2012年05月20日 23時03分36秒
翻訳ブログ「道草」( http://econdays.net/ )より
Paul Krugman, “Apocalypse Fairly Soon ,” New York Times, May 17, 2012
「ユーロ、この政治的な結合なき金融の結合という巨大な欠陥つきの実験が、いかにあっさりと継ぎ目にそって瓦解しうるものなのか、ここにきていきなり見えやすくなった。ここで言ってるのは、ずっと先の見通しじゃない。瓦解は驚くほど急速に起こりうる。年単位じゃなく月単位でね。そのコストは――経済的コストも、おそらくもっと重要な政治的コストも――巨大なものになりそうだ。
なるべくしてこうなったわけじゃない。ユーロには(少なくともその大半は)いまでも救いの余地がある。でも、それにはヨーロッパの指導者たち、とくにドイツと欧州中央銀行の指導者たちが、ここ数年にやってきたことから大きく異なる行動をはじめる必要がある。彼らは、〔将来のために緊縮に耐えろといった〕問題の道徳化をやめて現実に向き合う必要がある。一時しのぎをやめて、いったん、先手を打ちに行く必要がある。
「ぼくは楽観的だなぁ」と言えたらいいんだけど。
ここまでのあらすじ:ユーロが創設されたとき、ヨーロッパには楽観論の大波が起きた――そして、実はその大波は起こりうる最悪のものだった。お金がスペインその他の国々に流入した。安全な投資先だとみられていたからだ。こうしてなだれこんだ資本の洪水により、巨大な住宅バブルと貿易赤字がおきた。そして、2008年に金融危機が起こると、資本の洪水は干上がり、かつて過熱していた当の国々に深刻な不況がもたらされた。
その時点で、ヨーロッパに政治的結合がないことが深刻な負債となった。フロリダもスペインも、ともに住宅バブルを経験したけれど、フロリダではバブルがはじけたときにも退職者たちはまだワシントンによる社会保障制度やメディケアの給付をアテにできた。ところがスペインではそれに相当する支援は受け取れない。このため、バブルがはじけると、そのまま財政危機にもつながった。
ヨーロッパの出した答えは緊縮策だった:きびしい支出削減をして、債券市場を安心させようという試みがなされた。でも、まともな経済学者なら誰だってわかっていたとおり(そう、ぼくらはわかってた、わかってたんだよ!)こうした削減はヨーロッパの苦しい国々の不況をいっそう深めることになった。これにより、投資家の信認は損なわれたし、政治的不安定も増してしまった。
そして、真実の瞬間がおとずれる。
さしあたり、ギリシャが焦点[フォーカルポイント]だ。22パーセントもの失業率(若年層では50パーセント以上)を産み出した政策にもっともな怒りを抱いている有権者たちは、そうした政策を実施している政党に刃向かった。ギリシャの政治的な既存勢力はすべて事実上この経済的な正統教義の実行を余儀なくされていたから、有権者の翻意によって生じた結果は、過激派の勢力拡大だった。世論調査が間違っていて、連立政権がどうにかして次の投票で多数を確保したとしても、基本的にこの試合は終了だ:ギリシャはドイツや欧州中央銀行が求めている政策をやらないし、やれない。
そしたらどうなる? いままさに、ギリシャは「バンク・ジョグ」と呼ばれてるものを経験してるところだ――銀行の取り付け騒動を「バンク・ラン」と言うけど、走る[ラン]ほどじゃなくゆっくりゆっくりと、預金者たちがお金を引き出しているんだ。ギリシャのユーロ脱退の可能性を見越しての行動だ。ヨーロッパの中央銀行は、ギリシャに必要なユーロを貸し付けることで、事実上、この銀行取り付け騒動に資金提供している。つまり、もし(おそらくそうなるだろうけど)中央銀行が「もう貸せない」と判断したら、ギリシャはユーロを捨てて独自の通貨を再び発行せざるをえなくなる。
ユーロは実際にやめられるんだとみせつけられれば、今度はスペインとイタリアの銀行にも取り付けが起こるだろう。ここでも、欧州中央銀行は無制限の資金提供をするかどうか、選択しなくちゃいけなくなる。「しない」と言えば、ユーロ全体が吹き飛ぶだろう。
でも、資金提供だけでは不十分だ。イタリアと、とくにスペインには、希望も与えられないといけない――緊縮と不況から脱却できるという合理的な見通しのもてる経済環境という希望が必要だ。現実的には、そうした環境をもたらす唯一の方法は、中央銀行が物価安定への執着を捨てて、ヨーロッパでこの先数年にわたる3~4パーセントのインフレ(ドイツではそれ以上)を受け入れ、さらには促進させることだろう。
中央銀行の職員もドイツ人も、この案を嫌ってる。でも、これ以外にユーロを救う方法なんてない。ここ2年半にわたって、ヨーロッパの指導者たちは危機に対してその場しのぎの策をとって、時間稼ぎをしてきた。しかも、そうして稼いだ時間を活用することもなかった。そして、いよいよ時間切れになったわけだ。
さて、ヨーロッパはいよいよ難局に立ち上がるだろうか? そう期待したいね――理由は、たんにユーロの崩壊が世界全体にマイナスの波及効果をもたらすからというだけじゃない。ヨーロッパの政策の失敗による最大のコストは、おそらく政治的なものとなるからだ。
こう考えてほしい:ユーロの失敗はもっと広範なヨーロッパの企図の巨大な挫折にいたる。きびしい歴史を歩んだ大陸に平和と繁栄と民主主義をもたらそうという企図の挫折だ。また、緊縮策の失敗がいまギリシャにもたらしているのと同じような結果ももたらすだろう。つまり、政治的な主流派への不信をつのらせ、過激派に権力を与えるという結果をね。
だから、ぼくら全員が、ヨーロッパの成功に大きなものを賭けているわけだ――でも、この賭けの正否はヨーロッパ人がみずから成功をもたらすことに委ねられている。全世界が、ヨーロッパ人たちが役割を果たすかどうかに注視している。」