新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

私的な関心事である紙類の貿易統計

2022-03-03 09:53:38 | コラム
21年度は円安傾向であっても出超だった:

紙業タイムス社が発行しているFUTURE誌の22年3月7日号に紙と板紙の貿易統計が掲載されていた。見出しは「数量で110万t、金額で1,050億円に達した紙類の貿易も出超幅」となっていた。私が永年担当していた分野は、我が国向けのアメリカからの輸出なので余り関心がなかった我が国からの輸出ではあるが、統計には興味はある。2年程前に商社の専門家から聞いた話では「我が国からの紙類の輸出も中国と同様に方々で高率の関税で閉め出されていて苦戦だ」そうだったので、円安でも出超とはやや意外な感もあった。

輸出:
輸出された数量は紙・板紙・加工紙を合計して2,370,437tonで、対前年比+15.9%となっていた。平均単価が¥114.16とあったが、何となく「良い値段が通らないのだな」という程度の感想しか出てこない。我が国の紙・板紙の生産量が2,600万ton辺りのはずだから、全体の9%というか1割程を輸出に振り向けていた事になる。

輸出相手国を見ると、何と第1位が世界最大の製紙国である中国で、全体の29.0%、第2位がベトナムで13.0%、第3位が韓国で11.4%なのだが、未だに我が国からの輸入があるのは一寸だけ意外だった。第4位が台湾の10.2%、第5位はマレーシアで9.9%。以下タイ、フィリピン、インド、インドネシア、アメリカ(1.3%)と続いていた。

輸入:
合計で1,268,753tonで対前年比+0.6%となっていた。平均単価が¥130.47とあったのも、円安ではそういう事になるのかなと思っただけ。輸入の内容に目を転じてみると、1990年代までは輸入紙の3大品種と言われてきた新聞用紙が1,829tonと全体の0.1%というのは陳腐な言い方で「今昔の感に堪えない」となる。段ボール原紙も37.402tonで全体の2.9%にしかなっていなかった。3大品種の最後の砦ミルクカートン用紙が153,551tonで全体の12.1%と奮闘していた。

だが、このミルクカートン用紙に、非塗工板紙の中に計上されているCP95%超(という国内でPEラミネート加工等々をされて、牛乳以外のジュースや酒等の容器に使われているだろう板紙)の21,645tonを加えると175,196tonとなって、13.8%と増加するのだ。

21世紀の今日では最大の輸入品種は統計では「特定形状」となっているコピー用紙の432,503tonで、対前年比△0.8%だった。第2位は嘗て3大品種を出たり入ったりしていた中質コート紙で159,339ton。対前年比+17.3%だった。という事でミルクカートン用紙は辛うじて3大品種の座を維持していた事になる。

ミルクカートン用紙:
ここで、ミルクカートン用紙の輸入の歴史を振り返ってみると、私の記憶にある最高到達点は250,000ton見当だった。そこから我が国に於ける食生活と趣味趣向の変化と子供の数の減少に伴って学校給食からの需要が衰退したので、最盛期からは上記の統計の153,551tonが示すように40%近い減少となっている。CP95%超の分を加えた175,196tonでも30%程需要が衰退していた事になるのだ。

更にこのミルクカートン用紙のみの輸入先を国別に見ると「時代の変化」が見えてくるのだ。それは嘗て25万tonの70%程を占めていたアメリカからの輸入が88,202tonと、全体の57.4%にまで低下した一方で、フィンランドからは64,021tonと41.7%に達していたのだった。その背景にはウエアーハウザーが紙パルプ産業から撤退した事があると言えるだろう。また、統計ではシンガポール、中国の他にも、そこには現れていない国からの輸入もあるようだ。28年まで担当していた者としては、あらためて「隔世の感あり」と言うしかない。

輸入相手国:
お仕舞いに全体の話に戻って輸入相手国を見ると、最大の相手国はインドネシアで全体の28.7%に達していた。第2位は世界最大の生産国の中国で全体の21.9%を占めていたのは意外なような気がしないでもない。第3位がアメリカで20.7%は新聞用紙がほぼ消滅しミルクカートン用紙の地盤沈下では止むを得まい。第4位は韓国というのも「へー」だったが、比率はグッと下がって7.0%。第5位はフィンランドの5.8%なのだが、ミルクカートン用紙の5.0%には何があったかと思わせる。以下はドイツとスウエーデンと続いていた。

今年はどうなるだろうかと考えて見れば、COVID-19は収束の兆しもないのだ。そこに、諸物価が高騰しつつある所に持ってきて、ロシアのウクライナ侵攻があって全世界に諸々の不安材料が撒き散らされているとあっては、岸田文雄総理が如何に奮闘されようと、明るい希望的な観測などはおいそれと展開出来ない気がするのが残念だ。

参考資料:紙業タイムス社刊 FUTURE誌 2022年3月7日号