大阪の和菓子屋に勤める友人が「東京に行くなら立ち寄りたい店」の筆頭に挙げていたお店がずっと気になっていたので、意を決して行ってみた。東大の本郷キャンパス内にある「廚菓子くろぎ」というお店。
目的の蕨もちは珈琲とのセットで何と2200円もするためか、オープンカフェなのにとんでもなく敷居が高く感じられる。
料金は先払い制となっている。席はどこでも良いというのでテラス席に陣を取る。温かいほうじ茶に続いて、いろいろなものが載ったお盆が運ばれてくる。
しばらくするとメインの蕨もちが運ばれてくる。
蓋を開けてみる。これが食べる直前の完成系。なんとまあ華やかなことか。
まずは、わらび餅だけを食し、次に抹茶をまぶして食し、次にきな粉をまぶして食し、最後に、きな粉をまぶした上に黒蜜をかけて食した。塩漬けの桜は今まで見た中でいちばん鮮やかで甘さの中にささやかな塩の花を咲かせるのだ。食べる前は『たかが蕨もちに2200円も払うとは酔狂よのう』と思っていたのだが、なんと美味しいことかと感動した。
猿田彦珈琲のオリジナルブレンド珈琲は「これが本当に珈琲か!?」と思うほど苦みも酸味もなく、ただただ丸みを帯びた温かい味がした。一見、奇をてらったかのように見えるカップは、手前の平たい部分は親指の腹に、奥の半円状の部分は残る四本の指の各関節にフィットして持ちやすく、おのずと決まる飲み位置からは、原始の時代に初めて陶器を作った人類はこんな風に飲んだのかもしれないなあという扁平さを想像することができて飲みごたえがあった。
セットの塩物は、お漬物なのだけれども、ただ漬けただけの簡素なものではなく、ちゃんとしたお食事処で出るようなとても複雑な味わいと食感を兼ね備えたものになっているし、干菓子は和三盆の上品な味がしたし、黒蜜の容器は親指と人差し指がかかりやすいよう2箇所にちょうどいい窪みがあった。
品名は「蕨もち」だけれども、主役はわらび餅だけでなく、抹茶であり、漬物であり、珈琲であり、干菓子であった。そのどれもがソロで十分やっていける奏者であり、ここで提供される「蕨もち」は一つのオーケストラなのだと感じた。月並みな表現だが。。。そして、指揮者の位置に納まっていた手拭きの質感は何と新幹線のグリーン車で出されるおしぼりと同じ質感がするのだ。
食べ終わってしばらく感慨にふけっていると、お盆を下げに来たウェイトレスさんが盆の上に添えられていた花をそっと私の前に置いて行かれた。しかもお盆のあった中央に・・・「そっか、この花もソロで十分やっていけるオーケストラの一員であり、もしかしたらアンコール的な役目を預かっているのかもしれないな」と思った。いずれにしても、良きお店に出会ったなと感動。美味しかった。
廚菓子くろぎ(くりやかし くろぎ)