1の1『自然と人間の歴史・世界篇』宇宙の誕生はどのようであったのか
さてさて、宇宙は、一体どのようにして今日までたどりついたのか。そもそもの始まりは、今からおよそ138億年前(2013年に提出された新説)にまで遡る、といわれる。そのことが発表された時の新聞記事には、例えば、こうある。
「宇宙は138億歳、従来説より1億年高齢。欧州機関が解析。宇宙の年齢はこれまで考えられていたより約1億年長く、138億歳とする最新の研究結果を欧州宇宙機関(ESA)が22日までに発表した。宇宙誕生のビッグバンから間もない時期に放たれた「最古の光」を詳しく解析した。
宇宙は従来説より1億年高齢の138億歳。ほぼ完璧な宇宙図で判明。最古の光は、現在の地球にあらゆる方向からマイクロ波として届き「宇宙背景放射」と呼ばれる。
ESAは2009年に打ち上げた宇宙望遠鏡プランクで15カ月間にわたりマイクロ波を調べ、観測可能な最も初期の宇宙図を作製した。宇宙図にはマイクロ波を温度で表したときに見られるごくわずかなむらがあり、むらの分布から理論的に宇宙の年齢などを算出した。
1993年には米航空宇宙局(NASA)のWMAP探査機による宇宙背景放射の観測をもとに、宇宙は137億歳とされ定説となっている。(共同)」(2013年3月22日付け日本経済新聞)
ここに「ビッグバン」とは、物理学者のガモフが唱えた、宇宙が火の玉のように限りない程に熱かった最初の瞬間を言い慣わす。現在では、かかる状態は、「インフレーション」という、極めて急な膨張現象によってつくられたと考えられている。
それから、「宇宙図」の中に現れた色「むら」というのは、温度の「でこぼこ」を表わしている。しかして、その度合いを温度の見えるカメラで調べると、摂氏0.00003度位の僅かな差が検出できる。そして、この結果から私たちの宇宙の年齢が計算できるはずだという。
その解析は、現在も続いているらしい。プランク衛星によるデータの解析結果のまとめとしては、次のようだという。
「宇宙年齢:137.96億±(プラスマイナス)5800万歳、普通の物質の割合:4.81%、ダークマターの割合:25.7%、ダークエネルギーの割合:69.7%±1.9%、ハッブル定数:67.9±1.5(km/s)/Mpc:、宇宙の曲率:平坦、ニュートリノの種類:3種類」(「プランク衛星がみた最古の宇宙」:雑誌「ニュートン」2013年6月号)
そこで、「インフレーション」に話を戻して、そこから始めよう。この仮定により、3次元の空間ができ、時間の刻みが発生した。そして「ビッグバン」へと繋がっていった、と考える訳だ。
一般向けには、アメリカの宇宙物理学者グースととともに、この理論の提唱者の一人による説明に、こうある。
「(前略)そのシナリオとは、「宇宙は生まれた直後、倍々ゲームのように急激に大きくなり、この急膨張が終わる時に大量の熱が発生して、火の玉宇宙となる」というものです。(中略)
インフレーション理論は、従来のビッグバン理論の多くの問題点を解決します。その一つが、「なぜ宇宙背景放射はどこも同じ強さになっているのか」、つまりかつての小さな宇宙がなぜどこも密度や温度が均一だったのかという例の問題です。その解決方法は、次のようなものです。
生まれたばかりの宇宙が、全体的にはデコボコだらけだったとしても、ごく狭い領域だけを見れば、その中はほぼ一様になっているといえます。
そしてこの狭い領域が現在の宇宙の大きさよりも大きくなるような急膨張を遂げれば、その中に住んでいる者にとって「見える範囲」の宇宙はきわめて一様になります。それがつまり、わたしたちが住んでいる宇宙の領域なので、宇宙背景放射は宇宙のどこでも同じ強さで観測されるのです。
したがって、観測可能な宇宙の「果て」を越えた、ものすごい大きなスケールで宇宙を見ることができれば、宇宙はけっして一様になっていないことでしょう。
また私はインフレーション理論を提唱した直後、インフレーションが起こると元の宇宙(親宇宙)から子どもの宇宙がたくさん生まれるという「宇宙の多重発生(マルチプロダクション)」という論文を、協同研究者と発表しました。
これはある条件の下ではデコボコの「デコ(凸)」の部分が子宇宙へと発展することを示すものです。」(佐藤勝彦「眠れなくなる宇宙のはなし」宝島社、2016)
ついでに、この理論によると、この宇宙の始まりから10のマイナス36乗秒まではゆっくり(時間と大きさの両方とも)と膨脹した。すなわち、ゼロ時点は「虚数の時間」とでも呼ぶべきものであって、「無」であった。
ところが、その時間が虚数から「実数の時間」に変化したという。さらに、その後の10のマイナス36乗秒になると、インフレーション的な急膨張が開始されたのだと。
それからは、「強い力」という力が働く、すなわち、相転移(そうてんい)と呼ばれる力の枝別れ(ある時点で、物質の性質が急変すること)があったのだと考える。この相転移のまさにその時、10のマイナス34乗秒という極微の時間の過ぎる間に100億のまた100億倍といった途方もない大きさに急膨張し、俗にいうところの「火の玉宇宙」になったというのだ。
(続く)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆