新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

テンションが下がるよ

2022-03-28 09:46:46 | コラム
カタカナ語排斥論者は悩む:

スーツケース:
今朝ほども、テレ朝で収納が便利な「キャリーケース」を紹介していた。考え込まされた。当方は1993年11月に最後の社用でのアメリカ出張をしたのだが、その時にはトローリーケーズ(trolley case)などという便利なものはなかったと思う。因みに、何度か紹介したが、これがキャリーケースの本当の英語の名称である。当時は重たいスーツケースに加えて、洋服から靴まで収納できるガーメントバッグとブリーフケースの3点セットを四苦八苦して抱え込んで、空港まで出掛けていたものだった。それらを何の苦も無く持っているかのように振る舞うのが旅慣れた証拠だった。

それだからこそ、一流のホテルにはポーターが配置されていて、その重たい荷物を運んでくれていたのだったし、彼等はその時に渡されるテイップで生活していたのだった。ところが、往々にして控え目な我が国のお客様は「自分で運ぶから良いよ」とばかりに遠慮されることが多かった。そこで、時には「彼等はそのテイップで生計を立てているのだから、持たせてあげて下さい」とお教えしたこともあった。

今や、あの古き良き時代のスーツケースを抱えておられる旅行者など全く見かけないのだ。私はあの「ガラガラ」と呼んでいたケースを何で「キャリーケース」のような英語として意味を為さないように命名したのかと不思議に思ったので、調べてみると上記のようにtrolley caseと呼ばれていたと判明した。しかし、この英語の名称は全く使われることなく「キャリーケース」が日本語として定着した。思うに、trolleyという単語はcarryほど解りやすくなかったではなかったかな。

テンション:
これは若者の間にはごく普通に「テンションが上がった、または下がった」として使われていると、テレビを通じて知った。意味不明だった。と言うのは「明らかに緊張感が上下した」という意味では使われていないようだったから。要するに日本語になっているのだ。そこで、検索して見ると「気分、気持ち」という意味で使われているようだった。

中には「緊張という意味を基にして誤用されている」との解説もあった。私には誤用と言うよりも「拡大解釈」だと思えるのだ。これなどは、カタカナ語製造業者の手を煩わせたのではなく、若者たちが創造したと思っている。因みに、製紙業界の専門語で「テンション」tension)は「引っ張り強度」のことだ。

ボリューム:
これなども「英語本来の意味は何だったっけ」と迷わされるカタカナ語だ。多くの場合「レストランなどでの料理の量が多い」と言いたい時に使われる日本語だ。しかも、彼等は「ボリューミー」などという言葉まで創造してしまった。英語本来の意味は「ある一定の場所というか空間というか何かを入れられる容積(space)のこと」なのである。彼等は「ボリュームがある」と言って「分量が多いこと」を表しているのだと思う。確かに仕事の量が多い時にはvolumeは使えると思う。要するにquantityが大きいと言いたいのだと思う。

「理屈をいうな」と言われそうだが、これも単語だけを覚えてしまったために生じたというか、使われてしまったカタカナ語だと思うのだ。言いたくはないが、それでお互いに理解し合えれば結構なことだ。

キーワード:
これも近頃多用されて悩ましいのだ。正直に言って、良く意味が解らないというか、日本語にすればどうなるかの見当がつかなかった。しかも、英語の世界では日常的に出てくる言葉ではなかったのも悩ましかった。止むを得ず検索に頼った。どうやら「検索する時に入力する主要な見出しになる言葉」を意味しているのだった。そこからさらに「問題の解決や文章の意味解明の上で重要なかぎとなる語。文章の中で、もっとも重要な意味をもつ語」と、日本国語大辞典には説明されていた。それでは長くなるので格好付けて“key word”をカタカナ語にしたらしい。

このようにして、ちゃんと文章にして説明すべきことを、分かったような顔をしてカタカナ語で代用してしまう傾向が益々顕著になってきたことを嘆いているのは、恐らく私だけではないだろうか。他にどのような例があるかと訊かれれば「コラボレーション」(コラボ)を挙げる。この「コラボ」のような創造能力は凄いと思う。

これは「誰それさんと共同で作業する」という意味だ。それでは長いので、日常的には使われることなど滅多にないcollaborateを膨大な単語の記憶の中から引っ張り出したのではないのか。言って置くが、英語の文章では簡単な言葉を使って詳細に説明するのが原則だ。即ち、“to work with 誰それさん”となるように。