夏目漱石の『三四郎』の読書メモ。今回は一章。
三四郎が熊本から東京に出る。当時はかなりの時間がかかったようだ。もう京都はすぎている。しかし東京へはその日のうちにはつかない。名古屋に一泊する必要がある。計算上、熊本から出ればさらに1日か2日たっていたと思われる。かなりの長旅である。
三四郎は不思議な発見をする。九州から人の顔がどんどん白くなる。三四郎は故郷の御光という女性を思い出す。御光さんは三四郎の後に結婚相手候補となる。ここではどういう関係かまではわからない。御光さんは直接には『三四郎』では描かれないのだが、御光さん物語は全編を通じてサブストーリーとして存在している。注目が必要である。御光さんは黒い色の女性であり、三四郎は「お光さんの様なのも決して悪くはない」と思う。
京都から相乗りになった女性がいる。夫がいるが日露戦争では海軍の職工として旅順に行っていた。戦争が終わって一旦帰ってきたが、また満州のほうが儲かると、大連に出稼ぎにいったという。半年ほど音信がなくなった。子どもは国にいる。その子どもに会いに行こうとしているのだ。この女性が怪しい。三四郎はこの女を興味深く観察する。女も三四郎を観察しているようだ。そして女が名古屋に着いたら宿屋へ案内してくれと言うのだ。三四郎は承諾する。名古屋で三四郎は宿を見つけ、二人で宿に入る。宿では二人連れと勘違いし、一つの部屋に通す。風呂を案内されると女も一緒について来て、三四郎が入っている風呂に入って来ようとする。ふとんも一つだ。女はこれをはじめからねらっていたようなふしもある。三四郎は何事もないように蒲団の隅で寝る。しかし次の日女から「あなたは余っ程度胸のない方ですね。」と言われてしまう。三四郎はショックを受ける。冒頭のこの場面は面白い。なんのためにこれを冒頭にもってきたのか。かなり重要なことであろう。
名古屋からは変わった男と相乗りになる。しきりに煙草を吸い、何か悟ったようなことを言う。これも熊本には決していないタイプである。水蜜桃を食べながら、「危険い。気を付けないと危険い」と言う。最後には日本は滅びるという。次の言葉が意味深である。「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より・・・日本より頭のほうが広いでしょう」「囚われちゃ駄目だ。いくら日本の為を思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ。」
浜松で西洋人を見る。女は真っ白な服を着ている。『三四郎』では「白」も重要な記号である。