ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

鹿尾ダム

2019-07-22 23:44:22 | 長崎県
2019年7月12日 鹿尾ダム
 
鹿尾(かのお)ダムは長崎県長崎市鹿尾町の鹿尾川水系鹿尾川下流にある長崎県土木部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
長崎市街南西部を蛇行しながら貫流して長崎湾に注ぐ鹿尾川は延長9.9キロ、流域面積13.9平方キロの二級河川です。
明治期より長崎の上水・工水用水源となる一方、水位変動が大きく洪水と渇水を繰り返していました。
1926年(大正15年)に上流部に上水用水源として小ヶ倉ダムが建設されますが、治水については河川改修にとどまっていました。
高度成長による水需要の増加や鹿尾川河口周辺の市街化拡大による洪水リスクの高まりを受け、1974年(昭和49年)に長崎県は鹿尾川下流部への多目的ダム建設事業に着手します。
ところが1982年(昭和57年)の長崎大水害では小ケ倉ダム下流の鹿尾川曲流部で大規模な氾濫が発生し未曾有の大災害となりました。
これを受け翌年長崎県は『長崎水害緊急ダム事業』に着手し、当初の計画通りに鹿尾川下流への多目的ダム建設に取り掛かるとともに、利水ダムである小ヶ倉ダムの多目的ダム化を進め、両事業は1987年(昭和62年)に竣工しました。
鹿尾ダムは小ヶ倉ダムと連携して鹿尾川中下流域の洪水調節を行うほか、河川流量の安定と既得取水権への用水補給、長崎市への上水道用水の供給を目的としています。
 
小ヶ倉ダム常用洪水吐越流堰
水位が上昇すると小ヶ倉ダム下流域の上戸町や新戸町市街をバイパスして越流堤から直接鹿尾ダムに流入する仕組みです。
これにより鹿尾川中流域の洪水リスクが大きく低減しました。
 
今回は上流の県道237号線からダム貯水地沿いにアプローチ。
 
ダム便覧にはダム下からの全景写真が掲載されていますが、今は樹木が伸び下流からダムの全体像を見ることができません。
右岸から見た下流面。
堤高34.6メートルと高さはありませんが、がっつりとした堤趾導流壁がなかなかのインパクト。
 
天端は車両通行可能、両方向ともにそこそこ交通量があります。
 
ダム下の建屋
手前は放流設備、奥は小ヶ倉浄水場への送水設備。
 
減勢工。
 
ダム湖は総貯水容量114万立米。
 
左岸管理事務所と浮桟橋。
 
下流面
クレストゲートは自由越流式。デフレクターの下にコンジットゲートの放流口2門があります。
 
デフレクターをズームアップ。
 
鹿尾ダム一番の注目点はこの常用洪水吐。
越流堤が上流側にセットバックされた側水路方式となっています。
越流した水は2つの穴から流下し上の写真のコンジットゲートから放流されます。
 
側水路方式を採用することでサーチャージ水位や常時満水位を堤高近くまで持ち上げ、ダムの堤高に対してより多くの貯水容量を確保することができます。
鹿尾ダムの場合は地理的要因からダムの堤高を抑える必要があったためこの方式が採用されました。
同様の側水路方式を採用したダムとしては、鹿尾ダムの3年前に竣工した同じ長崎県営中山ダムがあります。
 
ダム下からの姿を拝めないのは残念ですが、それでも見どころたっぷりの鹿尾ダム。
上流にある小ヶ倉ダムや長崎大水害がについてしっかり予備知識を付けてからの見学をお勧めします。
 
(追記)
鹿尾ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
2635 鹿尾ダム(1478) 
長崎県長崎市鹿尾町
鹿尾川水系鹿尾川
FNW
34.6メートル
88メートル
1140千㎥/1000千㎥
長崎県土木部
1987年
◎治水協定が締結されたダム

落矢ダム

2019-07-22 22:36:46 | 長崎県
2019年7月12日 落矢ダム
 
落矢ダムは長崎県長崎市江川町の落矢川水系落矢川にある上水道用水目的の重力式コンクリートダムです。
1973年(昭和48年)に当時の香焼町の上水道水源として竣工、その後長く香焼町の水源として運用されてきましたが、2005年(平成17年)に香焼町が長崎市に編入されたのに合わせて、長崎市上下水道局に移管されました。
平成の大合併により市域が大きく拡大した長崎市は上下水道施設の合理化を進め、落矢ダムも一時廃止の対象となりました。しかし長らく落矢ダムからの水を享受してきた旧香焼町住民の要請で廃止は免れ現在は運用休止の状態で維持されています。
 
国道499号線で長崎市江川町に入り、江川交差点の先、『やきとり鳥政江川店』の手前を東に折れると落矢ダムに到着します。
上水道水源と言うことでダムの敷地に入ることはできませんが、下流からダム下を眺めることができます。
洪水吐は自由越流式ゲートが3門、緩やかにカーブを描く斬縮型堤体導流壁を備えています。
 
導流壁の緩やかなカーブと美しい越流
 
近所の住民の話では春は桜が咲き誇りもっと素晴らしい景色になるとか?
うーーん見てみたい!
 
天端も当然立ち禁ですが、フェンスの隙間からパチリ!
 
取水設備は上水用ダムとしてはよくみられる半円形。
 
現在落矢ダムは運用休止中のため、流入量がそのまま流下する状態、つまり常時越流が見られます。
人口減少時代に入りいつまた長崎市上下水道局の合理化が進められるかはわかりません。
ダム愛好家としてはいつまでもダムとして残してほしいと願う一方、経済的合理性からはいつ廃止されてもおかしくない立場の落矢ダムです。
 
2617 落矢ダム(1477) 
長崎県長崎市江川町
落矢川水系落矢川
24.4メートル
150メートル
280千㎥/251千㎥
長崎市上下水道局
1973年

宮崎ダム

2019-07-22 12:19:22 | 長崎県
2019年7月12日 宮崎ダム
 
宮崎ダムは長崎半島南東部の長崎市川原町の宮崎川水系宮崎川上流部にある長崎県土木部が管理する治水目的のアースフィルダムです。
建設省(国交省)の小規模ダム建設事業である生活貯水池事業の補助を受けて建設された補助治水ダムで、宮崎川の洪水調節のほか、安定した河川流量の維持と既得取水権としての流域への灌漑用水の補給を目的として2002年(平成14年)に竣工しました。
宮崎ダムは長崎県土木部が手掛けた初のフィルダムです。
 
またダム建設に合わせてダム下流一帯は宮崎ダム公園として整備され、梅やツツジを中心に長崎を代表する花の名所となっています。
 
堤高27メートルのアースフィルダムですが、建設残土を下流面に盛り立て公園化しているため見た目ではどこが堤体かはっきりしません。
 
ダム下は宮崎ダム公園となっており、梅やツツジが植えられています。
 
右岸の洪水吐導流部
唯一ここがダムの堤体を感じられる場所です。
洪水吐減勢工の底が基礎地盤なんでしょう。
 
いったん左岸に回り込みます。
下流面が埋め立てられ公園になっているのがよくわかります。
対岸に管理事務所と洪水吐があります。
 
生活貯水池事業で建設された小規模ダムと言うことでダム湖は溜池サイズ。
総貯水容量は16万4000立米。
 
洪水吐と取水設備
洪水吐は独特の構造で左手の高い越流壁が非常用洪水吐、取水設備を挟んで右手の低い越流壁が常用洪水吐となっています。
 
洪水吐導流部と減勢工
右手は放流設備。
 
上流から見た洪水吐
奥(下流側)が非常用洪水吐、左手が取水設備、手前の湾曲しているのが常用洪水吐
非常と常用の間には仕切りがありますが、たぶん試験湛水時にこの仕切りが閉じられサーチャージ水位まで上昇させたんでしょう。
とにかく洪水吐の構造が独特且つユニーク。
 
アングルを変えて。
この湾曲も魅力的。
 
ダム上流にも遊歩道が整備されておりダムを俯瞰できます。
 
ダム下が埋め立てられ公園化されているため、どこがダムの堤体かよくわからない下流面。
さらに初めて見るユニークな洪水吐と小規模ダムながら見どころたっぷりの宮崎ダム、よく咀嚼しながら見学しないとなかなか消化できない難物です。
 
(追記)
宮崎ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。  
 
2633 宮崎ダム(1476) 
長崎県長崎市川原町
宮崎川水系宮崎川
FN
27メートル
154メートル
164千㎥/114千㎥
長崎県土木部
2002年
◎治水協定が締結されたダム