何よりもまず驚いたのが、目的の施設が最寄の阪急西宮北口駅から屋根付きのペデストリアンデッキで直結されていたということ。ただ直結されていただけでなく、通路の右側にはコナミスポーツセンター(建設中、来春竣工)があり、左側には飲食店(営業中)が並んでいることである。これならば、ちょっとした暴風雨でも雨に濡れずに会場に足を運べるというものである。
次に驚いたのが、エントランスホールの贅沢な創りである。少なくとも関西の芸術劇場でスペース的にも意匠的にも、これだけ贅の限りを尽くしたようなエントランスを備えているホールを私は見たことは無い。
正直言って、このエントランスの吹き抜け空間を一目見た瞬間「やられたー!」って思った。階段の両脇を固める細い列柱群が、重厚な外観と繊細な内部空間の均衡を守っているような気がした。
見上げれば、共通ロビーへ来訪者を誘うかのような不思議な天井が我々を見下ろしている。共通ロビーは奥行きのある直方体の空間で左手には小ホールへ昇るエスカレーターが、正面には格子状の扉で隔てられた中ホールへの入り口が、そして、右手には大ホールに繋がるホワイエがある。
ホワイエは手前側と奥側に上階に続く昇降経路があり、左手がホール入り口、右手が駅前へ続くペデストリアンデッキになっている。この空間の動線計画が秀逸なのは、開演前来館者はこの撮影位置から係員の改札を経てホワイエに至るのに対し、終演後は右手のデッキ側のガラス戸が開放されて最短コースで外部に至ることができることである。
最上階である4階廊下の天井の高さは、安藤忠雄氏が設計した神戸の兵庫県立美術館を彷彿とさせるものがあるが、それとは違う温かみを感じるのは木目調に統一されたコンクリートの打放しとふんだんに使われている表情豊かな木製の建材の調和によるものだということは一目瞭然である。
一緒に訪れた、しんの字とも話をしていたのだが、設計は1人の建築家によるものではなく、おそらく大手の組織設計事務所であると思われる。個の我が出ていないのに、それぞれの空間が自分の持ち味を充分に発揮しているように思われる。
それでいて、建築家、前川國男氏が設計した東京文化会館や京都会館を思い出させるような、懐かしい感じを醸し出していることに、一つの建物としてとても魅力を感じている。
また、3階廊下からは屋上庭園に出ることができ、開演前のひと時をベンチに座りながら街の風景を少し高いところから眺めることができる。少し高いと言っても向かいにはすぐ建物があり眺望は全く無いが、ここに出ることによって「街の中」に自分が居ることを改めて感じることができる仕組みになっている。開演前の胸の高まった状態で街と向き合う体験、私はそこにいつもと違った街の景色を見たような気がした。
小ホール側(?)のデッキスペース。行けそうで行けない妙な距離感がドラクエチックで素敵♪
で、実際の演奏はと言うと、全体的に音色がボケている上にダイナミクスに欠けているためか、胸にググっと来るものは無かった。まだ、楽団員もホールも本来の実力を発揮できていないような公演だったが、これからどんどん成長していく可能性を秘めたオーケストラなのかなと思う。残響2秒の素晴らしいホールと音楽監督である佐渡裕氏の指導があれば、日本一のオーケストラになることも夢ではないと思った。