何というか、安心して見れる邦画であり、邦画臭くない邦画であったような気がする。昔ながらのローカル風情を湛えた阪急今津線での出来事が爽快にまとめられていて、しかも、原作にワンポイントひねりを加えているのに、原作の世界観を壊さずにいて、それがとてもいい具合にハマっていて素敵だなあと思った。ところで「『阪急電車』の何が良かったかと言えば、阪急電車が良かった」と妻に言ったら、妻に「鉄ヲタ?」って言われた。もちろん、妻は登場人物の愛すべき『軍ヲタ』くんに掛けて行ったわけなのだが・・・
そんなわけで、今回はネタバレというよりはリアル阪急電車ネタ炸裂と言った具合なのである。。。
私が良かったと思った「阪急電車」であるが、何が良かったのかと言えば、片道15分の奇跡の名脇役とも言える「阪急電車」のカット割りが時系列的にぴったりと合っていたということである。それはどういうことかと言えばカットごとシーンごとに登場する『電車の車体番号がぶれていない』のである。映画やドラマの製作というのは、1シーンを撮るのに恐ろしい程の手間と暇を掛けるわけで、公共交通機関の乗車と下車のタイミングは大抵の場合、異なる時間を走行する(または飛行する)車体(または機体)が使われるものなのであるがこの映画では違うのである。中谷美紀が車体番号「3058」の列車に乗れば、次の走行シーンやそれに続く下車のシーンも同じ「3058」の車体が使われているのである。(実際のところ、同一の列車を通常ダイヤの隙間に臨時列車として1日に4~6往復運行させて、時系列の都合が着くように撮影スケジュールを組んでいたらしいのだ)
ちなみに劇中で用いられている編成は「3058」「3068」「3070」の3編成で、そのいずれもが、
今風の方向標識幕タイプではなく、
かつての方向標識板タイプの車両を使っているのだ。我々が幼少の頃に慣れ親しんだと言えば、歳が大体わかってしまうのだろうが、それは今となっては昭和風情の残る「2000系」「3000系」「5000系」が主力であった頃の景色である。古きを見れば、「710」「820」「1010」などが支線を走り、新しきを見れば見たことのないような(当時では)キラキラした「6000」や「7000」などが走り出したあの古き良き時代だった頃の今津線を思い出すのと共に、阪急電車と言えば、まさに
このカタチであり、何とも『おぉ!監督さま!!よくわかっていらっしゃる!!』という言いようのない感謝感激の念が湧いてくるのである。
ここまで書いて思い出したことがある。その昔、「私は阪急電車ファンだったなぁ」ってことを。ちょうど小学生の頃だったろうか、そう阪急ブレーブスが全盛だった頃でもあったかなあ・・・毎月、阪急電車の駅で配布される
「阪急沿線」という小冊子をもらうのを楽しみにしていたっけかなあ・・・そういえば、1号から100号までが両面見開き四ページの一色カラー刷りの厚紙で、101号からはツルツル紙質に変わりモノクロではあるが、数ページにわたる豪華なものになり、ちょうど通産100号を超えたところで表紙の題字を含めた全体が刷新され、それまでの1号から100号までが上下巻セット(1~50と51~100)の記念冊子となって書店で販売されたので、友人のおじさんを通じて梅田の紀伊国屋書店で買ってきてもらったことを思い出した。阪急沿線は今でいうところのTOKKみたいなもの(確か、その前はリネアって言ってたっけ・・・)で、現在と比べると商業的な方面への記載はほとんどなく、駅の改修工事のことやダイヤ改正、車両の技術情報やそれらの歴史とかが情報発信されていたような気がする。そう思うと鉄道会社のペーパーも四半世紀以上前と比べると相当変わったなあと思う。
かなり脱線してしまったが、映画の方はと言えば、職場の近所の道がロケで使われていたり、妻とよく乗り降りしていたホームを登場人物たちが歩いたり、といろいろ楽しめたなあと思う。阪急の沿線で生活したことがある人は是非見に言って欲しいし、阪急電車に縁のない人は、この映画を見て阪急電車の魅力を発見してほしいなと、かつての阪急少年は思うわけである。
ここからは、小ネタ的独り言・・・
その壱
時江の若い頃の回想シーンの平林寺のガードを走行する列車は阪急電車の相当古い車両だが、ほんの一瞬だったのでCGによる合成なのか、実際に走行している旧型車両のはめこみ合成撮影なのかは不明。あれは10形とかそんな感じくらいに古く見えたけど果たして・・・
その弐
TOHOシネマズの鷹の爪団のショートムービーが毎回楽しみだったのだけど、今回は放映されなかった。もしかすると、クマがしつこく喋るあの「生肉を食う」というセリフが自主規制にかかったためなのではないかと思っている。ちょっと、残念な感じ・・・
その参
中谷美紀の実年齢をパンフレットで知って驚いた。3~4歳上の人だと思っていたのに、年下だったのですかぁ・・・