賀茂の社家から歩くこと約30分強。山沿いの集落を抜け一路、借景で有名な円通寺に向った。
入り口付近は割りと閉鎖的な印象があり、この中からあの見事な景色が望めるのかなあという不安が漂っていたのだけれど、これもまた演出の妙なのか、奥の座敷に進んでいくとその思いは一気に払拭されたのである。
実に見事である!!
実際にベストな位置はココから畳3枚分奥に後退したところであり、「建物」と「庭園」とその向こうにある「借り物」が一体的に設計されているのがわかるようになっている。蝉の声と静寂の狭間で畳に腰を下ろして何をするでもなく五感を開放できる空間。
さらに、私の心を射止めたのが御住職の肉声テープである。「借景の妙」と「建立の歴史」それに「近隣開発への不満と展望」などが約15分程の時間で淡々と語られるのである。
その落ち着いた独特の話法と美しい日本語から紡ぎ出される御住職自身の「借景庭園に対する愛」の言葉の一つ一つに耳を傾け、ワビサビに似た感じのしみじみとした時間を過ごすことが出来た。
帰りは土地区画整理事業によって築造されつつある道路の方を歩いてみた。縁側に佇んでいたときに電動工具の音や学校のチャイムなど生活感のある騒音が聞こえてきた理由がわかった。
上の写真のピンクでマーキングしたところが円通寺の敷地。茶色のラインが築造中の道路である。ちなみに、「借り物」である比叡山への景色は円通寺から東北東の方角を望んでいる。
風致地区に指定された住宅街とはいえ、例えそれが視覚的に危機的状況を回避できたとしても、近い将来に必ず訪れる雑音の津波(車の通過の音、クラクションの音、街頭宣伝車の音、緊急車両のサイレンなどのさまざまな喧騒)に包まれるのは自明のことであるのだと、嫌が応じも感じずにはいられなかった。