ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

横川ダム

2023-08-30 17:00:44 | 山形県
2016年6月18日 横川ダム
2023年7月23日
 
横川ダムは山形県西置賜郡小国町綱木箱口の一級河川荒川水系横川にある国交省北陸地方整備局が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
1967年(昭和42年)の羽越豪雨では荒川水系を中心に新潟県下越地方と山形県で死者100名を超える甚大な被害が発生、これを機に国は二級河川だった荒川を一級河川に格上げし直轄事業による治水に乗り出します。
1978年(昭和53年)に大石ダムが竣工し荒川下流域の治水能力は大きく向上する一方、上流域は手つかずの状態が続きました。
そんな中、昭和50年代から山形県小国町には半導体など電子産業が集積し工業用水や電力需要が高まります。
これを受け建設省(現国交省)は荒川上流域最大支流横川への多目的ダム建設を採択、2008年 (平成20年)に竣工したのが横川ダムです。
横川ダムは国交省が直轄管理する特定多目的ダムで横川及び荒川上流域の洪水調節(最大毎秒880立米の洪水カット)、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、小国町への工業用水の供給、山形県企業局横川発電所(最大出力6300キロワット)でのダム式発電を目的としています。
横川ダムではダムとしては初の回転式スライドゲートを採用するなど先端技術を積極的に活用、日本ダム協会により日本100ダムに選定されています。
横川ダムには2016年(平成28年)6月に初訪、2023年(令和5年)7月に再訪しました。
掲載写真にはそれぞれ訪問日時を記載しています。

ダム下から。
非常用洪水吐としてクレスト自由越流頂8門
非洪水期常用洪水吐として回転式スライドゲート3門、洪水期常用洪水吐として自然調節式オリフィスゲート2門を装備
ダム下右手の建屋は山形県企業局横川発電所です。
初訪時は発電所は休止中で利水放流管から放流されていました。
(2016年6月18日)

再訪時
発電所が稼働中で放流管からの放流はありません。
(2023年7月23日)

ダム下右岸の仮排水路。
(2023年7月23日)


ダムサイトに上がります。
ダムへは右岸上流側からのアプローチとなります。
日本屈指の豪雪地帯で、左右両岸は雪食作用により岩盤がむき出しになっています。
(2023年7月23日)


ゲートと取水設備をズームアップ
選択取水設備の手前3門が非洪水期常用洪水吐となる回転式スライドゲートです。
(2023年7月23日)


ダム管理支所の隣には、ダム情報資料館の『きてくろ館』が併設されています。
(2016年6月18日)


きてくろ館内部
ダムや羽越豪雨についての資料展示が行われています。
(2023年7月23日)

きてくろ館屋上から
(2023年7月23日)


天端と記念碑。
直轄ダムらしく天端は2車線幅ですが、徒歩のみ開放。
(2023年7月23日)


右岸から下流面。
(2023年7月23日)


天端からダム下を見下ろします。
こちらは初訪時
発電所は休止中で放流管から放流中。
(2016年6月18日)

再訪時は発電所が稼働中で放流は発電所から行われています。
(2023年7月23日)


回転式スライドゲートをズームアップ
正式名称は『引上げ型ライジングセクターゲート』
油圧駆動のため巻き上げ機などが必要なく省スペース化が図れます。
(2023年7月23日)

『白い森おぐに湖』と命名されたダム湖は総貯水容量2460万立米。
ダム湖上流にはビオトープがつくられ人工的な湿原が再現されています。 
左手は艇庫とインクライン。
(2023年7月23日)

艇庫とインクラインをズームアップ。
(2023年7月23日)


左岸の山留
こういう絵柄があるとついつい撮ってしまうのが土木愛好家の性。
(2023年7月23日)


左岸上流側から。
右岸の山肌も雪食地形になっています。
(2023年7月23日)

横川ダム完成以降、2022年(令和4年)8月豪雨により荒川中流域では甚大な洪水被害が発生し、荒川沿いを走るJR米坂線は長期運行休止を余儀なくされています。
今後荒川の治水安全度の見直しが行われるのは必至でしょう。

(追記)
横川ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2962 横川ダム(0463)
山形県西置賜郡小国町綱木箱口
荒川水系横川
FNIP
72.5メートル
277メートル
24600千㎥/19100千㎥
国交省北陸地方整備局
2007年
◎治水協定が締結されたダム

岩船ダム

2023-08-28 17:08:00 | 新潟県
2016年6月11日 岩船ダム
2023年7月23日
 
岩船ダムは新潟県岩船郡関川村片貝の一級河川荒川本流にある荒川水力電気(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
高度成長時期に入り、当時アルミ精錬国内最大手だった日本軽金属(株)は新潟工場向けの電力を賄うために、1960年(昭和35年)に東北電力(株)との合弁で荒川水力電気を設立します。
同社によって翌1961年(昭和36年)に建設されたのが岩船ダムで、ダム直下の岩船発電所で最大1万1500キロワットのダム式発電を行っています。
その後、同社は建設省(現国交省)による大石ダム建設事業に事業参加し、1978年(昭和53年)に大石発電所(最大出力1万900キロワット)が稼働、現在は合計2万2400キロワットの発電能力を有しています。
岩船ダムには2016年6月に初訪、2023年7月に再訪しました。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。
 
国道113号荒谷トンネル手前から
ローラーゲート4門を装備していますが、下流からはこれが精いっぱい。
初訪時左右で異なっていたピアの高さが統一されています。
(2023年7月23日)


ダムへはJR米坂線の踏切を渡り旧道を進みますが・・・
2022年の令和4年8月豪雨により米坂線は各所で寸断され未だ運休状態、線路もさび付いたまま。
もともと運行本数も少なくこのまま廃線になる公算大です。
(2023年7月23日)


右手の青い屋根が岩船発電所建屋
最大1万1500キロワットのダム式発電を行います。
(2023年7月23日)


当然のことながらダムや発電所は立ち入り禁止、フェンス越しの見学となります。
荒川水力電気株式会社の表札。
(2023年7月23日)


こちらは初訪時の写真
当時は左岸2門と右岸2門でピアの高さが異なっていました。
(2016年6月11日)


水利使用標識。
(2023年7月23日)


左岸の取水ゲート
左奥は管理事務所。
(2023年7月23日)


最大毎秒65立米の取水を行います。
(2023年7月23日)


国道113号から上流面を遠望できます。
(2016年6月11日)

ズームアップ。
左右のゲートピアの形状が異なり右岸2門は鉄骨トラス製のピアでした。
1枚目写真でわかるように今は高さも形状も統一されています。
(2016年6月11日)

(追記)
岩船ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

0748 岩船ダム(0443)
新潟県岩船郡関川村片貝
荒川水系荒川
30.2メートル
92.6メートル
5875千㎥/1072千㎥
荒川水力電気(株)
1961年
◎治水協定が締結されたダム

下条川ダム

2023-08-26 17:00:03 | 新潟県
2016年6月12日 下条川ダム
2023年7月21日

下条川(げじょうがわ)ダムは新潟県加茂市下条の一級河川信濃川水系下条川にある新潟県土木部が管理する治水目的の重力式コンクリートダムです。
1967年(昭和42年)の羽越豪雨を契機に新潟県は県所管各河川の抜本的な治水対策に乗り出します。
下条川では羽越豪雨発災直後に治水ダム建設が採択され、1973年(昭和48年)に下条川ダムが竣工しました。
下条川ダムは建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助治水ダムで下条川の洪水調節(最大毎秒100立米の洪水カット)を目的としています。
建設に際しては建設省(現国交省)により『地域に開かれたダム』の指定を受け、ダム湖に生態系の保護を図るためのビオトープや遊歩道が整備され自然学習館やキャンプ場が設けられました。
また湖岸は広く開放され新潟県有数のヘラブナ釣りスポットとなっているほか、桜の名所としても知られています。
下条川ダムには2016年(平成28年)6月に初訪、2023年(令和5年)7月に再訪しました。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載してあります。

左岸下流から
堤高31メートル、堤頂長138メートルの小ぶりな堤体。
見た目の高さは20メートルほどで、堤高31メートルは基礎岩盤からの高さとなります。
(2023年7月21日)

豪雪地帯らしくピアは被覆され、落雪のためゲートハウスの屋根はダム湖側に傾斜しています。
(2023年7月21日)


親柱のダムプレート。
(2023年7月21日)

天端は4トン未満の車両が通行可能。
ゲート部分は下流側にクランクしています。
(2023年7月21日)

天端から減勢工を見ろします。
左手は放流管(常用洪水吐)となるコンジットバルブ。
治水専用ダムのため、普段は流入量はここからそのまま放流します。
(2023年7月21日)


アングルを変えて
右手に溜まっている水が謎?
(2023年7月21日)

雪対策でプラスチックカバーで覆われたピアの階段。
夏は暑そう。
(2016年6月12日)


照明には寒椿の装飾。
このデザイン、同じ新潟県内のヒメサユリの装飾がある大谷ダムの照明と似ています。
(2016年6月12日)


上流面
対岸に管理事務所。
(2016年6月12日)


放流設備は非常用洪水吐となるクレストローラーゲート1門と放流管のコンジットバルブ1条。
総貯水容量153万立米、うち有効貯水容量110万立米すべてが洪水調節容量となる治水専用ダムです。
ダム湖には堆砂容量分43万立米が貯留され、これで常時満水位。
(2016年6月12日)

事務所の右手には小さな艇庫とインクライン。
(2016年6月12日)


上流からゲートをズームアップ
主ゲートの左手がコンジットバルブの取水口。
(2016年6月12日)


ダム建設に合わせて環境整備が進められ、学習館やビオトープ、親水護岸などが設置されました。
この吊橋もその一つですが、老朽化により立ち入り禁止。
再訪時は平日でしたが湖岸では多くの釣り師が糸を垂れていました。
(2023年7月21日)


(追記)
下条川ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

0763 下条川ダム(0457)
新潟県加茂市下条
信濃川水系下条川
31メートル
138メートル
1530千㎥/1100千㎥
新潟県土木部
1973年
◎治水協定が締結されたダム

大谷ダム

2023-08-22 17:00:00 | 新潟県
2016年5月21日 大谷ダム
2023年7月21日
 
大谷ダムは新潟県三条市大谷の信濃川水系五十嵐川にある新潟県土木部が管理する多目的ロックフィルダムです。
三条市内を横断して信濃川に合流する五十嵐川では1964年(昭和39年)に右支流笠堀川に笠堀ダム(元)が完成しましたが、1969年の昭和44年8月豪雨で計画量を上回る出水となったことから、新たに五十嵐川本流への多目的ダム建設が着手され1993年(平成5年)に大谷ダムが竣工しました。
大谷ダムは建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助多目的ダムで、笠堀ダムと連携した五十嵐川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、三条市・加茂市・田上町への上水道用水の供給を目的とするほか、河川維持放流を利用して大谷ダム管理発電所(最大出力190キロワット)で小水力発電を行っています。
しかし、2011年(平成23年)の新潟・福島豪雨では改訂された計画雨量をさらに超える流入量が記録され、下流域で甚大な洪水被害が発生しました。
これを受け笠堀ダムの嵩上げ再開発が着手され2017年(平成29年)に竣工、これにより両ダム合わせて最大毎秒1200立米の洪水カットが可能となり、五十嵐川流域の治水能力は大きく向上しました。

大谷ダムには2016年(平成28年)5月に初訪、2023年(令和5年)7月に再訪しました。
掲載する写真にはそれぞれ撮影日時を記載してあります。

大谷ダム下流に架かる国道289号線大谷大橋の右岸から、旧道を進むとダムの直下に出ます(再訪時は草木が繁茂しこの場所への立ち入りは不可能)。
洪水吐斜水路の下の穴は常用洪水吐放流口
向って左手の穴は河川維持放流(小水力発電)の放流口。
(2016年5月21日)

 
左岸から
堤高75.5メートル、堤頂長360メートルのリップラップ
ダム左岸を通る国道289号線は現在福島県との間で八十里越トンネルが建設されており、ダム下はその残土置き場になっています。
(2023年7月21日)


ダムに沿った国道の壁面にはヒメサユリやサケの壁画が描かれています。
(2016年5月21日)

左岸から
左から管理事務所、資料館、取水設備機械室。
(2016年5月21日)

ズームアップ
左は資料館、右は水道用水取水口
ちょっとわかりづらいですが水道用水取水口の左に常用洪水吐があります。
(2016年5月21日)


天端は2車線幅の車道で一般車両通行可能。
(2016年5月21日)

天端の照明にはヒメサユリのデザイン。
(2016年5月21日)


ダム湖は『ひめさゆり湖』と命名され総貯水容量は2110万立米。
(2016年5月21日)

洪水吐斜水路から減勢工
下流の橋が国道289号線大谷大橋。
(2016年5月21日)

非常用となる横越流式洪水吐と管理事務所
2011年(平成23年)の新潟福島豪雨では、ダム完成以降初めてこの洪水吐から越流しいわゆる緊急放流が実施されました。
(2016年5月21日)

右岸からの上流面。
(2023年7月21日)


管理事務所手前にあるモニュメント、定時に鐘が鳴ります。
(2023年7月21日)

記念碑
(2023年7月21日)


右岸上流から
向って右手は上水用取水設備、左手は常用洪水吐。
常用洪水吐の上部には空気孔があります。
(2023年7月21日)


水利使用標識。
(2023年7月21日)
 
ダム着工がバブル期に当たるため、補助ダムながら資料館が併設されるほか照明やモニュメント、湖岸の公園などが整備されています。
しかし、初訪時は営業中だった資料館はすでに閉館、湖岸の公園も草が目立ち、経費節減の色を強く感じます。
ただ八十里越トンネルが開通すれば交通量の増加も期待でき、立ち寄りスポットとして大谷ダムの位置づけも変わるのではないかと思います。
ちなみに大谷ダムがダム巡りを初めて400基目のマイルストーンとなりました。
 
(追記)
大谷ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
0781 大谷ダム(0400)
新潟県三条市大谷
信濃川水系五十嵐川
FNW
75.5メートル
360メートル
21100千㎥/17050千㎥
新潟県土木部
1993年
◎治水協定が締結されたダム

山本第二調整池

2023-08-20 17:00:00 | 新潟県
2016年5月21日 山本第二調整池
2023年7月21日
 
山本第二調整池は新潟県小千谷市山本にある東日本旅客鉄道(株)(JR東日本)が管理する発電目的のロックフィルダムです。
大正期に入り首都圏への人口集中による大量輸送に対応するため都心を中心に鉄道の電化が進められ、当時の鉄道省はその電源を信濃川中流部に求めました。
まず1939年(昭和14年)に宮中取水ダムと千手発電所が竣工、さらに1945年(昭和20年)に浅河原調整池が完成し発電能力は12万キロワットとなりました。
その後、戦後の電力不足に対処するため1951年(昭和26年)に千手発電所の放流水を利用して
山本調整池と小千谷発電所(最大出力12万3000キロワット)が完成、さらに1990年(平成2年)には山本第二調整池と小千谷第二発電所(最大出力21万キロワット)が竣工しました。
現在は3発電所合わせて約45万キロワットの電力を発電し、これはJR東日本管内で消費する全電力量の2割強に相当します。
一方、2004年(平成16年)の中越地震では貯水池全般に大きな損傷を受け、大規模な補修工事を余儀なくされました。

山本第二調整池には2016年(平成28年)5月に初訪、2023年(令和5年)7月に再訪しました。
掲載する写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。

JR東日本信濃川発電所概要図(JR東日本HPより)


下流面
堤頂長は1392メートルに及びますが、立ち入り制限などにより下流から一望することはできません。
草が伸びていますがロックフィルダムとなります。
(2016年5月21日)


右岸から
天端には2車線幅の道路になっていますが立入禁止。
三方が堤体となっており堤頂長は1392メートルに及びます。
(2016年5月21日)

上流面
こちらも草がついていますが、ロック材で護岸されています。
奥の構造物は余水吐。
(2023年7月21日)

余水吐をズームアップ
初訪時は早朝の訪問で朝のラッシュに備えて満水。
余水吐の大半が水没しています。
(2016年5月21日)

再訪時
午前10時ごろで朝のラッシュも一巡し水位が低下、おかげで余水吐の構造がよくわかります。
四角い穴がサイフォン式吞口で、余水は直接信濃川に放流されます。
発電所への取水口は水中にあるので見れません。
(2023年7月21日)


宮中取水ダム第二取水口からの導水路流入口。
(2023年7月21日)

JRらしく湖岸の柵はレールが使われています。
(2016年5月21日)

湖岸には導水路トンネル建設時に使用されたシールドマシンが展示されています。
(2023年7月21日)


マシンのすぐそばの竣工記念碑。
(2023年7月21日)


記念碑から上流面を遠望。
(2023年7月21日)

流入口
初訪時は水位が高く流入口もほぼ水没。
(2016年5月21日)


再訪時
ちょうど土手の草刈り作業中。
草刈り用のロボットを初めて見ました。
(2023年7月21日)

山本第二調整池から送水される小千谷第二発電所
小千谷発電所に遅れること39年後の1990年(平成2年)に稼働
約40年の技術革新で、小千谷発電所よりもはるかに小規模ならが出力は倍近い21万キロワットを誇ります。
(2023年7月21日)


3032 山本第二調整池(0392)
新潟県小千谷市山本
信濃川水系三国川
42.4メートル
1392メートル
3640千㎥/3200千㎥
東日本旅客鉄道(株)
1990年

山本調整池

2023-08-17 17:00:00 | 新潟県
2016年5月21日 山本調整池
2023年7月21日
 
山本調整池は左岸が新潟県小千谷市谷内、右岸が同市山本にある東日本旅客鉄道(株)(JR東日本)が管理する発電目的のアースフィルダムです。
大正期に入り首都圏への人口集中による大量輸送に対応するため都心を中心に鉄道の電化が進められ、当時の鉄道省はその電源を信濃川中流部に求めました。
まず1939年(昭和14年)に宮中取水ダムと千手発電所が竣工、さらに1945年(昭和20年)に浅河原調整池が完成し発電能力は12万キロワットとなりました。
その後戦後の電力不足に対処するため1951年(昭和26年)に千手発電所の放流水を利用して山本調整池と小千谷発電所(最大出力12万3000キロワット)が完成、さらに1990年(平成2年)には
山本第二調整池
と小千谷第二発電所(最大出力21万キロワット)が竣工しました。
現在は3発電所合わせて約45万キロワットの電力を発電し、これはJR東日本管内で消費する全電力量の2割強に相当します。

小千谷及び小千谷第二発電所は鉄道向け発電ということで朝夕のラッシュ時と昼夜の閑散時の出力調整の幅が非常に大きく、上部調整池の果たす役割が一般的な発電施設よりもはるかに重要なため山本調整池では浅河原調整池同様、独自の調整施設が設置されています。
山本調整池には2016年(平成28年)5月に初訪、2023年(令和5年)7月に再訪しました。
掲載する写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。

JR東日本信濃川発電所概要図(JR東日本HPより)


国道351号線旭町バイパスで信濃川を渡ると左手に発電所が見えてきます。
右手が小千谷発電所、左が小千谷第二発電所。
(2023年7月21日)


右上の取水口から5条の水圧鉄管で発電所に水が送られます。
赤いトラス橋は国道117号山辺橋。
(2023年7月21日)

 
国道117号をくぐり小千谷発電所へ5条の水圧鉄管が並びます。
内径4.5メートルの鉄管が5本並ぶさまは圧巻。
(2023年7月21日)

 
発電所の取水ゲート直下を道路が通ります。
(2023年7月21日) 

こちらは1990年(平成2年)に増設された小千谷第二発電所。
最大出力は小千谷発電所(最大12万1000キロワット)の2倍近く、21万キロワットに及びます。
(2023年7月21日) 


取水ゲート右岸高台から複雑な取水設備全体を俯瞰できます。
大幅な出力調整に対応できるよう2段の分水工が設けられています。
この分水工の仕組みについては水力ドットコム様にわかりやすい説明が記載されています。
(2023年7月21日) 

取水設備中央にダム穴のような長円形の調節水槽が設けられています。
左手の直線上の構造物はスクリーン。
(2023年7月21日) 

スクリーンをズームアップ
除塵機用のレールが敷かれています。
(2023年7月21日) 

右手は千手発電所からの導水路の流入ゲート。
(2016年5月21日)


取水設備左岸側に移動します。
こちらは慰霊碑。
大正末期の着工以来の計150余名の殉職者を慰霊しています。
(2023年7月21日) 


千手発電所から送られた水は扇形の調節水槽により、水位に応じて6本の水圧鉄管への送水を調整します。
まるで巨大なダム穴。
(2023年7月21日) 

鉄道の運行状況に合わせて発電出力が調整されるため、余水は調整池に貯留されます。
必要以上に余水が発生した場合は右手の余水吐から直接信濃川に放流されます。
(2023年7月21日) 

調節水槽と導水路からの流入ゲート。
(2023年7月21日) 

余水吐をズームアップ
戦場のトーチカのようです。
(2023年7月21日) 

アングルを変えて。
(2023年7月21日) 


ここまで紹介してきたのはあくまでも調整池からの発電所への取水設備。
ダムの堤体はこちら
堤頂長926.6メートルに及ぶアースフィル堤体。
2004年(平成16年)の中越地震では堤体に亀裂が入るなどの損傷が発生しました。
(2023年7月21日) 

左岸から調整池越しの上流面。
(2023年7月21日) 


上流から余水吐、調節水槽、流入ゲートを遠望。
(2023年7月21日) 

 
出力調整の幅が大きな鉄道向け発電施設のため、他所では見られない独特の施設が多々設けられています。
事前に十分な予習をしてそれぞれの設備が持つ役割をよく理解してから見学されることをお薦めします。
 
3632 山本調整池(0391)
左岸 新潟県小千谷市谷内
右岸      同市山本
信濃川水系信濃川
27.5メートル
926.6メートル
1071千㎥/1032千㎥
東日本旅客鉄道(株)
1954年

五ケ山ダム

2023-08-14 17:00:28 | 福岡県
2017年9月21日 五ケ山ダム
2023年5月24日
 
五ケ山ダムは福岡県那珂川市五ケ山の二級河川那珂川本流上流部にある福岡県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
人口規模に対して大河の少ない福岡は慢性的な水不足に悩まされる一方、福岡市中心部を貫流し繁華街中州を形成する那珂川の治水が至上命題となっていました。
県は1965年(昭和40年)に補助多目的ダムとして南畑ダムを建設しますが、以降も福岡の市勢拡大は続き新たな水源確保に迫られることになります。
県は1983年(昭和58年)に南畑ダム上流への新たな多目的ダム建設事業を採択、一時検証対象ダムになるも2011年(平成23年)より本格的な建設工事が着手され2017年(平成29年)に竣工したのが五ケ山ダムです。
五ケ山ダムは国交省の補助を受けて建設された補助多目的ダムで、南畑ダムと連携した那珂川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、渇水時の都市用水及び灌漑用水への緊急補給、福岡市水道局福岡地区水道事業団春日那珂川水道企業団への上水道用水の供給を目的としています。
五ケ山ダムは総貯水容量4020万立米と県内最大の貯水容量を誇るとともに、事業採択ベースでは日本で初めて渇水対策容量が認可されました。
実際には貯水容量の大半を利水容量が占め、さらにその過半が渇水対策容量となっていることから利水重視のダムであるといえます。

ダム建設に際しては自然環境への負荷軽減に配慮され、完成後はダム上流部にジオトープが設けられるなど環境保護に努めています。
一方左岸ダムサイトにはモンベル五ケ山店を誘致したほか、ダム下にはリバーパーク、ダム東方にはモンベル五ケ山ベースキャンプが整備されアウトドアスポットとしての認知度が高まっています。

五ケ山ダムには打設完了後の2017年9月に初訪、2023年5月に再訪しました。
写真はすべて再訪時のものです。
堤体直下国道385号線五ケ山大橋から 
堤高102.5メートル、堤頂長556メートル
堤高は福岡県内ダム第2位
洪水吐はすべて自由越流頂で、中央1門だけ越流高が低くこれが常用洪水吐となります。
ダムの規模に対して洪水吐は簡易で、ここからも五ケ山ダムが利水重視であることが伺えます。

 
ダム直下から
向って右手(左岸)の建屋は管理用発電所を兼ねた放流設備。


水利使用標識
発電は利水放流を利用した小水力発電となります。


ダムの目的の説明
採択ベースでは日本で初めて渇水対策容量が認可されました。
竣工ベースでは長崎県の下の原ダム(再)が日本初。

ダムサイトに上がります
竣工記念碑は福岡では珍しい金箔文字。


下流面
堤頂長は500メートルを超え、左右両岸が屈曲した姿はなかなか勇壮。

天端は徒歩のみ開放
親柱の文字も金箔。

巨大な取水設備
奥はエレベーター棟。


減勢工を見下ろします
左手は管理用発電所を兼ねた放流設備。
この下流に親水公園としてリバーパークが整備されています。

 
五ケ山大橋越しの南畑ダム湖。
さらに福岡市街まで遠望できます。


左岸の繋留設備。


総貯水容量4020万立米は福岡県内最大、ダム湖は県境を越え佐賀県まで及びます。

右岸接岸点には脆弱地盤があり堤体は屈曲、
また接岸点周辺も厳重な山留が施されています。 


556メートルを歩いて右岸までやってきました。
往復1キロ。なかなかいい運動になります。


上流から遠望。

 
ダム湖上流のジオトープ
各所で自然環境への配慮が見られます。


ダムサイトに道の駅などが併設される例は多々ありますがアウトドアショップの誘致は初ではないでしょうか?
キャンプが人気の昨今、ダムをアウトドアの拠点とする試みは注目に値します。

(追記)
五ケ山ダムには洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらなる洪水調節容量が確保されることになりました。
 
2452 五ケ山ダム(1143)
福岡県筑紫郡那珂川町五ケ山
那珂川水系那珂川 
FNW
 
102.5メートル
556メートル
40200千㎥/39700千㎥
福岡県県土整備部
2017年
◎治水協定が締結されたダム

合所ダム

2023-08-12 17:00:00 | 福岡県
2022年5月25日 合所ダム
2023年5月24日

合所(ごうしょ)ダムは福岡県うきは市浮羽町小塩の筑後川水系隈上川にある灌漑・上水目的のロックフィルダムです。
現在のうきは市から久留米市に至る耳納山地北鹿の筑後川左岸地域では洪水のたびに取水設備が損壊する一方、段丘上や丘陵地は水利に乏しく生産性向上のため灌漑施設の整備が求められていました。
1972年(昭和47年)に九州初の国営かんがい排水事業として『耳納山麓農業水利事業』が着手され、その灌漑用水源として1990年(平成2年)に合所ダムが竣工、事業全体も1993年(平成5年)に完了しました。
ダム建設には福岡地区水道企業団及び久留米広域水道企業団(現福岡県南広域水道企業団)が水道事業者として参加し、運用開始後は福岡県農林水産部が管理を受託し4600ヘクタール超の田畑に灌漑用水を供給するほか、2水道企業団に上水道用水を供給しています。
ダムおよび農業水利事業の完成により、耳納山麓丘陵地では大規模な果樹園地や園芸農地が開発され、とりわけ果樹栽培が活性化し今や農業産出額に占める果実の割合が3割を超えるフルーツ王国となっています。

合所ダムには2022年(令和4年)に訪問しましたが、この時はコロナ対応のため天端や左岸に立ち入りできず、2023年(令和5年)5月に再訪しました。
日付表示のない写真はすべて初回訪問時のものです。

ダムの下流の県道108号うきは大橋から洪水吐斜水路と正対できます。


農業用フィルダムとしては珍しくラジアルゲートを装備。


斜水路は上段で傾斜が変わる一方、減勢工には副ダムが2基設置。
減勢工右手(左岸)には利水放流設備があり、取水は下流の隈上頭首工で行われます。


放流設備をズームアップ。
利水放流設備のほか非常用としてジェットフロートゲートを装備。


堤体は堤高60.7メートル、堤頂長270メートル
リップラップには芝が張られ見た目はアース。
放置して草が生えたのではなく意図的に芝を張ったようです。


天端は『関係者以外進入禁止』
管理する県に確認したところ、平時は徒歩での立ち入りは問題ないそうですが、初回訪問時はコロナ対応によりここまで。
再訪時に天端、左岸を見学しました。


取水設備は
複式斜樋
1門の表層取水用ゲートと複数の取水口ゲートの組み合わせにより、連続的な表層取水が可能、ちなみにこの斜樋の取水口ゲートは5門。
熊本の清願寺ダムや北海道の日新ダムなどでもこの型式の斜樋を採用しています。

洪水吐から
減勢工には副ダムが2基設けられています。
(2023年5月24日) 


合所ダムの特徴の一つがカイゼル髭のようにくるっと湾曲した導流壁。
建設の際の土木屋さんの苦労が目に見えます。
(2023年5月24日)


上流面
放流の際、フィル堤体と洪水吐の接続部への水圧軽減目的でこのような導流壁になったと思われます。
(2023年5月24日)


洪水吐をズームアップ
田植えを控えた用水需要最盛期ということで満水。
(2023年5月24日)


左岸丘陵上果樹園地から俯瞰
総貯水容量760万立米は九州の農業用ダムとしては屈指のスケール。
事前にグーグルのストリートビューでダムが見えそうなところを探していたらここを偶然発見。
ダム便覧にもここからの写真はなく(2023年5月にワタクシの写真が掲載済み)、ほぼ全景が見えるなかなかのスポット。
ちなみに丘陵上には広く柿畑やブドウ畑広がりこれもダムの恩恵。


合所ダムの断面図及び諸元表。

概要説明板
有効貯水容量中灌漑容量が437万立米、上水道用水容量が233万立米。
(2023年5月24日)


竣工碑と立退き住民への顕彰碑
竣工碑は福岡では珍しい金箔文字。
(2023年5月24日)


水利使用標識
かんがい面積は4600ヘクタールに及び灌漑最大取水量も毎秒3.648立米と大きな取水量になっています。
(2023年5月24日)


(追記)
合所ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2436 合所ダム(1855)
福岡県うきは市浮羽町小塩
筑後川水系隈上川
AW
60.7メートル
270メートル
7600千㎥/6700千㎥
福岡県農林水産部
1990年
◎治水協定が締結されたダム

広川防災ダム

2023-08-10 17:00:00 | 福岡県
2022年5月20日 広川防災ダム
2023年5月24日

広川防災ダムは福岡県八女郡広川町水原の筑後川水系広川にある農地防災目的のロックフィルダムです。
広川上流では豪雨時の出水が多く流域の農地に多大な被害をもたらしてきました。
そこで福岡県は1964年(昭和39年)に農水省の補助を受けた防災ダム事業に着手、1972年(昭和47年)に竣工したのが広川防災ダムです。
さらに2003年(平成15年)にかけての県営水環境整備事業が行われダム湖畔の整備が進められました。
管理は広川町が受託し、広川流域280ヘクタールの防災を担っています。
なおダム便覧ではダムの目的はFAとなっていますが、管理事務所で確認したところ灌漑容量は配分されておらずダムの目的はFとなります。

広川防災ダムには2022年(令和4年)5月20日に訪問しましたが、この時は放流設備改修工事のためダム下には入れませんでした。
そこで改修工事の完了を待って、2023年(令和5年)5月24日に改めて訪問しました。
日付表示のない写真はすべて最初の訪問時のものです。

県道84号西猪上陽線にダムを示す立派な案内碑が建っています。
描かれているのは広川町のキャラの『広川まち子ちゃん』。



堤高30.4メートル、堤頂長132メートルのロック堤体。
リップラップには芝が張られぱっと見はアースフィルのようです。
向って右手(左岸)に洪水吐斜水路、左手に刷新された放流設備があります。
(2023年5月24日)。


洪水吐斜水路(2023年5月24日)。


改修工事で刷新された放流バルブ
平時は流入量はそのままここから放流されます。
(2023年5月24日)


右岸から
訪問時は放流設備の改修工事中でした。


天端は車両通行可能。


総貯水容量99万立米の小さなダム湖。
有効貯水容量すべてが農地防災容量ですが、堆砂容量分だけ水が貯留されています。
また湖畔が水辺空間として開放され釣りなどを許可なく楽しめます。


上流面
対岸に洪水吐と管理事務所があります。


手前がダム穴風放流設備
堆砂容量を除き、流入量はそのまま放流されます。


右岸高台に展望台があり、高い位置から俯瞰できます。


左岸から下流面。


洪水吐減勢工。


左岸の横越流式洪水吐。

(追記)
広川防災ダムには農地防災容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2421 広川防災ダム(1809)
福岡県八女郡広川町水原
筑後川水系広川
30.4メートル
132.1メートル
990千㎥/802千㎥
広川町
1972年
◎治水協定が締結されたダム

油谷ダム

2023-08-08 17:00:11 | 熊本県
2023年5月23日 油谷ダム

油谷ダムは熊本県八代市坂本町鮎帰の一級河川球磨川水系油谷川にある九州電力(株)が管理する発電目的のロックフィルダムです。
1960年代半ばから発電の主力は火力へと移り、さらに1970年代以降原子力発電が台頭します。
一方で火力発電所や原子力発電所は細かな出力調整が難しく、『巨大蓄電池』として余剰電力の有効活用が可能で電力消費のピークに合わせて大出力の発電が可能な揚水発電が注目されます。
九州電力は1970年(昭和45年)より同社初の純揚水式発電所建設に着手、1975年(
昭和50年)に内谷ダムを上部調整池、当ダムを下部調整池とした大平発電所が完成しました。
同発電所では両ダムの有効落差490メートルを利用して最大50万0000万キロワットの揚水式発電を行います。
当地が建設地に選ばれたのはすでに火力発電所が稼働しさらに原発建設が決まっていた鹿児島県川内市と九州北部を結ぶ送電線上に位置し、余剰電力活用には絶好の立地だったからです。

大平発電所の構内配置図(九州電力HPより)。


油谷ダムへは未だ球磨川水害の傷跡が残る国道219号線から県道坂本人吉線に入ります。
国道219号は八代市郊外から関係車両以外通行禁止ですが、バリケードや検問などはなく警備員さんに油谷ダムに向かう旨を伝えると進入許可がいただけました。
先ずは洪水吐直下へ
横越流式洪水吐はジャンプ台になっており、下部の導流部に落下します。
導流部の最下部にジャンプ台がある洪水吐は多いですが、上部にジャンプ台があるのは珍しい。
ここから導流部直下に下りる山道がありますが立ち入り禁止。


こちらは河川維持放流義務化で後付けされた放流設備。


ダムサイトへ上がります。
天端は車両通行可能
堤体は緩やかなアーチ。


竣工記念碑
内谷ダムと異なりこちらは九州ではおなじみ金箔仕様。


ダムの諸元が刻された石板。


天端から
洪水吐上部がジャンプ台という珍しい形状。


左岸から
内谷ダム同様リップラップには管理通路が渡されています。


左岸のリムトンネル
通常ならダム湖を周回できるのですが、訪問時は土砂崩れでこの先は通行止め。


ダム湖は総貯水容量542万立米
夜間に揚水式発電を終えたあとで、こちらはたっぷたっぷ。
奥は発電用放流口(揚水発電時は取水口)
ダム湖左上(右岸)を九州自動車道が通ります。


上流面
堤体がアーチ状に湾曲しているのがよくわかります。
対岸に見えるのは洪水吐ゲート。


右岸上流側から見た洪水吐のローラーゲート
ここから上記ジャンプ台へと続きます。


発電用放流ゲート。


水利使用標識。


左岸の艇庫とインクライン。


ダムに至る国道や県道は未だ球磨川水害の傷跡が残り各所で復旧工事が行われています。
珍しい洪水吐ではありますが、安易に放流が見てみたいなんてとても言えません。

(追記)
油谷ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2672 油谷ダム(2012)
熊本県八代市坂本町鮎帰
DamMaps
球磨川水系油谷川


82メートル
189.2メートル
5420千㎥/3680千㎥
九州電力(株)
1975年

◎治水協定が締結されたダム

氷川ダム(再)

2023-08-06 17:00:57 | 熊本県
2023年5月23日 氷川ダム(再)

氷川ダム(再)は熊本県八代市泉町下岳の二級河川氷川本流にある熊本県土木部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
建設省(現国交省)の補助を受けた補助多目的ダムで、氷川の洪水調節、不特定灌漑用水への補給、特定灌漑用水の供給、上水道用水の供給を目的として1973年(昭和48年)に竣工しました。
しかし洪水調節容量と利水容量のうち55万立米が重複配分され機動的な洪水調節が困難な一方、不特定利水も用水不足が頻発するなど絶対的容量不足が顕在化しました。
1987年(昭和62年)7月の集中豪雨を契機に、県はダムの嵩上げ再開発事業に着手し2010年(平成22年)に氷川ダム(再)が竣工しました。
再開発事業では堤体の2メートル嵩上げ(堤高56.5メートル⇒58.5メートル)により総貯水容量および有効貯水容量がともに80万立米増加し、安定的な洪水調節容量と不特定利水容量が確保されました。
また再開発に合わせて河川維持放流を利用した氷川ダム管理発電所(最大出力657キロワット)も増設されました。

氷川ダム再開発事業による容量配分の変更(氷川ダムパンフレットより)


再開発事業によりゲートハウスは特徴的なデザインに刷新され、下流からの眺めを楽しみにしていたのですがあいにくゲートの塗装工事中。
非常用洪水吐としてクレストラジアルゲート2門、常用洪水吐としてコンジットゲート1門を備えています。


ダム入り口にはダム名の付いたバス停。


ダム再開発により旧管理事務所が水没するため2001年(平成13年)に、熊本アートポリス参加事業により吊橋をモチーフにした展望台付き管理事務所が新設されました。
関連施設が同事業に参加したダムとしては宇城市の石打ダムがあります。


展望台からダム湖を俯瞰
総貯水容量710万立米
氷川源流の平家の落人伝説にちなみ肥後平家湖と名付けられました。


湖岸の繋留設備。


下流面
堤頂部の色が異なり、2メートル嵩上げした部分がよくわかります。


天端高欄に嵌め込まれた銘板
九州らしく金箔文字。


減勢工と放流設備
放流設備の下流側に2010年(平成22年)に稼働した半地下の管理発電所があります。


鮮やかな青に塗り替えられたばかりのラジアルゲート。


天端は車両の通行ができます。


上流から
富栄養のためか貯水池は緑が濃く、水質改善のため曝気装置2基、噴水1基が設置されています。


ゲートをズームアップ
ラジアルゲートの間にコンジット予備ゲート。


管理事務所を遠望。


(追記)
再開発により従前の予備放流量は撤廃されましたが激化する洪水被害に対応するため治水協定が締結され、台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が新たに配分されました。

2668 氷川ダム(元)
熊本県八代市泉町下岳
氷川水系氷川
FNAW
56.5メートル
193.5メートル
6300千㎥/5100千㎥
熊本県土木部
1973年
-----------
2668 氷川ダム(再)(2011)
熊本県八代市泉町下岳
氷川水系氷川
FNAW
58.5メートル
202メートル
7100千㎥/5900千㎥
熊本県土木部
2010年
◎治水協定が締結されたダム

内谷ダム

2023-08-04 17:00:55 | 熊本県
2023年5月23日 内谷ダム

内谷ダムは左岸が熊本県球磨郡五木村乙、右岸が同村丙の一級河川球磨川水系内谷川最上流部にある九州電力(株)が管理する発電目的のロックフィルダムです。
1960年代半ばから発電の主力は火力へと移り、さらに1970年代以降原子力発電が台頭します。
一方で火力発電所や原子力発電所は細かな出力調整が難しく、『巨大蓄電池』として余剰電力の有効活用が可能で電力消費のピークに合わせて大出力の発電が可能な揚水発電が注目されます。
九州電力は1970年(昭和45年)より同社初の純揚水式発電所建設に着手、1975年(昭和50年)に当ダムを上部調整池、油谷ダムを下部調整池とした大平発電所が完成しました。
同発電所では両ダムの有効落差490メートルを利用して最大50万0000万キロワットの揚水式発電を行います。
当地が建設地に選ばれたのはすでに火力発電所が稼働しさらに原発建設が決まっていた鹿児島県川内市と九州北部を結ぶ送電線上に位置し、余剰電力活用には絶好の立地だったからです。

大平発電所の構内配置図(九州電力HPより)


内谷ダムは熊本県五木村西端、標高700メートル地点にあります。
堤高64メートル、堤頂長200メートル
リップラップには管理用の仮設通路が渡されています。


アングルを変えて
手前は洪水吐導流部。


天端は立ち入り禁止。


左岸の横越流式洪水吐。


上流面。
揚水式発電の調整池という性格上水位変動が激しく、ロック材の色の変化も大きくなっています。


上流から見た洪水吐。
越流時の堤体護岸のため越流堤内側に導流壁が設けられています。


発電所案内図。


竣工記念碑と諸元が刻された石碑。
油谷ダムは金箔文字ですが、こちらは黒。


遠隔操作のため管理事務所は無人。


総貯水容量538万9000立米のダム湖
早朝の訪問ですが、水位が大きく下がっています。
近年太陽光発電のシェアが上がったことで揚水式発電の運用も大きく変化し、日中に太陽光の余剰電力で揚水し、太陽光の出力が落ちる宵の口から深夜に発電するという運用が一般的になっています。


巡視艇と昇降用のクレーン。


右手に発電用の取水ゲートが見えます。
実施の取水口(揚水時は放流口)は水中にあります。


ゲートをズームアップ。

水利使用標識。


(追記)
内谷ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2671 内谷ダム(2010)
左岸 熊本県球磨郡五木村乙
右岸        同村丙
DamMaps
球磨川水系内谷川


64メートル
200メートル
5389千㎥/3960千㎥
九州電力(株)
1975年

◎治水協定が締結されたダム

石木ダム

2023-08-02 17:07:18 | 長崎県
2023年5月22日 石木ダム
 
石木ダムは長崎県東彼杵郡川棚町岩屋郷の二級河川川棚川水系石木川に長崎県土木部が建設予定の多目的重力式コンクリートダムです。
洪水や渇水が多発する川棚川の治水対策や、慢性的な水不足に悩む佐世保市の上水用水源確保を目的として1973年(昭和48年)に事業着手されました。
しかし公共工事見直し機運が強まる中2010年(平成22年)には国交省による検討対象ダムとなりますが、2012年(平成24年)に事業の継続が決定します。
しかし近年のダム事業としては珍しく激しい反対運動が展開され土地収用は難航、2022年(令和4年)に強制収容によりようやく土地の買収が完了しました。
今後付け替え道路の建設とともに本体工事も着手される見通しですが竣工予定年度は明示されていません。

計画ではダムのスケールは堤高55.4メートル、堤頂長230メートル、総貯水容量548万立米となっており、完成の暁には石木川および川棚川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定利水への補給、佐世保市への上水道用水の供給を目的として運用される予定です。
 
ダム完成予想図(石木ダム建設事務所HPより)。


ダム建設予定地まで足を延ばしました。
奥に付け替え道路の橋脚が見えます。


こちらは地質調査。


今も激しい反対運動の跡が残ります。




こちらは石木川。


立ち退く住民の『なんで離れた佐世保のために自分たちが犠牲にならなければいけないのか?』という心情はよく理解できます。
一方で、反対運動に左翼系活動家いわゆるプロ市民が介入してきた段階で世論は離れます。
長崎県石木ダム建設事務所のホームページでは『魅力あるダム環境』が謳われています。
ダムが本来の目的を果たすだけでなく、ダムの完成が川棚町の活性化に大きくつながることを期待します。

2639 石木ダム
長崎県東彼杵郡川棚町岩屋郷
川棚川水系石木川 
FNW
 
55.4メートル 
234メートル 
5480千㎥/5180千㎥ 
長崎県土木部 
1973年事業着手