ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

川上ダム

2023-05-30 18:45:29 | 三重県
2023年4月24日 川上ダム 

川上ダムは左岸が三重県伊賀市青山羽根、右岸が同市阿保の淀川水系前深瀬川にある水資源機構が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
戦後の水道需要増大に対処するため1962年(昭和37年)の「水資源開発促進法」により淀川水系では水資源開発公団(現水資源機構)により河川総合開発が進められることになりました。
淀川左支流の木津川では1969年(昭和44年)の高山ダムを皮切りに、青蓮寺ダム室生ダム布目ダム比奈知ダムのいわゆる木津川上流5ダムが建設され、川上ダムは人口増加が特に著しかった奈良県への都市用水供給を主目的に1981年(昭和56年)に木津川上流6番目のダムとして事業着手されました。
しかし、バブル崩壊以降の利水需要の低減を受け奈良県が事業から撤退、さらに公共事業見直し機運を受け事業は停滞、国交省による検討対象ダムとなります。 
その後2014年(平成26年)に事業の『継続』が決定、2018年(平成30年)より本体工事が着手され2021年(令和3年)に本体打設が完了しました。

川上ダムは水資源機構法による多目的ダムで、毎秒最大780立米のカットによる前深瀬川・木津川・淀川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、木津川上流既設ダムの代替補給、伊賀市への上水道用水の供給を目的としています。
既設ダムの代替補給とは、堆砂除去のため既設ダムの水位低下を余儀なくされる際、川上ダムでその容量不足分を補填するという全国でもおそらく初めてとなる運用方法です。
そのほか、特徴的な設備として放流水の水質保全及び、流入水と放流水の温度差解消のためダム湖上流に取水堰を設けダム湖をバイパスしてダム下流に直接放流する流入水バイパスが設けられました。
また河川維持放流と放流水バイパスを利用した管理用小水力発電所(最大出力901キロワット)も設置されています。

ダム下から
洪水吐はクレスト自由越流頂6門とオリフィス高圧ラジアルゲート1門。
水資源機構のダムとしては珍しい漸縮型堤体導流壁を装備。
写真右下は転流工。


ダムサイトにはピカピカの看板。


管理事務所や駐車場も来立てほやほや感。
ダムサイトの公園部分は芝生の養生中で立ち入り禁止。


堤頂部の襟がずいぶん高くなっています。
一方で高欄や各種建屋は今どきのダムらしく無駄な装飾を排除し無機質。


左岸の繋留設備とインクライン
こちらは人員昇降用のインクラインです。


天端から減勢工と放流設備
奥は利水放流、手前は流入水バイパスの放流口。
流入水バイパスは同じ水資源機構が2012年(平成24年)に建設した大分の大山ダムでも導入されています。


ダム湖は総貯水容量3100万立米で『あおやま川上湖』と命名されました。
訪問時は試験湛水実施中。
6~10月は洪水期運用となるため、一旦水位を下げる必要があります。
6月までによほどの大雨がなければ、サーチャージに到達するのは今年の秋以降になる模様。


ダム湖に突き出た半島上には中部電力阿保発電所遺構
1921年(大正10年)竣工で、木造切妻の発電所建屋はCランクの近代土木遺産に選ばれていました。
写真は上部層と水圧鉄管の跡。


天端は2車線幅ですが、徒歩のみ通行可能。


放流設備・発電所をズームアップ
左から利水放流ゲート、間に管理用小水力発電所の四角い放流口が2条、右手は流入水バイパスゲート。
訪問時は発電所は稼働していませんでした。


上流面
クレストゲートの間にはオリフィス高圧ラジアルゲートの予備ゲートがあります。


左岸のインクライン
船は浮桟橋に繋留され、人員用のインクラインが設置されています。


左岸公園部にあるモニュメント。


上流面が一望できる場所を探しましたが見つかりません。
手前の半島は7枚目写真を反対から見たものです。

(追記)
川上ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

1333 川上ダム(1982) 
左岸 三重県伊賀市青山羽根 
右岸     同市阿保  
淀川水系前深瀬川 
FNW 
 
84メートル 
334メートル 
31000千㎥/29200千㎥ 
水資源機構 
2022年
◎治水協定が締結されたダム 

小森ダム

2023-05-29 18:22:16 | 三重県
2023年4月23日 小森ダム 

小森ダムは左岸が三重県熊野市紀和町小森、右岸が和歌山県東牟婁郡北山村下尾井の一級河川新宮川水系北山川にある電源開発(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
戦後の電力不足の中、日本有数の多雨地帯を水源とし包蔵電力豊富な新宮川水系では半官半民の電源開発(株)が発電事業を担うことになります。
北山川流域では1962年(昭和37年)の坂本ダムを皮切りに1964年(昭和39年)に池原ダム、そして翌1965年(昭和40年)に竣工したのが七色ダムと小森ダムです。
小森ダムは北上川の一連の発電ダム最下流に位置し小森発電所で最大3万キロワットのダム水路式発電を行います。

小森ダム下流は狭隘な渓谷が続くうえに道路沿いは木が茂り、ダム全体を下流から正対できるポイントはないとされていました。
今回はダム友さん情報を参考に、ダム直下の河原に降下しダムを真正面から愛でることができました。

こちらは国道169号線沿いの従来から知られている展望ポイントから
ダム便覧掲載写真ではかつてはゲート5門ほどが見えたようですが、今は木が茂り3門が精いっぱい。


小森トンネル手前から釣り師がつけたと思われるトレースがあります。
木の枝や岩にしがみつきながら無事降下完了。


ローラーゲート7門で北山川を締め切ります。
右岸(向かって左手)で塵芥放流ゲートを利用した河川維持放流が行われています。
発電所は左岸(向かって右手)にありますが、ダムの堤高34メートルに対し有効落差49メートルということで発電所は地下にあります。
また放流水は約2キロのトンネル放流路で下流に放流されます。


ゲートはすべて2段式ローラーゲート
左右両岸には分厚い叩きが設けられています。


こちらは塵芥放流ゲートを利用した河川維持放流。
もちろん河川法の改正で今はダムが捕捉した塵芥の放流は禁止です。


ダム直下の副ダム。


実は小森ダムには上流にも展望ポイントがあるのですが、難関の断崖降下に成功して浮かれてしまい、上流からの見学をすっ飛ばしてしまいました。

(追記)
小森ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
1313 小森ダム(1981)
左岸 三重県熊野市紀和町小森
右岸 和歌山県東牟婁郡北山村下尾井
新宮川水系北山川
34メートル
154メートル
9700千㎥/4700千㎥
電源開発(株)
1965年
◎治水協定が締結されたダム 

小匠ダム

2023-05-27 18:07:54 | 和歌山県
2023年4月23日 小匠ダム

小匠(こだくみ)ダムは和歌山県東牟婁郡那智勝浦町小匠の二級河川太田川水系小匠川にある農地防災目的の重力式コンクリートダムです。
那智勝浦町を貫流する太田川は中下流域沿いに農地が広がっていますが、日本屈指の多雨地帯ということもあり、農地の洪水被害が頻発していました。
そこで和歌山県は農林省(現農水省)の補助を受け防災ダム事業に着手し、1959年(昭和34年)に竣工したのが小匠ダムです。
完成後は那智勝浦町が管理を受託し、太田川および小匠川流域の農地を洪水被害から守ります。

小匠ダムは普段は貯水池に水を溜めない流水型防災ダム、いわゆる穴あきダムですが、堤体を道路が貫通し洪水時には道路ゲートで道路を塞ぐ珍しい構造から、ダム愛好家の間ではよく知られた存在です。
ただ、近年の改修にあわせて堤頂部を通る道路が開通したことで、道路ゲートは閉じたままとなり、ダム堤体を貫通する道路を通行することはできなくなりました。

小匠集落から川沿いの林道を約2キロほどでダムに到着します。
ダム右岸に放流管が2門あり、平時は流入水はここからそのまま放流されます。
2門あるゲートはともに2段構成で上部は自由越流頂、下部はスライドゲートを備えています。
右手の水路は灌漑用水路で林道沿いを小匠集落まで流下します。


ゲートをズームアップ。


常用洪水吐となる放流管
手前の放流管には魚道があります。


こちらは灌漑用放流設備
この水が1枚目写真の灌漑用水路へ流下します。
訪問時は田植え前ということで、灌漑補給が行われていました。


こちらが堤体を貫通する道路
上流側にゲートがあり、洪水時以外は車での通行も可能でした。
現在は左岸に新しい道路が開通したので、ゲートは閉じたまま。


下流面
堤頂部からスロープが続き、簡易ながら天端高欄にも装飾が入っています。


天端には巻き上げ機が並びますが、立ち入り禁止。


上流に回り込みます。
こちらは道路ゲート、その形状からギロチンゲートと呼ばれています。
車で通り抜けてみたいという気持ちはありますが、そもそもうちのBMWでは車幅が広く通れない。


貯水池に下りてみます。
普段は貯水しない流水型防災ダムならではのアングル。
下流からはわかりませんでしたが、右岸の放流管にもゲートがついています。


接近してみます。
左から道路ゲート、灌漑用取水ゲート、上部が自由越流頂・下部がスライドゲートの非常用洪水吐2門、常用洪水吐となる放流管2門。
流入量等で操作規則が決まってるんでしょうが、それにしても洪水時のゲート操作が複雑そう。



1646 小匠ダム(1980)
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町小匠
太田川水系小匠川


35.9メートル
137メートル
7490千㎥/7490千㎥
那智勝浦町
1959年

七川ダム

2023-05-25 18:04:16 | 和歌山県
2023年4月23日 七川ダム 

七川ダムは和歌山県東牟婁郡古座川町の二級河川古座川本流にある和歌山県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
1953年(昭和28年)の7・18水害(紀州大水害)により和歌山県各河川で甚大な洪水被害が発生し、県は各河川の治水対策に乗り出します。
年間降水量3500ミリと日本屈指の多雨地帯である古座川では同年ダム建設を軸とする古座川総合開発事業が着手され、1956年(昭和31年)に和歌山県最初の補助ダムとして七川ダムが竣工しました。
七川ダムは洪水時に最大毎秒1080立米をカットすることで古座川の洪水調節を行うほか、関西電力佐田発電所《2005年(平成17年)に県企業局から関西電力に移管》での最大出力7200キロワットのダム水路式発電を目的としています。 
さらに2019年(令和2年)には『常用洪水吐きに国内最古の高圧スルースゲートを設置した多目的重力式コンクリートダムで、戦後のダム史上極めて価値ある土木遺産』として和歌山県のダムとしては初の土木学会選奨土木遺産に選ばれました。 

古座川沿いに国道371号線を北上し、七川ダムの標識に従って西に折れると左岸ダムサイトに到着します。
被覆されたゲートハウスを載せたピアと、襟がなく堤頂部から続くスロープが特徴的。


天端は立ち入り禁止
普段はお願いすれば入らせてくれるということでしたが、訪問時はクレストゲートの塗装工事中で断念。
お目当てのスルースゲートを目にできませんでした。
御影石を積んだ親柱がいかにも昭和20年代設計らしい作り。


昭和三十一年三月竣工の銘板
和歌山県最初の補助ダムとして竣工しました。


土木学会選奨土木遺産のプレート。


左岸の繋留設備と巡視船。


ユニークなのがこの野猿風の籠
建設当初はダムで捕捉した流木や塵芥を除去するという視点はなく、河川法の改正で流木・塵芥の放流が禁止されたのに合わせて設置されたとのこと。


ダムで捕捉した流木・塵芥はこの焼却場で処理されます。


ダム下への立ち入りは禁止されていますが、管理人さんにお願いすれば許可がもらえます。
こちらは監査廊入り口。


見上げると管理棟群
手前は旧管理棟で窓ガラスは割れ廃墟の様相



ダム下、洪水吐脇から
非常用洪水吐としてクレストローラーゲート2門、常用洪水吐としてオリフィス高圧スルースゲートを装備。
このスルースゲートを評価して選奨土木遺産に選ばれました。


右岸ゲートは塗装工事中で張りぼて。
ピア上には被覆したゲートハウスが載ります。

洪水吐に下りてみました。
この位置からダムを見上げるのは稀。
竣工から70年近い年月が経ち、導流部や洪水吐擁壁のコンクリートは傷みが目立ちます。


減勢工のシュート部分
こんなショットも七川ダムならでは。


お目当てのスルースゲートを見ることは叶いませんでしたが、ビンテージダムを真下から愛でることができたのでまあ満足。
古座川下流の道の駅そばには日本最大級の一枚岩である『古座川の一枚岩』があります。
約1500万~1400万の熊野カルデラ形成の際に生成された流紋岩質凝灰岩の一枚岩で、地質マニアならこちらも必見。

(追記)
七川ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
1643 七川ダム(1979) 
和歌山県東牟婁郡古座川町佐田
古座川水系古座川
FP
58.5メートル
154メートル
30800千㎥/25400千㎥
和歌山県県土整備部
1956年
◎治水協定が締結されたダム 

七色ダム

2023-05-18 18:37:39 | 三重県
2023年4月22日 七色ダム 

七色ダムは左岸が三重県熊野市神川町神上、右岸が和歌山県東牟婁郡北山村七色の一級河川新宮川水系北山川にある電源開発(株)が管理する発電目的の重力式アーチダムです。
戦後の電力不足の中、日本有数の多雨地帯を水源とし包蔵電力豊富な新宮川水系では半官半民の電源開発(株)が発電事業を担うことになります。
北山川流域では1962年(昭和37年)の坂本ダムを皮切りに1964年(昭和39年)に池原ダム、そして翌1965年(昭和40年)に竣工したのが七色ダムです。
池原ダムを上部調整池、当ダムを下部調整池として池原発電所で最大出力35万キロワットの混合揚水式発電を行うほか、七色発電所で最大8万2000キロワットのダム水路式発電を行います。
また池原発電所の出力調整に伴う水位変動を緩和する逆調整池としての機能も併せ持ちます。

池原ダムから約16キロ、20分ほどで七色ダムに到着
北山川下流左岸からダムと正対できます。
七色の名前に合わせたわけじゃないんでしょうが、7門のローラーゲートで北山川を締め切ります。
ゲートとピアはシンメトリー。
堤高は61メートルですが、これは基礎岩盤からの高さでその半分近くは水中に没しており見た目は30メートルほど。


右岸から。


ダム右岸の発電所取水口
認可取水量は毎秒140立米。


天端から。


副ダムも堤体に合わせたアーチ状。
左岸の水は河川維持放流。


右岸ダム下の開閉所。
有効落差69.3メートルを稼ぐため発電所は地下30メートルほどに作られています。
また放流水は約2.3キロの導水路で北山川下流に放流されます。


貯水池は総貯水容量6130万立米ですが、堆砂が進み有効貯水容量は6分の1の1070万立米。
池原貯水池同様バス釣りスポットとして人気があるようです。


天端は国道169号線が通ります。


水利使用標識。


左岸上流側の河川維持用水取水口
七色ダムでは下流に景勝地瀞峡があることから、放流義務化が法制化される前よりゲート放流により河川維持放流が行われてきました。
こちらは後付けのサイフォン方式取水口でこの下流側に維持放流を利用した小水力発電所があります(写真撮影せず)。


上流面。


左岸の繋留設備
塵芥除去作業船他3隻が繋留されています。

(追記)
七色ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
1312 七色ダム(1978) 
左岸 三重県熊野市神川町神上
右岸 和歌山県東牟婁郡北山村七色
新宮川水系北山川
GA
61メートル
200.8メートル
61300千㎥/10700千㎥
電源開発(株)
1965年
◎治水協定が締結されたダム 

池原ダム

2023-05-15 18:02:46 | 奈良県
2023年4月22日 池原ダム 

池原ダムは左岸が奈良県吉野郡下北山下池原、右岸が同村上池原の一級河川新宮川水系北山川にある電源開発(株)が管理する発電目的のアーチ式コンクリートダムです。
戦後の電力不足の中、日本有数の多雨地帯を水源とし包蔵電力豊富な新宮川水系では半官半民の電源開発(株)が発電事業を担うことになります。
北山川流域では1962年(昭和37年)に発電放流水を流域変更して太平洋に放流する尾鷲分水の取水ダムとして坂本ダムが完成、次いで1964年(昭和39年)に竣工したのが池原ダムおよび池原発電所です。
翌年には17キロ下流に七色ダムが完成し、池原ダムを上部調整池、七色ダムを下部調整池とする最大出力35万キロワットの混合揚水式発電が稼働しました。
池原ダムは湛水面積および総貯水容量はアーチダム最大を誇るほか、堤頂長は同第2位、堤体積は同5位と我が国のアーチダム屈指のスケールを誇っています。
また堤体には放流設備はなく、非越流型堤体の約600メートル南側にローラーゲート4門を備えた洪水吐が設置される非常に珍しい構造となっています。

アーチ堤体と洪水吐の位置関係
オレンジがアーチ堤体、赤が洪水吐


アーチ堤体直下には下北山スポーツ公園があり、各種スポーツ施設やキャンプ場、ロッジなどが整備され人気のアウトドアスポットになっているほか、池原貯水池は関西屈指のバス釣りスポットとして知られており、ダムは日本100ダムに、貯水池はダム湖百選に選ばれています。

右岸池原ダム展望台より
アーチダムとしては日本屈指のスケールを誇りますが、非越流式堤体のため放流設備が一切ないのっぺらぼう。
ある意味異形のダムと言えます。
写真左奥に洪水吐と取水設備が垣間見えます。


堤体直上に繋留設備があります。


毎度おなじみ、ダム名の付いたバス停
こちらはコミュニティバス。


堤体には『池原ダム  電源開発株式会社』の文字。


右岸から
このアングルからアーチダムを超広角で撮影するとデフォルメによりどこのダムもみな同じような絵になるのですが。
池原は放流設備のない非越流式堤体ですので天端もスッキリ。
一目で池原とわかります。


ダム下の下北山スポーツ公園と併設キャンプ場
昭和40年代、この運動施設で鍛えた下北山中学男子サッカー部および女子バレー部は、全校生徒100名前後にも関わらず、長く奈良県中学大会の頂点を極め全国大会でも活躍しました。

天端中央のダム湖百選のプレート。
池原貯水池は湛水面積843ヘクタール、総貯水容量3億3837万3000立米とアーチダム中最大規模を誇ります。


洪水吐と取水設備
天端から正面に洪水吐ゲートと正対できるダムは池原くらいでしょう。
取水設備は右から1号~4号まで並びます。
右手の1号2号取水口は建設当初からの中層取水口
左の3号4号は1991年(平成3年)に竣工した表面取水設備。
洪水時の貯水池濁水が問題化する中、北山川下流の環境改善のため濁水発生時に表層の清水取水を行うために設置されました。


左岸から。


天端は国道425号線が通ります。


取水設備越しにアーチ堤体を遠望。


洪水吐のピア
洪水吐の上も国道425号が通り、支流の東ノ川に沿って15キロ進むと坂本ダムに着きます。


洪水吐越しの北山川、複雑に蛇行しています。
発電施設は写真やや右手、導流部の先に垣間見えます。


水利使用標識
最大出力35万キロワットを誇るため、認可取水量も毎秒342立米と桁違いの数値。

国道169号線沿いには北から大迫ダム、池原ダム、七色ダムと3基のアーチダム(七色は重力式アーチ)が続きます。
さらに国道425号を使って坂本ダムに寄り道すれば、一度に4基のアーチダムを楽しめるアーチ密集地帯。
バラエティに富んだ4つのアーチをはしごすればアクセスの悪さなど吹っ飛ぶこと請け合い。

(追記)
池原ダムはは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
1565 池原ダム(1977) 
左岸 奈良県吉野郡下北山村下池原 
右岸         同村上池原 
新宮川水系北山川 
 
 
111メートル 
460メートル 
338373千㎥/220083千㎥ 
電源開発(株) 
1964年 
◎治水協定が締結されたダム 

坂本ダム

2023-05-13 18:21:57 | 奈良県
2023年4月22日 坂本ダム 

坂本ダムは奈良県吉野郡上北山村川合の一級河川新宮川水系東ノ川にある電源開発(株)が管理する発電目的のアーチ式コンクリートダムです。
戦後の電力不足の中、日本有数の多雨地帯を水源とし包蔵電力豊富な新宮川水系では半官半民の電源開発(株)が発電事業を担い1950年代半ば(昭和20年代末)より電源開発に邁進します。
東ノ川では発電に供した水を流域変更して太平洋に放流する尾鷲分水が着手され1961年(昭和36年)にクチスボダムと尾鷲第二発電所が、翌1962年(昭和37年)に坂本ダムと尾鷲第一発電所が竣工しました。
坂本ダムで取水された水は約7キロの導水路で尾鷲第一発電所(最大出力4万キロワット)に送られ、放流水は流域変更して銚子川水系又口川に放流されます。
さらに下流のクチスボダムから尾鷲第二発電所(最大出力2万5000キロワット)を経て再び流域変更し、中川経由で太平洋に放流されます。
発電により流域変更されるケースは複数例ありますが、2度の流域変更を伴うのは他に例がありません。

坂本ダムに通じる国道425号線は災害により長く通行止めが続いていましたが、2022年(令和4年)にようやく全線復旧しました。
今回は尾鷲市のクチスボダムから国道425号を利用して坂本ダムに至りました。
堤高103メートル、堤頂長256.7メートルとなかなかのスケール
放流設備としてはクレスト自由越流頂11門、低水位放流用ハウエルバンガーバルブ1条を装備。
この位置から全景を治めるには超広角を使うしかありません。


ハウエルバンガーバルブをズームアップ。


左岸ダムサイト
左岸を名ばかり国道425号が通ります。


親柱の銘板。


水利使用標識。


天端は車両通行可能
写真ではわかりづらいんですが、対岸の山腹にプラントやクレーン台座跡があります。


天端から
シュートの下流に副ダムがあります。
すぐ下流が池原貯水池になるためか?河川維持放流はありません。
池原貯水池満水時にはすぐ下流まで湖面となりますが、この秋冬が少雨だったため水位が低く、ダム下流は水無川となっています。


総貯水容量8700万立米
こちらも少雨のためかなり水位が下がっています。
尾鷲第一発電所の取水口はこの上流約2.4キロにあります。


右岸から。


11門のクレスト自由越流頂のうち左右両端2門は越流頂が高くなっています。
両岸の洗堀防災の意図があるんでしょう。


右岸の慰霊碑。


左岸から上流面
このアングルで見るとドームアーチであることがよくわかります。


ダムから約2.4キロ上流にある尾鷲第一発電所古川取水口。
最大取水量は21立米/秒で、約7キロの導水路で県境を越えて発電所に送られます。


上流から見た取水口とインクライン。
水位がかなり低い。


インクラインをズームアップ。


ダムから導水される尾鷲第一発電所
最大4万キロワットのダム水路式発電を行い、放流水は流域変更され銚子川水系に放流されます。

(追記)
坂本ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
1563 坂本ダム(1976) 
奈良県吉野郡上北山村河合
新宮川水系東ノ川
103メートル
256.3メートル
87000千㎥/68000千㎥
電源開発(株)
1962年
◎治水協定が締結されたダム 

クチスボダム

2023-05-11 18:29:01 | 三重県
2023年4月22日 クチスボダム 

クチスボダムは三重県尾鷲市南浦の銚子川水 系又口川にある電源開発(株)が管理する発電目的の重力式コンクリート・フィル複合(フィルコンバインド) ダムです。
戦後の電力不足の中、日本有数の多雨地帯を水源とし包蔵電力豊富な新宮川水系では半官半民の電源開発(株)が発電事業を担い1950年代半ば(昭和20年代末)より電源開発に邁進します。
新宮川二次支流東ノ川では発電に供した水を流域変更して太平洋に放流する尾鷲分水が着手され1961年(昭和36年)にクチスボダムと尾鷲第二発電所が、翌1962年(昭和37年)に坂本ダムと尾鷲第一発電所が竣工しました。
東ノ川の坂本ダムで取水された水は約7キロの導水路で尾鷲第一発電所(最大出力4万キロワット)に送られ、放流水は流域変更して銚子川水系又口川に放流されます。
又口川のクチスボダムは第一発電所の逆調整池を兼ねており、ここで取水された水は尾鷲第二発電所(最大出力2万5000キロワット)を経て再び流域変更し、中川経由で太平洋に放流されます。
発電により流域変更されるケースはままありますが、2度の流域変更を伴うのはここだけじゃないでしょうか?

またクチスボダムは本州では珍しいカタカナ表記のダムとなっています。
クチスボは漢字で表記すると『口窄』となり文字通り狭隘な谷筋を示す地名です。

尾鷲市街から国道とは名ばかりの425号を西進、矢所橋からダムと正対できます。
クレスト越流頂にはローラーゲートを装備、右手にわずかにフィル部分が見えます。
放流は河川維持放流。


よく見える場所がないかと河原に下りてみたものの…
橋の方がよく見える。


ダム左岸を国道425号が通ります。
天端を含めダム構内は立ち入り禁止。


水利使用標識
坂本ダムの水利権は21立米/秒ですがここは25立米/秒
銚子川水系での取水分だけ多くなっています。


左岸のフィル部
さすが電源開発、手入れが万全で芝生状態。


天端。


上流面
フィル部分はロック材で護岸。


ダム湖(クチスボ貯水池)は総貯水容量196万立米
第二発電所の取水工は対岸の上流側にあります。


インクラインと巡視艇。


ダムの上流1.2キロにある尾鷲第一発電所
有効落差225.3メートル
発電用水の大半は新宮川水系東ノ川の坂本ダムから流域変更され導水されています。


山中のサージタンク
けっこうな高さにあります。


(追記)
クチスボダムはは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
1308 クチスボダム(1975) 
三重県尾鷲市南浦 
銚子川水系又口川 
 
GF 
35メートル 
98メートル 
1960千㎥/690千㎥ 
電源開発(株) 
1961年 
◎治水協定が締結されたダム 

宮川ダム

2023-05-09 18:08:58 | 三重県
2023年4月22日 宮川ダム 

宮川ダムは三重県多気郡大台町久豆の一級河川宮川本流にある三重県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
日本一の降水量を誇る大台ヶ原を水源とする宮川は東海有数の暴れ川で、宮川自身が形成した下流の広大なデルタ地帯では洪水被害が絶えませんでした。
一方戦後の電力不足を受け、包蔵電力豊富な宮川での電源開発が喫緊の課題となっていました。
1951年(昭和26年)に三重県は宮川上流部への多目的ダム建設を軸とした宮川総合開発事業を採択、これに発電事業者として三重県企業庁が事業参加し1956年(昭和31年)に竣工したのが宮川ダムです。
宮川ダムは建設省(現国交省)の補助を受けた補助多目的ダムで、洪水時には最大1000立米/秒をカットすることで宮川の洪水調節を行うほか、安定した河川流量の維持及び不特定灌漑用水への補給、三重県企業庁(2015年に中部電力に移管)宮川第一および第二発電所でのダム水路式発電(計最大出力5万4200キロワット)を目的としています。
なお宮川第一・第二ダムの放流水は流域変更されそのまま太平洋に放流されます。
また宮川総合開発事業の一環として農林省(現農水省)による国営農業水利事業宮川用水地区が着手され、宮川ダムの不特定利水容量により用水不足が生じた場合に約5000ヘクタールの水田に補給を行います。
さらに2003年(平成15年)には河川維持放流を利用した宮川ダム発電所(最大出力316キロワット)が増設されました。

三瀬谷ダムから宮川沿いを約20キロ、30分ほどのドライブで宮川ダムに到着します。
ダムの下流、大杉簡易浄水場から定入滝の道標に従って堤防上の歩道を200メートルほど歩くとダムの下流に飛び出します。
このアングルからの写真はダム便覧や各種訪問記等でも皆無です。ちょっと地図を見て調べればすぐにアプローチできる場所なのに?

堤高88.6メートル、堤頂長231メートルは昭和20年代着手のダムとしてはかなり大規模。
非常用洪水吐としてクレストに深紅のローラーゲート3門を備えるほか、常用洪水吐となるハウエルバンガーバルブ、不特定利水放流用ジェットフローゲート、河川維持放流用コーンバルブを備えています。
訪問時はすでに灌漑期で、宮川用水土地改良区向け不特定利水放流が行われていました。


ゲートをズームアップ。
昨年ゲートの改修工事が竣工、再塗装された深紅のゲートが鮮やか。
導流壁は中段で両側に膨らむ独特の形状。
また東海地方のダムでは珍しくゲートハウスが被覆されています。


左岸から。


上流面。
手前は2006年(平成18年)に新設された多段式選択取水設備。
従来の取水口は低水部にあり冷濁水取水のみであったため、河川環境に悪影響を及ぼすとともに、灌漑用水には不適でした。


天端から
副ダムの形状も独特。


ダム湖は大杉湖
総貯水容量7050万立米と補助ダムとしてはかなりの規模。
今年の春は少雨で、水位は低め。


右岸から
対岸に管理事務所があります。


放流設備をズームアップ
4月11日から灌漑期となり、ジェットフローゲートから宮川用水土地改良区向け不特定利水放流が行われています。
その左手は常用洪水吐となるハウエルバンガーバブルブ、最下段に小水力発電を行う宮川ダム発電所があります。


下流面
堤体に並ぶ正方形の白い部分は、昨年まで行われていたゲート改修工事の足場跡をモルタルで埋めたもの。

天端は車両通行可能
ゲート部分だけ下流側にクランクしています。


艇庫とインクライン。


上流面
ゲートは下流の赤とは対照的な青の塗装
こちらも昨年塗り替えられたばかりで色鮮やか。


(追記)
宮川ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
1306 宮川ダム(1974)
三重県多気郡大台町久豆
宮川水系宮川
FNP
88.5メートル
231メートル
70500千㎥/56500千㎥
三重県県土整備部
1956年
◎治水協定が締結されたダム 

三瀬谷ダム

2023-05-07 18:00:00 | 三重県
2016年1月 3日 三瀬谷ダム
2023年4月22日
 
三瀬谷(みせだに)ダムは左岸が三重県多気郡大台町弥起井、右岸が同町菅合の一級河川宮川本流にある中部電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
日本最大の多雨地帯大台ヶ原を水源とし包蔵電力豊富な宮川では県土整備部の『宮川総合開発事業』に県企業庁が発電事業者として事業参加し、1962年(昭和37年)にかけて宮川第一~第三発電所(出力合計6万6200キロワット)が建設されました。
さらにその後の電力需要増加を受け、宮川ダム下流約30キロ地点に1967年(昭和42年)に竣工したのが三瀬谷ダムで、併せて建設された三瀬谷発電所で最大1万1400キロワットのダム式発電が稼働しました。
しかし2015年(平成27年)に三重県企業庁は公営発電事業から撤退し三瀬谷ダム・発電所をはじめ同庁所管の全ての発電施設は中部電力に移譲されました。
 
右岸下流から
深紅のローラーゲート4門と被覆されたピア、ダムに併設された発電所はこれぞ発電ダムと言った体。
減勢工に並ぶ恐竜の背びれのようなバッフルピアとシュートブロックが三瀬谷ダムの売りです。


2列のバッフルピアとシュートブロック。


左岸ダムサイトに駐車スペースがあり各種説明板が並びます。


親柱に嵌め込まれた銘板。


左岸の一見インクラインと思しき装置は『流木引き揚げ装置』。


三重県企業庁の名前が残ります。


天端は車両通行可能
近畿自然歩道のハイキングコースにもなっています。


ダム直下の三瀬谷発電所


天端から
こちらから見てもバッフルピアとシュートブロックはインパクト大
下流にはJR紀勢線三瀬谷橋梁が架かります。


ダム湖の奥伊勢湖は総貯水容量1310万立米
県内唯一の公認漕艇場があります。


赤が鮮やかなローラーゲート
中電に移管されて赤になったわけではなく、宮川ダム君ヶ野ダムなど三重県営ダムもゲートは赤。
このゲートには今は用無しになったフラッシュボードがついています。




右岸から
堤体はゲート部分だけ下流側にクランク
左手に取水口と除塵機があります。


(追記)
三瀬谷ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え 事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

1314 三瀬谷ダム(0171)
左岸 三重県多気郡大台町弥起井
右岸        同町菅合
宮川水系宮川
39メートル
160メートル
13100千㎥/4000千㎥
中部電力(株)
1967年
◎治水協定が締結されたダム

君ヶ野ダム

2023-05-06 19:00:00 | 三重県
2015年12月30日 君ヶ野ダム
2023年 4月21日
 
君ヶ野ダムは三重県津市美杉町八手俣の一級河川雲津川水系八手俣川にある三重県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
雲津川では戦中戦後の燃料難による集水域での大規模伐採で保水力が低下し出水が増加、特に1959年(昭和34年)の
伊勢湾台風では流域で壊滅被害が発生しました。
一方、高度成長を受け中勢地域の都市用水需要が急増し、安定した水源確保が必須となりました。
これを受け三重県は1963年(昭和38年)に雲出川水系への多目的ダム建設事業に着手、1971年(昭和46年)に竣工したのが君ヶ野ダムです。
君ヶ野ダムは建設省(現国交省)の補助を受けた補助多目的ダムで、洪水時に最大毎秒650立米をカットすることで雲津川の洪水調節を行うほか、安定した河川流量の維持と流域不特定灌漑用水への補給、津市及び松阪市への上水および中勢工業地帯への工水供給を目的としています。 
君ヶ野ダムには2015年(平成27年)12月に初訪、2023年(令和5年)4月に再訪しました。
掲載写真は日時記載分を除いてすべて再訪時のものです。
 
堤高73メートル、堤頂長323メートルと補助ダムとしては中規模ですが、フルゲートを備え正対するとなかなかの威容。

非常用洪水吐としてクレストラジアルゲート2門、常用洪水吐としてオリフィス高圧ラジアルゲート2門を装備
またオリフィスゲートの間に利水放流用ホロージェットバルブがあります。
オリフィスとホロージェットバルブの並びが珍しい。


前面に張り出したゲート操作室がいかにも昭和40年代のダムと言った風。


右岸から下流面
対岸高台にはレークサイド君ヶ野という津市営宿泊施設があります。


右岸ダムサイトのクレーン台座跡。
登りたいけど立ち入り禁止。


ゲート越しの減勢工
副ダムにはスリットが3本入っています。

 
ダム湖は総貯水容量2330万立米。


ダムサイトへのアプローチとなる県道29号のヘアピン。


ズームアップすると右岸に細い水路と池があります。
職員さんに伺うと河川維持放流用水路で、池はテロ対策用の鯉を泳がすためのものとか。


上流面
主ゲートとオリフィス予備ゲートはいずれも赤
そういえば三重県営の宮川ダム三瀬谷ダム(現在は中部電力に移管)もゲートは赤。(2017年12月30日)

左岸展望台から
天端は車両通行可能、対岸に管理事務所があります。


管理事務所裏手からインクラインが延びます。
写真ではよく見えませんが、河川維持放流路の取水口がインクラインの先端にあります。


上流から
残念ながら逆光。


(追記)
君ヶ野ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

1317 君ヶ野ダム(0153)
三重県津市美杉町八手俣
雲出川水系八手俣川
FNWI
73メートル
323メートル
23300千㎥/19700千㎥
三重県県土整備部
1971年
◎治水協定が締結されたダム

惣谷池(惣谷ダム)

2023-05-05 18:44:50 | 三重県
2023年4月21日 惣谷池(惣谷ダム)

惣谷(そうだに)池は三重県津市白山町上の村の一級河川雲津川水系大村川左支流にある灌漑目的のアースフィルダムです。
ダム便覧には1979年(昭和54年)に三重県の事業で竣工と記されています。
溜池自体の築造は戦前に遡るようで、これは農水省の補助を受けた県営ため池等整備事業の竣工年度かと思われます。
ダム便覧ではダムとなっていますが、ため池データベースでは『惣谷池』となっておりここでは惣谷池と表記します。
管理は受益地となる白山町二本木地区が行っています。

池へのアプローチは近鉄大阪線東青山駅となります。
駅北側が『東青山四季のさと』として公園整備されており、車でアクセスする場合は駐車料金1000円が必要。
溜池1基に1000円はちと割高・・・・


東青山四季のさと
近鉄所有の15万平米の土地に園路や花壇が整備されています。
訪問時は遠足の小学生の歓声が響いていました。


惣谷池は四季のさと東側に隣接しています。
堤高は便覧19メートル、ため池データベース15メートルと数値が異なりますが、見た目は15メートルほど
下流面はきれいに草が刈られ、今も貴重な水源であることが伺えます。


上流面はコンクリートブロックで護岸
池周辺は青山高原をめぐるハイキングコースになっており、湖面側には安全対策としてフェンスが設置されています。


天端中央の斜樋
シャフトは一本
このほか右岸副堤にも斜樋があります。


総貯水容量26万立米(ため池データベース34万立米)
田植え時期を控え満水。
奥に連なるのがリゾート地の青山高原。


右岸に副堤がありますが堤高は15メートル未満
左手は斜樋機械室。


左岸の越流式洪水吐。


洪水吐導流部
ここまではよくある洪水吐ですが…。


ダム下に下りてみると
導流部は自然の岩盤を流下する滝。


洪水吐はそのまま大村川に流下します。
写真手前側に底樋管があり、放流された水は下流の堰で取水されます。

右岸の副堤にやってきました。
堤高は15メートル未満でダムの要件は満たしていません。
こちらにも斜樋があります。


上流側から
左奥は本堤。


東青山駅東側には近鉄の旧線遺構が残ります。
こちらは旧総谷トンネル跡
1971年(昭和46年)にATSの故障によりトンネル内で特急同士の衝突事故が起き、死傷者300名を超える大惨事となりました。
ミステリースポットとして知られていますが、今は立ち入り禁止。

1280 惣谷池(惣谷ダム)(1973)
ため池データベース 242010067 
三重県津市白山町上の村
雲津川水系大村川左支流

19メートル(ため池データベース 15メートル)
85メートル(ため池データベース 133メートル)
260千㎥(ため池データベース 340千㎥)/260千㎥
二本木地区
1979年 

安濃ダム

2023-05-04 18:00:00 | 三重県
2015年12月30日 安濃ダム
2023年 4月21日
 
安濃ダムは三重県津市芸濃町河内の二級河川安濃川本流上流部にある灌漑目的の重力式コンクリートダムです。
伊勢は平安時代より播磨や尾張などとともに我が国屈指の穀倉地帯として発展、清盛など桓武平氏躍進の経済的基盤となってきました。
そんな中、現在の津市から亀山市南部にわたる中勢地域では、水源となる安濃川の流路が短く流域面積が些少なため渇水時の干ばつが絶えず、安定した水源確保や灌漑設備の拡充が強く求められていました。
1972年(昭和47年)に農林省(現農水省)による国営土地改良事業中勢地区が着手され、その灌漑用水源として1985年(昭和60年)に竣工、1988年(平成元年)より運用が開始されたのが安濃ダムです。
土地改良事業全体も1990年(平成2年)に竣工、ダムの管理は三重県農林水産部が受託し津市から亀山市に至る約3600ヘクタール(現在は3100ヘクタール)の農地への灌漑用水補給が開始されました。
事業の完成により稲作を軸に小麦、大豆を組み合わせた土地利用型農業が進展、また野菜、花卉、果樹などの園芸農業も展開され農業経営の効率化大規模化に大きく貢献しました。
また2016年(平成28年)には利水放流を利用した中勢用水小水力発電所(最大出力338キロワット)が稼働しています。

安濃ダムには2015年(平成27年)12月に初訪、2023年(令和5年)3月に再訪しました。
写真はすべて再訪時のものです。
 
堤高73メートル、堤頂長212メートル
クレストラジアルゲート3門を備え農業用コンクリートダムとしてはかなり立派な体躯
右岸(向かって左手)に低水放流ゲート
左岸(向かって右手)手前は転流工、奥には小水力発電所と利水放流ゲートがあります。


右岸の低水放流ゲートをズームアップ
副ダム下流には減勢・洗堀防止目的のブロックが並びます。


右岸から下流面。


放流設備と小水力発電所をズームアップ
訪問時は田植えを控え発電放流も併せて8.82㎥/秒と年間最大の利水放流実施中。


天端は管理事務所開館中のみ車両通行可。


錫杖湖と名付けられたダム湖は総貯水容量1050万立米と、本州の農業用ダムとしては屈指のスケール。
右奥に艇庫とインクラインが見えます。


艇庫とインクラインをズームアップ。


左岸の管理事務所
農業用ダムですので、県農林水産部所管となります。
こちらにも浮き桟橋がありボートが繋留されています。


ゲート越しに
灌漑用水は安濃川下流の頭首工から取水されます。


水利使用標識。


ダム上流面
灌漑用水最需要期ということで満水。


上流から遠望
右から低水放流ゲート予備ゲート、クレストラジアルゲート、取水設備という並び。
 
(追記)
安濃ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え 事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

1332 安濃ダム(0152)
三重県津市芸濃町河内
安濃川水系安濃川
73メートル
212メートル
10500㎥/9800㎥
三重県農林水産部
1989年
◎治水協定が締結されたダム

山郷大池

2023-05-03 18:10:37 | 三重県
2023年4月21日 山郷大池

山郷(やまさと)大池は三重県いなべ市北勢町皷の員弁川水系猪入谷川にある灌漑目的のアースフィルダムです。
員弁川左岸地域では農地開発が可能な平坦地は台地上に広がるため、農地整備にあわせて多数の溜池が作られ三重県屈指の溜池密集地帯となっています。
山郷大池もそんな溜池の一つで、1963年(昭和38年)(現地プレートでは昭和39年)に農林省(現農水省)の補助を受けた県営ため池等整備事業により竣工しました。
管理は山郷大池水利組合が受託しています。
地図を見ると池の南側の谷筋に平野新田や大辻新田と言った地名がありその中心に山郷小学校がありますので、池はこの辺りの水田に灌漑用水を補給していると思われます。

平野神社の参道を左に折れ、別荘の脇を下ると池の左岸に到着します。
左岸の越流式洪水吐。


洪水吐導流部
このまま猪入谷川となります。


天端はアスファルトで舗装され車の進入も可能です。
上下流面ともに草がかなり伸びています。


総貯水容量13万立米
田植えを控えて満水です。
池の西側にはゴルフ場があり時折プレーヤーの声が響きます。


上流面はコンクリートブロックで護岸。


右岸の斜樋機械室。


建屋に嵌め込まれた竣工銘板。
ダム便覧の竣工年度1963年(昭和38年)と1年ずれがあります。


下流面
草が伸び放題、農家の高齢化による人手不足は各地共通の課題
大きな土地改良区ならともかく、水利組合管理の池では毎年の草刈りもままならないのでしょう。


右岸堤体下の底樋桝。
ここで灌漑用水と河川維持放流が分水されます。


底樋桝から猪入谷川を交差する灌漑用の水路橋。

1311 山郷大池(1973)
ため池データベース 242140056  
三重県いなべ市北勢町鼓皷
員弁川水系猪入谷川 
 
 
22メートル(ため池データベース 25メートル) 
72メートル(ため池データベース 73メートル) 
130千㎥/130千㎥ 
山郷大池水利組合 
1963年

坂東溜

2023-05-02 18:00:37 | 三重県
2023年4月21日 坂東溜

坂東溜(ばんどうため)は三重県桑名市多度町美鹿の木曽川水系肱江川右支流にある灌漑目的のアースフィルダムです。
員弁川左岸地域では農地開発が可能な平坦地は台地上に広がるため、新田開発にあわせて多数の溜池が作られ三重県屈指の溜池密集地帯となっています。
現在のいなべ市員弁町坂東新田では農地開拓を進めるにあたり、至近に適当な水源がなかったことから境界や水系を超えた多度町(現桑名市多度町)の木曽川水系肱江川上流で水利権を確保しました。
ダム便覧の竣工年度は1963年(昭和38年)になっていますが、これは記録に残る改修や整備が竣工した年度で、実際には昭和初期に築造されたものと推察されます。
また池の建設費用の大半は受益者で組織された水利組合が賄ったようで、現在は水利組合を引き継いだ員弁町坂東溜土地改良区が管理を行っています。
なお北勢地域では溜池のことを単に『溜』と呼ぶことが多く、坂東溜のほかにも多数の○○溜という溜池が存在します。

坂東溜と受益地の坂東新田地区との位置関係。
市の境界、水系を跨いでおり、木曽川水系の水が流域変更して員弁川水系の坂東新田地区に送られます。


トヨタ車体の巨大な工場をやり過ごすといなべモータースポーツランドのモトクロスコースが現れます。


モトクロスコースの脇に池へ乗り口があります。
チェーンが掛かり関係者以外立ち入り禁止の警告板がありますが、今回は事前に土地改良区の立ち入り許可を頂いております。


歩くこと1~2分で天端脇に到着。
左手は斜樋機械室
天端には轍が残りますが、かなり草が伸びています。


斜樋。
上流面はコンクリートブロックで護岸されていますが、こちらも草が伸び放題。


貯水池
田植え時期を控えていますが、水位は低め。
総貯水容量はダム便覧では8万1000立米、ため池データベースでは4万立米。



左岸の越流式洪水吐
こちらはツツジなどの灌木が茂りご覧のありさま。
下りようと思いましたが、ヒルがいたのでやめました。


下流面も草ぼうぼう。


池の手前に下に続くトレースがあったので辿ってみると底樋桝発見。
ここで灌漑用水と河川維持放流を分水します。


底樋桝を下から見上げると。


堤体を下から見上げます
下半分が木が茂り森状態
見た目では便覧の堤高29.5メートルにはとても届かない感じ
ため池データベースの18メートルが妥当でしょう。


基部は石積みの擁壁。
堤体直下をパイプが通ります。
この先に洪水吐導流部があり、底樋桝で分水された河川維持放流用の水がこのパイプで送水されるようです。

坂東溜自体は木曽川水系肱江川の支流ですが、受益地の坂東新田は員弁川水系となり、流域変更して灌漑用水の補給が行われる点が味噌です。

1245 坂東溜(1971)
ため池データベース 242051001  
三重県桑名市多度町美鹿 
木曽川水系肱江川右支流 
 
 
29.5メートル(ため池データベース 18メートル) 
123メートル(ため池データベース 120メートル) 
81千㎥/76千㎥(ため池データベース40千㎥/40千㎥)   
員弁町坂東溜土地改良区 
1963年