まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

創造的問題解決の倫理学

2013-12-10 20:08:12 | 哲学・倫理学ファック
私が使っているgooブログでは、「このブログの人気記事」 として、
前日にアクセス数の多かった記事のトップ10を表示してくれるようになりました。
最近だとやはり 『おもひでぽろぽろ』 の記事が常に上位にランクインしているのですが、
それらと並んでしばしばトップ10のなかに見かけるのが 「ハインツのジレンマ」 という記事です。
これはもう3年も前に書いた記事です。
なんで未だにこれが皆さまによく読まれているのでしょうか?
と不思議に思って、Yahoo! や goo や Google で 「ハインツのジレンマ」 をググってみたら、
Yahoo! と goo では私の記事がトップに、Google でも2番目にヒットしちゃうことがわかりました。
Wikipedia には 「ハインツのジレンマ」 という項目がないのですね。
なので、「ハインツのジレンマ」 について調べたい人は私のブログに誘導されちゃうのでしょう。

さて、その私が書いた 「ハインツのジレンマ」 の記事を読んでみると、
まずは発達心理学者ローレンス・コールバーグが提示した、
「ハインツのジレンマ」 という有名な倫理学的例題が紹介され、
その例題をもとにコールバーグが分析した道徳的発達段階の6段階の話をし、
(この部分は Wikipedia 「ローレンス・コールバーグ」 からの引用)
このコールバーグ理論に対するキャロル・ギリガンによる批判も紹介した上で、
最後はこんなふうに締め括られていました。

「さて、久しぶりに倫理学の真面目な話題を取り上げたのは、
コールバーグの道徳性発達段階理論を紹介したかったからでも、
ギリガンの 「ケアの倫理」 を紹介したかったからでもありません。
最近私が勝手に「創造的問題解決の倫理学」 とか
「オルターナティブ倫理学」 と名づけているものを紹介したくて、
そのために 「ハインツのジレンマ」 の話をしておかなきゃいけなかったわけです。
「創造的問題解決の倫理学」、「オルターナティブ倫理学」 については後日論じることにしましょう。」

おっと、「後日論じることにしましょう」 なんて言っておいてすっかり忘れていました。
3年も寝かせてしまったんですか、いかんいかん。
まあ私の場合よくあることと言えばよくあることですが、多くの方々に閲覧いただいているようなので、
遅ればせながらきちんと約束は果たしておきたいと思います。
私が 「創造的問題解決の倫理学」 とか 「オルターナティブ倫理学」 と名づけているものは、
アンソニー・ウエストン の 『ここからはじまる倫理』 という本がその出所です。



この本はオススメです。
入門書の体裁をとっていてひじょうに読みやすいですが、内容は斬新です。
これまでの倫理学は、道徳的ジレンマ (AかBか究極の選択をしなければならない状況) を設定して、
どちらを選ぶのかを迫るというのが基本的なスタイルでした。
例えばカントは、友人を追いかけてきた悪者に 「あいつはどこにいる?」 と尋ねられたとき、
嘘をついて友人を救うべきか、結果がどうなろうとも本当のことを言うべきか、
なんていうジレンマを取り上げていました。
NHKハーバード白熱教室で有名になったサンデルも、
ブレーキの利かなくなった路面電車で、このまま走り続けて5人の作業員を轢くか、
待避線に入って1人の作業員を轢くか、など様々なジレンマ状況を例に出していました。
ハインツのジレンマもそうした伝統に根差した問題の立て方だったわけです。

それに対してこの本では、そういう二者択一ではなくて、想像力を駆使して創造的に考え、
ジレンマに陥らずにすむような別の選択肢 (オルターナティブ) を探すようにしようと提唱しています。
その趣旨は章のタイトルによく表れています。
第3章 「創造的に問題を解決する」
第4章 「二極化してはいけない」
第5章 「想像力をともなった倫理」
ハインツのジレンマに関しても、見殺しにするか盗みを働くかなんていう二者択一ではなくて、
もっと自由に考えてみたらいろいろな選択肢が見つかるはずで、
第3章では学生たちの考えた独創的なアイディアがたくさん紹介されています。
ウエストンは次のように述べています。

「ハインツには別の選択肢がある。薬を盗んだり、妻の死を見守る以外にもいろんな可能性がある。
 うれしいことに、この話題で授業をすると、毎回学生たちが新しい選択肢を出してくれる。
 いつも、いままで聞いたことのない選択肢がいくつかあるのだ。」

この考え方というのは現在の私のテーマにとても近くて、
定言命法 (困っている人を助けよ、嘘をつくな) だけで事足れりとしてしまうのではなく、
複数の定言命法がバッティングしてしまうようなジレンマ状況において、
何とか両方の定言命法を満たせるような具体的な方法 (=仮言命法) を考え出すこと、
これが現在の私たちに求められていることだと思うのです。
というわけで究極の選択を迫るような倫理学ではなく、
創造的に問題を解決することのできるオルターナティブを発見していく倫理学を目指したいのです。
なんだか楽しい感じがしませんか。
『ここからはじまる倫理』 にはどうやって創造的に考えたらいいか、
想像力をふくらませるにはどうしたらいいかといった具体的なヒントが書かれていますので、
ぜひ一度読んでみてください。
ハインツのジレンマを考えさせられ、あ、あなたは慣習的レベルの第4段階に位置していますね、
なんて一方的に判定されてしまうよりも、よっぽど明るい気分になれること請け合いです。

以上、創造的問題解決の倫理学のご紹介でした。
ああ、3年越しの約束をやっと果たせてよかったっと。


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