とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

「下36章の読解」(『こころ』シリーズ⑤)

2017-10-04 06:38:25 | 『こころ』
 夏目漱石の『こころ』を考えるシリーズ。
 いよいよ授業をしながら考えていく。生徒が教師役をする授業をする予定だが、最初に教師主導でやり方を示す。その題材として36章を取り上げ、問題を作成してみた。

問題 ①「幸いなことにその状態は長く続きませんでした。私は一瞬間の後に、また人間らしい気分を取り戻しました。」について。
「私」にとってKの告白は自分の人生を左右するほどの重大な事件でした。だからそこ「一つの塊」になってしまったのです。それほど重大な事件に遭遇したのに、「その状態」が「長く続かなかったのはなぜでしょう。」根拠をもって答えなさい。

(解答)先生はKの告白を無意識うちに予期していたから。

(根拠)三十三章でお嬢さんとKが一緒に外出していたことに気づき冷静さを失っている。

(解説)お嬢さんとKが好意を持っていたのではないかという疑念を、先生はすでに持っていたはずである。三十三章ではお嬢さんとKが一緒に外出していたことに気づき冷静さを失っている。また三十五章では歌留多でKに加担するお嬢さんに冷静さを失っている。Kとお嬢さんの関係を警戒し、常に様々なことを心の中で用意していたのは明らかである。だから、ショックを受けつつも、すぐに冷静を取り戻すことができたのである。

 この章の二段落目に「私の予覚はまるでなかった」と書いているが、これはおかしい。Kがお嬢さんを好きになることは十分予想できはずである。それなのにそれを認めようとしなかったのが先生の弱さである。自分の都合のいいように物事を解釈しようとしているところが読みとれる。

問題②「相手は自分よりも強いのだという恐怖の念が兆し始めたのです。」について、
Kに対して「恐怖の念」が兆すほどになったのはなぜか。根拠をもって答えなさい。

(解答)Kはすべてのことに対して命がけであったのに対して、先生は財力には余裕があり、生活の苦労をする必要がなく、恋愛においても命がけにはなれなかった。よってKには勝てないと思ったから。

(根拠)先生は生活に苦労しなくてもよかった。それに対してKは先生の援助がなければ生きていけるかもわからないほどの状態であった。先生はKのように命がけでいきていくことはできなと思ったはずである。

(解説)先生はKに対する劣等感があったと考えられる。ではその劣等感の正体とは何か。先生は自分の家を捨てたとは言え、まだ財産が十分過ぎるほどあり生きていく分には何の苦労もなかった。それに対して、家も財産もKはすべてを捨てている。先生にとっては生活と学問は別物ととらえていいし、恋愛も生活や学問と別物ととらえてもいい。それに対してKにとっては生きていくことがすべてであり、学問も生活もすべてひとつのものなのだ。そこに恋愛が入り込めば、恋愛は生死をかけた戦いになるはずである。このように考えれば先生にとっての劣等感とは、自分が苦労しなくても生きていけるという、苦労を知らなくともすむという甘い環境にあると言える。


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