模に対して大河の少ない福岡は慢性的な水不足に悩まされる一方、福岡市中心部を貫流し繁華街中州を形成する那珂川の治水が至上命題となっていました。
県は1965年(昭和40年)に補助多目的ダムとして南畑ダムを建設しますが、以降も福岡の市勢拡大は続き新たな水源確保に迫られることになります。
県は1983年(昭和58年)に南畑ダム上流への新たな多目的ダム建設事業を採択、一時検証対象ダムになるも2011年(平成23年)より本格的な建設工事が着手され2017年(平成29年)に竣工したのが五ケ山ダムです。
五ケ山ダムは国交省の補助を受けて建設された補助多目的ダムで、南畑ダムと連携した那珂川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、渇水時の都市用水及び灌漑用水への緊急補給、福岡市水道局福岡地区水道事業団春日那珂川水道企業団への上水道用水の供給を目的としています。
五ケ山ダムは総貯水容量4020万立米と県内最大の貯水容量を誇るとともに、事業採択ベースでは日本で初めて渇水対策容量が認可されました。
実際には貯水容量の大半を利水容量が占め、さらにその過半が渇水対策容量となっていることから利水重視のダムであるといえます。

ダム建設に際しては自然環境への負荷軽減に配慮され、完成後はダム上流部にジオトープが設けられるなど環境保護に努めています。
一方左岸ダムサイトにはモンベル五ケ山店を誘致したほか、ダム下にはリバーパーク、ダム東方にはモンベル五ケ山ベースキャンプが整備されアウトドアスポットとしての認知度が高まっています。

五ケ山ダムには打設完了後の2017年9月に初訪、2023年5月に再訪しました。
写真はすべて再訪時のものです。
堤体直下国道385号線五ケ山大橋から 
堤高102.5メートル、堤頂長556メートル
堤高は福岡県内ダム第2位
洪水吐はすべて自由越流頂で、中央1門だけ越流高が低くこれが常用洪水吐となります。
ダムの規模に対して洪水吐は簡易で、ここからも五ケ山ダムが利水重視であることが伺えます。

 
ダム直下から
向って右手(左岸)の建屋は管理用発電所を兼ねた放流設備。


水利使用標識
発電は利水放流を利用した小水力発電となります。


ダムの目的の説明
採択ベースでは日本で初めて渇水対策容量が認可されました。
竣工ベースでは長崎県の下の原ダム(再)が日本初。

ダムサイトに上がります
竣工記念碑は福岡では珍しい金箔文字。


下流面
堤頂長は500メートルを超え、左右両岸が屈曲した姿はなかなか勇壮。

天端は徒歩のみ開放
親柱の文字も金箔。

巨大な取水設備
奥はエレベーター棟。


減勢工を見下ろします
左手は管理用発電所を兼ねた放流設備。
この下流に親水公園としてリバーパークが整備されています。

 
五ケ山大橋越しの南畑ダム湖。
さらに福岡市街まで遠望できます。


左岸の繋留設備。


総貯水容量4020万立米は福岡県内最大、ダム湖は県境を越え佐賀県まで及びます。

右岸接岸点には脆弱地盤があり堤体は屈曲、
また接岸点周辺も厳重な山留が施されています。 


556メートルを歩いて右岸までやってきました。
往復1キロ。なかなかいい運動になります。


上流から遠望。

 
ダム湖上流のジオトープ
各所で自然環境への配慮が見られます。


ダムサイトに道の駅などが併設される例は多々ありますがアウトドアショップの誘致は初ではないでしょうか?
キャンプが人気の昨今、ダムをアウトドアの拠点とする試みは注目に値します。

(追記)
五ケ山ダムには洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらなる洪水調節容量が確保されることになりました。
 
2452 五ケ山ダム(1143)
福岡県筑紫郡那珂川町五ケ山
那珂川水系那珂川 
FNW
 
102.5メートル
556メートル
40200千㎥/39700千㎥
福岡県県土整備部
2017年
◎治水協定が締結されたダム

合所ダム

2023-08-12 17:00:00 | 福岡県
2022年5月25日 合所ダム
2023年5月24日

合所(ごうしょ)ダムは福岡県うきは市浮羽町小塩の筑後川水系隈上川にある灌漑・上水目的のロックフィルダムです。
現在のうきは市から久留米市に至る耳納山地北鹿の筑後川左岸地域では洪水のたびに取水設備が損壊する一方、段丘上や丘陵地は水利に乏しく生産性向上のため灌漑施設の整備が求められていました。
1972年(昭和47年)に九州初の国営かんがい排水事業として『耳納山麓農業水利事業』が着手され、その灌漑用水源として1990年(平成2年)に合所ダムが竣工、事業全体も1993年(平成5年)に完了しました。
ダム建設には福岡地区水道企業団及び久留米広域水道企業団(現福岡県南広域水道企業団)が水道事業者として参加し、運用開始後は福岡県農林水産部が管理を受託し4600ヘクタール超の田畑に灌漑用水を供給するほか、2水道企業団に上水道用水を供給しています。
ダムおよび農業水利事業の完成により、耳納山麓丘陵地では大規模な果樹園地や園芸農地が開発され、とりわけ果樹栽培が活性化し今や農業産出額に占める果実の割合が3割を超えるフルーツ王国となっています。

合所ダムには2022年(令和4年)に訪問しましたが、この時はコロナ対応のため天端や左岸に立ち入りできず、2023年(令和5年)5月に再訪しました。
日付表示のない写真はすべて初回訪問時のものです。

ダムの下流の県道108号うきは大橋から洪水吐斜水路と正対できます。


農業用フィルダムとしては珍しくラジアルゲートを装備。


斜水路は上段で傾斜が変わる一方、減勢工には副ダムが2基設置。
減勢工右手(左岸)には利水放流設備があり、取水は下流の隈上頭首工で行われます。


放流設備をズームアップ。
利水放流設備のほか非常用としてジェットフロートゲートを装備。


堤体は堤高60.7メートル、堤頂長270メートル
リップラップには芝が張られ見た目はアース。
放置して草が生えたのではなく意図的に芝を張ったようです。


天端は『関係者以外進入禁止』
管理する県に確認したところ、平時は徒歩での立ち入りは問題ないそうですが、初回訪問時はコロナ対応によりここまで。
再訪時に天端、左岸を見学しました。


取水設備は
複式斜樋
1門の表層取水用ゲートと複数の取水口ゲートの組み合わせにより、連続的な表層取水が可能、ちなみにこの斜樋の取水口ゲートは5門。
熊本の清願寺ダムや北海道の日新ダムなどでもこの型式の斜樋を採用しています。

洪水吐から
減勢工には副ダムが2基設けられています。
(2023年5月24日) 


合所ダムの特徴の一つがカイゼル髭のようにくるっと湾曲した導流壁。
建設の際の土木屋さんの苦労が目に見えます。
(2023年5月24日)


上流面
放流の際、フィル堤体と洪水吐の接続部への水圧軽減目的でこのような導流壁になったと思われます。
(2023年5月24日)


洪水吐をズームアップ
田植えを控えた用水需要最盛期ということで満水。
(2023年5月24日)


左岸丘陵上果樹園地から俯瞰
総貯水容量760万立米は九州の農業用ダムとしては屈指のスケール。
事前にグーグルのストリートビューでダムが見えそうなところを探していたらここを偶然発見。
ダム便覧にもここからの写真はなく(2023年5月にワタクシの写真が掲載済み)、ほぼ全景が見えるなかなかのスポット。
ちなみに丘陵上には広く柿畑やブドウ畑広がりこれもダムの恩恵。


合所ダムの断面図及び諸元表。

概要説明板
有効貯水容量中灌漑容量が437万立米、上水道用水容量が233万立米。
(2023年5月24日)


竣工碑と立退き住民への顕彰碑
竣工碑は福岡では珍しい金箔文字。
(2023年5月24日)


水利使用標識
かんがい面積は4600ヘクタールに及び灌漑最大取水量も毎秒3.648立米と大きな取水量になっています。
(2023年5月24日)


(追記)
合所ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2436 合所ダム(1855)
福岡県うきは市浮羽町小塩
筑後川水系隈上川
AW
60.7メートル
270メートル
7600千㎥/6700千㎥
福岡県農林水産部
1990年
◎治水協定が締結されたダム

広川防災ダム

2023-08-10 17:00:00 | 福岡県
2022年5月20日 広川防災ダム
2023年5月24日

広川防災ダムは福岡県八女郡広川町水原の筑後川水系広川にある農地防災目的のロックフィルダムです。
広川上流では豪雨時の出水が多く流域の農地に多大な被害をもたらしてきました。
そこで福岡県は1964年(昭和39年)に農水省の補助を受けた防災ダム事業に着手、1972年(昭和47年)に竣工したのが広川防災ダムです。
さらに2003年(平成15年)にかけての県営水環境整備事業が行われダム湖畔の整備が進められました。
管理は広川町が受託し、広川流域280ヘクタールの防災を担っています。
なおダム便覧ではダムの目的はFAとなっていますが、管理事務所で確認したところ灌漑容量は配分されておらずダムの目的はFとなります。

広川防災ダムには2022年(令和4年)5月20日に訪問しましたが、この時は放流設備改修工事のためダム下には入れませんでした。
そこで改修工事の完了を待って、2023年(令和5年)5月24日に改めて訪問しました。
日付表示のない写真はすべて最初の訪問時のものです。

県道84号西猪上陽線にダムを示す立派な案内碑が建っています。
描かれているのは広川町のキャラの『広川まち子ちゃん』。



堤高30.4メートル、堤頂長132メートルのロック堤体。
リップラップには芝が張られぱっと見はアースフィルのようです。
向って右手(左岸)に洪水吐斜水路、左手に刷新された放流設備があります。
(2023年5月24日)。


洪水吐斜水路(2023年5月24日)。


改修工事で刷新された放流バルブ
平時は流入量はそのままここから放流されます。
(2023年5月24日)


右岸から
訪問時は放流設備の改修工事中でした。


天端は車両通行可能。


総貯水容量99万立米の小さなダム湖。
有効貯水容量すべてが農地防災容量ですが、堆砂容量分だけ水が貯留されています。
また湖畔が水辺空間として開放され釣りなどを許可なく楽しめます。


上流面
対岸に洪水吐と管理事務所があります。


手前がダム穴風放流設備
堆砂容量を除き、流入量はそのまま放流されます。


右岸高台に展望台があり、高い位置から俯瞰できます。


左岸から下流面。


洪水吐減勢工。


左岸の横越流式洪水吐。

(追記)
広川防災ダムには農地防災容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2421 広川防災ダム(1809)
福岡県八女郡広川町水原
筑後川水系広川
30.4メートル
132.1メートル
990千㎥/802千㎥
広川町
1972年
◎治水協定が締結されたダム

山神ダム

2023-06-14 19:01:31 | 福岡県
2017年9月20日 山神ダム
2023年5月20日
 
山神ダムは福岡県筑紫野市山口の筑後川水系宝満川右支流山口川上流部にある福岡県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリート・フィル複合ダムです。
福岡都市圏南部の筑紫野市周辺は高度成長期より利便性の良さから福岡のベッドタウンとしてして人口が急増、宝満川や山口川の氾濫原が宅地開発される一方、上水道需要の増加が著しく、治水や水源確保が大きな課題となってきました。
これを受け福岡県は1963年(昭和38年)に山口川上流部への多目的ダム建設事業に着手、1979年(昭和54年)に竣工したのが山神ダムです。
山神ダムは建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助多目的ダムで山口川および宝満川の洪水調節(最大120立米/秒)、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、山神水道企業団を通じた筑紫野市・太宰府市・小郡市への上水道用水の供給を目的としています。
山神ダム完成後も筑紫野市周辺の水需要の増加はとどまらず、山神ダム上流への平等寺ダム建設や山神ダムの嵩上げ再開発などが検討されました。
しかし、バブル崩壊以降の社会情勢の変化により水需要は安定し、また公共工事への世論の厳しい姿勢もあり両事業は中止に至っています。

山神ダムと山神水道企業団の給水概略図(山神水道企業団HPより)
福岡市のベッドタウンとして急速に発展した筑紫野市・太宰府市・小郡市の上水道水源となっています。


山神ダムには2017年(平成29年)9月に初訪、2023年(令和5年)5月に水呑ダム訪問に合わせて再訪しました。
日付のない写真はすべて再訪時のものです。
ダム下から
堤体は右岸側が屈曲しカドになっています。
非常用洪水吐のクレストラジアルゲート2門、常用洪水吐のコンジット高圧ラジアルゲート1門のほか、利水放流設備としてジェットフローゲートを装備。
昭和50年代のダムらしく、コンジットのケートハウスは前面に張り出しています。


堤頂部をズームアップ
堤頂には山神ダムの文字。


右岸ダムサイトに上がります。
ダムサイトには『山神ダム前』バス停。


堤体は右岸側が緩やかに屈曲しカドに。
右岸接岸地点に脆弱地盤があるため、右岸側がフィル堤体となっています。
(2017年9月20日) 


天端は徒歩のみ開放
取水設備が2棟並びますが、手前は山神水道企業団向け取水設備、奥は低水放流用取水設備。


天端からの眺め
眼下は山神集落で小規模ながら棚田が美しい山村です。


総貯水容量298万立米の貯水池。
補助多目的ダムとしては小ぶりなダム湖。


山神水道企業団の水利使用標識。


洪水吐導流部と減勢工。(2017年9月20日) 


減勢工と放流設備
ダム下に調圧水槽があり上水道用水は専用管で山神浄水場に送られます。
ジェットフローゲートから不特定灌漑用水及び河川維持放流が行われています。


ダム右岸に草が刈られた地山があります。
フィルコンバインドダムということで、初めて見たときはこれをフィル堤体と勘違いしました。


左岸天端のクレーン
かつてはこのクレーンで巡視艇の昇降を行っていましたが、今はインクラインが増設され用無し。


上流面
手前が後付けのインクライン。
取水塔の手前にコンジット予備ゲートが見えます。


右岸のフィル堤体。
見た目はわずかですが、実際には右岸屈曲地点から先がフィル堤体となります。


(追記)
山神ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2433 山神ダム(1137)
福岡県筑紫野市山口
筑後川水系山口川
FNW
GF
59メートル
307.5メートル
2980千㎥/2800千㎥
福岡県県土整備部
1979年
◎治水協定が締結されたダム 

水呑ダム

2023-06-13 17:15:59 | 福岡県
2023年5月20日 水呑ダム

水呑ダムは福岡県筑紫野市平等寺の筑後川水系山中川にある筑紫野市環境経済部が管理する上水道用水目的の重力式コンクリートダムです。
1955年(昭和30年)に5町村の合併により誕生した筑紫野町は直後より町営水道事業に着手し、1958年(昭和33年)に上水用水源として建設されたのが水呑ダムです。
その後、筑紫野町は利便の良さから福岡のベッドタウンとして人口が急増、1972年(昭和47年)には市制を施行し筑紫野市となります。
町の発展に伴い水需要も急増し、1979年(昭和54年)に水呑ダム下流約1キロ地点に福岡県営の山神ダムが竣工しました。
現在筑紫野市水道事業の大半は山神ダムを水源とする山神水道企業団からの受水が大半で水呑ダムは『サブ』の存在となっています。

水呑ダムはダム便覧には掲載されていますが、経緯度は記載されておらず位置未確認扱い、またフォトアーカイブスへの写真提供もありません。
今回は山神ダム左岸ダムサイトから、車両進入禁止の林道を約1.6キロ歩いて水呑ダムに到達しました。

山神ダムから歩くこと20分弱で水呑ダムに到着です。
ダム直下には杉が伸び撮影の邪魔になる一方、寂れた雰囲気に趣を加えています。


堤高17.8メートル、堤頂長62.2メートルの小ぶりなコンクリートダム
放流設備は自治体管理の上水ダムらしくクレスト自由越流頂3門だけ
まるで馬ヶ城ダムのような美しい転波が見られます。


木が茂り撮影するスペースがないのが難ですが、美しい越流に見入るばかり。


薄暗くシャッタースピードが中途半端になってしまいました。


ダム下にプールがあります。
水呑ダム建設時に下流の既得灌漑用水向けに作られましたが、山神ダムに不特定灌漑用水容量が配分されたことで、現在は使われていません。


ダム下の記念碑
銘は『筑紫野町平等寺上水ダム』。
裏には当時の山口川水利組合との灌漑用水補償についての契約大要が刻されています。


こちらは天端に通じる階段
かつては立ち禁表記がありましたが、今はフリー。


天端高欄の『水呑ダム』のプレート
ビンテージ感溢れるダムですが、これは漫画チック。


昭和らしい5角形のバルブ操作室。


越流部は一段高くなっています。


上から見ても美しい越流です。
堤体から木が伸びていますが、これはご愛敬。


総貯水容量8万5000立米の小さな貯水池。

山神ダム完成後も増加の一途をたどる上水需要に対応するため、新たに平等寺ダムや山神ダム再開発事業が検討されましたが、バブル終焉による社会情勢の変化もありいずれも中止。
もし両事業が着手されていれば、水呑ダムはダム湖に沈む運命にありました。
命拾いした水呑ダムは主役の座こそ山神ダムに譲りましたが、未だ老兵死なずの意気が感じられる堰堤です。

3695 水呑ダム(1990)            
福岡県筑紫野市平等寺
筑後川水系山中川
17.8メートル
62.2メートル
85千㎥/85千㎥
筑紫野市環境経済部
1958年

善蔵溜池

2023-06-12 17:15:11 | 福岡県
2023年5月20日 善蔵溜池

善蔵溜池は福岡県八女市黒木町木屋にある灌漑目的のアースフィルダムです。
八女市黒木町はまとまった平坦地がほとんどなく、傾斜地や沢沿いの狭い平地を開墾するため戦前より多数の溜池が築造されてきました。
善蔵溜池もその一つで、ダム便覧には1927年(昭和2年)に善蔵耕地整理組合の事業により竣工と記されており、国等の補助はあったものの事業費の過半は受益者である大谷川下流域の農家の持ち出しで建設されたと思われます。
管理は今も善蔵耕地整理組合が行っています。
また善蔵溜池の貯水容量は24万9000立米と花宗溜池、山中溜池に次ぐ市内3番目の規模となっています。
善蔵の由来は不明ですが、もともと当地には古くからの溜池がありその溜池築造に際して中心的役割をはたした人物の名が採られたのでは?と推察します。

善蔵溜池はグリーンピア八女の敷地内にあり、湖岸を周回する遊歩道が整備され手軽なハイキングコースとなっています。
ダム堤体への車の乗りつけはできず湖畔のセラピー広場から遊歩道を約600メートル歩きます。
写真は池の西端にあるセラピー広場
グリーンピア開業時にキャンプ場が整備されビジターハウスも建てられましたが今は閉鎖。
グリーンピアについてはいろいろ言いたいことはありますがここでは割愛。
今は八女市が運営しています。



湖畔にはハナショウブ


池の堤体を遠望
ここから約600メートル歩きます。


セラピー広場から10分ほどで堤体右岸に到着
手前は洪水吐。


アングルを変えて
貯水池は満水で越流しています。


ダムサイトに建つ記念碑
中央は昭和2年の竣工記念碑、左右は改修記念碑。
竣工記念碑は摩耗が激しく解読できず。
改修記念碑によれば昭和59年に災害復旧工事、平成元年に底樋と斜樋の改修が行われました。


天端は遊歩道となっておりきれいに草が刈られています。


天端から
グリーンピアのパンフレットには『展望広場』と記され山名案内板も置かれています。
受益地となる水田はここから1キロ以上下流にあります。


総貯水容量24万9000立米は八女市内3番目の規模
湖畔を一周する遊歩道が整備されています。
自然林も残り紅葉期にはそこそこ人出があるようです。


天端中央の斜樋
シャフトは2本。


左岸から。


池の下に下りるルートが見つからなかったので底樋管は確認できませんでした。
その代わり池の下流400メートルを通る市道わきで善蔵溜池から伸びる灌漑用水路が確認できます。
田植え時期を控え、水が勢いよく流下していました。


2380 善蔵溜池 (1989)         
ため池データベース  402101009 
福岡県八女市黒木町木屋
矢部川水系大谷川
19メートル
90メートル
249千㎥/249千㎥
善蔵耕地整理組合
1927年

狸穴溜池

2023-06-10 18:01:01 | 福岡県
2023年5月19日 狸穴溜池

狸穴溜池は福岡県八女市黒木町北大淵にある灌漑目的のアースフィルダムです。
八女市黒木町では9基の灌漑用溜池が堤高15メートル以上のダムとしてダム便覧に掲載されていますが、うち7基が位置未確認となっています。
狸穴溜池もその一つで、ダム便覧には1933年(昭和8年)に黒木町の事業により竣工と記されており、当時の町営事業で建設されたと思われます。
池の左岸にある石碑には『スゲ田狸穴溜池』と記されており、南方約280メートルに位置するスゲタ溜池ともども同一事業で建設され、両者は上下池の関係にあります。
両池ともに吹原耕地整理組合が管理し、池の東方、剣持川左岸傾斜地に広がる棚田に用水を補給しています。
狸穴溜池はダム便覧に経緯度が記載されていますが数値が誤っており、正確な位置は八女市が作成した『ため池ハザードマップ』特定できます。

二つの池の位置関係
緑が狸穴溜池、橙がスゲタ溜池
赤線が狸穴溜池からの導水路
水の補給が容易ながら貯水容量の小さい狸穴溜池、一方補給は小さいものの貯水容量が確保できるスゲタ溜池
二つの溜池は持ちつ持たれつの関係で一体運用されていると思われます。


池への入口は事前の予習ですぐにわかりましたが、池に続く道は草木が繁茂しジャングル状態。
多少道迷いもあり到達するのに苦労しました。
左岸から
定期的に草刈りは行われているようですが、ここ数年は放置状態?
天端と下流面は程々に草が伸びています。



左岸にある石碑
『スゲ田狸穴溜池』と記されており、二つの池が同一事業で建設されたことがわかります。


総貯水容量はわずか5000立米で満水。


左岸に取水設備があるはずなんですが、ご覧のありさまで確認できません。

右岸から。


右岸の越流式洪水吐
周辺の池の多くが昔ながらの洪水吐なのに対し、ここは越流堤も備えたしっかりした洪水吐。
ダム便覧のテーマページ『福岡県八女市の位置未確認ダムについて』では、平成25年の洪水吐改修工事について触れられています。


上流面
石積護岸等は確認できません。


洪水吐導流部。


新しい洪水吐の上段には古い洪水吐の遺構が残ります。


草が深くダム下に下りるのは断念。
底樋管やスゲタ溜池に通じる水路の分水工などは確認できませんでした。

2385 狸穴溜池(1988)      
ため池データベース  402101030  
福岡県八女市黒木町北大淵 
矢部川水系剣持川左支流(河川名不明) 
 
 
17.6メートル 
43.2メートル 
5千㎥/5千㎥ 
吹原耕地整理組合 
1933年

スゲタ溜池

2023-06-09 17:15:44 | 福岡県
2023年5月19日 スゲタ溜池

スゲタ溜池は福岡県八女市黒木町木屋にある灌漑目的のアースフィルダムです。
八女市黒木町では9基の灌漑用溜池が堤高15メートル以上のダムとしてダム便覧に掲載されていますが、うち7基が位置未確認となっています。
スゲタ溜池もその一つで、ダム便覧には1933年(昭和8年)に黒木町の事業により竣工と記されており、当時の町営事業で建設されたと思われます。
管理は北方約280メートルに位置する狸穴溜池ともども吹原耕地整理組合が行っており、池の東方、剣持川左岸傾斜地に広がる棚田に用水を供給しています。
狸穴溜池にある石碑には『スゲ田狸穴溜池』と記されており、二つの池は同一事業で建設されたことがわかります。
両池は上下池の関係にあり今回の訪問で狸穴溜池からスゲタ溜池に通じる導水路も確認できました。

二つの溜池の位置関係
緑が狸穴溜池、オレンジがスゲタ溜池
赤い線が狸穴からスゲタに通じる導水路(推測)
両池の水は地図の東方(向かって右手)傾斜地の水田に用水を供給します。


スゲタ溜池はダム便覧に経緯度が記載されていますが数値が誤っており、正確な位置は八女市が作成した『ため池ハザードマップ』特定できます。

池の手前150メートルあたりから
ダム便覧のテーマページ『福岡県八女市の位置未確認ダムについて』では、池直下でブドウ栽培が行われている様子が伺えますが、訪問時は耕作放棄されていました。


草生した水路沿いを辿り何とか堤体下へ。
堤体は定期的に草が刈られているようですが、訪問した時期が悪かったようでそこそこ草が伸びています。
ダム便覧やため池データベースでは堤高23メートルとなっています。
この写真ではそこまでないように見えますが、池の基部はさらに深く、この写真の足元は池の中段辺り。


コンクリート製の底樋桝。
田植え時期を控え勢いよく水が流れています。


底樋桝から伸びる灌漑用水路、等高線状に伸びています。
水路は半ば泥に埋まっていますが、樹脂製のパイプが設置され水はそこを通ります。


天端によじ登ります。
こちらも程々草が伸びていますが、草刈りは行われているようです。
天端の栗の木がいいアクセント。


左岸に貯水池に流れ込む水路があります。


ダム便覧には狸穴溜池とスゲタ溜池は水路でつながっており、上下池の関係にあるとの記述があります。
この水路は狸穴溜池からのもので、スゲタ溜池の水の大半は狸穴溜池からの補給によると思われます。
ただ、田植え時期を控え用水補給は最盛期のはずですが、水路には水は流れていません。


上流面
石積等の護岸は確認できません。


左岸の池栓
取水した水は上記底樋桝へと送られます。


総貯水容量2万5000立米の小さな溜池ですが、水位は御覧の通り。
底樋桝からは勢いよく水が流れる一方、上下池の関係にある狸穴溜池からの補給はありません。
高齢化や離農などで需要量が減ったのかも?


天端から左岸を望みます。
下の筋が狸穴溜池からの水路、上の筋が池栓。


右岸を掘り込んだだけの洪水吐。


洪水吐導流部
竹や倒木が重なりかなり荒れた状態。

振り返って見ると、狸穴溜池から続くと思われる水路を辿ってみればよかったとちと後悔。

2386 スゲタ溜池(1987)   
ため池データベース 402101014 
福岡県八女市黒木町木屋 
矢部川水系剣持川左支流(河川名不明)
 
 
23メートル 
48.5メートル 
25千㎥/25千㎥ 
吹原耕地整理組合 
1933年

大小溜池

2023-06-08 17:07:00 | 福岡県
2023年5月19日 大小溜池

大小溜池は福岡県八女市黒木町北大淵にある灌漑目的のアースフィルダムです。
八女市黒木町では9基の灌漑用溜池が堤高15メートル以上のダムとしてダム便覧に掲載されていますが、うち7基が位置未確認となっています。
大小溜池はそのうちの一つで、ダム便覧には1912年(明治45年)に黒木町の事業により竣工と記されており、当時の町営事業で建設されたと思われます。
管理は受益者で組織される大小ため池組合が行っています。
北大淵地区は平坦地がほとんどなく水田の多くは矢部川沿いや緩斜面を開墾した小規模水田です。
池は矢部川右岸標高470メートルの高所に位置し、これらの水田の開墾に合わせて建設されたと思われます。
大小溜池はダム便覧に経緯度が記載されていない『位置未確認』物件ですが、八女市が作成した『大小溜池ハザードマップ』で位置を特定できます。

池の北側を市道が通り、入り口から数十メートルで天端右岸に到達します。
天端や堤体は定期的に草が刈られているようですが、訪問した時期が悪かったのか?そこそこ草が伸びています。


池の下流は延々と杉林が続きます。
受益農地は遥か下流。


総貯水容量2万7000立米の小さな貯水池。
田植え時期を控えほぼ満水。


天端中央の池栓
手前のパイプは空気孔。


左岸に建つ築造記念碑
大淵村第一耕地整理組合の名が見えます。
耕地整理組合は地主による組織で小作は加入できません。
戦後の自虐史観では地主制度は小作の搾取制度という教えをしていますがそれは間違い。町営事業や県営事業と言っても資金の大半は地主が拠出します。
全国的に見ても多くの溜池や灌漑設備の多くは地主や庄屋たちが自前で資金を出して整備しており、没落する地主も多々ありました。


こちらの碑には『大正二年7月十六日竣工』と記されています。
大正2年は1913年でダム便覧の1912年とはずれがあります。


上流面
満水に加え草が伸び護岸等は不明。


左岸を掘り込んだだけの洪水吐
対岸に竣工当時のままと思しき苔生した丸石積みの擁壁があります


長いコンクリート製の導流部が左岸を流下します。


下から見上げると
コンクリート製の導流部は平成のどこかで改修されたものです。


注目すべきは導流部の最下部で、導流面が丸石積になっています。
洪水吐の擁壁とも合わせて、竣工当時は洪水吐や導流部全体がこのような丸石積みで作られていたと思われます。
さらに下に下りて底樋管等を確認したかったのですが、急斜面に加え悪天候もあり自重しました。


左岸から見た下流面
こちらも定期的に草は刈られているようですが、かなり草が伸びていました。

2372 大小溜池 (1986)
ため池データベース 402101038 
福岡県八女市黒木町北大淵
矢部川水系右支流(河川名不明)
15.1メートル
60メートル
27千㎥/27千㎥
大小ため池組合
1912年

森樫溜池

2023-06-06 17:10:37 | 福岡県
2023年5月19日 森樫溜池

森樫(もりかじ)溜池は福岡県八女市黒木町大淵にある灌漑目的のアースフィルダムです。
八女市黒木町では9基の灌漑用溜池が堤高15メートル以上のダムとしてダム便覧に掲載されていますが、うち7基が位置未確認となっています。
森樫溜池はそのうちの一つで、ダム便覧には1919年(大正8年)に黒木町の事業により竣工と記されており、当時の町営事業で建設されたと思われます。
管理は受益者で組織される剣持耕地整理組合が行っています。
矢部川支流剣持川流域は狭隘な谷が続き平たん地がほとんどなく水田の大半は急斜面を開拓した小規模な棚田です。
池は剣持川右岸標高500メートルの高所に位置し、これらの水田開墾に合わせて建設されたようです。
森樫溜池はダム便覧に経緯度が記載されていますが数値が誤っており、正確な位置は八女市が作成した『森樫ため池ハザードマップ』特定できます。

ダムへのアクセスですが国土地理院地形図やグーグルマップは道路の表記が不正確なので注意が必要です。
池は中央部分がくびれたひょうたん型で、白線部分が天端、オレンジ丸が取水設備、黄色丸が底樋管、洪水吐は北側のピンク丸となります。



池へは北側からアプローチします。
洪水吐は道路と交差し、越流の際は道路のコンクリート部分を越えてゆきます。


貯水池から見ると。


洪水吐導流部。


北側の貯水池
写真左手前が洪水吐となります。


天端を通る道路
左が貯水池、右が下流面になりますが、共に竹林になっており見た目は何が何やらわからない。


左岸から
手前のトタン屋根と奥の茶畑の間の斜面の森が堤体となります。


南側の貯水池
左手が堤体になります。
貯水容量1万6000立米の小さな溜池ですが、平地のない山間部の農地にとっては貴重な水源です。


これが上流面となり、草むらの左手を天端道路が通ります。


左岸湖畔の取水設備。
木栓を使った昔ながらの池栓


草むらをかき分け左岸池下に到着。
防獣柵があるため、下流からは到達できません。


底樋管
田植え時期を控え水が流れています。


樋管のすぐ下流に簡易な分水工があります。
今は斜面の水田に水を送るため、右手の水路に水が送られています。


地図から想像するよりも険しい山地で、文字通り猫の額程度の農地を開拓するために標高500メートルの高所に水源を求めて作られたのが森樫溜池です。
高齢化等により池の草刈り等の余裕はないのでしょうが、比較的新しい木栓が今も貴重な水源であることを示しています。
一方池の周りには茶畑が広がっています。
八女茶ブランドが確立し当地での農業の主役は茶生産のようです。

2382 森樫溜池 (1985)
ため池データベース  402101035 
福岡県八女市黒木町大淵
矢部川水系剣持川右支流
15メートル
50メートル
16千㎥/16千㎥
剣持耕地整理組合
1919年

金堀谷溜池

2023-06-04 17:10:49 | 福岡県
2023年5月19日 金堀谷溜池

金堀谷(かなほりたに)溜池は福岡県八女市黒木町今にある灌漑目的のアースフィルダムです。
八女市黒木町では9基の灌漑用溜池が堤高15メートル以上のダムとしてダム便覧に掲載されていますが、うち7基が位置未確認となっています。
金堀谷溜池もその一つで、ダム便覧には1939年(昭和14年)に黒木町の事業により竣工と記されています。
当時の町営事業で建設されたと思われ、管理は受益者で組織される金堀谷溜池水利組合が行っており、池の南方、矢部川右岸段丘上の水田に用水を補給しています。
金堀谷溜池はダム便覧に経緯度が記載されていない『位置未確認』物件ですが、八女市が作成した『若山・金堀谷溜池ハザードマップ』で位置を特定できます。

国土地理院地形図の池周辺の道路は不正確、またグーグルマップでは道路が記載されていませんが、舗装された車道が右岸を通り車でのアプローチが可能です。
天端は未舗装ですが九州電力の送電線巡視路となっており、こちらも小型車の通行なら問題ないでしょう。


天端脇だけ草が刈られており、上流面は草ぼうぼう。


右岸の洪水吐
越流部などはなく掘り込みが入っているだけ。


導流部は道路を潜って堤体右岸を流下します。


右岸湖畔の池栓。
複数の穴に木栓を差し込む昔ながらの取水設備。


上流面。


総貯水容量はダム便覧で1万4000立米、ため池データベースで2万4000立米
いずれにしても小さな溜池に違いありません。


下流面
こちらは上流面以上に草ぼうぼう
近年は受益農家の離農や高齢化で草刈りの手もままならないようです。


さらに引いて撮ります。
木も生い茂り堤体は緑の中に埋没しています。
堤高はダム便覧が15.9メートル、ため池データベースが16.9メートル
見た目は微妙な高さですが、谷を塞き止めており堤体基部はさらに下流に続きます。


下流から踏跡を辿り、池直下に到達できました。
口を開けているのは底樋管、上の水路は洪水吐導流部。


底樋管から用水路が続きますが、かなり土砂に埋まっています。
今は水路内の黒いパイプで導水しているようです。

ダム基部の石積擁壁。
高さは3メートルほどありますが、九州北部水害で被災したようでかなり崩れています。注目すべきは積まれている石が黒色片岩である点。
片岩は薄く割れやすいため石積みには不向きなんですが、この辺りは三郡変成帯で片岩が広く露頭しており、この石しか入手できなかったのでしょう。
同様に片岩が使われている溜池としては、愛媛県の渕ヶ谷溜池があります。


荒れ気味ではありますが、いまだ現役の溜池であることが確認できました。

2346 金堀谷溜池 (1984)
ため池データベース 402101002 
福岡県八女市黒木町今
矢部川水系右支流(河川名不明)
15.9メートル(ため池データベース 16.9メートル)
38.4メートル(ため池データベース 41メートル)
14千㎥/14千㎥(ため池データベース24千㎥/)
金堀谷溜池水利組合
1939年

松瀬ダム

2022-06-15 23:00:00 | 福岡県
2022年5月25日 松瀬ダム

松瀬ダムは左岸が福岡県八女市黒木町大淵、右岸が同町北大淵の一級河川矢部川本流にある福岡県企業局県が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
福岡県最初の補助多目的ダムとして1962年(昭和37年)に日向神ダムが竣工します。福岡県企業局は工場進出で電力需要が旺盛な大牟田向け電力を賄うため同事業に発電事業者として参加し、1961年に最大出力7500キロワットの大渕発電所が稼働しました。
松瀬ダムは大渕発電所の出力調整による水位変動を緩和するための逆調整池として1963年(昭和38年)に完成、併せてここで取水された水はさらに6.3キロの導水路で木屋発電所に送られ最大6000キロワットのダム水路式発電が行われます。

下流からダムと正対できますが、木が邪魔をして全景を見ることはできません。
クレストローラーゲート2門のほか、向って右手(ダム左岸)は自由越流頂になっています。


ダムの下流は洗堀を防ぐためコンクリート工で保護。


ダム湖は総貯水容量50万6000立米ですが、堆砂が進み有効貯水容量はわずか19万8000立米
上流約1キロに日向神ダムがあり、左上にダム左岸の安山岩の岩壁が見えます。


ピア側面に嵌め込まれた銘板と記念碑。


天端は対岸への通路となっており車両通行できます。
下流側はゲート扶壁に合わせて前面に張り出し小さなバルコニーになっています。


ゲートを真上から
フラッシュボード付き。


ピアにはらせん階段。


これは巡視艇の格納庫
ホイストクレーンで昇降させます。


右岸の取水口と管理棟
ここから約6.3キロの導水路で木屋発電所に送水されます。


上流面。


(追記)
松瀬ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2411 松瀬ダム(1858)
左岸 福岡県八女市黒木町大淵
右岸        同町北大淵
矢部川水系矢部川
25メートル
70.5メートル
506千㎥/198千㎥
福岡県企業局
1963年
◎治水協定が締結されたダム

日向神ダム

2022-06-15 20:00:00 | 福岡県
2022年5月25日 日向神ダム

日向神(ひゅうがみ)ダムは左岸が福岡県八女市黒木町大淵、右岸が同町北大淵の一級河川矢部川本流にある福岡県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
当初矢部川には建設省直轄事業によるダム建設が計画されていましたが、1953年(昭和28年)の西日本大水害を受けて、県は『矢部川総合開発事業』を採択、工場進出で電力需要旺盛な大牟田向け発電を行うため県企業局が事業参加し1962年(昭和37年)に日向神ダムが竣工しました。
日向神ダムは福岡県最初の補助多目的ダムで、矢部川の洪水調節のほか矢部川流域1万2000ヘクタールへの不特定灌漑用水への補給と安定した河川流量の維持、福岡県企業局大渕発電所(最大出力7500キロワット)でのダム式発電を目的としています。
また翌年には下流1キロ地点に大渕発電所の逆調整池として松瀬ダムが完成しました。

まずはダム下へ
渓谷の狭隘部にそそり立つその姿は偉大で、79.5メートルの堤高以上の高さを感じます。
クレストラジアルゲート2門、コンジット高圧ローラーゲート2門のほかダム下部両側ににフィクストコーンバルブ2条を備えた美しいシンメトリー。


ラジアルゲートをズームアップ。


こちらは県企業局大淵発電所
建屋は新しく近年刷新されたようです。


天端に上がります。
まず目に入るのは対岸に屹立した天戸岩と呼ばれる大岩壁。
岩はマグマの貫入によって生成された日向神溶岩と呼ばれる安山岩です。


天端に鎮座するエメラルドグリーンのガントリー
コンジットおよびコーンバルブの予備ゲートを運搬します。


天端は車道ですが幅は狭く離合は難しい。でも車はほとんど通りません。
路面にはコンジットゲート用のグレーチング。


天端から。


ダム湖は細長く上流に続き総貯水容量は2790万立米となります。
ダムは狭隘な渓谷をうまく利用して作られ堤体積はわずか23万5000立米、貯水効率118倍と効率のいいダムです。


右岸のトンネル
天端両岸がトンネルという珍しいダム。


取水設備の向こうに繋留設備があります。


ダムは日向神溶岩と呼ばれる硬い安山岩の岩壁をつないで建設されました。
日向神溶岩はダム周辺のみ分布しており、ダム建設地点は地質的にも絶好の場所と言えます。




(追記)
日向神ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2410 日向神ダム(1857)
左岸 福岡県八女市黒木町大淵
右岸        同町北大淵
矢部川水系矢部川
FNP
79.5メートル
146メートル
27900千㎥/23900千㎥
福岡県県土整備部
1962年
◎治水協定が締結されたダム

藤波ダム

2022-06-15 12:00:00 | 福岡県
2022年5月25日 藤波ダム 
 
藤波ダムは左岸が福岡県うきは市浮羽町妹川、右岸が同市浮羽町小塩の筑後川水系巨瀬川にある福岡県県土整備部が管理する治水目的のロックフィルダムです。
巨瀬川は筑後川の南側を並行して流れる筑後川の主要左支流で、もとの流域は筑後川の氾濫原だったこともあり流路が固定されたのちも洪水が頻発していました。
ダム建設は1970年(昭和45年)に採択されましたが、本体着工は2004年(平成16年)にずれ込み2009年(平成21年)に竣工しました。
建設省(現国交省)の補助を受けた補助治水ダムで、巨瀬川の洪水調節(最大毎秒270立米の洪水カット)、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給を目的としてしています。
 
ダムの下流はダムの建設残土を埋め立て藤波ダム公園として整備されています。
藤波ダム公園からロックフィル堤体を望む。
実は公園入口からダム直下まで遊歩道が整備され、もっと近い位置からダムを見ることができたんですが。
この日は5月にして気温32度、猛暑に耐え切れずギブアップしてしまいました。

 
右岸から下流面
リップラップは草が侵食しつつあります。


上流面。


左岸の斜樋。
ダムの目的はFNの治水ダムなので、ここでは流入量を取水し、不特定利水と併せて放流します。

 
ダム下は建設残土で盛り土され、広大なダム下公園となっています。
減勢工の導流壁の高さから土が盛られていることがわかるでしょう。
実は山の反対側には農水省施工の合所ダムがあり、その水圧を緩和するための盛土だそうです。


洪水吐斜水路と減勢工。


洪水吐は非常用常用一体のバスタブ型。


右岸の管理事務所と裏手に伸びる繋留設備。


広い天端ですが車両は進入禁止で、徒歩のみ開放。


上流から
総貯水容量は295万立米でうち洪水調節容量は200万立米。
堆砂容量と不特定利水容量95万立米が貯留されています。


斜樋と洪水吐を遠望。


ダム湖畔の落合バス停
愉快なアンパンマンのキャラが勢ぞろいなんですが、これ夜は絶対に怖い。
つーか著作権の許諾は受けてるんだろうか?


(追記)
藤波ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2437 藤波ダム(1856)
左岸 福岡県うきは市浮羽町妹川
右岸      同市浮羽町小塩   
FN
52メートル
295メートル
2950千㎥/2450千㎥
福岡県県土整備部
2009年
◎治水協定が締結されたダム

夜明ダム

2022-06-14 08:00:00 | 福岡県
2022年5月24日 夜明ダム
 
夜明ダムは左岸が福岡県うきは市浮羽町三春、右岸が大分県日田市夜明の一級河川筑後川本流にある九州電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
1951年(昭和26年)の電気事業再編令により、
日本発送電は解体され九州では新たに九州電力が誕生します。
同社は戦後の電力不足を補うために積極的な電源開発を進め1954年(昭和29年)に完成したのが夜明ダムです。
ここで取水された水は約850メートルの導水路で夜明発電所に送られ、最大1万2000キロワットのダム式発電を行います。
建設途中の1953年(昭和28年)の西日本水害により堤体の大半が決壊、また2017年(平成29年)7月の九州北部豪雨の際にも管理所が流出するなど川の屈曲地点にあるダム故、被災が多いダムです。

右岸ダムサイトから
8門のローラーゲートと2門のシェル型ローラーゲートで筑後川を閉め切ります。


3番ゲートにはフラッシュボードがついています。


左岸に移ります。
ダムの直下で川が左手に大きく屈曲しているため、こちらには河川敷が形成されにより近い位置から見学できます。


赤いトラス製ピアが特徴的。


川が左手に屈曲するため、左岸のゲート2門は越流工が高く且つ径間の広いシェル型ローラーゲートになっています。


赤いトラス製ピアをズームアップ。


アングルを変えて。


どうしてもここに目が行きます。


右岸上流側には取水口や管理所が置かれていますが、国道の交通量が多かったので撮影は自重しました。

(追記)
夜明ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2751 夜明ダム(1852)
左岸 福岡県うきは市浮羽町三春
右岸 大分県日田市夜明
筑後川水系筑後川
15メートル
223メートル
4050千㎥/790千㎥
九州電力(株)
1954年
◎治水協定が締結されたダム